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18 国を学びて土地柄を知る

「……というように、ウィルマキアには数多くの国が存在する訳だ」


「なるほど……」



 ギルド長室に臨時で置かれた、黒板と机。

 それを利用して、俺のためだけに行われている学習塾が始まってから、数日。

 日に日に、少しずつではあるが強制的に与えられた知識を一から学び直して「自分のもの」としている実感を得ている。


 文字に関しては今も勉強中だが、物の単位や曜日といった日常的に使う知識は転移する前に居た元の世界とあまり変わっていない。なので、さらっと復習するような感じで終わってしまったが……個人的に重要なのは、ここからだと思っている。


 今、カタリナに教えて貰っているのは、このウィルマキアにおける主要な『国』と『種族』についてだ。


 国の情報も種族の事も、完全適応で頭に知識として記憶している。

 知識として記憶してはいるが、それは付け焼刃のようなにわか仕込みのものではなく、ただ単に『丸暗記したものを忘れていない』だけだ。ある意味では『呪い』に近い。


 そんな代物の知識が、果たして実際に役に立つんだろうか。


 経験と共に学んで身に付けたもの。

 それが本当の「知識」だと思っている俺としては、二度手間でも正否を確かめておきたい。


 だからこそ――わざわざ時間を作ってくれているカタリナの言葉を聞き漏らすまいと、全身を耳にして聴きながら授業を受けているのだ。


 ……その授業も、程々に手抜きと言えるくらいの気楽な内容なのだけども。



「その中でも、エトニア、フリーデュイス、リヴァイシュの三国は、冒険者なら名前だけでも覚えておいた方が良いだろうっていう国だね」



 黒板に張られた、世界地図。

 そこに描かれている大陸の中で、三色に塗り分けられている場所がある。


 自分がいる地域を含んだ平野部と四方に程よく広がった分布の、赤色。

 大陸の中央から海へと張り出した岬と、その近辺で四方を海に囲まれた大小様々な島国を塗り潰している青色。

 赤色と青色の間に挟まれるような形で程よい大きさにまとまっている、緑色。


 その一つ……赤色を差し、カタリナは説明を始める。



「まずは、エトニア公国。国土としてはそれほど大きくはないが、周辺にある小国と交易を活発に行っている。強国という訳でもないけど、栄えているのは間違いないよ」


「首都は、やっぱりここからだと遠いんですか?」


「やっぱり、興味はあるかい? 残念だけど、今の君のランクでは行ったとしても仕事は殆ど無いだろうけどね」



 言いつつも、イシュマのある位置からスッと線を引くようにして大陸の中央に近い場所へと指を滑らせる。



「地図上ではこの辺りに、首都の『エコール』があるね。当然だけどイシュマよりも栄えていて、物流も豊富だ。ここでは見かけない、別の国の品物なんかも見る事が出来ると思うよ。別の国に行くための手段も、ランクが高くなければ簡単には使えないからね」


「それじゃ、ランクを上げて仕事を貰えるように頑張ります」


「それでは、頑張って精進してくれ」



 ランクを上げる理由を見つけ、俺の旅の目的が一つ増える。

 意欲的になった俺を見て楽しそうに微笑むカタリナは、次に青色の国を指す。



「国土の殆どを海に面しているのは、フリーデュイス連合。海産物と観光資源が豊富な国で、その国の形状から飛竜や翼竜などでの輸送技術が発達している。旅行用の便もあって、たまにエコールにも来ているようだよ」



 飛竜便は、幻想物であれば一度は夢見る移動手段だ。

 首都に行く事ができれば、竜を間近に見る機会があるんだろう。


 それに、飛行船や飛空挺といった「大型の物体を浮かせる」技術はまだ無いのかもしれない。あったとしても、それは超古代文明の中の遺物でしかないのかもしれないが。



「島国っていうと……その中に「ホウライ」ってあるんです?」


「ホウライか……」



 部屋の隅に立てかけてある、俺の武器――刀を見て、カタリナを首を横に振った。



「確かに、国の位置として連合の近くに存在するよ。でも、ホウライは小国としては異質な存在でね……他の国の文化に染まる事を善しとしない政策を採っているんだ」


「他の国の文化に染まる事を善しとしない?」



 それって、元の世界の日本でもしていた『鎖国』と同じようなものなんだろうか。

 鎖国も確か、諸外国の文化の流入を防ぐための政策として採られていた、と学んだ覚えがあるけど。



「だから、ホウライは建国以来、その国の姿をずっと保ち続けているそうだよ」


「へぇ……」


「交易や交流が全く無い訳ではないんだけどね。こちらにも少数だけどホウライ産の品物が並んでいたりするし。だから、そういう理由で君が持っている刀は珍しいんだ」


「色々な人に見られてるなと思ったのは、そういう事ですか」



 少し気になっていた事が、理由も分かって解決した。


 しかし、ホウライは聞けば聞くほどに、俺の知っている日本とは違う国なんだな、と思い知らされる。

 元の世界の日本が行った鎖国のように他国を拒絶する体制ではなく、受け入れつつも自身の国のままであろうと国単位で努力している。

 もし、あの時の日本が「世界的な視野を持って国交を築いていたら」というIFの姿が、ある意味ではホウライなのかもしれない。



「行って、この目で見てみたいですね」



 そのためには、まずは国を移動出来るだけの実力を付けなければいけないか。

 道のりは遠そうだが、目標が見えたのであれば努力のし甲斐があるな。



「おや、本物のカタナマイスターに会いたいのかな?」


「そういう訳じゃないですよ。俺の居た世界に似たような国があった、というだけですし」


「確かに、それなら気になるかもしれないね」



 俺のいた国が、まさにそうなんだけど。


 そう言う訳にもいかず、曖昧に頷いて言葉を濁しておく。



「……次に、リヴァイシュ共和国。前の二つの国と比べると国土は小さいけど、地形の関係から資源とダンジョンが豊富なんだ。冒険者の多くは、一度はこの国で自分の実力を試しに行くって話だよ」


「それって、ダンジョンの踏破とか財宝を持ち帰るとか、そういう形で?」


「簡単に言うとそうだね。そこで一生分の財を成して引退した冒険者も居るとは聞くよ」


「それだけの価値があるんですね……」



 それは、幸せを呼ぶ箱であったり、太陽を覆い隠すほどに大きな黄金色に輝く鳥であったり。

 ダンジョンの奥に眠る宝の価値は人それぞれだろうけど、確かに持ち帰ってきた財宝で財を成す事が出来れば冒険者として名を上げた事にも繋がるんだろう。



「この三国以外にも色々な国はあるんだけど……まぁ、その辺は省略しておこう」


「いいんですか、そんなんで」



 あまりにもざっくりとしていて、俺としては拍子抜けしてしまう。

 だが、カタリナは首を横に降る。



「君は、一つの国を覚えるのに名産品や国に流れる川と山の名前を全部覚えないと満足できない人かな?」


「いや、そんなの覚えていられないです」


「うん。つまりはそういう事。簡単に言うと『覚えなくても問題ない』って事なんだよね」



 ギルド長として、それはしていい発言なんだろうか。それは。



「……まぁ、必要であれば覚える事もあるだろうって事で。国に関しては、これくらいで充分かな?」


「結構、手抜きな説明でしたけどね」


「実際、冒険者が覚えておく知識としてこんなものだよ。名産品や土地のあれこれは学者達に任せてしまえばいいんだし、どの国に行ってもやる事は同じさ。依頼を受けて、それを達成する。単純明快でしょ?」


「そりゃそうですけど」



 勉強用として渡された資料も、ギルドの学習室に置いてあった本と変わらないものだったし、内容も多少の細かい注釈はあれども殆ど同じ。

 もしかして、教えるつもりはないんじゃないか? と思いもしたが、仮にもギルド長がそんな約束を違えるような事はしないだろう。


 ……面倒臭がった、というのは否定出来ないが。



「とりあえず、小休憩を挟んだら次はこの世界に居る種族の事を教えるよ」


「……それも、ざっくりと教える感じですか?」


「全部を教えられたら、冒険者じゃなくて学者としてやっていってるよ。冒険者として必要最低限の部分しか教えてないんだから、残りは自分で学習しなさい」



 ジト目で見つめる俺の頭を、カタリナはぺしんとはたいた。


 言っている事は正論なんだけど、それってただ単に自分が楽したいだけですよね?


 改めて考えると、この人に教えを頼んだのは間違いだったんじゃないだろうか……?




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