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EP 7

 牢獄の番人討伐! 完璧なる日常系(?)パーティ・コンビネーション

「……また、僕を殺しに来たの?」

薄暗い牢獄の中央。何重もの魔導鎖によって空中に磔にされているオッドアイの美少年――キッド・ジーニアスは、虚ろな声でそう呟いた。

光と闇、相反する二つの翼を持つその姿は、痛々しいほどに傷つき、ひどく痩せ細っていた。

俺は肩に担いでいた氷結包丁を下ろし、ため息をつく。

「殺す? 冗談だろ。俺たちはあんたの処刑人でもなけりゃ、神様の使いっ走りでもねぇ。ただの迷宮の不法侵入者だ」

「え……?」

俺の予想外の返答に、キッドのオッドアイが僅かに見開かれる。

その時だった。

『――警告。絶対封印ノ破損ヲ確認。コレヨリ、侵入者ノ排除オヨビ、対象ノ完全初期化ヲ実行スル』

突如、牢獄の部屋全体に無機質な機械音声が響き渡った。

同時に、部屋の四隅の暗がりがグニャリと歪み、赤黒い瘴気が渦を巻いて中央へと収束していく。

「な、なんだ!? 影が固まっていくぞ!」

「下がっててキッド君! あれ、絶対ヤバい奴だよ!」

キャルルがキッドを庇うように前に出る。

瘴気が晴れた後に姿を現したのは、先ほどの死蟲機たちを無造作に繋ぎ合わせ、さらに巨大化させたような異形の怪物だった。

カマキリの死蟷螂機《ネクロマンティス》の巨大な双鎌を持ち、死甲虫機《ネクロビートル》の極厚装甲を纏い、死蜘蛛機《ネクロスパイダー》の多脚を備えた合成獣。

かつて天魔窟を支配していた死蟲王の防衛プログラムの結晶――『合成死蟲将軍機(ネクロキメラ・ジェネラル)』だ。

『逃げて……!』

鎖に繋がれたキッドが、血を吐くような声で叫んだ。

『そいつは、この牢獄の番人だ……! 僕が逃げ出そうとした時に備えて、神と魔王が残していった処刑システムなんだ! 君たちじゃ勝てない、早く逃げ――』

「クラウス」

俺はキッドの悲痛な叫びを遮り、短く相棒の名を呼んだ。

「承知した!」

クラウスは一切の躊躇なく、踏み込みと同時に【アイギス・タワー】を構えた。

直後、ネクロキメラ・ジェネラルが放った高圧縮の『強酸レーザー』と、鋼鉄をも両断する巨大な鎌の斬撃が、俺たちを薙ぎ払おうと迫る。

「私の後ろに立つ限り、貴様らに傷一つ負わせはせんッ! 『ライトニング・スプラッシュ・バリア』!!」

クラウスの全身から迸る雷闘気が大盾に収束し、強固な雷光の障壁を展開する。

ズガァァァァァァンッ!!

強酸レーザーと巨大鎌の連撃が結界に直撃するが、クラウスは一歩たりとも退かない。巨岩のような安定感で、致死の猛攻を完全に受け切ってみせた。

『な……防いだ……!? あの番人の一撃を!?』

驚愕するキッドをよそに、俺たちのクラン『ホープ・クローバー』の完璧な連携(コンビネーション)が起動する。

「ルナ! 敵の機動力を削げ!」

「お任せくださいな! 悪い虫さんは、お仕置きですわ!」

ルナが世界樹の杖を振るう。

「『バインド・アイヴィー・マキシマム』!」

牢獄の硬い石畳を突き破り、大蛇のような極太の蔦が無数に這い出し、将軍機の多脚に幾重にも絡みつく。世界樹の魔力を宿した蔦は、機械のパワーをもってしても容易には引きちぎれない。

『ピガァァァァッ!!』

将軍機は苛立ちの咆哮を上げ、胸部の装甲を展開した。そこから現れたのは、部屋全体を焦土と化すための『魔導火炎放射砲』の銃口だった。

「撃たせるかよ! リーザ!」

「私の出番ですわね! さぁ、アイドルからのとっておきのファンサ(プレゼント)ですわーっ!」

リーザが芋ジャージのポケットから取り出したのは、拾ってから大事に磨き上げていたピカピカの石――所持者の運気を強制的にリーザ以下(世界最底辺)にまで引きずり落とす呪いのアイテム『ふ〜ん石』だった。

リーザはそれを、野球のピッチャー顔負けのフォームで、将軍機の火炎放射砲の銃口めがけて全力投球した。

「ストライクですわ!」

『……ガ?』

砲身の中に『ふ〜ん石』がスポッと入り込んだ瞬間、将軍機の運勢がカンスト級のマイナスへと急転落した。

放たれるはずだった魔導火炎が砲身内部で原因不明の暴発(エラー)を起こし、ドゴォォォォンッ!という情けない爆発音と共に、将軍機の胸部装甲が内側から自壊したのだ。

「あっははは! 見たかポンコツ! 私の不運(マイナス)の力は世界一ですのよ!」

威張ることではないが、結果オーライだ。

「ナイスだリーザ! 装甲が剥がれたぞ! キュララ!」

「オッケー! リスナーのみんな、ここスクショの準備ねー!」

エンジェルすまーとふぉんを宙に浮かせて自撮り配信を継続しながら、キュララが背中からRPG-17(対戦車ロケット弾)を軽快に構える。

「天罰覿面(てんばつてきめん)、ホーリー・ストライク! いけぇぇっ!」

シュボォォォォォッ!!

火を噴いて飛翔したロケット弾が、装甲の剥がれた将軍機の胸部に直撃。凄まじい爆発が巻き起こり、内部の駆動系を大きく破壊した。

『ギ……ギギギ……ッ!!』

だが、それでも番人は倒れない。損傷した巨体を揺らしながら、両腕の巨大鎌をめちゃくちゃに振り回し、俺たちを道連れにすべく最後の暴走状態へと突入した。

「キャルル! 体勢を崩せ!」

「うんっ! 月影流――『破衝撃』ッ!」

キャルルが地を蹴り、弾丸のような速度で将軍機の懐へと潜り込む。

振り下ろされる巨大鎌をダブルトンファーで器用に受け流し、その勢いを利用して相手の重心を完全に狂わせる。

そして、無防備になった将軍機の膝関節(シリンダー)めがけて、雷闘気を纏った安全靴の蹴りをピンポイントで叩き込んだ。

ガキィィィィンッ!!

「崩れた! リアン君、お願い!」

将軍機の巨体が大きくバランスを崩し、前のめりに倒れ込んでくる。

俺は小さく息を吐き、逆手に構えた『氷結ロングソード』を握り直した。

俺の前世は、ただの三ツ星フレンチの副料理長だ。

だが、魚を三枚に下ろすのも、肉の筋を断ち切るのも、そして――強固な外殻を持つ甲殻類の『急所』を突くのも、刃物を使うという点においては同じことだ。

俺は『都市ゲリラ教本』の歩法で無音のまま距離を詰め、将軍機の装甲の隙間、キャルルが露出させた『魔力炉心(コア)』の真上へと跳躍した。

「天極流・氷華――」

逆手に持った氷結包丁を、炉心の中枢めがけて一気に突き立てる。

「『凍結断(とうけつだん)』ッ!!」

パキィィィィィィィィィィンッ!!!

刀身から放たれた絶対零度の魔力が、将軍機のコアを瞬時に凍結させる。

そして、急激な熱収縮に耐えきれなくなったコアは、次の瞬間、まるで美しいガラス細工のように内側から粉々に砕け散った。

『――――機能、停止……』

電子音声の断末魔と共に、巨大な合成死蟲将軍機は完全に沈黙し、ボロボロと崩れ落ちてただの鉄屑の山へと変わった。

「ふぅ。お疲れさん。見事な連携だったぞ」

俺が氷結剣の魔力を解除して刀装を元の包丁に戻すと、仲間たちが次々と集まってきた。

「当然だ。我ら『ホープ・クローバー』の絆の前に、破れぬ敵などいない!」

「ふふっ、悪い虫さんは駆除完了ですわね♪」

「私のスパチャ運の賜物ですわー!」

「はい、ボス討伐完了ー! リスナーのみんな、高評価よろしくね!」

各々が好き勝手なことを言いながら、勝利のハイタッチを交わす。

300回以上も死線を潜り抜けてきた俺たちにとって、この程度のボス戦は、もはやルーティンワークに近いものだった。

「…………え?」

その光景を、鎖に繋がれたままのキッドが、ぽかんと口を開けて見つめていた。

神と魔王が残した絶対の処刑システム。それを、どこからどう見ても『ただの学生の集まり』にしか見えない連中が、息をするように簡単に、そして何より『楽しそうに』スクラップにしてしまったのだから。

「君たち……一体、何者なの……?」

震える声で尋ねてくる少年に、俺は肩をすくめて近づいた。

「ただの冒険者クランだ。強いて言うなら、俺はポポロ・コーポっていうアパートの『寮母長』だな」

「りょうぼ、ちょう……?」

理解の範疇を超えた単語に、キッドの頭上にハテナマークが浮かぶ。

「さてと。番人は片付けたし、厄介な封印もぶっ壊した」

俺はキッドを拘束している極太の魔導鎖に視線を落とし、ニヤリと笑った。

「あとは、腹を空かせてるガキを連れて帰って、美味い飯を食わせるだけだ」

読んでいただきありがとうございます。

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