EP 20
完全子会社化記念・浜焼き海鮮BBQと、エンドレス夜勤シフト
ジュウウウウゥゥゥ……ッ!!
パチッ、パチパチッ!
茜色に染まるエメラルド・コーストの美しい砂浜に、炭火が弾ける香ばしい音と、磯の香りが爆発的に広がっていた。
「さぁ、どんどん焼けよ! ドンガンの流通網を接収して最初に届いた、正真正銘のシーラン国特産・極上海鮮だ! 食い尽くせ!!」
俺は、巨大なバーベキューグリルの前に立ち、トングを片手に次々と極上の海産物を網の上へ放り込んでいた。
「おおおおおっ!!」
「リアン様ぁぁっ! 最高ですわーっ!!」
砂浜に設営された特設テントでは、水着姿の花嫁(従業員)たちが、野獣のような歓声を上げていた。
網の上で豪快に焼かれているのは、全長五十センチはあろうかという『特大魔海老』を真っ二つに割り、特製のガーリックバターをたっぷり塗った【鬼殻焼き】。
その横では、大人の顔ほどもある巨大な『魔岩鮑』が、熱に身をよじらせる【踊り焼き】。仕上げに焦がしバターと特製醤油を垂らすと、暴力的なまでに食欲をそそる煙が立ち昇る。
さらに、拳二つ分もある『大サザエの壺焼き』は、中でグツグツと煮え滾るカツオ出汁と醤油の香りを周囲に撒き散らしていた。
「あむっ! はふっ、ほふっ……! んんん〜っ! 海老の身がプリップリで、ガーリックバターのコクと混ざり合って……ほっぺたが落ちそうですっ!」
キャルルが、顔の半分ほどもある海老の身に齧り付き、ウサギ耳を幸せそうにパタパタと揺らす。
「やっぱり私の故郷の海産物は世界一ですわ! アワビの肝のほろ苦さが、焦がし醤油とベストマッチ……たまりませんのーっ!」
リーザが、お賽銭箱掃除機を放り出して、両手でアワビを貪り食っている。
「うぃ〜……最高、最高のツマミね〜。やっぱり海鮮BBQには、キンキンに冷えたエールと白ワインよねぇ〜! おかわり!」
ルチアナは、神の威厳など微塵もなく、ジョッキ片手に完全に出来上がっていた。
「はいはーいっ! ただいま『ポポロ・コーポレーション完全子会社化記念BBQ』を生配信中でーすっ☆ みんな、ドンガン系列のホテルは今日からうちの保養所になったから、遊びに来てねーっ☆」
キュララがドローンに向かって宣伝(ちゃっかり自社リゾートのPR)をこなし、
「……よし、この壺焼きのサザエ、殻ごとタッパーに入れて……明日王都の質屋で売れば、月人君の限定アクリルスタンドが買えるわ……!」
ラスティアはBBQの傍らで、せっせと海産物を横領(推し活の資金繰り)しようとしていた。
(※直後に俺のハリセンでタッパーごと没収された)
一方、少し離れたVIP用の大型テントでは。
「……美味い。なんという歯ごたえと旨味だ」
「ああ……。数日前まで、大陸の経済が崩壊しかけていたというのに。まさか、あの巨大カルテルがたった三日でただの子会社に成り下がるとはな……」
ルナミス帝国のマルクス皇帝、獣人王国の大将軍ガルム、シーラン国の宰相フィン、アバロン魔皇国の宰相ルーベンスという、大陸の最高権力者たちが、冷や汗を流しながらサザエの壺焼きをつついていた。
「架空の塩を空売りさせて、限界までレバレッジをかけさせたところで価値をゼロにする……。まさに悪魔の錬金術だ。我が国の経済顧問どもが、全員青ざめて辞表を出しかけていたぞ」
フィン宰相が、サメの顔を引き攣らせて呟く。
「まったくだ。リアン公爵……いや、リアン総支配人を敵に回すことがいかに恐ろしいか、骨の髄まで理解した。我々は、彼と共同経営(親戚)の道を選んで本当に正解だった……」
マルクス皇帝が、震える手でワイングラスを持ち上げる。
「ええ、ええ! ポポロ特区の物流は今後、我らゴルドスマイル銀行が全面的にバックアップさせてもらいまっせ! 旦那の機嫌を損ねたら、今度はどの国が買収されるか分かったもんやないですからな! ゲハハハッ!」
ニャングルが、黄金の算盤を弾きながら上機嫌で笑い声を上げた。
かくして、経済封鎖の危機は去り、ポポロ・コーポレーションは大陸最強の流通網を手に入れた。
美味い海鮮と酒、そして心地よい波の音。
出張(新婚旅行)を締めくくるにふさわしい、大団円の宴であった。
――だが。
太陽が完全に水平線の向こうへ沈み、満天の星空がエメラルド・コーストを照らし始めた頃。
「……ふぅ。食った食った。網の片付けも終わったし、あとはシャワー浴びて寝るだけだな」
俺がトングを置き、エプロンを外して伸びをした、その時だった。
ザッ、ザッ、ザッ……。
背後の暗がりから、複数の足音が近づいてくる。
振り返ると、そこには昼間の水着姿から一転、どこに隠し持っていたのか『純白のネグリジェ』や『透け感のあるシルクのパジャマ』に着替えた六人の花嫁たちが、ギラギラとした目を光らせて立ち並んでいた。
「……お前ら、何やってんだ。宴会はもうお開きだぞ」
俺が訝しげに尋ねると、先頭に立ったキャルルが、チャキッ……と『愛のペア手錠』を構えて一歩前に出た。
「ふふっ。リアン君……お仕事(BBQの焼き係)、お疲れ様でした。これで『社員研修』の業務は全て終了、ですよね?」
「あ? ああ、そうだが」
「それなら!」
リーザが、お賽銭箱掃除機のスイッチをオンにしながら身を乗り出す。
「ここからは『私的な時間』! つまり、お預けになっていた【新婚旅行の初夜】の始まりですわーっ!!」
「「「リアン(君/様)、今日こそ覚悟しなさい(ませ)ーっ!!」」」
夜の砂浜に、ヒロインたちの欲望にまみれた雄叫びが響き渡った。
しまった。新鮮な海産物(特にアワビやサザエのタウリン、亜鉛)とガーリックを大量に摂取させたせいで、彼女たちの体力と謎のテンション(スタミナ)が限界突破してしまっている!
「ば、馬鹿野郎! 誰がこんな砂浜で初夜を迎えるか!」
俺は慌てて後ずさり、防衛用のホワイトボード(携帯版)を盾のように構えた。
「いいか、よく聞け! たった今、ポポロ・コーポの就業規則・出張特別規定が改定された! 『出張先における就業時間外の過度なスキンシップ(夜伽)は、重大なコンプライアンス違反とし、違反者は向こう一週間の食事を【もやし炒め(塩抜き)】とする』!! これが労働基準監督署(俺)の最終決定だ!」
俺は、完璧な法務ロジック(屁理屈)で彼女たちを牽制した。
だが。
「もやしでもなんでも食べます! その代わり、今夜はリアン君をメインディッシュにいただきますからねっ!!」
キャルルが、手錠を振り回しながら猛ダッシュで突っ込んでくる。
「コンプライアンスなんて知るかぁぁっ! 私は酒の勢いで既成事実を作るのよぉぉっ!」
ルチアナが、酔拳のようなトリッキーな動きで迫る。
「大地の精霊さん! リアン様の逃げ道を純金の壁で塞いでくださいなーっ!」
ルナの錬金テロで、背後の砂浜が次々と金塊に変わっていく。
「おいコラ! 規則を守れ不良債権ども! 俺の平穏な睡眠時間を搾取するなァァァッ!!」
俺は、ホワイトボードを放り捨て、特製ハリセンを握りしめて夜の砂浜を全力で逃走し始めた。
「待ちなさいよリアン君ーっ! シフト表なら昨日から提出してるでしょーっ!」
「それはお前らの希望シフトであって、俺が承認したわけじゃねぇぇっ!」
波打ち際を猛スピードで駆け抜ける一人の男と、それを追う六人の化け物(花嫁)たち。
その光景を、VIPテントから遠巻きに眺めていた各国の首脳陣は、しみじみと酒を酌み交わしていた。
「……世界最強のカルテルをたった三日で潰した男が、嫁の夜這いから逃げ回っているとはな……」
「世の中、上手くできているものだな。彼がいなければ世界が滅び、彼を止められるのはあの娘たちだけ、というわけか……」
呆れ半分、安堵半分の大人たちの笑い声が、夜風に溶けていく。
かくして、新食材の買い付けと悪徳カルテルの解体を兼ねた、ポポロ・コーポレーションのドタバタな第1回社員研修は、血で血を洗う【エンドレス夜勤シフト(鬼ごっこ)】と共に幕を閉じた。
俺の手には、大陸の流通を支配する強大な権力と莫大な資産が握られた。
だが、どれだけ会社が大きくなろうと、俺のやるべき仕事(日常)は変わらない。
朝六時に起きて芋を掘り、美味い飯を作り、そしてこの燃費の悪いポンコツどもを、原価計算とロジックで養っていくことだ。
「……ま、悪くねぇか」
夜の海風を切って走りながら、俺はふと、前世では絶対に浮かべることのなかった、心からの笑みをこぼしていた。
絶対に休めないブラック寮母長(公爵)のスローライフは、これからも騒がしく、そして極上に美味い匂いと共に続いていく。
読んでいただきありがとうございます。
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