↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
445/474

EP 22

お湯を注ぐだけの革命。ポポロ『ワンカップ・ラーメン』爆誕

「……よし。これで大陸西部の流通網も、完全にポポロ・コーポの管理下に置けたな」

ドンガン・コングロマリットを完全子会社化して以来、ポポロ村は大陸における一大物流ハブ(拠点)として機能し始めていた。

連日、村の広場には各国の商人たちが行き交い、荷馬車が列をなしている。

俺(リアン・クライン)は、ポポロ亭のカウンターで帳簿をめくりながら、一つのビジネスチャンス(課題)に目を向けていた。

「リアンの旦那、最近商人たちから『道中の携帯食がどうにかならんか』って相談が増えとるんや」

ゴルドスマイル銀行のニャングルが、黄金の算盤を弾きながら言う。

「携帯食ね。まぁ、長旅の商隊が食うもんといったら、石みたいに硬い干し肉か、カビの生えにくい乾パンくらいだからな」

「せや。せっかくポポロ亭で極上の飯を食っても、村を出てから次の街に着くまでの数日間は、味気ないエサみたいな飯を我慢せなあかん。……なんとかならんか?」

長期間保存できて、持ち運びが容易で、なおかつ『美味い』携帯食。

しかも、先日完成した度数40%の劇薬芋酒『イモッカ』の強烈なアルコールに負けない、ガツンと塩気の効いたツマミにもなるような商品。

俺の脳内の原価計算と商品開発ロジックが、瞬時に一つの『答え(革命)』を弾き出した。

「……ニャングル。もし、『お湯を注いで三分待つだけ』で、ポポロ亭の本格的な極上スープと麺が食える携帯食があったら、どうだ?」

「は? お湯を注ぐだけ? そんな魔法みたいな飯があるわけ……」

「魔法じゃねぇ。前世の叡智(食品加工技術)だ。……原価は銅貨五枚に抑え、銅貨三十枚で売る。利益率六百パーセントのキラーコンテンツを作ってやるよ」

俺は、厨房の奥へと姿を消し、即座に試作に取り掛かった。

◆

数日後。

ポポロ亭の大きなテーブルに、六人の花嫁(ポンコツ従業員)たちが集められていた。

「リアン様? 今日は新しい料理の試食会だと聞いて、お腹を空かせてきたのですけれど……」

リーザが、テーブルの上を見て不満げに口を尖らせた。

彼女たちの目の前に置かれていたのは、耐水コーティングを施した厚手の『紙コップ』だった。

蓋を開けると、中に入っているのは、鳥の巣のように丸まった【カチカチの乾燥麺】と、怪しげな茶色い粉末、そして干からびたネギと謎の肉片(フリーズドライ)である。

「リアン君……いくらなんでも、このカピカピの干し草みたいな麺は食べられませんよ? 私のウサギの歯でも折れちゃいます」

キャルルが指で麺をつついている。

「うぃ〜……こんなの酒のツマミにならないわよ〜。もっとお肉とか、唐揚げとか……」

ルチアナがジョッキを片手に文句を言う。

「お前ら、黙って見てろ。こいつはただの乾燥麺じゃねぇ」

俺は、チンチンに沸いた熱湯の入ったヤカンを持ち出し、全員の紙コップの中に並々と注ぎ込んだ。

そして、紙の蓋をピタリと閉め、その上に砂時計を置く。

「お湯を注いで、蓋をして……あとは『三分』待つだけだ」

「「「三分……?」」」

ヒロインたちが、怪訝な顔で砂時計の砂が落ちるのを見つめる。

一分が経過した頃。

「……クンクン。あれ? なんだか、すっごくいい匂いが……」

キャルルのウサギ耳がピクリと動いた。

紙コップの隙間から、白い湯気と共に、強烈な香りが漏れ出し始めたのだ。

それは、以前、彼女たちが新婚初夜に俺の部屋へ夜這いを仕掛けようとした際、完全に無力化されたあの匂い。

濃厚な豚骨を煮込んだ旨味と、ガツンと鼻を殴るニンニク、そして香ばしい醤油の香りであった。

「な、なんですのこの匂い!? まるで、寸胴鍋で丸三日煮込んだような豚骨スープの香りが、この小さな紙コップから……っ!?」

リーザの腹の虫が、ギュルルルルッ!と雷鳴のように鳴り響いた。

「種明かしをしてやる」

俺は、腕を組んで解説した。

「その麺は、一度茹でた後に『高温の油で揚げる』ことで、限界まで水分を飛ばした【油揚げ麺】だ。油で揚げることで麺の中に無数の細かい気泡ができ、お湯を注いだ瞬間に、そこへ水分とスープが一気に染み込む構造になっている。さらに、油の旨味とカロリーも麺に付与される」

「あ、油で揚げた麺……っ!」

「スープは、ポポロ亭の特製ニンニク豚骨醤油スープを、ルナの魔法と錬金術を応用して水分だけを飛ばし、完全に【粉末化】したものだ。ネギやチャーシューも、凍結乾燥(フリーズドライ)で旨味を閉じ込めている」

俺の言葉が終わると同時に、砂時計の最後の砂が落ちきった。

「よし、三分だ。蓋を開けて、底からよくかき混ぜて食ってみろ」

「「「いただきますっ!!」」」

六人は一斉に紙コップの蓋を剥がし、割り箸を突っ込んだ。

立ち昇る暴力的なまでの豚骨ニンニクの湯気。さっきまでカチカチだった麺は、熱湯と油の作用で、見事なまでにスープを吸い込んだ『ちぢれ麺』へと復活していた。

ズズズッ!! ズルズルズルッ!!

「……っ!! な、なんですのこれぇぇぇっ!?」

一口すすったリーザが、目を見開いて絶叫した。

「麺にスープが完璧に絡みついて……ジャンクで、暴力的な旨味が脳髄を直接殴ってきますわ! 高級な宮廷料理とは全く違う、抗いようのない『本能の味』ですのーっ!!」

「フハッ、ハフッ……! スープの塩気とニンニクが強烈で、食べる手が止まらないわ! これ、度数の高いお酒(イモッカ)と一緒に流し込んだら、絶対に悪魔的な美味しさになるわよ!」

ルチアナがスープを飲み干しながら叫ぶ。

「わぁっ! これなら、ゲームしながらでも、月人君の配信を見ながらでも、片手でサクッと食べられるわ! 最強の推し活(ゲーミング)フードじゃないのぉっ!」

ラスティアが感動の涙を流している。

あっという間に、六つの紙コップはスープの一滴まで完全に空っぽになった。

お湯を注ぐだけの革命、ポポロ特産『ワンカップ・ラーメン』の爆誕である。

俺の作る普段の極上料理とはベクトルが違う、化学調味料と油と塩分が織りなす【ジャンクフードの引力】は、異世界の住人(神や魔王含む)の味覚を完全にバグらせていた。

「リアン様! おかわり! おかわりをお願いしますわ!」

「一人一個だ。それはこれから商人に向けて売り出す大事な『商品(在庫)』だからな。……ニャングル、これでどうだ?」

試食していたニャングルも、感動で黄金の算盤を震わせていた。

「完璧や……! これなら長旅の商人も泣いて喜ぶし、日持ちもする。お湯さえあればどこでもポポロ亭の味が楽しめるなんて、流通の歴史が変わるで旦那ァ!」

俺はニヤリと笑い、厨房の奥に山積みになった『ワンカップ・ラーメン』の在庫(第一ロット)を見つめた。

原価は極限まで安く、利益率はバカ高い。これからのポポロ・コーポの主力商品になることは間違いない。

――だが。俺は一つ、重大な計算ミスをしていた。

ジャンクフードが持つ『中毒性』を、甘く見すぎていたのだ。

◆

その日の深夜二時。

俺は、尿意を催してベッドから起き上がり、一階のトイレへ向かおうと廊下を歩いていた。

「……ん?」

静まり返っているはずの一階の厨房から、かすかな物音と、チロチロという火の光が漏れている。

泥棒か? と思い、防刃エプロンと特製ハリセンを構えて厨房を覗き込んだ俺は、信じられない光景を目撃した。

「シュコー……シュコー……」

「ズルズルズルッ……。ああっ、深夜に隠れて食べるワンカップ・ラーメン、背徳的で最高ですわ……」

「ルチアナ、お湯の温度が低いわよ。大地の精霊さん、もっとヤカンの火力を……」

暗闇の厨房。

魔導コンロの青白い炎に照らされながら、リーザ、ルチアナ、ルナの三人が、パジャマ姿でヤカンを囲み、俺が保管していた『ワンカップ・ラーメン(商品在庫)』を勝手に開封して貪り食っていたのだ。

「……お前ら。俺の大事な在庫(売り物)で何してやがる」

俺が地獄の底から響くような声で言うと、三人はビクゥッ!と肩を震わせ、麺を口からぶら下げたままゆっくりと振り返った。

「あ、あわわわっ……! り、リアン様! 違いますの! これは、その、夜中に突然お腹が空いてしまって……! あのジャンクな旨味が、どうしても脳裏から離れなくて……!」

リーザが泣きそうな顔で言い訳をする。

「お前らなぁ……昼間に『一人一個』って言っただろ! お湯を注ぐだけで簡単に食えるからって、深夜に勝手に在庫を食い荒らす奴があるか! それ一個で原価五枚、売価三十枚の利益が飛んでんだぞ!!」

スパーンッ! スパーンッ! スパーンッ!!

「「「痛ぁぁぁいっ!!」」」

深夜の厨房に、特製ハリセンの炸裂音と、ポンコツ嫁たちの悲鳴が響き渡った。

「まったく……。これだから燃費の悪い不良債権どもは……」

俺は、ため息をつきながら、残りのワンカップ・ラーメンの在庫が積まれた棚に、厳重な南京錠と魔導ロックを三重に掛けた。

「度数40%のイモッカといい、このワンカップ・ラーメンといい……うちの開発する商品は、どれも取り扱い注意の『危険物』ばかりだな」

手軽で美味すぎるが故に、理性を破壊するジャンクフード。

このポポロ・コーポレーションが誇る悪魔の発明品が、数日後、帝都からやってくる『傲慢なクズ貴族』の人生を完膚なきまでに破壊する【罠】になろうとは、この時の俺はまだ知る由もなかった。

読んでいただきありがとうございます。

面白いと思っていただけましたら、★評価やブックマークで応援していただけると励みになります。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。