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EP 38

貧乏神の賽銭箱と、炸裂するテキサスクローバーホールド

「哀と!貧乏と!お腹ペコペコの苦しみ、今晴らしますわああああああっ!」

魔王城の最上階、豪華絢爛な玉座の間に、シーラン国の王女にして貧乏神の化身たるリーザの絶叫が轟いた。彼女が背中から下ろした木製の『お賽銭箱型掃除機』のノズルが、永遠の17歳(自称)こと魔王ラスティアにぴたりと狙いを定める。

ブォォォォォォォォォォォォォンッ!!!

ダイソンも真っ青、いや、次元そのものを吸い込むような爆音が鳴り響いた。お賽銭箱の投入口から発生したのは、物理的な風ではない。対象のステータス、運気、そして何よりも『財産』を根こそぎ奪い去る、極悪非道な概念吸引の渦である。

「ちょ、ちょっと!? なにこれ、私の魔力が……いや、それだけじゃないわ!」

ソファの上で余裕をぶっこいていたラスティアの顔色が、一瞬にして土気色に変わった。

彼女の周囲に漂っていた「不労所得で荒稼ぎした圧倒的なセレブオーラ」が、シュルルルルッ!と音を立ててお賽銭箱に吸い込まれていく。それと同時に、ラスティアの懐に入っていたマジックバッグから、金貨の山、宝石、さらには朝倉月人の限定プレミアグッズまでが次々と飛び出し、容赦なくブラックホール(お賽銭箱)へと消えていった。

「ああっ! 私の金貨! 裏口座の通帳! 限定アクスタ! 苦労して集めたサイン入りポスターまでぇぇぇっ!?」

『対象の【隠し財産(不労所得)】を全額没収しました』

『対象の【ステータス(魔王の威厳)】を極限まで低下させました』

無慈悲なシステム音声が玉座の間に響く。魔王剣を振るい、ブラックホールを操るはずの大魔王は、貧乏神の絶対的なデバフの前に、ただの『金欠でひもじい痛いオタク』へと強制的に成り下がってしまった。

「やった……やりましたわルチアナ様! 憎き魔王の不当な富を、全てスッカラカンにしてやりましたのーっ!」

「よくやったわリーザ! さぁ、ここからは私のターンよ!」

ステータスと財産を奪われ、膝から崩れ落ちたラスティアの背後に、芋ジャージ姿の女神ルチアナがヌルリと回り込んだ。

神気も魔法も一切使わない。彼女の全身にみなぎっているのは、もやし生活を強いられた恨みと、自分を出し抜いて推し活を満喫していた魔王への『純粋な殺意(フィジカル)』である。

「おんどりゃあああああああっ!!」

ルチアナは野太い雄叫びを上げると、四つん這いになって「私の月人君グッズが……」と咽び泣くラスティアの両足をガシッと掴んだ。

そのまま右足をラスティアの左太ももに深く差し込み、両足を交差させてガッチリとロックする。そして、ラスティアの背中を反らせるようにして、自らの腰を深く落としながら強引に後方へひっくり返した。

神と魔王による、まさかのプロレス技。

プロレス史に燦然と輝く激痛のサブミッション――テキサスクローバーホールドである。

「ぎゃああああああああああぁぁぁぁっ!!?」

魔王城の天井を突き破らんばかりの、ラスティアの悲鳴が轟いた。

腰、膝、太もも。下半身のすべての関節が、常軌を逸した角度でへし折られそうになる激痛。魔法耐性や物理防御力など関係ない。ステータスを吸い尽くされた今の彼女は、ただの「運動不足の17歳(自称)」の肉体強度しかないのだ。

「痛い痛い痛い痛いっ! 折れる! 背骨が折れるわよルチアナ! バカ! 離しなさいよぉぉっ!」

「離すもんですか! あんたが裏でコソコソ稼いだ金のせいで、私がどれだけルナキンの前でひもじい思いをしたと思ってんのよ! もっと反りなさい! もやしの恨み、骨の髄まで味わいなさい!!」

メキメキメキッ!という嫌な音が、ラスティアの背骨から鳴り響く。

ルチアナは完全に鬼神と化し、一切の手加減なしで絞り上げている。リーザは横で「もっとですわ! もっと絞り上げてくださいませ!」とお賽銭箱を叩きながらチアガールのように応援していた。

「止めてえええええっ! ギブ! ギブギブ! 許してえええええっ!!」

ついに、世界を滅ぼす力を持つはずの魔王が、涙と鼻水を撒き散らしながら床をバシバシと叩き、無様にタップアウト(降参)を宣言した。

プライドも威厳も、そこには何一つ残されていない。圧倒的な物理(プロレス)の前に、絶対悪は完全に屈服したのだ。

その地獄絵図のような光景を、上空を旋回する数十台のカメラドローンが、様々なアングルから完璧に捉えていた。

「はーい皆様っ! ご覧ください、魔王ラスティアがルチアナ様のテキサスクローバーホールドの前に完全タップアウトでーすっ☆ これが、情弱ビジネスの胴元に下された正義の鉄槌ですよーっ!」

キュララが、キラキラとした笑顔でカメラに向かってピースサインを決める。

配信のコメント欄は、かつてないほどの熱狂と爆笑に包まれていた。

『魔王、プロレス技でギブアップwww』

『テキサスクローバーホールドは草』

『神(物理)強すぎるだろ』

『これ神回確定だわwww』

『スパチャ投げときますね(金貨1枚)』

「……ふぅ。まぁ、こんなもんだろ」

氷結のロングソードを肩に担ぎ、その惨状を冷ややかに見下ろしていたリアンは、ようやく満足げに頷いた。

魔王の不労所得は完全に没収され、肉体的な落とし前もキッチリつけさせた。

残るはただ一人。このくだらない詐欺ビジネス(八百長プロレス)を企画し、底辺冒険者たちから金を巻き上げた張本人。

「さて。悪の親玉も泣いて謝ったことだし……次は、あの白スーツの詐欺師に、キッチリ『契約通り』のツケを払ってもらうとするか」

リアンの視線の先、城のエントランス付近でガタガタと震えながら逃げ出そうとしている円城寺明の後ろ姿が、完全にロックオンされていた。

読んでいただきありがとうございます。

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