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EP 24

 消えた詐欺師と、盾の騎士の追跡劇

「……またあの二人は、そんな絵に描いたような詐欺に引っかかったのか」

「あぁ。しかも今回は、年利三千パーセントの闇金(トイチ)ローンのおまけ付きだ」

ポポロ・コーポの玄関前。

リアンの招集に応じて即座に駆けつけたアルヴィン侯爵家の騎士・クラウスは、白銀の大盾【アイギス・タワー】を背負いながら、深い、本当に深いため息をついた。

「ルチアナ様は曲がりなりにも神界のトップ、リーザ殿はシーラン国の王族だろう。なぜこうも危機管理能力というものが欠如しているのだ……」

「バカだからだよ」

リアンは身も蓋もない一言で切り捨てる。

「だが、身内がバカでも、騙して借金を背負わせたクソ野郎どもを許す理由はねぇ。行くぞクラウス、奴らを狩る」

「承知した。我がアルヴィン家の騎士道にかけて、悪辣なペテン師どもに法の裁き(物理)を下してくれよう!」

二人は足早にポポロ村のメインストリートへと向かった。

まずは犯人の足取りを追わなければならない。特徴は「青スーツ」と「ニッカポッカ」、そして「大きなボストンバッグ」だ。異世界ファンタジーの農村において、これほど浮いている二人組も珍しい。

しかし、市場や商店街で聞き込みを始めて数分。リアンは舌打ちをすることになった。

「……いないな」

「ええ。屋台の女将やタローマートの店員にも聞いたが、確かにその二人組は市場にいたらしい。しかし、ルチアナ様たちに壺を売りつけた直後、足早に村の出口へ向かったそうだ」

クラウスの報告に、リアンは腕を組んで思案する。

「仕事がえらく早いな。カモから借用書(サイン)を巻き上げた瞬間、クレームが来る前にその場を離脱する……典型的なヒット・アンド・アウェイだ。詐欺の手口に慣れてやがる」

騙されたルチアナやリーザが「ステータスが消えた!」と気づくまで、通常なら鮫島の【ステータス偽装】の効果が切れる48時間の猶予がある。しかし、詐欺師たちは決して同じ場所に留まらない。リスクを最小限に抑え、次の町、次の村へと移動しながら荒稼ぎを続けるのが彼らのセオリーなのだ。

「リアン、どうする? 私が村の自警団に声をかけ、街道を封鎖するか?」

「いや、そこまで大事にする必要はねぇ。それに……金融のトラブルなら、専門家に追わせるのが一番手っ取り早い」

リアンが向かったのは、村の中心部にある立派な石造りの建物――『ゴルドスマイル銀行 ポポロ村支店』だった。

「なんやて? わいのシマで、勝手に『トイチ』の闇ローン組んだアホがおるって?」

応接室のソファでキセルを吹かしていた支店長にしてゴルド商会幹部、猫耳族のニャングルは、リアンの話を聞いて片目をスッと細めた。

その瞳の奥には、笑みすら浮かべながらも、同業者(アウトロー)としての冷たい怒りが渦巻いている。

「あぁ。しかも被害者は、うちのアパートに転がり込んでる神様と人魚だ」

「ぶっ!? アホや! あの二人はホンマもんのアホやで! まぁでも、ゴルド商会の許可(みかじめ)なしに高利貸しをやるなんて、ええ度胸してるやないか。その青スーツとニッカポッカの二人組、わいの情報網で足取りを洗ったるわ」

ニャングルは手元の黄金の算盤をパチパチと弾き、部下の行員たちに指示を飛ばした。

「……なるほどな。リアンの旦那、奴ら、村の西側の街道を抜けて、隣町の歓楽街(キャバクラ街)の方へ向かってるみたいやで。馬車を乗り継いで、今頃はちょうど村の郊外の森のあたりやろ」

「情報提供感謝するぜ、ニャングル。あの借用書、もし奴らが換金所に持ち込んでも無効化できるか?」

「当たり前や。わいが商会に手を回して、その契約書を紙クズ(ブラックリスト入り)にしたるわ。安心していわしたって(殴って)きい」

リアンはニヤリと笑い、クラウスと共に銀行を後にした。

◆

その頃。

ポポロ村の郊外へと続く街道を、一台の馬車がガタゴトと進んでいた。

荷台に乗っているのは、青スーツの鮫島と、ニッカポッカの火原である。

「ギャハハハハ! おい鮫島、あのアホ女二人の顔見たかよ! 壺を抱えて『これでチーズインハンバーグが食べられますわー!』だってよ!」

火原が安タバコを吹かしながら、手を叩いて爆笑している。

「全くだぜ。異世界(こっち)の連中は、文字情報(ステータス)ってやつを盲信しすぎなんだよ。俺のスキルで『SSR』って書き換えるだけで、泥水でもエリクサーだと思い込んで飲み干しやがる。最高に笑えるぜ」

鮫島は、ポマードで固めた髪を撫でつけながら、懐の契約書をポンポンと叩いた。

「ま、今回は現金じゃなくてローン契約だったが、トイチの複利が膨れ上がった頃に、俺たちのケツ持ち(ナンバーズのスリー)に借用書を売り飛ばせば、ガッツリ手数料が入る寸法だ。……俺たちのビジネスモデルは完璧だな」

彼らは、自分たちが騙した相手が「世界を管理する神」と「厄介極まりない貧乏神スキルを持つ人魚」であることなど、微塵も気づいていなかった。

それどころか、彼女たちの背後にいる『最恐の寮母長』が、静かなる殺意を燃やして追跡を開始していることすら知る由もない。

「さて、火原さん。あの『神聖壺(ゴミ)』の在庫はまだありますか?」

「おう。俺の【劣化コピー】で無限に量産できるからな。ボストンバッグにまだ五つは入ってるぜ」

「素晴らしい。俺の【ステータス偽装】で、またピカピカのSSR(偽)に書き換えておきましょう。隣町の歓楽街に着く前に、道中で適当なカモを見つけてもう一稼ぎしたいところですね」

鮫島が薄ら笑いを浮かべながら馬車の窓から外を眺めていると――。

「ん……? おや、おやおやおや?」

鮫島の目が、獲物を見つけた鷹のように細められた。

街道の脇。ポポロ村の森の入り口付近を、一人の少女が鼻歌を歌いながら歩いていたのだ。

ふわふわとした、高級そうな白いお嬢様ドレス。

色素の薄いサラサラの金髪に、尖った長い耳。

手には、小脇に抱えるには不釣り合いなほど立派な『世界樹の枝(杖)』を持っている。

世界樹の巫女にして次期女王候補、エルフのルナ・シンフォニアである。

「どうした鮫島? いい女でもいたか?」

火原が身を乗り出して窓の外を見る。

「女ってだけじゃありませんよ。見てください、あの身なり。特注の絹のドレスに、装飾が施された杖。どこからどう見ても、世間知らずで金を持て余している『貴族のお嬢様』だ」

「おっ! マジじゃねぇか。しかも護衛一人も連れてねぇぞ」

「ふふふ……これぞ究極のカモ(情弱)です。あんなお花畑みたいな顔で歩いているなんて、俺たちに『騙してください』と言っているようなものですよ」

鮫島と火原は、顔を見合わせて下劣な笑みを浮かべた。

彼らは馬車の御者に「ちょっとあそこで止めてくれ!」と声をかけ、荷台から飛び降りた。

自分たちが今からカモにしようとしている少女が、悪意なき善意によって自然災害レベルの環境破壊を引き起こす『天然の錬金テロリスト』であることなど、彼らの浅はかな脳みそで予測できるはずもなかった。

「よし火原さん、とっておきの『伝説の掛け軸(偽)』を出してください。あのエルフから、有り金全部毟り取ってやりますよ!」

「任せろ。一瞬で国宝級の掛け軸をコピーしてやるぜ!」

最悪の詐欺師コンビは、自ら地獄の釜の蓋(ルナ・シンフォニア)を開けるべく、満面のビジネススマイルを浮かべてエルフの少女へと忍び寄っていった。

読んでいただきありがとうございます。

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