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EP 20

大団円! 宴会〆と、最強の寮母長おかん伝説

 天界の取り立て屋(黒服天使たち)が、最強の食客たちの理不尽な威圧によって光の速さで土下座して退却してから、数十分後。

 磯臭いドンゴロス(麻袋)を脱ぎ捨て、共同大浴場でしっかりとカニ工船の汚れを落としてきたルチアナが、バスタオルで髪を拭きながら食堂へと戻ってきた。

「はぁ〜、生き返ったわぁ! やっぱりシャバのお風呂は最高ね! カニ工船のドラム缶風呂とは大違いよぉ!」

 ルチアナは、俺が貸してやったジャージに着替え、すっかり上機嫌で定位置(コタツはないがパイプ椅子)に座った。

 ポポロ・コーポの1階大食堂は今、かつてないほどの人口密度と熱気に包まれていた。

 第6の聖獣・リキ兄貴、竜王デューク、不死鳥フレアとその息子ヒエン、狼王フェンリルという『規格外のバケモノ(入居者)たち』。

 さらには、騒ぎを聞きつけてやってきたキャルル、キュララ、ルナ、クラウスといったホープ・クローバー(Sクラス)の面々と、強欲アイドルのリーザ。

 そして、騒音の苦情を言いに来たはずが、ちゃっかり末席に座ってウーロン茶を飲んでいる自警団リーダーのマンミア(ケンタウロス種・25歳)。

「さぁ、みんな! ルチアナさんの無事の生還(逃亡)と、リアン君の寮母長代行就任を祝って、今日は盛大に宴会だよぉ!」

 村長であるキャルルが、ウサギ耳をピンと立てて、ジョッキを高く掲げた。

「「「かんぱーい!!」」」

 カチンッ! とグラスが鳴り響き、ポポロ・コーポ史上最大にして、最もカオスな大宴会がスタートした。

「さぁ、どんどんオーダーしろ! 今日は特別に、お前らの腹がはち切れるまで作ってやる!」

 厨房に立つ俺は、タローマン製のジャージの袖を肩までまくり上げ、エプロンの紐を限界までキツく締め直した。

 魔導コンロの火力を最大に引き上げ、天極流の闘気を全身に巡らせる。三ツ星シェフとして前世で培った、極限の厨房さばき(オペレーション)を解放する時だ。

「おう兄弟! ワシはスタミナ満点のやつ頼むわ!」

「任せろ!」

 リキ兄貴には、特大の中華鍋で一気に炒め上げた『極太ガーリック・ステーキ炒飯』。分厚いロックバイソンの肉とニンニクが暴力的なまでの香りを放ち、ヤンキー聖獣の胃袋を鷲掴みにする。

「リアン、我にはアレだ。あの夜の続きを頼む」

「分かってるよ」

 竜王デュークには、俺と共同開発した『極濃ガリバタ豚骨ラーメン(特製チャーシュー増し増し)』。完璧に乳化した黄金スープを一口飲んだデュークは、「フッ……やはり我が舌に狂いはなかった」と満足げに頷く。

「リアン君! 私は甘いものとお酒の無限ループがしたいわぁ!」

 過労死寸前だった不死鳥フレアには、ルナが生成した最高級フルーツをふんだんに使った『山盛りフルーツポンチ』と、自家製の『サケスキーのサングリア』。息子のヒエンには、ガッツリと力をつけるための『シープピッグの特大生姜焼き定食』だ。

「お、おい! 俺にもタダ飯……いや、美味いメシを食わせてくれ!」

 パチンコで負けた狼王フェンリルには、彼が感動して涙を流した『銀鮭の塩焼き』をメインに、鳥の唐揚げ、肉椎茸のフライなど、とにかくカロリーを詰め込んだ『特大わんぱく定食』をドカンと出してやる。

「り、リアン殿……あの、私のようなしがない自警団員が、このような豪華な宴席に加わってもよろしいのでしょうか……?」

 馬の尻尾をパタパタと揺らしながら、遠慮がちに尋ねてくるマンミア。

「気にするな。いつも村の警備ご苦労さん。……ほら、クリスマスじゃないが、俺の手作りの『苺のショートケーキ(ホール)』だ。半額シールなんか貼ってねぇ、出来立てだからな」

「ほ、ほほ、ホールケーキを!? しかも正規の値段タダですがのものを私に……ッ!?」

 25歳独身のトラウマを優しく撫でられたマンミアは、顔を真っ赤にしてボンッと湯気を上げ、「一生ついていきます……っ!」とショートケーキを大切そうに抱きしめた。

「リアン様! わたくしには! わたくしには何を!?」

 リーザが黄金のドルマークを瞳に浮かべてお賽銭箱をバンバン叩く。

「お前はピンハネの罰でパンの耳の素揚げだ」

「ひどいですわァァァッ!」

 ジュワァァァッ! カンッ、カンカンッ!

 厨房では、俺が三つのコンロと二つのオーブンを同時並行で操り、怒涛の勢いで料理を仕上げていく。

 飛び交うオーダー、笑い声、そして美味い飯を食った時の至福の溜息。

 バケモノみたいな連中だが、こいつらの食いっぷりの良さだけは、料理人として見ていて気持ちが良い。

「あーっはっはっは! 飲め飲めー! 今夜は私の奢りよぉっ!(※ツケです)」

 ルチアナがジョッキを片手にテーブルの上で踊り出し、フェンリルが「おい駄女神! 蹴るな! 鮭がこぼれるだろ!」と怒鳴り、リキ兄貴が「ワレら、せっかくのメシの前で騒ぐなや!」と聖雷をチラつかせて場を収める。

 賑やかで、やかましくて、どうしようもなくカオスな宴。

(……悪くねぇな)

 俺は、額の汗をタオルの端で拭いながら、厨房からその光景を眺めて、フッと小さく笑みをこぼした。

 前世の厨房は、地獄だった。

 シェフの怒号が飛び交い、ミスをすればフライパンが飛んできた。客の顔を見る余裕もなく、ただひたすらに伝票の料理を作り続け、そして冷たい床の上でたった一人、過労死して命を落とした。

 だが、今はどうだ。

 俺の作った料理を食べて、神も、聖獣も、仲間たちも、底辺アイドルも、みんなが心から笑っている。

 寮母長代行という厄介な仕事(ブラック労働)を押し付けられたはずなのに、俺の胸の中には、前世では決して味わえなかった『温かい充足感』が満ち溢れていたのだ。

「ぷはぁぁぁっ! 食った食ったぁ! リアン君、ごちそうさまぁ!」

 やがて、深夜に差し掛かる頃。

 宴もたけなわとなり、全員が腹をさすって大満足の声を上げた。

 テーブルの上には、山のように積まれた空の皿とジョッキの塔がそびえ立っている。

「いやぁ、最高の宴会だったわね! それじゃ、お腹もいっぱいになったし、私は部屋に戻って寝るわ〜。おやすみぃ〜」

 ルチアナが、満腹のお腹をさすりながら、しれっと立ち上がって出口に向かおうとする。

「俺も寝るぜ……。腹一杯で動けねぇ」

 フェンリルも、こそこそとそれに続く。

「わたくしも、明日のタローマートの特売に備えて休ませていただきますわ!」

 リーザも、お賽銭箱を抱えて素早く逃げようとした。

 ——ドンッ!!!

 俺は、鋼鉄製の超特大お玉を、カウンターの上に力強く叩きつけた。

 ビクンッ!! と、逃げようとした三人の肩が跳ねる。

「……おい。どこへ行くつもりだ?」

 俺は、無表情のまま、地獄の底から響くような声で三人を呼び止めた。

「えっ……? いや、宴会も終わったし、部屋で寝ようかと……」

 ルチアナが冷や汗を流しながら振り返る。

「タダ飯食って、そのまま帰れるとでも思ってんのか?」

 俺は、お玉の先で、シンクに山積みになった『絶望的な量の洗い物(皿のタワー)』を指し示した。

「リキ兄貴、デューク、フレア、ヒエンは、ちゃんと家賃(寮費)を払ってる正規の入居者だ。キャルルたちは村の経費から落ちてる。……だが、お前ら三人はどうだ?」

 俺の目が、完全に『冷徹なオカン』のそれへと変貌する。

「借金踏み倒して逃げてきた駄女神ルチアナ。女の金スッてパチンコで負けたヒモニートフェンリル。そして、食費をピンハネしようとした強欲アイドル(リーザ)。お前らの食った飯代は、誰が払うんだ?」

「「「…………っ!!」」」

「家賃を払わねぇなら、労働で払え。……朝までかかっても、その皿、一枚残らずピカピカに磨き上げろ」

 俺は、三枚のエプロンと、巨大なスポンジを、三人の顔面にバサァッ!と投げつけた。

「う、嘘でしょぉぉぉっ!? カニ工船から逃げてきたのに、今度は皿洗いの強制労働ぉぉっ!?」

 ルチアナが頭を抱えて絶叫する。

「世界の調停者である俺が、なんで油まみれの皿を……っ!」

 フェンリルがワナワナと震える。

「わ、わたくしはアイドルですのよォォッ! 手が荒れてしまいますわァァッ!」

 リーザが泣き叫ぶ。

「文句があるなら、次から俺のメシは一生抜きだ。……やれ」

 俺が天極流の闘気をチラつかせながら宣告すると、三人は「ひぃぃぃっ!」と悲鳴を上げ、涙目でシンクの前に並び、猛烈な勢いでスポンジを動かし始めた。

「フッ。働かざる者食うべからず、だな。良い教育だ」

 デュークが笑いながら部屋へと戻っていく。

「おう兄弟! 明日の朝飯も楽しみにしてるで!」

 リキ兄貴も、満足げに便所サンダルを鳴らして去っていった。

「リアン君、無理しすぎないでね。おやすみなさーい」

 キャルルたちも見送り、食堂には、キュッキュッと必死に皿を洗う三人の哀れな音だけが響き渡る。

「……ふぅ。今日も疲れたぜ」

 俺はエプロンを外し、管理室へと向かうべく伸びをした。

 相変わらず厄介事は絶えないし、集まってくるのはロクでもないバケモノばかりだ。

 それでも、俺の作る飯を美味いと言ってくれる奴らがいる限り、俺の『寮母長おかん代行』の仕事は、もうしばらく続けてやってもいいかもしれない。

 こうして、世界最強の神と聖獣たちが集うポポロ・コーポは、俺という『最強のオカン』の絶対的な支配下のもと、今日もしばしの平和な夜を迎えるのであった。

ここまでお読みいただき、本当にありがとうございました!

第16章『神々の溜まり場と、三ツ星シェフの寮母長おかん代行』、無事に大団円で完結いたしました!

天界の黒服たちを無意識のうちに追い払ってしまった神々と聖獣たち。

その圧倒的な力を持つ彼らですら、リアンの作る「美味い手料理」と「オカンのオーラ(お玉)」には絶対に逆らえないという、ポポロ・コーポの独特なヒエラルキーが完成しました。

前世で過酷な厨房で過労死したリアンですが、今世では同じように厨房で汗を流しながらも、みんなの笑顔を見て「悪くねぇな」と心から充足感を感じるシーン。彼の料理人としての魂が救われた瞬間でもありました。

……とはいえ、タダ飯を食った連中に甘い顔をするリアンではありません!(笑)

ルチアナ、フェンリル、リーザのクズ三銃士は、容赦なく「皿洗いの刑」に処されました。文句を言いながらも、リアンの飯を一生抜かれる恐怖から必死に皿を洗う姿が目に浮かびますね。

「マンミアよかったね!」「リアンのおかん最強伝説」「皿洗いの刑ワロタ」と少しでも楽しんでいただけましたら、

ぜひページ下部にある【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして評価していただけると、今後の執筆の最強のモチベーションになります!

また、【ブックマーク】へのご登録や、熱い感想コメントもいつでもお待ちしております!

次回、からも、リアンとSクラスの面々、そして増え続ける愉快でカオスな仲間たちのドタバタな日常と美味しい料理をお届けしていきますので、引き続き『アナステシア世界』をよろしくお願いいたします!

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