第13話 禁忌の遺物(三)
残った聖騎士団は、回収した大槍を厳重に封印布と鎖で巻き上げ、三人がかりで荷台へと担ぎ上げた。
エルから聖騎士団の負傷兵、賢者の学院の負傷兵もライガルドのキャンプに収容されている事を聞いた、カシミール達と聖騎士団一行は、一旦竜大国のキャンプに合流する事にしたようだった。
「では、私達はこれで」
エルがカシミールに封書を渡す。
礼を述べカシミールはその封書を懐にしまった。
カシミールが、一同に向き直った。その視線がティロネへと留まる。
「……ティロネ君。少し」
呼ばれて、ティロネが歩み寄る。カシミールは、懐から一枚のスクロールを取り出すと、そこに手早く何かをしたため、彼女へと差し出した。
「連絡用スクロールです……何かあれば、これを使って私に知らせてほしい」
「え……でも、これは」
魔術師同士、または学院と連絡を取る為のスクロールであった。距離があってもお互いに連絡が取れる貴重な物で、ティロネはまだこれを所持していなかった。
「本来なら、もっと段階を踏むものなんですが……」
カシミールは、少し困ったように笑った。
「……何か嫌な感じが拭えないんですよ」
カシミールの頭の中で、現在持っている情報と状況が組み立てられていく。何か引っ掛かる。何か見落としている。その感覚が拭えなかった。
カシミールは、チラリとエルに視線を移す。
ティロネは、スクロールを受け取りながら、賢者の称号を持った魔術師にも、言葉にできない事がある事に驚いていた。
「杞憂であってほしいと思っています。だが、もし何かあった時は、遠慮せず頼ってほしい」
「……ありがとうございます」
ティロネは、そのスクロールを、大切に胸元へとしまい込んだ。
その傍らでは、別れを惜しむ声が上がっていた。
「もう行っちゃうのぉ?」
パピーが、ヒルスとノクスの周りを、名残惜しそうにくるくると飛び回っている。
「せっかく仲良くなれたのに」
「私達も、名残惜しいですよ」
ノクスが、苦笑しながら答えた。
「今度会う時は、もっと面白い話を聞かせてくれよ、パピー」
ヒルスが、指先でそっとパピーの頭を撫でるように触れる。
「あら、それなら任せて! とびきりのを用意しとくわ!」
「エルフの友人も、妖精の友人も、正直、これまでの人生で縁がなかったので」
ノクスが、少し照れくさそうに笑った。
「短い間でしたが、貴重な経験になりました」
「私も同感だ」
ヒルスが、素直な笑みを浮かべる。
「気をつけてね、二人とも」
アウロラも、微笑みながら声をかけた。
こうして、聖騎士団とカシミール達は、大槍を運びながら、来た道を戻っていった。その背中が、焼け爛れた大地の向こうへと小さくなっていく。
残されたエルは、しかし、何か思い詰めたような表情をたたえ、その場を動こうとはしなかった。
「……エル?」
ユルトが、怪訝そうに声をかける。
「……私はこの痕跡を、追います」
エルの声は、静かだが、確信に満ちていた。
「先ほどの祈りの中で……ドラゴンの最後の記憶を、見ました」
「見た、というのは」
「死の間際、竜はその瞳に、最後に見た光景を焼き付けることがあります。……何者かが魔大公の骸から、何かを持ち去って行く光景でした」
「何か、というと?」
「はっきりとは分かりません。ですが……まるで守るように運んでいく。そんな印象を受けました」
その言葉に、皆が息を呑んだ。
「……つまり、ムーンの見つけた痕跡は」
「はい。恐らく、その一団を追った者達の痕跡」
エルは、痕跡の続く方向、大樹の森を静かに見据えた。
「私は、これを追います。……皆さんは、ここまでで構いません」
「バカ言うな」
真っ先に答えたのは、ユルトだった。
「一人で行かせるつもりはない」
「……俺も行こう」
ムーンが、当然のように続く。二年間血眼になって探していた手がかり。彼には痕跡を追跡する理由があった。
「調査は、まだ終わってないですよ。魔法のアイテムも頂いちゃいましたし!」
金色の腕輪を鳴らしながら、ティロネもそれに続いた。
「賛成!」
アウロラの肩の上で、パピーが元気よく声を上げる。アウロラも微笑みながら頷く。
エルは、一瞬だけ驚いたように目を見開いたが、やがて小さく頭を下げた。
「……ありがとうございます」
こうして、一行は誰一人欠けることなく、痕跡の続く先、大樹の森へと、足を踏み出した。




