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EP 5

 地獄の求婚アピール合戦! 重愛・寄生・市場崩壊

ジュウウウウゥゥゥ……。

ポポロ・コーポの厨房に、脂の乗った極厚の塩鮭がこんがりと焼ける香ばしい匂いが漂う。

俺は、炊き立ての米麦草の白飯と、大根とワカメの味噌汁、そして完璧な火入れを施した塩鮭を定食盆に並べていた。

「ふぅ……。やっぱり朝は和食に限るな」

昨日の朝、玄関を物理的に埋め尽くした『貴族令嬢たちからの釣書(見合い写真)の山』は、全てコンロの焚き付けと買い出し用のメモ用紙へと再利用された。

俺の『結婚=人生の墓場(負債)』という完璧なロジックの前に、どこの馬の骨とも知れない令嬢たちの野望は灰と消えたのだ。これで俺のスローライフも安泰である。

そう確信し、熱いお茶をすすろうとした、その時だった。

バンッ!!

食堂の扉が勢いよく開け放たれた。

そこに立っていたのは、ポポロ・コーポが誇る(そして俺の頭痛の種である)六人の同居人たちだった。

彼女たちはなぜか一列に横隊を組み、まるで企業の最終面接に臨む就活生のような、あるいは獲物を狙う肉食獣のようなギラギラとした目を俺に向けていた。

「……なんだお前ら。朝飯ならそこに並べてあるぞ」

「リアン君! 今日は朝ご飯を食べに来たんじゃありません!」

列の中央から、特注の安全靴をピカピカに磨き上げた獣人国の姫・キャルルが一歩前に出た。

彼女の背中からは、なぜかピンク色とドス黒い色が混ざり合った、異様なオーラが立ち上っている。

「単刀直入に言います! 私と結婚してください!!」

「……は?」

キャルルは、可愛らしいウサギ耳をピンと立て、満面の笑みで両手を広げた。

「私と結婚すれば、帝国とレオンハート獣人王国の間に強固なパイプができます! そして何より、私が毎日愛情たっぷりの手作り弁当を作って、24時間365日、リアン君のそばにずっとずっと寄り添ってあげますね♡」

「お、おう。弁当は嬉しいが……」

「ええ! だから、まずはこの特注の『愛のペア手錠(ミスリル製・魔法解除不可)』で、私たちを物理的に一つに繋ぎましょう! トイレもお風呂もずっと一緒! もし浮気したら、この安全靴でリアン君の脚の骨を砕いて、一生私がお世話してあげますからねっ♡ さぁ、手を出して!」

「重いわ!! 物理的にも精神的にも愛が重すぎるだろ!!」

俺は、キャルルが取り出した冷たい輝きを放つ手錠を、おたまを使って全力で弾き飛ばした。

24時間拘束のブラック公爵業務から逃げたのに、妻から24時間監視(監禁)されるなんて完全な本末転倒である。

「キャルルちゃん、抜け駆けはズルいですわ!」

次に前に飛び出してきたのは、ボロボロの芋ジャージから一転、どこで調達したのか純白のウェディングドレス(サイズが合っておらず裾を引きずっている)を着たシーラン国の王女・リーザだった。

彼女は背中にお賽銭箱型掃除機を背負ったまま、ドヤ顔で俺をビシッと指差した。

「リアン様! 私と結婚すれば、なんと『この私を一生養える権利』をプレゼントしますわ!」

「……権利?」

「そうですわ! リアン様の広大な公爵領の税収と年金があれば、私はもうパンの耳をかじる必要はありませんの! 毎日、毎食、私にトリプル・チーズイン・ハンバーグを食べさせてくださいませ! さぁ、この婚姻届(養育費全額負担契約書)にサインを!」

「ただのヒモ宣言(寄生)じゃねぇか! 誰が好き好んで超絶燃費の悪い不良債権を抱え込むんだよ、俺の純利益ゼロだろ!」

俺は、リーザの差し出した紙を破り捨てた。

「あらあら、リーザ様は欲しがってばかりでダメですわね。結婚とは、与え合うものですのよ」

ふんわりとした笑顔で、エルフの巫女・ルナが進み出てくる。

「私と結婚すれば、大地の精霊さんにお願いして、毎日『純金100kg』をリアン様にプレゼントしますわ! そうすれば、ポポロ村を黄金の城に建て替えて、一生遊んで暮らせますの!」

ルナが両手をかざすと、厨房の床にゴトリと巨大な純金の塊が錬成された。

一見、最高の逆玉の輿(プロポーズ)に見える。だが、俺の原価計算ロジックは即座にその真実を暴き出していた。

「お前のアレは『三日で元の石ころに戻る偽金』だろ! そんなもん毎日100kgも市場に流したら、三日後に帝国の経済(信用)が完全に崩壊してハイパーインフレ一直線だ! 俺を経済テロリストの首謀者にする気か!」

「はいはーいっ! じゃあ私の番ねっ☆」

経済崩壊の危機に頭を抱える俺の前に、今度は無数のカメラドローンを引き連れた天使・キュララが舞い降りた。

「私と『ロイヤル・コラボ婚』すれば、間違いなく全世界のゴッドチューブで同接一千万人突破のメガバズり確定よっ! 初夜のベッドルームからの生配信で、スパチャは折半! 私たち、最強のビジネスカップルになれるわよっ☆」

「プライバシーの切り売り(炎上商法)はお断りだ! 飯が不味くなるわ!」

俺が叫ぶと、今度はカウンター席で、朝からジョッキに並々と注がれたビールを呷っている女神・ルチアナが、ゲップをしながら手を挙げた。

「うぃ〜……私と結婚すれば〜、公爵夫人の権限でポポロ亭の酒とツマミが毎日食べ放題ね〜。いや〜、公爵の嫁の座って最高! リアン、今後の人生、一生ゴチになるわ! とりあえず、ツマミにその塩鮭と唐揚げ持ってきて!」

「結婚どころか、ただの食い逃げ神じゃねぇか! 誰が朝から唐揚げ揚げるかバカ!」

「ちょっと、あんたたちどきなさいよ!」

最後に、ドカドカと足音を立てて進み出てきたのは、全身を『朝倉月人』のライブグッズ(タオル、うちわ、ペンライト)で完全武装した魔王・ラスティアだった。

彼女は、俺の胸ぐらをガシッと掴み、血走った目で迫ってきた。

「いい、リアン君。私と結婚すれば、あんたのその余りある『公爵マネー』で、私が福岡の五大ドームツアーをVIP席で全通して豪遊してあげるわ! 限定グッズも無限回収して、あんたの領地の城に祭壇を作ってあげる! ほら、早くブラックカードの暗証番号を教えなさいよぉぉっ!」

「……ただの推し活のパトロン(ATM)じゃねぇか!! 俺の金で他の男(アイドル)のケツを追いかける嫁なんか、前代未聞のクソ物件だろ!!」

全員のプレゼン(欲望の垂れ流し)が終了した。

重愛(監禁)、寄生(ヒモ)、市場崩壊(テロ)、承認欲求(バズり)、食い逃げ、そして推し活パトロン。

誰一人として、俺の人生にプラス(利益)をもたらす真っ当な動機を持つ者はいなかった。

「…………お前ら」

俺は、深く、深いため息をついた。

そして、厨房の隅にあった昨日のルナミス新聞を手に取り、極限まで固く丸め、ガムテープでぐるぐる巻きにして『特製・超硬質ハリセン』を錬成した。

「いいか、よく聞け」

俺は、ハリセンを肩にポンポンと叩きながら、欲望に目を血走らせた六人の厄介者たちを冷たく見下ろした。

「結婚ってのはな、互いの人生のコストを分担し、シナジー(相乗効果)を生み出すための共同経営(ビジネス)だ。……だが、お前らが今並べ立てた条件は、俺にとって100%の『負債(リスク)』でしかねぇ!」

シュンッ!!

俺は、常人には視認不可能な速度でハリセンを振り抜いた。

「手錠で監禁するな! 却下!(スパーン!)」

「あべっ!」(キャルル)

「自分で稼げ寄生虫! 却下!(スパーン!)」

「もやしぃぃっ!」(リーザ)

「偽金を作るな! 却下!(スパーン!)」

「ふにゃっ!?」(ルナ)

「配信のネタにすんな! 却下!(スパーン!)」

「撮れ高がぁぁっ!」(キュララ)

「酒代は自分で払え! 却下!(スパーン!)」

「痛いっ! 酒がこぼれるぅ!」(ルチアナ)

「オタ活は自分のお小遣いでやれ! 却下!(スパーン!)」

「私の福岡遠征費があぁぁっ!」(ラスティア)

俺の完璧な六連撃(ツッコミ)が炸裂し、ヒロインたちは次々と床に沈んでいった。

「痛い痛い……! ちょっとリアン君、ひどいじゃない!」

ルチアナが頭を押さえながら抗議する。

「ひどいのはお前らの腐ったビジネスプラン(求婚)だ。いいか、二度と俺に結婚の話を持ち込むな。俺の資産と平穏な朝飯の時間は、俺だけのものだ」

俺は、床で呻く六人を完全に放置して、自分の定食盆をカウンターに運んだ。

こんがり焼けた塩鮭の身を箸でほぐし、ホカホカのご飯に乗せて口に運ぶ。脂の甘みと適度な塩気が、疲労した脳に染み渡っていく。

「……美味い。やっぱり、寄生虫どもを養うより、この塩鮭の方がよっぽど俺の人生(オメガ3脂肪酸)にプラスをもたらしてくれるな」

俺は温かい味噌汁をすすりながら、至福の朝食タイムを満喫した。

だが、この時はまだ気づいていなかった。彼女たちの『公爵夫人』というポストへの執念が、この程度のハリセンで諦めきれるほど軽いものではないということに。

ポポロ・コーポの内部抗争は、やがて帝都全体を巻き込む前代未聞の『お見合い大舞踏会(修羅場)』へと発展していくことになる。

読んでいただきありがとうございます。

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