EP 34
ねずみ講勧誘作戦と、便乗する配信天使
「いいことリーザ! 私たちがこのラットレース(貧困)から抜け出すための絶対条件。それは『三人のダウン(子ネズミ)』を勧誘して、私たちの参加費を実質タダにすることよ!」
「はいですわルチアナ社長! 圧倒的なビジョンをシェアして、村の皆さんに夢とシナジーを与えて差し上げますわ!」
ポポロ・コーポの玄関を飛び出した二人の足取りは、もやし炒めしか食べていないとは思えないほど力強く、そして完全に狂っていた。
円城寺の【熱狂空間】によって脳のストッパーを外された神と人魚は、ペラペラの教本と、真っ二つに折れた『伝説の聖剣(厚紙)』を握りしめ、新たな生贄を求めて村を徘徊し始めた。
二人がまず目をつけたのは、ポポロ・コーポの中庭で、愛用の白銀の大盾【アイギス・タワー】を丹念に磨いていた金髪の騎士、クラウスであった。
「ああっ、クラウス殿! ちょうどいいところに!」
「……ルチアナ様。それにリーザ殿。そのように血走った目で、いかがされた?」
ルチアナは、クラウスの前にバッと教本を広げ、胡散臭いビジネススマイルを浮かべた。
「クラウス殿、単刀直入に聞くわ。あなた、まだ侯爵家からの『固定給』で消耗してるの?」
「は?」
「時代はクラウドファンディングよ! 私たち『アバロン・ドリーム・プロジェクト(ADP)』に参加すれば、たった金貨十枚の投資で、魔王ラスティアを倒して一億円が手に入るの! あなたのその盾、雇われの警備のために使うのはもったいないわ! 私たちの『ダウン』になって、一緒に夢にコミットしない!?」
機関銃のように放たれる横文字の羅列。
しかし、アルヴィン侯爵家の誇り高き騎士であるクラウスの心には、さざ波一つ立たなかった。
「……お断りする」
「えっ!?」
「私の盾は、弱き民を守るためのもの。決して、得体の知れない詐欺まがいの集金システム(ネズミ講)の片棒を担ぐためのものではない。騎士道に反する」
クラウスは、ルチアナが掲げたペラペラの教本を冷たく一瞥した。
「大体、魔王討伐という大義を『金儲け』のダシに使うなど言語道断。それに、リアンから聞いたが、その腰の剣は厚紙だそうだな。そのような玩具で、次元を切り裂く魔王に挑むなど、狂気の沙汰だ」
「ち、違うわよ! これはマインドの力が込められた光の剣で……!」
「無駄話に付き合う暇はない。私は夕飯の支度(玉ねぎの皮むき)を手伝う約束があるのだ。失礼する」
クラウスは立ち上がり、大盾を背負ってスタスタと厨房へ向かってしまった。
圧倒的な「正論(騎士道)」の前に、情弱ビジネスは第一の敗北を喫した。
「チッ、頭の固い男ね! だからいつまでも雇われ騎士なのよ!」
「そうですわ! クラウス殿は、パラダイムシフトができない可哀想な人ですの! 次へ行きましょうルチアナ社長!」
まったく反省することなく、二人が次に向かったのはポポロ村の広場だった。
そこで、小鳥たちと戯れながらふんわりと微笑んでいる、絶好の獲物(超大金持ち)を発見したのだ。
世界樹の巫女、ルナ・シンフォニアである。
「ルナ! ちょっといいかしら!」
「あらあら、ルチアナ様、リーザ様。ごきげんよう。今日はとても良いお天気ですわね」
ルチアナとリーザは、ルナの両手をガシッと握りしめた。
「ルナ、あなた、世界平和には興味あるわよね?」
「ええ、もちろんですわ。植物さんたちも、平和な世界が大好きですから」
「素晴らしいわ! 実は今、私たち、全大陸の有志から資金を集めて魔王ラスティアを討伐し、世界を救う『慈善事業(ADP)』のリーダーを任されているの! 参加費はたったの金貨十枚! ルナも一緒に、世界平和にコミットしない!?」
慈善事業、という言葉を聞いて、ルナの瞳がキラキラと輝いた。
彼女の純度一〇〇%の善意(天然)が、見事に詐欺師の口上に噛み合ってしまったのだ。
「まぁ! 魔王様を説得して、世界に平和をもたらす素晴らしいプロジェクトですのね! ええ、もちろん参加させていただきますわ!」
「よっしゃあああっ! 一人目ゲットぉぉぉっ!!」
リーザがガッツポーズをキメる。
「でも、ルチアナ様。私、今日はルナキンでドリンクバーを飲む分の小銭しか持ち合わせておりませんの。どうしましょう?」
「えっ、あ、そうなの? うーん、ツケとかローンもできるけど……」
「あ、そうだわ。それなら『お布施』を作ればいいんですわね」
ルナはニコリと微笑むと、しゃがみ込んで道端の『石ころ』を十個ほど拾い集めた。
そして、それに両手をかざし、エルフの膨大な魔力を流し込む。
「大地の精霊さん。世界平和のために、少しだけお力をお貸しくださいな。――『黄金錬成』」
ピカーーーーッ!!
ルナの手のひらから神々しい光が溢れ、ただの石ころが、ズッシリと重い『純金の延べ棒』へと一瞬で変貌を遂げた。
「「ぎゃあああああぁぁぁぁっ!!?」」
ルチアナとリーザの目玉が飛び出んばかりに見開かれた。
「じゅ、純金!? なにこれ、魔法で作ったの!?」
「これなら、金貨千枚……いえ、数万枚の価値がありますわーっ!! 参加費どころか、私たちがダイヤモンド会員に昇格できますの!!」
ルチアナたちは、ルナの魔法の絶対ルール――「三日で元の石ころに戻る」という事実を知らない。
狂喜乱舞した二人は、ヨダレを垂らしながらルナの純金を麻袋に詰め込んだ。
「ありがとうルナ! これであなたも私たちの大切な仲間よ! 明日、魔王城に向かう討伐ツアーの馬車が出るから、絶対に来てね!」
「はいっ。皆様とピクニックに行けるなんて、とっても楽しみですわ」
純金の重みにホクホク顔の二人が、次なる勧誘ターゲットを探そうと振り返った、その時だった。
「――ねぇねぇ、そこのお二人さんっ☆」
突然、空からけたたましいモーター音を響かせて、何十台ものカメラドローンが降下してきた。
それに囲まれるようにして、純白の翼を羽ばたかせながら降り立ったのは、天使族のトップ配信者、キュララ・アルセルラだった。
「キュ、キュララ!? あんた、配信中じゃないの」
「やっほー! ルチアナ様にリーザちゃん! さっきから聞いてたんだけどぉ、その『魔王討伐のクラウドファンディング』? なんだかとっても『ドリーム』で『エキサイティング』な匂いがするんだけどっ!」
キュララは、表面上はキャピキャピとしたアイドルスマイルを浮かべていた。
しかし、彼女の配信者としての超計算高い脳内(裏の顔)では、猛烈な勢いでソロバンが弾かれていた。
(……参加費10万で魔王討伐? んなアホな。どう考えても情弱を狙った悪徳ネズミ講じゃん。しかも、あの白スーツの胡散臭い男が主催って……これ、絶対に裏があるわ)
キュララは、カメラドローンのレンズをチラリと流し見た。
最近、無難なダンジョン配信ばかりで同接(同時接続者数)が伸び悩んでいた彼女にとって、これは千載一遇のチャンスだった。
(『【潜入生配信】話題の魔王討伐ネズミ講に騙されたフリして凸ってみたwww』……このタイトルなら、間違いなくゴッドチューブの急上昇ランキング1位を狙える! あわよくば、詐欺の全貌を暴いて運営を炎上させれば、私の正義のヒロイン株も爆上がり! これは乗るしかないわ!)
「私も! 私もその『ADP』に参加して、皆さんと一緒に夢と一億円を掴みたいなぁ〜っ! 参加費の金貨十枚、電子マネーのスパチャ決済でもいいかなっ!?」
キュララが、エンジェルすまーとふぉんを差し出して上目遣いですり寄る。
もはや完全に判断力を喪失しているルチアナとリーザは、「トップインフルエンサーの加入」という事実に狂喜した。
「もちろんよキュララ! あなたの発信力があれば、私たちのグループは最強になるわ!」
「これで二人目のダウン獲得ですわ! あと一人で、私たちも幹部の仲間入りですのーっ!!」
「えへへっ、任せて! 明日の魔王城討伐ツアー、ドローン全機投入して、一部始終を全世界に『生配信』してあげるからねっ☆」
キュララが、カメラに向かってバチコンとウインクをキメる。
(ふふふ……明日の魔王城前で、このバカな素人集団がどんな無惨な散り方をするのか。そして詐欺師の胴元がどうやって逃げるのか……全部バッチリ撮影して、特大のエンタメ(炎上)にしてあげるわ!)
こうして。
純度一〇〇%の天然テロリスト(ルナ)と、バズるためなら地獄にも行くトップ配信者という、詐欺師側からすれば『最悪のイレギュラー』を抱え込んだまま、ルチアナとリーザの勧誘ノルマは強引に達成された。
翌朝。
円城寺が仕組んだ、絶対に勝てない八百長プロレス――『魔王城討伐ツアー』の幕が、絶望と狂乱の生配信と共に、いよいよ切って落とされる。
読んでいただきありがとうございます。
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