↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
396/477

EP 13

国境の緩衝地帯と、婚活自警団長の暴走タックル

ルナミス帝国、レオンハート獣人王国、アバロン魔皇国――三大勢力がぶつかる大陸最大の緩衝地帯、ポポロ村。

普段はのどかな農業と密輸業(?)で生計を立てているこの村の国境線に、かつてない規模の軍勢が押し寄せていた。

「……胃が痛い。本当に胃が痛い」

魔皇国の穏健派貴公子・ルーベンスは、愛馬(魔導バイク)に跨りながら、ズキズキと痛む胃の辺りを押さえた。

彼の背後に続くのは、アバロン魔皇国が誇る精鋭部隊。そしてその隣を行軍するのは、天使長ヴァルキュリアが率いる天界セレスティアの聖騎士団である。

魔族と天使族。

本来であれば顔を合わせた瞬間に殺し合う不倶戴天の敵同士が、今は『聖魔竜王剣を操るネフィリムの討伐』という大義名分の下、数万規模の合同軍を結成しているのだ。歴史書に載れば間違いなく一面を飾る、神話的とも言える光景である。

「泣き言を言わないでください、ルーベンス殿。我々には世界の均衡を守るという高貴なる義務(ノブリス・オブリージュ)があるのです!」

隣を飛ぶヴァルキュリアが、聖槍グラニを握りしめながらキッと睨みつけてくる。

しかし、その美しい顔には悲壮なまでの疲労が滲み、天使兵たちに至っては、今朝も配給された『青汁とレンガパン』のせいで、どこか虚無の表情で空を見つめていた。

対する魔族の兵士たちは、昨晩も極上の『バイソン肉の赤ワイン煮込み』を食べ、ポポロシガーを吹かして英気を養っているため、両軍の士気の差(食の格差)は歴然だった。

「ノブリス・オブリージュねぇ……。私はただ、休日に競馬場へ行って、あの小汚い店で油っこい焼き飯と餃子を食いながらイモッカを煽りたいだけなんだがな」

ルーベンスがボヤいた、その時。

『前衛部隊、停止ッ!!』

先頭を進んでいた斥候部隊から、鋭い号令が飛んだ。

数万の軍勢が、ポポロ村の国境――村へ続く一本道の手前でピタリと足を止める。

「どうした? ただの農村だぞ、さっさと制圧して……」

前線へ進み出たルーベンスは、目の前に広がる光景に言葉を失った。

「な、なんだあの重武装は……!?」

ヴァルキュリアも驚愕に目を見開く。

のどかな木柵や、鍬を持った農民たちの姿などどこにもない。

そこにあったのは、最新鋭の『魔導防護フィールド』によってドーム状に覆われた要塞だった。

村の入り口には、ドンガン地下帝国から密輸された漆黒の【魔導戦車】が三両、大砲の照準をこちらにピタリと合わせている。さらに、物見櫓の上からは【魔導対空砲】と【長距離自爆ドローン】が、上空の天使たちを正確にロックオンしていた。

「な、なんて治安の悪い村ですか!? これでは小国の正規軍以上の戦力ではありませんか!」

「ドンガン地下帝国と裏で繋がっているとは聞いていたが、ここまでとはな……」

ルーベンスが冷や汗を流していると、魔導戦車の前に、一人の女性が進み出てきた。

いや、ただの女性ではない。上半身は均整の取れた美しい人間の女性だが、下半身は名馬のように強靭な馬体を持つ『ケンタウロス種』だ。

ポポロ村自警団リーダー、マンミア(25歳)。

彼女は、右手に攻防一体のパイルバンカー内蔵型大盾【アグニ】を構え、左手には分銅付きの鋼鉄鎖【メビウス】を握りしめている。

一介の村の自警団長とは思えぬ凄まじい闘気を放ち、彼女は数万の軍勢を前にしても一歩も引かず、堂々と立ち塞がっていた。

「止まれ! ここから先はポポロ村の不可侵領域だ! 何人たりとも、武装したままの立ち入りは許可しない!」

凛とした声が響き渡る。

ルーベンスはため息をつき、拡声の魔法を使って前に出た。

「我々はアバロン魔皇国、および天界セレスティアの合同討伐軍だ。ポポロ村に危害を加えるつもりはない! 目的はただ一つ、そちらに匿われているネフィリムの小僧――キッド・ジーニアスを引き渡すことだ!」

ルーベンスは理路整然と交渉を試みる。

「彼は勇者と魔王の力を併せ持つ、世界を滅ぼしかねない脅威だ。大人しく引き渡せば、村には手を出さず直ちに撤退しよう!」

完璧な大義名分。相手がまともな為政者や指揮官であれば、村を火の海にするリスクを冒してまで、たった一人の少年を庇うはずがない。

だが――ルーベンスは致命的なミスを犯していた。

彼が対峙しているマンミアという女性の『本質』を、全く理解していなかったのだ。

(……え? なにこの軍隊)

マンミアは、アグニを構えたまま、内心で激しく動揺していた。

彼女の目は、ネフィリムの引き渡し要求など全く聞いていなかった。彼女の視線は、討伐軍の最前線に並ぶ将校たち――魔皇国のエリート貴族や、天界の高位聖騎士たちに釘付けになっていたのだ。

(イケメン……! しかも公務員(軍人)で、階級も高そうなエリートの独身男性がいっぱい……!!)

マンミアは25歳。

16歳で成人・結婚が当たり前のアナステシア世界において、25歳で独身・交際歴ゼロというのは、もはや『崖っぷち』を通り越して『化石』扱いされる年齢である。

毎年クリスマスの夜には、タローマートで半額になったケーキをホール食いしながら「私自身の価値も半額以下じゃん……」と涙を流す、悲しき婚活こじらせ女子。

彼女はずっと心に誓っていた。

『自分の背中に乗せる最初の男を、将来の夫にする』と。

「……おい、どうした? なぜ黙っている」

ルーベンスが怪訝そうに尋ねる。

マンミアの馬体の下半身が、ブルブルと武者震いのように震え始めた。

そして、彼女は大きく息を吸い込むと、血走った目で数万の軍勢に向かって絶叫した。

「この中にぃぃぃっ!! 私を背中に乗せてくれる、25歳以上の安定した収入のある独身イケメン将校はいるかぁぁぁぁっ!?」

「「「…………は?」」」

ルーベンス、ヴァルキュリア、そして数万の兵士たちの頭上に、巨大なクエスチョンマークが浮かんだ。

ネフィリムの話はどこへ行った? なぜ急に婚活の条件を叫び始めた?

「私の! 私の背中に乗って! 共にローンを組んでマイホームを建ててくれる気骨のある男はいないのかぁぁぁっ!!」

「ちょ、待て、何を言って……!?」

ルーベンスが慌てて制止しようとしたが、すでにマンミアの悲哀と焦燥は、致死量の闘気となって全身から噴き出していた。

「いないなら、私から探しに行くまでだ!! 食らえぇぇっ! 婚活・チャージタックルゥゥゥゥッ!!」

ドゴォォォォォォォンッ!!!

マンミアの四つの蹄が大地を粉砕した。

時速80キロ。200馬力を超えるケンタウロスの突撃。

分厚い装甲を纏った質量兵器が、パイルバンカーを前面に構えたまま、魔族と天使族の最前線部隊へ単騎で突っ込んだのだ。

「ぎゃあああああっ!?」

「ひぃぃっ! な、なんだこの女! 殺気が違う!」

ズガァン! ドグシャァァッ!

圧倒的なパワーと、25年間の『独身の怨念』がこもった体当たりの前に、屈強な魔族の重装歩兵や、天界の聖騎士たちが、まるでボウリングのピンのように空高く吹き飛ばされていく。

「そこの金髪の天使! 年収はいくらだ!」

「ひぃぃっ! わ、我々は予算がなくて青汁しか飲んでませんーっ!」

「甲斐性なし! 次ィッ!!」

マンミアは分銅鎖【メビウス】を振り回し、逃げ惑う兵士たちを次々と捕縛しては、地面に引きずり回して『査定(物理)』を行っていく。

「ル、ルーベンス殿! これは一体どういう軍略ですか!? 彼女は何を言っているのです!?」

ヴァルキュリアがパニックを起こし、聖槍を構えながら叫ぶ。

「知るか! ただの婚活こじらせ女の暴走だろ! くそっ、あんな狂戦士をまともに相手にしていたら、こちらの被害が拡大するばかりだ!」

ルーベンスは激しい胃痛に顔を歪めながら、部隊に一時後退の指示を出した。

最前線では、なおも「年上好きの包容力のある男はいないのかーッ!」と叫びながら兵士を粉砕し続けるマンミアの姿がある。

このまま軍勢同士で激突すれば、魔導戦車やドローン兵器の飽和攻撃も相まって、ポポロ村を制圧する前にこちらが半壊してしまう。

「……ええい、仕方がない! ヴァルキュリア殿!」

「は、はいっ!」

「軍本体はこのまま待機! 我々指揮官クラスだけで少数の精鋭を連れ、村長宅――『ポポロ・コーポ』へ直接潜入し、リアンたちと直談判を行う!」

「なるほど! 頭を直接叩く(交渉する)のですね!」

世界を滅ぼすネフィリムを討伐しに来たはずの軍勢が、たった一人の『婚活に焦る25歳ケンタウロス』によって足止めを食らうという、あまりにも情けない事態。

「くそっ、覚えていろよポポロ村の連中……! 絶対にネフィリムを引き渡させてやる……!」

ルーベンスとヴァルキュリアは、暴走するマンミアの視界から逃れるように隠密魔法を展開し、少数の護衛とともにポポロ村の奥地――シェアハウス『ポポロ・コーポ』へと、コソコソと潜入を開始するのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。