↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
417/470

EP 34

 ねずみ講勧誘作戦と、便乗する配信天使

「いいことリーザ! 私たちがこのラットレース(貧困)から抜け出すための絶対条件。それは『三人のダウン(子ネズミ)』を勧誘して、私たちの参加費を実質タダにすることよ!」

「はいですわルチアナ社長! 圧倒的なビジョンをシェアして、村の皆さんに夢とシナジーを与えて差し上げますわ!」

ポポロ・コーポの玄関を飛び出した二人の足取りは、もやし炒めしか食べていないとは思えないほど力強く、そして完全に狂っていた。

円城寺の【熱狂空間】によって脳のストッパーを外された神と人魚は、ペラペラの教本と、真っ二つに折れた『伝説の聖剣(厚紙)』を握りしめ、新たな生贄(カモ)を求めて村を徘徊し始めた。

二人がまず目をつけたのは、ポポロ・コーポの中庭で、愛用の白銀の大盾【アイギス・タワー】を丹念に磨いていた金髪の騎士、クラウスであった。

「ああっ、クラウス殿! ちょうどいいところに!」

「……ルチアナ様。それにリーザ殿。そのように血走った目で、いかがされた?」

ルチアナは、クラウスの前にバッと教本を広げ、胡散臭いビジネススマイルを浮かべた。

「クラウス殿、単刀直入に聞くわ。あなた、まだ侯爵家からの『固定給』で消耗してるの?」

「は?」

「時代はクラウドファンディングよ! 私たち『アバロン・ドリーム・プロジェクト(ADP)』に参加すれば、たった金貨十枚の投資で、魔王ラスティアを倒して一億円が手に入るの! あなたのその盾、雇われの警備(ラットレース)のために使うのはもったいないわ! 私たちの『ダウン』になって、一緒に夢にコミットしない!?」

機関銃のように放たれる横文字の羅列。

しかし、アルヴィン侯爵家の誇り高き騎士であるクラウスの心には、さざ波一つ立たなかった。

「……お断りする」

「えっ!?」

「私の盾は、弱き民を守るためのもの。決して、得体の知れない詐欺まがいの集金システム(ネズミ講)の片棒を担ぐためのものではない。騎士道に反する」

クラウスは、ルチアナが掲げたペラペラの教本を冷たく一瞥した。

「大体、魔王討伐という大義を『金儲け』のダシに使うなど言語道断。それに、リアンから聞いたが、その腰の剣は厚紙だそうだな。そのような玩具で、次元を切り裂く魔王に挑むなど、狂気の沙汰だ」

「ち、違うわよ! これはマインドの力が込められた光の剣で……!」

「無駄話に付き合う暇はない。私は夕飯の支度(玉ねぎの皮むき)を手伝う約束があるのだ。失礼する」

クラウスは立ち上がり、大盾を背負ってスタスタと厨房へ向かってしまった。

圧倒的な「正論(騎士道)」の前に、情弱ビジネスは第一の敗北を喫した。

「チッ、頭の固い男ね! だからいつまでも雇われ騎士なのよ!」

「そうですわ! クラウス殿は、パラダイムシフトができない可哀想な人ですの! 次へ行きましょうルチアナ社長!」

まったく反省することなく、二人が次に向かったのはポポロ村の広場だった。

そこで、小鳥たちと戯れながらふんわりと微笑んでいる、絶好の獲物(超大金持ち)を発見したのだ。

世界樹の巫女、ルナ・シンフォニアである。

「ルナ! ちょっといいかしら!」

「あらあら、ルチアナ様、リーザ様。ごきげんよう。今日はとても良いお天気ですわね」

ルチアナとリーザは、ルナの両手をガシッと握りしめた。

「ルナ、あなた、世界平和には興味あるわよね?」

「ええ、もちろんですわ。植物さんたちも、平和な世界が大好きですから」

「素晴らしいわ! 実は今、私たち、全大陸の有志から資金を集めて魔王ラスティアを討伐し、世界を救う『慈善事業(ADP)』のリーダーを任されているの! 参加費はたったの金貨十枚! ルナも一緒に、世界平和にコミットしない!?」

慈善事業、という言葉を聞いて、ルナの瞳がキラキラと輝いた。

彼女の純度一〇〇%の善意(天然)が、見事に詐欺師の口上に噛み合ってしまったのだ。

「まぁ! 魔王様を説得して、世界に平和をもたらす素晴らしいプロジェクトですのね! ええ、もちろん参加させていただきますわ!」

「よっしゃあああっ! 一人目(カモ)ゲットぉぉぉっ!!」

リーザがガッツポーズをキメる。

「でも、ルチアナ様。私、今日はルナキンでドリンクバーを飲む分の小銭しか持ち合わせておりませんの。どうしましょう?」

「えっ、あ、そうなの? うーん、ツケとかローンもできるけど……」

「あ、そうだわ。それなら『お布施』を作ればいいんですわね」

ルナはニコリと微笑むと、しゃがみ込んで道端の『石ころ』を十個ほど拾い集めた。

そして、それに両手をかざし、エルフの膨大な魔力を流し込む。

「大地の精霊さん。世界平和のために、少しだけお力をお貸しくださいな。――『黄金錬成』」

ピカーーーーッ!!

ルナの手のひらから神々しい光が溢れ、ただの石ころが、ズッシリと重い『純金の延べ棒』へと一瞬で変貌を遂げた。

「「ぎゃあああああぁぁぁぁっ!!?」」

ルチアナとリーザの目玉が飛び出んばかりに見開かれた。

「じゅ、純金!? なにこれ、魔法で作ったの!?」

「これなら、金貨千枚……いえ、数万枚の価値がありますわーっ!! 参加費どころか、私たちがダイヤモンド会員に昇格できますの!!」

ルチアナたちは、ルナの魔法の絶対ルール――「三日で元の石ころに戻る」という事実を知らない。

狂喜乱舞した二人は、ヨダレを垂らしながらルナの純金を麻袋に詰め込んだ。

「ありがとうルナ! これであなたも私たちの大切な仲間(ダウン)よ! 明日、魔王城に向かう討伐ツアーの馬車が出るから、絶対に来てね!」

「はいっ。皆様とピクニックに行けるなんて、とっても楽しみですわ」

純金の重みにホクホク顔の二人が、次なる勧誘ターゲットを探そうと振り返った、その時だった。

「――ねぇねぇ、そこのお二人さんっ☆」

突然、空からけたたましいモーター音を響かせて、何十台ものカメラドローンが降下してきた。

それに囲まれるようにして、純白の翼を羽ばたかせながら降り立ったのは、天使族のトップ配信者、キュララ・アルセルラだった。

「キュ、キュララ!? あんた、配信中じゃないの」

「やっほー! ルチアナ様にリーザちゃん! さっきから聞いてたんだけどぉ、その『魔王討伐のクラウドファンディング』? なんだかとっても『ドリーム』で『エキサイティング』な匂いがするんだけどっ!」

キュララは、表面上はキャピキャピとしたアイドルスマイルを浮かべていた。

しかし、彼女の配信者としての超計算高い脳内(裏の顔)では、猛烈な勢いでソロバンが弾かれていた。

(……参加費10万で魔王討伐? んなアホな。どう考えても情弱を狙った悪徳ネズミ講(ポンジ・スキーム)じゃん。しかも、あの白スーツの胡散臭い男が主催って……これ、絶対に裏があるわ)

キュララは、カメラドローンのレンズをチラリと流し見た。

最近、無難なダンジョン配信ばかりで同接(同時接続者数)が伸び悩んでいた彼女にとって、これは千載一遇のチャンスだった。

(『【潜入生配信】話題の魔王討伐ネズミ講に騙されたフリして凸ってみたwww』……このタイトルなら、間違いなくゴッドチューブの急上昇ランキング1位を狙える! あわよくば、詐欺の全貌を暴いて運営を炎上させれば、私の正義のヒロイン株も爆上がり! これは乗るしかないわ!)

「私も! 私もその『ADP』に参加して、皆さんと一緒に夢と一億円を掴みたいなぁ〜っ! 参加費の金貨十枚、電子マネーのスパチャ決済でもいいかなっ!?」

キュララが、エンジェルすまーとふぉんを差し出して上目遣いですり寄る。

もはや完全に判断力を喪失しているルチアナとリーザは、「トップインフルエンサーの加入」という事実に狂喜した。

「もちろんよキュララ! あなたの発信力(インフルエンス)があれば、私たちのグループは最強になるわ!」

「これで二人目のダウン獲得ですわ! あと一人で、私たちも幹部(エグゼクティブ)の仲間入りですのーっ!!」

「えへへっ、任せて! 明日の魔王城討伐ツアー、ドローン全機投入して、一部始終を全世界に『生配信』してあげるからねっ☆」

キュララが、カメラに向かってバチコンとウインクをキメる。

(ふふふ……明日の魔王城前で、このバカな素人集団がどんな無惨な散り方をするのか。そして詐欺師の胴元がどうやって逃げるのか……全部バッチリ撮影して、特大のエンタメ(炎上)にしてあげるわ!)

こうして。

純度一〇〇%の天然テロリスト(ルナ)と、バズるためなら地獄にも行くトップ配信者(キュララ)という、詐欺師側からすれば『最悪のイレギュラー』を抱え込んだまま、ルチアナとリーザの勧誘ノルマは強引に達成された。

翌朝。

円城寺が仕組んだ、絶対に勝てない八百長プロレス――『魔王城討伐ツアー』の幕が、絶望と狂乱の生配信と共に、いよいよ切って落とされる。

読んでいただきありがとうございます。

面白いと思っていただけましたら、★評価やブックマークで応援していただけると励みになります。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。