27 世界への介入
教会に戻り、フィオにささやかながらも祝われた時間も過ぎ去り。
夜も更けた頃、ここ最近で日課となった『神への祈り』を捧げに、俺は礼拝堂に立っていた。
そして祭壇に向かい、囁き、祈り、詠唱、念じて――目を開けば。
そこは、何もない白い空間だった。
(この瞬間だけは、いつまで経っても慣れないよな)
周囲の音が消え、精神世界へと埋没していくような没入感。
そんな事は無いと思うが、そのまま精神世界に埋没したまま戻って来れないんじゃないか、と思ってしまう事がある。
仮にそうなったとしても、今の俺には助けてくれる人がいるんだろう。
例えば、目の前で不機嫌そうに頬を膨らませているお節介焼きな女神様とか、その後ろでこちらを眠そうな目でぽややんと見ている巫女神様とか。
「……やぁ」
とりあえず、なぜか不機嫌になっている理由が分からないので手をあげて挨拶すると。
「ーーナナキさんっ!!」
こちらがビクッとする程の大声をあげて、エルクゥが早足で近付いてくる。
「貴方はもう、なんですか! あんなスキルがあるなんて知りませんでしたし知らなかったし、そもそもなんですかアレは怒りますよ!?」
「おいちょっと待て怒るのか聞くのかどっちかにしろ!?」
胸ぐらを掴まれる勢いで詰め寄られ怒鳴られ、困惑しているとーー
「……ついでに泣くのか、どれかにしてくれよ」
抱き付いて胸元に顔を埋めると子供のように泣き出した女神様に、俺は困惑の表情を浮かべる。
「どうにかしてください、リーディアさん」
「……そのままにしてあげて」
救いの手を伸ばした相手には困ったように微笑まれるし、一体何があったのかと。
「というか、何かあったんですか?」
「……気付いてないの?」
「気付くも何も、何も分からないから聞いてるんですが」
その返答に、リーディアも「はぁ……」と溜め息をつく。
ちょっと待って。
本当に何があったの?
「……気付いてないのも罪だけど、知らないのも罪よね……」
胸元にてぐすぐす泣かれている女神様をあやすように背中を擦っていると、リーディアもこちらに近付いてくる。
「……ナナキ。とりあえず、これを見て」
そして差し出されたのは、手の上で開かれていたメッセージウィンドウだ。
何らかのログだろうか。こんなものが見れるのも、神様としての特権の一つらしい。
「えーっと……」
エルクゥをあやしながら、そのメッセージログに目を通す。
それは俺が認定試験の時の履歴だったようで、そこに書かれていたのは、この通りだ。
――履歴を抜粋します――
「……おいテメェら」
激昂状態におけるリミッターの解除を承認。
魔力の解放を行います。
「どうせ言葉は理解出来ねぇんだろうから、勝手に言わせて貰うけどよ――」
同時に、£□¥スkル「ライフ・サクリファイスブースト」発動。
スキル所持者の「生命力」を対価に、一時的な情報改編を行うスキルですがよろしいですか?
…………
……
回答が一定時間内にありませんでしたので、発動をちゅうs
― Error! Error! Error! ―
――発動を承認しました。
「嫌なもんを思い出させてくれた『礼』をしてやる」
£□¥スkル「ライフ・サクリファイスブースト」発動。
情報改編を行います。
使用スキルを検索。
検索中……検索中……終了。
使用スキルを、剣技「疾風剣」と確認。
構築スキル『風魔法「サイクロン」』の代用として、周囲の暴風に魔力接続を開始。
制御を試みます。
――現在のステータスでは不可能な領域です。接続を中止しm
― Error! Error! Error! ―
――接続を開始します。
接続中……接続中……終了。
接続が完了しました。
スキル『剣技「疾風剣」』の習得に必要とする能力値を満たしていません。
習得を解除しm
― Error! Error! Error! ―
――能力値による条件達成を確認しました。
スキル『剣技「疾風剣」』の習得を確認しました。
スキル『魔力ブースト』を発動。
習得していないため、発動を中止しm
― Error! Error! Error! ―
――発動を承認しました。
魔力が不安定です、即座にスキルの発動を中止してください。
生命力が残り僅かです、即座にスキルの発動を中止してください。
制御が不安定です、即座にスキルの発動を中止してください。
中止してください。
中止してください。
中$してください。
中&qてくだ#い。
@$し#くd%さ*。
$’#*@+て#=!。
qzwsェdcrfvtgbyhぬjみk、おl。p@;・:
― Error! Error! Error! ―
――発動、承認。
スキル『剣技「狂化・疾風剣」』を発動します。
「ウァアアアアアアアアアアアアアッ!!」
――履歴を抜粋しました――
「うわぁ……」
なんだこれ。
いやほんと、なんだこれ。
オーディオコメンタリーみたいに、その時に起こっていた事象が文章化されてるから分かりやすくてありがたいんだけど……うん。
もう一度言うけど、なんだこれ。
あの瞬間に俺の身に起きてた事なんだから、ある程度は予想出来ていたは出来ていたんだが……それすらも軽く飛び越して凄い事になっていた。
所々が文字化けして読めない事になっていたり、ゲームでいうところのシステムエラーを起こして情報改編や介入をしている箇所が何回もあったのだ。
世界のシステムに介入する、という時点でとんでもない代物なのは間違いないのだが……
「……ナナキ。正直、答えて欲しい」
困惑している俺に、眠たげな表情で――しかし、こちらを見つめる視線は不安げで、縋るような色を含ませて。
リーディアが、問いかける。
「……あなたは、一体『何者』なの……?」
その声は、未知なる存在に対しての恐怖に、震えていた。




