↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
420/471

EP 37

 責任転嫁の魔王と、被害者(自業自得)たちの逆ギレ

「うおおおおぉぉぉぉぉぉっっ!!!」

アバロン魔皇国、魔王城。

かつて歴代の勇者たちがその威容に絶望し、数多の血が流された漆黒の居城の正門が、ただの『怒り』に駆動された二人の女によって文字通り蹴り破られた。

ドッゴォォォォォォォォンッ!!!

厚さ一メートルの魔鋼鉄製の扉が、蝶番ごと吹き飛び、城のエントランスを無残に転がっていく。

そこから、土煙を上げながらズンズンと歩み入ってきたのは、全身泥だらけのボロボロの芋ジャージに身を包んだ、天界のトップ・ルチアナと、シーラン国の王女・リーザだった。

彼女たちの目は血走り、全身から立ち上るドス黒いオーラは、魔王城に立ち込める瘴気すら上書きするほどの禍々しさを放っていた。

「……ひぃっ!?」

「な、なんだこいつら!? 重力結界を突破してきたぞ!?」

城の警備に当たっていた高レベルのオーク兵やサキュバスたちが、二人の異様な気迫に呑まれて後ずさる。

無理もない。今のルチアナたちは、神気でも魔力でもなく、「騙し取られた金」と「食べそこねたチーズインハンバーグ」への純粋な怨念だけで、ラスティアが敷いた数十倍の重力魔法を気合で無効化していたのだ。

「どけぇぇぇぇっ! 私たちの金を搾り取った豚(魔王)はどこよぉぉっ!!」

「もやし生活の恨み、今こそ晴らしますわーっ!!」

ルチアナがオーク兵の顔面をドロップキックで粉砕し、リーザがお賽銭箱型掃除機を振り回してサキュバスたちをなぎ倒していく。

その背後には、カメラドローンを無数に引き連れたトップ配信天使キュララが、キラキラとした笑顔で追従していた。

「はーい皆様! ルチアナ様とリーザちゃんが、ついに魔王城にカチコミを開始しましたーっ! ノーガードの物理攻撃で魔族をボコボコにしていまーす! いやぁ、お金の恨みって本当に怖いですねっ☆」

キュララの配信コメント欄は、空前の盛り上がりを見せていた。

『草』

『勇者(物理)』

『ただの借金取りで大草原』

『魔王(推し活勢)vs 神(騙されカモ勢)のドリームマッチww』

『魔王城の扉って物理で壊れるんだな……』

そんな外の喧騒など露知らず。

魔王城の最上階、豪華絢爛な玉座の間では、永遠の17歳(自称)たる魔王ラスティアが、ふかふかのソファに寝転がりながら、大型魔導スクリーンで『朝倉月人・真夏のライブツアーDVD』を鑑賞していた。

「きゃあぁぁっ♡ 月人くぅぅん! こっち向いてぇぇっ! あぁん、今のウインク最高ぉぉっ! やっぱりあの神ファンサ、国庫を空にしてでも行く価値があったわぁ♡」

ラスティアは、両手に持った特製のペンライトを振り回し、黄色い歓声を上げている。テーブルの上には、食べかけのコンソメパンチ味ポテトチップスと、飲みかけのコーラが置かれていた。

彼女の脳内は、完全に『推し活』の多幸感で満たされており、先ほど城の外で起きた「リアンによる裏帳簿の暴露」など知る由もない。

「ふふっ、円城寺のヤツから毎月入ってくる裏金(キックバック)のおかげで、推し活が捗って仕方ないわ。やっぱり、情弱から搾り取る不労所得こそ、最高のビジネス――」

バギャァァァァァァァァァァァァッ!!!

その時。

玉座の間の巨大な観音開きの扉が、枠ごと爆散した。

「……えっ?」

ペンライトを振り上げたまま固まるラスティア。

もうもうと舞い上がる土煙の中から、般若のような形相をしたルチアナとリーザが、ずんずんと姿を現した。

「――見つけたわよ、諸悪の根源(ラスティア)……ッ!!」

ルチアナの声は、地獄の底から響くような極低温だった。

「ル、ルチアナ!? リーザ!? なんであんたたちがここに……ってか、私の城の扉を弁償しなさ……」

「よくも! よくも私たちを騙したわねぇぇぇっ!! ラスティアぁぁぁっ!!」

ルチアナは、ラスティアの言葉を遮り、喉が裂けんばかりの絶叫を上げた。

「私の借金も! もやし生活も! 全て、全てあんたのせいじゃないのよぉぉっ!!」

「そうですわ! 私たちの純真な夢(一億円)を食い物にして、自分だけ推し活で豪遊するなんて! 私のトリプル・チーズイン・ハンバーグを返してくださいませぇぇっ!!」

二人は、顔を真っ赤にして涙と鼻水を撒き散らしながら、ラスティアに向かって指を突きつけた。

「は? なによ急に」

ラスティアは、ソファから起き上がり、ペンライトを置いて怪訝な顔をした。

その背後から、悠然と玉座の間に入ってきたリアンが、一枚の紙(裏帳簿のコピー)をヒラヒラと見せつけた。

「あんたの『不労所得』のカラクリ、全部バラさせてもらったぞ、魔王。お前が円城寺の詐欺の胴元(キックバック先)で、魔王討伐の茶番を仕組んでた張本人だってな。キュララの配信で、大陸中に絶賛生中継中だ」

「なっ……!?」

ラスティアの顔から、サーッと血の気が引いた。

上空を見ると、キュララのカメラドローンが、バッチリとラスティアの「ポテチとコーラと推し活DVD」という堕落しきった魔王の姿を世界に向けて配信している。

『魔王、推し活中www』

『これが絶望の魔王(笑)の真の姿か』

『ただの痛いオタクじゃねぇかwww』

『私たちの参加費、このDVD代になってると思うと泣ける』

「ちょっ……! 配信!? 待って、カメラ止めて! 事務所(GOD)通して! 私の魔王としての威厳がぁっ!」

ラスティアが慌てて手で顔を隠そうとするが、もう遅い。

「威厳なんて最初からねぇわよ! このドクズ魔王!!」

ルチアナが、ズカズカとラスティアに歩み寄り、胸ぐらをガシッと掴んだ。

「あんたのせいで! 私は金貨五百枚のトイチのローンを背負わされて、リアン君に新聞紙で殴られて、もやししか食べられなかったのよ! どう落とし前つけてくれるのよ!!」

「私のパンの耳生活も! 毎日ルナキンの前で匂いだけ嗅いで耐え忍んだ苦しみも! 全部あんたのせいですの!!」

二人の怒髪天を突く剣幕。

普通なら、ここで「ごめんなさい、私が悪かったです」と謝るのが筋だろう。

しかし。

相手は、圧倒的な自己中心主義と快楽主義で生きる、永遠の17歳(自称)の魔王である。

「……はぁ?」

ラスティアは、ルチアナの手をパシッと払い除け、大きくため息をついた。

そして、腕を組み、冷ややかな、そして呆れ果てた視線で二人を見下ろした。

「い、嫌。ちょっと待ちなさいよ。なんで私が責められなきゃいけないの?」

「はぁ!?」

ルチアナとリーザがすっとんきょうな声を上げる。

「あんたたち、さっきから『騙された』とか『借金地獄』とか騒いでるけど……それ、全部あんたたちの『自業自得』でしょ?」

ラスティアの言葉に、玉座の間の空気が凍りついた。

「そもそも、私が『アバロン・ドリーム・プロジェクト』を作ったわけじゃないわよ? あれを立ち上げたのは円城寺だし、あの詐欺システムを考えたのもアイツよ。私はただ、アイツから『魔王城で適当に魔法撃って追い返してくれたら、売上の30%をキックバックします』って提案されたから、その不労所得システムに乗っかっただけじゃない」

「そ、それは……」

「大体ねぇ」

ラスティアは、ポテトチップスを一枚口に放り込み、パリッと音を立てて噛み砕いた。

「『参加費十万で魔王を倒して一億円』? 『仲間を三人紹介すれば実質タダ』? ……あんな原価計算も成り立たない、小学生でも分かるポンジ・スキーム(ネズミ講)に、ホイホイ騙されて借金契約書にサインしたのは、あんたたち自身の『無知』と『強欲』のせいでしょ?」

「ぐっ……!」

ルチアナとリーザの胸に、正論という名の物理ダメージが突き刺さる。

「誰もあんたたちに『借金してまで参加しろ』なんて脅してないわよ? 勝手に『不労所得で美味しい思いがしたい』って目が眩んで、リスク管理(ロジック)もせずに首を突っ込んだ結果が、今のもやし生活なんじゃないの?」

ラスティアは、フッ、と鼻で笑い、トドメの一撃を放った。

「あんたたちの借金生活に、私は何にもしてないわ。それはただの、あんたたちの『自己責任』と『努力不足』よ。自分の頭の悪さを、他人のせいにしないでくれるかしら? ほんと、見苦しいわね」

『ド正論で草』

『ぐうの音も出ないwwww』

『魔王(詐欺の片棒)vs 被害者(ただのアホ)』

『ルチアナ様たちのHPがゼロよ!』

配信のコメント欄が、ラスティアのあまりにも身も蓋もない正論(暴論)に大沸騰する。

「あ、あ、あああ……っ」

ルチアナとリーザは、顔を真っ赤にして、ワナワナと全身を震わせた。

確かに、ラスティアの言う通りである。

騙されたのは自分たちの無知と強欲のせいだ。円城寺の甘い言葉に乗せられ、リアンの忠告(原価計算)を無視して突っ走った結果が、これなのだから。

論理的に反論する言葉など、彼女たちには何一つ残されていなかった。

だが。

――論理(ロジック)で勝てないからといって、大の大人が素直に引き下がるはずがない。

「…………きぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!」

「ああああああああぁぁぁぁっ!!」

ルチアナとリーザの脳内で、ついに『理性のストッパー(最後の良心)』が完全にブチ切れる音がした。

「うるさいうるさいうるさぁぁい!!」

ルチアナが髪を振り乱して絶叫する。

「正論なんかどうでもいいのよ! ムカつくもんはムカつくの!! 自分が安全なところでポテチ食いながら、私たちのなけなしの金をかすめ取った事実は変わらないじゃない!!」

「そうですわ! 私たちのアホさを棚に上げて説教するなんて、絶対に許しませんのーっ!!」

逆ギレである。

完全なる、被害者ヅラをした逆ギレであった。

「なっ……なによあんたたち! 逆ギレしないでよ! っていうか、リアン君! あんたからもこのバカ二人に言ってやってよ!」

ラスティアが、助けを求めるようにリアンを振り返る。

しかし、リアンは氷結のロングソードを肩に担ぎ、冷たい笑顔を浮かべていた。

「俺は、詐欺の胴元(円城寺)からキックバックを受け取って、被害者を増やす片棒を担いでたクズ(お前)を擁護する気は一ミリもねぇよ」

「えっ」

「やっちまえ、ルチアナ、リーザ。その悪徳魔王から、お前らが巻き上げられた参加費……いや、ヤツの全財産をひっぺがしてやれ」

リアンの無慈悲なゴーサイン(お仕置き許可)。

その言葉を聞いた瞬間、神と人魚の瞳に、悪魔すら戦慄するほどの『強欲の炎』が灯った。

「言われなくても! 全財産(身ぐるみ)剥がしてやるわよぉぉっ!!」

「哀と!貧乏と!お腹ペコペコの苦しみ、今晴らしますわああ!」

ルチアナが袖をまくり上げ、リーザが【お賽銭型掃除機】の吸い込み口をラスティアに完全にロックオンする。

「ひぃっ!? ちょ、ちょっと待って! 話し合いで解決を――」

ラスティアの命乞いは、轟音を立てて起動した掃除機のモーター音にかき消された。

いよいよ、世界を統べる魔王に対する、神と人魚による「物理とデバフの極悪リンチ(プロレス)」が、全世界に向けて生配信されることとなる。

読んでいただきありがとうございます。

面白いと思っていただけましたら、★評価やブックマークで応援していただけると励みになります。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。