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EP 14

竜王デュークと、三ツ星シェフのラーメン談義

「…………」

「おい、閉めるな」

 バタンッ、と俺が全力で閉めようとしたポポロ・コーポの玄関扉は、革靴のつま先一つで易々と止められていた。

 扉の隙間から、葉巻の煙と、野性味あふれる圧倒的な覇気が漏れ出してくる。

「……何の用だ、竜王デューク」

 俺はため息をつきながら再び扉を開けた。

 そこに立っていたのは、アルマーニ風の高級スーツを着崩したイケオジ——世界のパワーバランスを司る三柱の調停者の一角、『竜王デューク』であった。

 彼の背後には、ルナミス帝国特有の「木造ラーメン屋台」が、魔導エンジンのアイドリング音を響かせて停まっている。

「フッ。挨拶の必要はなかろう、リアン。我ははるばる帝都から、このポポロ村まで屋台を引いてやってきたのだ。貴様と『我が魂の豚骨ラーメン』について語り合うためにな」

「仕事中だっつーの! 帰れ!」

 俺が塩対応で追い返そうとすると、デュークは眉をひそめ、懐から金貨がぎっしり詰まった袋を取り出してチャリンと鳴らした。

「そう邪険にするな。佐藤太郎マブダチが遺した『豚骨ラーメン』のレシピを再現し、屋台を経営して百年。……我がラーメンは、今、深い壁にぶち当たっているのだ。三ツ星シェフであった貴様の知識を借りたい」

「……壁、だと?」

 その言葉に、俺の中の『料理人としてのプライド』がピクリと反応してしまった。

「太郎の野郎は、たしか帝都に『豚神屋ぶたがみや』って二郎系ラーメンの概念を持ち込んでたな。あんたの豚骨はそれとは違うのか?」

「無論だ。我が目指すのは、純粋にして究極の『濃厚豚骨(ド豚骨)』。だが、どうしても太郎が作っていたあの『魂を震わせるコク』に辿り着けん。……リアンよ、少しスープを味見してみろ」

 デュークは、勝手に寮の玄関を上がり込み、屋台から降ろした巨大な寸胴鍋を厨房の魔導コンロにドンッ!と置いた。

 蓋を開けた瞬間。

 ——ブワァァァァッ!!

 寮の食堂全体に、豚骨(ピッグシープの骨)を三日三晩煮込み続けたであろう、強烈で野性味あふれる匂いが充満した。

「くっ……なんやこの暴力的な匂いは!」

 食堂で食後のタバコを吹かしていたリキ兄貴(第6の聖獣)が、目を丸くして厨房を覗き込んでくる。

「ええ匂いやんけ! 腹一杯のはずやのに、また胃袋が疼き出しよったわ!」

「……なるほどな」

 俺は、お玉で寸胴のスープを掬い、小皿に移して一口啜った。

 ドロリとした粘度、強烈な豚の旨味。確かに美味い。屋台でこれが出てくれば大行列ができるレベルだ。調停者のくせに、どれだけラーメン作りに情熱を注いでいるんだこのオッサンは。

 だが。

 三ツ星シェフの舌(絶対味覚)を持つ俺からすれば、このスープが抱えている「致命的な欠陥」は一目瞭然だった。

「……デューク。あんた、骨を煮込む時に『火力』に頼りすぎだ」

「な、なんだと?」

 俺の指摘に、デュークが不満げに葉巻を咥え直す。

「ただ強火で煮立たせればいいってもんじゃねぇ。このスープ、骨の髄から出る旨味コラーゲンと脂が完全に分離してやがる。『乳化(水と油が混ざり合う現象)』が甘いんだよ。そのせいで、口当たりは重いのに、後味にコクが残らず脂っこさだけが際立ってる」

「乳化……だと……?」

 デュークの目が、驚きに見開かれる。

「それに、合わせる『カエシ(醤油ダレ)』だ。あんたの豚骨は主張が強すぎる。普通の醤油草のタレじゃ、スープの野性味に完全に負けてるんだよ」

 俺は、腕をまくり上げ、厨房の包丁を手に取った。

 相手が世界の神だろうが知ったことか。料理において妥協を許すことは、俺のシェフとしての魂が許さなかった。

「どけ、デューク。俺が手本を見せてやる」

「フッ……小僧が。言わせておけば調子に乗りおって。よかろう、三ツ星シェフの腕、見せてもらおうではないか!」

 こうして、深夜のポポロ・コーポの厨房で、竜王と元三ツ星シェフによる、ガチの『ラーメン共同開発コラボ』が幕を開けたのである。

「おいデューク! 火力を少し落とせ! 鍋底が焦げないように、骨を砕きながらしっかりかき混ぜろ!」

「我に命令するな! だが……ふむ、確かにこうしてゼラチン質を溶かし込むことで、スープが白濁し、とろみが増してくるな……!」

 俺はスープの調整をデュークに任せ、即座に『カエシ』と『トッピング』の制作に取り掛かった。

 タマンネギの果汁とハニーかぼちゃの蜜を隠し味に入れた特製の醤油ダレを煮詰め、豚骨の強烈な風味を受け止めるだけの「甘みとコク」を追加する。

 チャーシューには、極厚のロックバイソンの肉を圧力魔導鍋でホロホロになるまで煮込んだものを使用。

 麺は、サンライス(米麦草)と強力粉を独自の配合でブレンドし、スープによく絡む「極太ちぢれ麺」を手打ちで一気に打ち上げた。

「麺茹で上がったぞ! 丼を用意しろ!」

「応ッ!!」

 デュークが丼に特製カエシを注ぎ、そこへ完璧に乳化し、白濁した黄金色のド豚骨スープを流し込む。

 俺が極太麺を湯切りして投入し、極厚のバイソンチャーシュー、味玉、シャキシャキのレ足ス、そしてダメ押しとばかりに『シープピッグの背脂アブラ』と『刻みニンニク』を山のようにトッピングした。

「完成だ……!」

「『デューク&リアン特製・極濃ガリバタ豚骨ラーメン(二郎インスパイア)』の誕生だな……!」

 俺とデュークは、汗を拭いながら、カウンターに並べられた五杯のラーメンを見下ろし、会心の笑みを浮かべた。

「おい、そこのお前ら。試食して感想を聞かせろ」

 俺が食堂で野次馬と化していた連中(リキ兄貴、リーザ、キャルル、ルナ、クラウス)に声をかけると、彼らは飢えた獣のように丼に飛びついた。

「ズズッ……ズゾゾゾゾッ!!」

 豪快な麺をすする音が、深夜の食堂に響き渡る。

「なんやこれェェェェッ!!」

 リキ兄貴が、割り箸を握りしめたまま天を仰ぎ、男泣きした。

「スープの濃厚さが桁違いや! 肉の暴力的な旨味が太麺に絡みついて、ニンニクのパンチが脳髄を直接殴りにきよる! さっきチャーハン食ったばっかりやのに、箸が……箸が止まらへんのじゃあああっ!」

「あぁぁぁっ! 脂が……極上の背脂が、わたくしの貧相な胃袋に染み渡っていきますわァァッ!!」

 リーザが、顔を豚骨スープでテカテカにしながら、一心不乱に麺をかき込んでいる。

「これですわ! パンの耳では絶対に得られない、この圧倒的な『カロリーの暴力』! リアン様、デューク様、一生ついていきますわァァッ!」

 キャルルもルナもクラウスも、無言でスープの最後の一滴まで飲み干し、恍惚の表情でテーブルに突っ伏した。

「……どうだ、デューク」

 俺が腕を組んで振り返ると、デューク自身も自分が作ったスープ(改良版)を飲み干し、静かに目を閉じていた。

「……見事だ、リアン。乳化の魔法、そしてこのカエシの奥深さ。太郎の味を、いや、それ以上の高みへと我を導いてくれた。貴様の料理人としての魂、確かに見届けたぞ」

 デュークは、満足げに葉巻に火をつけると、紫煙をゆっくりと吐き出した。

「決めたぞ、リアン。我は今日から、この『ポポロ・コーポ』に入居する」

「……は?」

 俺の思考が、一瞬停止した。

「貴様と食について語り合うには、ここが最高の環境だと悟ったのだ。ちょうど男子寮の101号室が空いているのだろう? 屋台は駐車場に置かせてもらうぞ」

 デュークは、有無を言わさぬ態度で、先ほどの金貨の袋をテーブルにドンッと置いた。

「おい待て! あんたは調停者だろ! 世界の監視はどうすんだよ!」

「フッ。あんなものはフレアか駄犬フェンリルにでも押し付けておけばよい。我は明日から、貴様と共にこの厨房で新メニューの開発に勤しむとする」

 我が物顔で厨房の冷蔵庫を開け、勝手にビールを取り出して飲み始める竜王。

 それに合わせて「おっ、デュークのオッサン! ワシにも一本くれや!」と絡んでいくリキ兄貴。

(……終わった)

 俺は、頭を抱えてその場にしゃがみ込んだ。

 ただでさえヤンキー聖獣(リキ兄貴)が居着いてカオスだった寮に、今度はラーメン狂いの竜王(調停者)が正規の入居者として転がり込んできたのだ。

 ポポロ・コーポはもはや、ただの格安アパートではない。

 世界のパワーバランスを崩壊させかねないバケモノたちの、『神々の溜まりシェアハウス』へと完全に変貌を遂げてしまったのである。

第4話『竜王デュークと、三ツ星シェフのラーメン談義』をお読みいただきありがとうございます!

突如としてポポロ・コーポに屋台を引いて現れた竜王デューク!

最初は仕事中だと追い返そうとしたリアンですが、相手が「豚骨ラーメンの壁にぶち当たっている」と聞くや否や、三ツ星シェフとしてのプライドが発火してしまいました(笑)。

「乳化が甘い」「カエシが負けている」とガチすぎるラーメン理論を語り合い、深夜に完成した『極濃ガリバタ豚骨ラーメン』。リキ兄貴の男泣きと、リーザのカロリーに対する歓喜の叫びが深夜の食堂に響き渡りました!

しかし、その結果……。

デュークが「101号室に入居する」と言い出し、ポポロ・コーポのモンスターハウス化がさらに加速することに!

次回、このカオスな寮に、さらなる来訪者が!

過労死寸前の不死鳥シングルマザーフレアが、息子のヒエンを連れて家出してきます。

リアンのオカン属性が、ついに神の心すらも癒やしてしまう!?

「深夜のラーメンは反則」「デューク入居おめでとうw」「リアンの胃壁がマッハ」と少しでも楽しんでいただけましたら、

ぜひページ下部にある【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして評価していただけると、リアンとデュークの新メニュー開発の資金になります!

【ブックマーク】のご登録、熱い感想コメントもいつでもお待ちしております! 次回もお楽しみに!

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