↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
灰と誓い ―五つの秘宝と竜の咆哮―   作者: ARUKA KAWATOMO


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
9/23

第9話 剣聖と賢者(三)

 一方、屋根から降りたムーンの周りには、いつの間にか人だかりができていた。

「なあ、さっきの弓、どこで習った?」

 剣聖ユーヌリオンが、興味を隠しもせずにムーンへと詰め寄る。

「独学だ」

 ぶっきらぼうにムーンは答える。

「独学であれか? 嘘だろう」

 ユーヌリオンは、心底感心したように唸った。

「あの二射同時、三射連続。反動の制御だけでも並大抵じゃない。しかも、あの位置取りも実に見事だったな。屋根から梁へ、あの跳躍も中々の体術だ!」

「……たまたまだ」

 ムーンは、その言葉にも素っ気なく答えると、視線を逸らした。だが、ユーヌリオンは引き下がらない。

「今度、一度手合わせ……いや、弓と剣じゃ手合わせにならないか。的当てでもいい、勝負しないか?」

 ユーヌリオンはムーンとの間にある、対応の温度差を気にすることなく続ける。

「おいおいユーヌリオン、初対面の相手にいきなり勝負を挑むのはやめないか……」

 カシミールが、呆れた声で口を挟んだ。

「あら、良いじゃない! 面白そうだもの!」

 アウロラの肩から飛び立ったパピーが、興味津々といった様子でムーンの周りをくるくると飛び回る。

「それにしても、颯爽と矢を射る姿も中々よね。シルフ達に好かれるのも納得だわ」

「パピー」

 アウロラが慌てて口を挟む。

「あら、褒めてるのよ?」

 パピーはめげずに、今度はムーンの耳元へと近寄った。

「ねえねえ、貴方はご両親のどちらに似てるの? その蒼い目の色、とっても綺麗よね」

「……お前」

 ムーンが小さく唸る。

 そこへ、陽気な双子の兄弟ヒルスとノクスもにじり寄ってきた。

「なあ、その弓、複合弓だろう? どんな素材使ってるんだ?」

「凄い速射だったな! 短時間であれだけの精度は、正直、俺達は真似できない」

「やっぱり長弓よりも、実用性は複合弓かな?」

 双子が交互に言葉を継ぐ。二人とも、先ほどまでの戦闘での完成された剣技が嘘のように、無邪気な好奇心を隠さなかった。

「確かに見事な腕前でしたね。あの正確な射撃、魔術師の天敵ですよ。敵にいたと思うとゾッとします」

 いつの間にか近寄ってきたカシミールまでもが、興味深そうに会話に加わってくる。

 次々と浴びせられる質問と視線に、ムーンはじりじりと後ずさった。

「……別に、大したことは」

「いや、大したことだろう」

「謙遜するな、あんな芸当」

「ねえ、教えてよぉ」

 四方から詰め寄られ、ムーンの表情がわずかに引きつる。戦場でどれほどの魔神を相手にしても崩れなかった涼しい顔が、今はすっかり分が悪そうだった。

「……エル」

 助けを求めるように視線を送った先で、エルは静かに目を逸らした。

「……ユルト」

 もう一方に目をやれば、ユルトは口の端を微かに緩め、腕を組んだまま素知らぬ顔をしている。

 助け舟は、どこにも来なかった。

 放棄された寂しい村に、束の間の賑やかな笑い声が響いていた。



 一行はオーガーとの戦闘場所であった、村の外れから移動し、村の中央にある比較的大きい家に集まった。

 そして二つのパーティーの情報交換が始まった。

 カシミールの情報は、隊長であるユルトでも知らされてない内容も多かった。

 魔王軍に関しての情報は、噂の域を出ない、流言や妄言も多く含まれていた為、正確な情報を掴むのが非常に難しかった。

 ユーヌリオン達のパーティーも目的地は同じであった。負傷兵の救助と魔神の残党への対処。そして爆心地の調査。

 この四人のパーティーは対魔大公用に結成されたパーティーのひとつであったという。

 水の都イニエスタに駐留する、ロンダルシア帝国の精鋭部隊二万を打ち破った、魔王軍魔神軍団の最高戦力のひとり魔大公。今回の戦いの中でも、各国が最も危険視していたのが、この魔大公であった。

 魔大公はイニエスタを蹂躙後、所在不明。大陸連合軍はこの魔大公の動きを、杳として掴めていなかった。

 ……まさか、その魔大公が、戦場のど真ん中にゲートと共に転移してくるなど、賢者と呼ばれるカシミールでさえも、想像だにしていなかった。

 そして、あの破壊の光である。

 対魔大公パーティーは、総勢十名だったが、光の後一旦解散した。

 そして、独立部隊として動いていた四人は、残党の魔神共を蹴散らしながら、真相究明の為、爆心地に向かっていた途中にムーン達と遭遇したという流れであった。


 

「……事の発端は、一年半ほど前に遡ります」

 カシミールは一息つくと、ムーン達に請われ、彼らが噂や断片でしか知らない、この戦争の全貌を語り始めた。

 そもそもの始まりは、ロンダルシア帝国が、【魔王】が治める隠れ地下都市【ノリリスク】を発見した事から始まった。

 魔王は【魔族】と呼ばれる、人類とは異なる種族と言われている。見た目は非常に人類に似ているが、額に第三の目と言われる魔法石を持って生まれてくる点が、決定的に既存の人類と異なっていた。

 魔導王国時代。人類や他種族はそれを魔族と呼び恐れたが、自らを魔法の真髄を極めし者【魔法族】と称している。

 そして彼らは、独自に進化した魔法形態を持っている。その魔術は【奔流の魔術】と呼ばれ、古書の中では体系化されている。魔族以外にその魔術の真髄に触れることはできない、非常に謎多き魔法体系である。

 魔族は、魔導王国の【二つの塔】崩壊と共に歴史の闇に消えたと思われていたのだが、人知れず地下帝国を建設し、長きに渡り密かに繁栄を続けていたのであった。

 帝国は地下都市発見後、国交を持とうと、ノリリスクとの間で、何度かの交渉を行ったが、帝国の望む形で交渉が進むことは無かった。

 開国を迫る帝国。開国を拒む地下都市。両国の主張は真っ向からぶつかり、両国の間に、不穏な空気が蓄積していった。

 そして昨年の初め、各国まだ新年を迎えたお祝いムードが抜けきれていない中、突如ノリリスクがロンダルシア帝国に対して宣戦布告。

 帝国はそれに応じ、両国は戦争状態へと突入した。

 帝国が推し進める富国強兵の為の領土拡大。強制的な属国化の失敗による開戦と見られていた。

 当初、帝国は余りある兵力で地下都市を蹂躙し、早期決着を目論んでいたようだが、そう都合の良い形には進まなかった。

 地下都市ノリリスクには、魔族の他に多様な種族が共存していた。

 そして、彼らの激しい応戦に遭ったのであった。

 その種族のひとつが【ナーガ】(蛇人)である。

 背丈は人間よりも若干大きな、蛇頭の蛇人である。また別種にラミアという上半身が美しい女性、下半身が大蛇と言う眷属もいるが、彼女達も同じナーガの一族である。

 奇妙なことに、ナーガもラミアも、遺伝子的には驚くほど人類に近しい存在だった。

 人間との間に子をなすことすら可能であり、そうして生まれた血は、地下都市では決して稀有なものではない。

 異形と呼ばれながらも、その血脈は静かに、しかし確かに、人類の歴史の陰に織り込まれてきたのである。

 戦においても、ナーガは侮れぬ存在だった。人間の戦士と比べて、その戦闘力は些かも劣ることがない。しなやかな体軀から繰り出される一撃は、時に剣よりも鋭く、時に大斧よりも重い。

 そして何より、ナーガの一族は優れた魔道士の血族としても知られていた。彼らの中から幾人もの優れた魔術師が生まれ、その叡智は、迫害の歴史の中にあってなお、決して絶えることはなかった。

 ナーガ、という言葉が耳に入った瞬間、ムーンの指先がわずかに強張った。

 絶滅したと、誰もが言う種族。里の年寄りでさえ、お伽話の中の存在だと首を横に振った。

 だが、ムーンは知っていた。ナーガは存在すると。そして白きナーガの痕跡を追う為に、里を後にしたあの夜の事。平静を装おうとしても、否応なく奥歯を力一杯噛み締めていた。全身の血流が一気に激しく流れ出す。

 ムーンの表情の変化に、アウロラが気付き心配そうな視線を送ってきた。

 ムーンはその視線に気付き、なんでも無いと首を横に振った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。