28 近況報告と謝罪と
「何者かと聞かれても……俺の事はエルクゥから聞いて知ってるんじゃないの?」
頭を掻きつつ、俺は至極当然な事を言ってみる。
初顔合わせの時に、今は居ないミネルバ達を含めた彼女達から俺はそう聞いているのだが。
「……確かに聞いている。人の世に絶望し、それでもなお自分の為に生きたいと願った人だと」
「ある程度はその通りだね」
「……ある程度、は?」
首を傾げるリーディアには悪いが、それ以上の事を言うつもりは無い。
――今は、だけど。
「少なくとも、リーディアが知っている通りの俺である事は、保障するよ。今の俺は、人として持てるはずの無い力を持たされ過ぎて扱いに困ってる部分があるからさ」
「……じゃあ、この履歴の出来事は?」
「個人的に許せなかった出来事が目の前で起きて、衝動的にブチギレしたのが、元の世界では有っても意味の無かった魔力と化学反応してあんな結果になったんだと思う」
これに関しては、俺も推測でしか答えられない。
魔力という、元の世界では存在しない力と反応した事によって起きたのだろう、としか俺は結果から読み解けないのだから。
それに、俺としても『このスキル』に関しては思う所がある。
「ライフ・サクリファイスブースト、ね……」
直訳すれば、生命力を犠牲にした強化、か。
体力を魔力に変換して魔法を放つようなものと似ているのかもしれない。
加えて、いくつか文字化けしてはいたが「スキル」と明記されていた。
だからこそ、自分のステータスを何度も詳しく調べているのだが……その名前のスキルを俺は『所持していない』事になっている。
こうして、リーディアが履歴を見せてくれたように「発動している形跡がある」のに、だ。
――だが、思い当たる事が無い訳でもない。
極限的な状況下において、普段では考えられないような力を発揮出来る……というのはよくある話だ。
火事場の馬鹿力とか、ランナーズハイとか、アドレナリン全開といった状況が、まさにそれだ。
このスキルも、条件が揃う事で始めて発動するタイプのスキルなのかもしれない。
……だとしたら厄介なのは、これが「自動発動」するタイプのスキルだった場合だ。
条件が揃う度に俺の意思とは無関係で発動されたのでは、身体が持たない。
かといって、スキルの概念を書き換えられるかといえば、そうではなさそうだ。
どちらにしても、次に発動した時に詳しく見る必要がある、という事らしい。
「……面倒だよな、全く」
「その台詞はそっくりそのままあなたにお渡ししますよ」
ぐしぐしと頭を擦り付けてから、エルクゥさんが俺の胸元から離れる。
……もしかしてこの女神様、俺の服で鼻かんだりしてないよな?
自分の服を注意深く調べる俺を見て「そんな事してませんからっ」とエルクゥがやや怒り気味に。
流石にそれはデリカシーがなかったか。
「創造神である私も存在を認知していないスキルを隠し持ってたとか、そのスキルが世界の理に強制介入する事実上のチートスキルだとか……本当になんなんですか、あなたは」
「俺に聞かれても困るんだが」
「……まぁ、その辺りは私も調べておきますけど、あまり期待はしないで下さいね」
はぁ、とエルクゥは溜息を付くが、俺の方が付きたいんですけど。
俺個人で何とかなるような問題だったら分かるが、当人でもどうしようもない問題で責められるのは苦痛でしかないんだぞ?
「とりあえず、そのスキルは今後も使えるとしても多用しないで下さい……というか、するな、と言っておきます」
「どうしてだ?」
「そりゃあ、生命力を犠牲にして世界の理に強制介入するチートスキルなんですから、副作用や反動もデカイに決まってるでしょう。その後のナナキさんが「どういう状態になった」か、覚えてますか?」
言われて、そのスキルを使ったという後の出来事を思い返す。
「……気絶してたな。そういや」
フランディールに初めて会った瞬間から、彼の住処に案内されるまでの十数分間ではあるが、記憶も意識も全くもって飛んでいたのだけど。
単なる消耗状態じゃないのか?
「それ、心停止に限りなく近い状態でしたから」
「はぁっ!?」
何だよそれ!?
一歩間違ってたら、俺はそのまま死んでたって事なのか!?
「アレだけ無茶をやっておいて、反動が『それだけ』で済んでる事自体が奇跡なんですよ。普通だったら脳の血管が数本イかれて廃人になっててもおかしくないんですから」
「……強制的なスキルの行使に習得。魔力による強制制御、及びスキルとしての代替運用。まともな思考だったらやらない事のオンパレード」
「高レベルの冒険者でもやらない、複数スキルと魔術の同時行使。どれだけの無茶をやったか、自覚してください」
「…………面目ない」
そこまで分かりやすく言われれば、俺も流石に「どんな無茶な状況だったのか」を把握ぐらいは出来る。
だからこそ謝りも出来るのだが……。
(多分、また同じ事をやらかすんだろうな、俺は)
注意をされてもそれを忘れて同じ事を繰り返すのが、俺の悪い癖である。
憶えているフリなどではなく「本当に忘れている」のだから、尚更に性質が悪かったりする。治そうとしても効果がなく、メモを取っていても結果は同じなので、最近は不治の病だと諦めている訳だが。
「……それにしても、反応が早いよな。エルクゥ」
「加護を与えているからなのもそうですけど、転移してからはずっと行動を追わせて貰ってますからね。ナナキさんの感覚で言えば、オンラインゲームのキャラクターを俯瞰視点で見てるのと同じようなものだと思っていただければ」
「あー、納得」
スキルの【神託】による通信でレスポンスが早いのも、それが理由か。
常に張り付いてるんじゃないのかってくらいに早いからな、反応が。
「でも、個人的な時間は欲しいんだが」
「常に張り付いて全てをマルッと見てる訳じゃないですよ。その辺りは配慮してますから安心してください」
どの辺りまで配慮されてるのかが気になるが、気にしてても仕方ないだろう。
結局はなるようにしかならないんだから。
「……とりあえず、近況はこんなところかな」
「ですね。認定試験、お疲れ様でした……魔族との遭遇も含めて」
「あれは、エルクゥのシナリオ通りだったのか?」
「まさか。ある程度の筋書きは用意しましたけど、あのタイミングでの遭遇は私も想定外ですよ」
エルクゥも想定してなかったという事は、本当に偶然だったんだろうな。
おかげで、会いたくも覚えたくもない相手が出来てしまったんだが。
「……あと、ナナキさんに朗報を一つだけ」
「なんだ?」
「転移前に決めていた、恋人候補との出会いがもうすぐ起きますよ」
「マジかッ!?」
椅子に座っていたなら、蹴飛ばして立ち上がるレベルの朗報に驚く。
ちょっとやる気出たし、聞いただけで元気が出るとか現金だなとか思う辺り、男って単純だよなー。
「どのタイミングで起きるか……というのは言えませんけど。それなりに運命的なのは、保障しますよ」
「エルクゥの言う「保障」ってあまり信じられないんだが」
「……そこは、ナナキに同感」
俺の言葉に、リーディアが微笑んで頷く。
普段からぽけーっとした眠そうな表情をしてるリーディアだけど、あぁいう風に笑うと可愛いんだな。意外な発見。
「ナナキさんは分かりますが、リーディアは何でそんな事言うんですか!?」
そして、自分の娘に思わぬ反撃を受けた創造神様がつかつかと歩み寄れば。
「……母。今までに私達にかけてきた迷惑を挙げてもいい? ナナキの前で」
「――ごめんなさいッ!!」
それはそれは綺麗なジャパニーズ謝罪スタイル――土下座を披露していた。
娘に土下座するくらいに迷惑かけてるのかよ、お前は……。
とりあえず、俺の中での神様ヒエラルキーがガラッと入れ替わった感じがする。
「……帰ってもいい?」
遠慮がちに聞いてみれば、二人の神から了承を得られたので現実世界に帰還。
祈りを捧げる前よりも疲れてるのは、気のせいだと信じたい。うん。




