18 代理投票戦 2
「ルールは簡単。武器を手から落とした方の負け。一応推薦者も参戦して良いけど、オススメはしないかなー。」
「な、なんでですか?」
目の前に立つ生徒会長が始めた代理投票戦。
アルマとシャオンが生徒会へ推薦した候補者二名の内、どちらを生徒会に入れるかを決める重要な話し合いになるはず、だったのに……。
「だって竜の子孫同時の喧嘩だよ? 並の人間が止められるはずないんだ。そんな二人に加担するなんて、自殺行為だね。あ、もちろん怪我したり死んだりしても僕たち生徒会は一切の責任を取らない。」
ひらひらと手を振り、笑顔で物騒な事を口にするこの男が生徒会長だなんて。
アルマは魅了相手は全て生徒会所属だと言っていた。つまり、この人も魅了対象なのかしら。だったら今ここで魅了してしまおうか……。
それが一番手取り早そうだし。
あの丸眼鏡さえ取れればなんとかなりそう。
「生徒会長様、眼鏡にゴミが……」
そう言って彼の眼鏡に触れようとしたその時、
「セルティア、早く行きましょう!」
「え!?」
隣にいたアイリスにグッと腕を引かれ、生徒会長から距離が出来てしまった。
「うん。僕も早く行ったほうがいいと思う。場所は第一演技場さ。」
「生徒会長様、ありがとうございます。」
アイリスは慌てつつも生徒会長への誠意は忘れずに礼をすると、掴んでいた私の腕をそのまま強引に引っ張って教室から駆け出した。
「セルティア、急いで!」
「ちょっと、アイリス待って。落ち着いて。」
私以上に酷く焦っているアイリスに釣られて駆け出したけれど、そこまで急ぐ必要なんてないだろう。だってアルマには魔法は通用しないし。あの策士の事だ。なにか妙案があるに決まっている。
少しスピードを落としたアイリスの後ろを速足で追いかけながら声を掛ける。
「そんなに焦らなくっても大丈夫だから。」
「なに言ってるの!? このままだと貴方の婚約者、確実に敗北するわ。最悪の場合は命を落とすかも。」
「………………え?」
アイリスの表情から、嘘をついているようには見えない。でも死ぬなんて、あまりにも大袈裟過ぎる。学院に通う生徒同士の喧嘩で死人が出るなんて、そんな物騒な話があるものか。
「そ、そんな訳……。」
「さっき、生徒会長は武器を落とした方がって言ったわ。それから死んでも責任は持たないって。」
「ええ。だからって殺すまで喧嘩をするなんて、あり得ないでしょう?」
「あり得るのよ! シャオン様は槍の名手。それに加えて火竜固有の魔法まで使いこなす武闘派で有名なの。」
あの女癖の悪いシャオンが!?
言われてみれば、体つきが良かったし反応速度も異常だった。なにせ、転びそうになった私を一瞬で救って見せたのだから。
「それに比べてアルマ様は……。その、魔法が使えないから。」
悪魔の血が混ざってるから魔力を封印されているでしょ、と言わないところにアイリスの優しさを感じた。
「ええ。でも魔法も効かないじゃない。いくらシャオン様が凄くでも、」
魔法の効かない体質のアルマなら心配は要らないと言おうとした。けれど、近くから聞こえる唸り声に近い歓声が私の声を掻き消す。
「セルティア……、竜の固有魔法は悪魔すら殺せるほど強力なの。この国の創設神話が光の使徒と同じぐらい竜を讃えているのはそのせいよ。」
「………………は?」
「それに今の生徒会長は悪魔嫌いで有名。学院で起こる面倒事は全部アルマ様に押し付けているって噂があるぐらいよ。そんな彼がアルマ様を見殺しに出来るこの機会を見逃すはずない。」
だから教室にいた生徒会長はあんなにも悠長な喋り方をしていたのね。
「武器もそう。竜の子孫が人間なのは、自身の鱗と尻尾を武器に変えたからと言われているわ。だから彼らの武器は代々受け継がれる自身の分身みたいなもの。それを落とすなんて醜態、お二人とも公爵家という身分がある限り、晒せる訳ないの。」
見えてきた演技場から聞こえてくる声は、シャオンを讃えるものが多い。それから風に乗った熱気がここまで届いてくる。まるで、真夏の熱波みたいに……。
「ま、待って。じゃあ……」
「アルマ様にシャオン様の魔法は通じる。けれど、魔法の使えないアルマ様には、シャオン様に対する決定打がない。そして、武器は絶対に手放せない。」
――本当に、あいつが死ぬかもしれないってこと?
「つまりアルマ様が勝てる見込みなんて、ほぼ無いに等しいわ。生徒会長はそれを分かってて言ってるの。」
「――っ!?」
アイリスの言葉と同時に、演技場から大きな火柱が立ち上がった。
「セルティア!!」
その瞬間、居ても立っても居られなくなってしまい、思わず走り出してしまった。後ろから聞こえるアイリスの声がどんどん小さくなっていくが、気にしている場合じゃなかった。
「うそ、よね……?」
息が上がる。
いくら体力のある遊女でも全力疾走なんて、一度もしたことがない。そんな気品に欠ける振る舞い、自分がするはずないと思っていたのに。
「はぁ……、ハァー、ハァッ!!」
脚を踏み入れた第一演技場は、闘技場のような造りになっており、二階部分の観客席にはAクラスの生徒の他にも噂を聞きつけた多くの生徒が観客のように二人を見入っていた。
扇状に広がる観客席は、一階の演技場を見下ろす形で造られている。その最前列にはケルロッテの姿があり、私も急いで彼女の近くへ駆け付けた。
「あら……、今頃いらしたのね。まぁ、どうせシャオン様が勝利するのだから貴方が見る必要なんてないか。」
隣のケルロッテから飛んでくる嫌味なんて気にしている場合じゃない。一階の演技場を覗き込むと、そこには頬や腕から血を流すアルマの姿があった。
「穢れた血は哀れね。勝てる見込みなんてないのに。」
ケルロッテが、周囲の観客が、アルマの敗北を悟っている。そんな中、剣を振るうアルマの姿は戦場に単騎で挑む無謀な愚か者のよう。
どうして彼はそこまでするのだろう。
ふと、最初に出会った時にアルマが口にした言葉を思い出した。
『俺はこの国が滅びず、誰も死なない未来の為ならなんだってする。』
――なんで……?
この国は少なからず、貴方を嫌っている。見捨てられそうになっている。なのにどうして、貴方は守ろうとするの?
肥溜めと呼ばれる場所で育った私と貴族社会で貶されて育ったアルマ。育った場所は違えど、不平等なこの国を憎む気持ちはあるはずでしょう?
――なのになんで……?
アルマ。
貴方は一体、なにと戦っているの?
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