プロローグ 2/2
クリスマスの予定なんてないもん!
ダークエルフの女に、戦うのなら相手になると伝えたのだが――――
「いえ……。敵を討ちたいと思える程の主人ではありませんでした。それに、あれだけの力を見せられては、刃を向けたとて無意味だと理解しております」
「……そうか」
デーモンロードよりは面白い戦いが出来ると思ったんだがな……。
「その傷では楽しむことも出来ないか。『ヒールオール』」
「これは……。凄い、一瞬で傷が消えて……!」
「しかし身体が癒えても俺と戦う気は無いんだろう? 隷属の魔術も消えていることだし、後は勝手にするがいい」
興味も失せた相手だ。デーモンロードが消滅したせいか、付けられていた鎖も消えているし、好きなようにして構わないと伝えたつもりだったが、彼女は何故かその場に跪くのだった。
「……どうした?」
「好きにしても良いということでしたら……、是非とも貴方の元に仕えさせてください」
そうきたか。しかし……それもまた一興か。拒む理由もないし、丁度よかったかもしれんな。
「よし、お前の仕官を認めよう。この『ラプラス』の元でその働きを見せるがいい」
「ありがとうございます、ラプラス様。ダークエルフが戦士『ミスト』。非才な身なれど、貴方の為に全身全霊を尽くすことをお約束致します!」
考えてもいなかったことだが、配下となった以上は役に立ってもらうことにしようか。
「さて……1つ聞こう。俺は今後、何をして過ごせばいいと思う?」
「は? あ、申し訳ありません!」
「気にするな。自分でも変な質問だと分かっているからな」
それでも、これは重要な質問なのだ。
「呼び出されたのはいいものの、自分自身に目標だの目的だのがあるわけではないからな。何をするのが正解なのか、皆目検討も付かない有り様だ」
「そうなのですか。失礼ですが、この場にいらっしゃる以前は何を成されていたのですか?」
「以前か……。そうだな、ただ存在していたとでも言おうか。実体も無く、希薄な自我のまま、他者を認識することもなく、俺という概念だけがそこにあった。この体にしても、魔術にしても、扱うのは容易いが、何故そうなのかは全く分からん」
以前の記憶すら、それが本物なのか確証がない。“自分は召喚されたときに誕生した” と言われても納得してしまいそうだ。
「そういうわけで、今後の予定は立てる材料すら無いわけだ。……そういえば、お前の元主人――――あのデーモンロードは俺を召喚して、何をしようとしていたんだ?」
さほど期待はしていないが、何かの参考ぐらいにはなるかもしれない。
「ええと……、詳しく知っているわけではないのですが、魔界全土を支配下に置き大魔王となる……というようなことを言っていたと思います。陳腐な言葉になりますが、世界征服……というヤツでしょうか」
「ほお……? あの程度の力量で、随分と大それたことを考えたものだな」
ある意味、称賛に値する……ことでもないか。
「しかし世界征服か。暇潰しとしては面白いかもな。ミスト、大魔王とやらを狙っている存在は、他にもいたりするのか?」
「そうですね……。そういう話自体を聞いたことは無いのですが、魔界全体として支配領域の奪い合いや勢力争い等は頻繁に起こっています。もしかしたら大魔王を狙っている者も居るのではないかと」
「それならば遠慮する必要もないな。私も参加してみよう。……お前はどうする?」
「もちろん、お供させて頂きます!」
これで目先の目的は決まったか。だからと言って無計画に動けるわけではないがな。ひとまずは――――
「とりあえず、さっきからコソコソしている奴をどうにかするか」
害意は無さそうなので放置していたが、視界の隅でウロウロされるのも、いい加減に目障りになってきた。
「出てくる気が無いなら、炙り出すだけのこと。『ファイアボール・スプレッド』」
天井の壁際、気配のする辺りに魔術を放つ。極小規模の炎の球が広範囲を焼き、天井に無数の焦げ痕を付けた。
「まったく……いきなり攻撃してくるなんて酷い人」
=====
□サキュバス 種族ランクB
Lv40
・HP 142/142
・筋力 62
・耐久 79
・魔力 107
・抵抗 124
・敏捷 84
=====
姿を現した女のステータスはこの通りだった。悪い数値ではないが、警戒する必要まではなさそうだ。
「ラプラス様、ここは私が!」
ミストが戦闘に向かう構えで前に出るが、それを見たサキュバスは先にミストを制止した。
「ちょっと待って、こちらに戦闘の意思は無いわ」
気勢を削がれたような感じになるが、それならそれで彼女の目的が気になった。
「ずっと見ていただろう? ただの興味本位か?」
「まあね。今晩の宿を探してただけなんだけど、変な儀式は始まるし、面白いことになるし、ついつい見入っちゃってたわ。ごめんなさいね」
なるほど。そういうことなら、後から来たのは我々の方だ。大人しく退散するのが礼儀というものか。
「邪魔をしたな。我々は消えるとしよう」
「ああ、そうじゃないのよ。さっきの大魔王を目指すって話、本気?」
「当面はそのつもりだが……。何故そんなことを聞く?」
まさか、コイツも“狙ってる内の1人”か? だったら先に消しておくという手も――――
「私も混ぜてもらえない?」
意外にも、それは協力の申し出だった。
「それは……ラプラス様の配下になる、ということでよろしいのですね?」
「もちろん。対等な関係に、なんて思い上がる気は全く無いわ」
2人だけの魔王軍、というのも寂しいし、ちょうど良い申し出ではあるか……。
「如何しますか?」
「よし。サキュバスよ、配下に降ることを許可しよう」
「ありがとうございます、ラプラス様。遅くなりましたが、私ルゥナと申します。これからよろしくお願い致しますわ」
ミストとルゥナ。この2人を得て、ここにラプラス軍が結成された。まだ軍というには小人数にも程があるが、戦力を整えていくことも、また楽しみの1つだろう。




