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EP 12

深夜の爆音! 第六の聖獣『リキ兄貴』襲来

 ポポロ村の独身アパート寮、『ポポロ・コーポ』。

 木造三階建てで、A棟が男子寮、B棟が女子寮に分かれたこの格安物件の管理室(兼・寮母室)のベッドで、俺——リアン・シンフォニアは、泥のような眠りについていた。

 寮母長代行に就任した初日。

 急遽引っ越してきたリーザの荷物(大半がゴミとしか思えないガラクタとお賽銭箱型掃除機)の搬入に付き合わされ、大食堂の厨房設備の点検、さらにはドンガン地下帝国との裏ルートを使った大量の食材の仕入れと、前世の三ツ星レストランの厨房並みに働き詰めの1日だったのだ。

(……だが、帳簿の計算も合わせたし、明日の朝食の仕込みも完璧だ。これで少しは、平和に寝られる……)

 深い眠りの底で、俺が安らかなスローライフの夢を見ようとしていた、その時だった。

 ——パラリラパラリラ〜〜〜ッ♪♪

 ——ブォォォンッ! ブバババババッ!!

「…………は?」

 突如として、ポポロ・コーポの建物をビリビリと震わせるほどの、鼓膜を突き破るような爆音が鳴り響いた。

 魔導エンジンの重低音と、古き良き昭和の暴走族を彷彿とさせる品のないコール音が、深夜のポポロ村の静寂を容赦なく切り裂いていく。

「……ッ!!」

 俺はガバッとベッドから跳ね起きた。

 前世で、過労死寸前の睡眠不足の時に、アパートの外を走る珍走団の爆音に殺意を覚えたあの感覚が、フラッシュバックのように脳裏を駆け巡る。

(今、何時だと思ってんだ……ッ!!)

 俺は、怒りで青筋を浮かべながら、愛用のタローマン製ジャージを羽織り、厨房の調理台に置いてあった「ドワーフ製の極厚フライパン(防弾仕様)」をひっ掴んで、玄関の扉を蹴り開けた。

「うるせぇぇっ!! 今何時だと思ってんだコラァッ!!」

 俺の怒号が、爆音を切り裂いて夜の空気に響き渡る。

 アパートの前、月明かりに照らされた駐輪場スペース。

 そこに停まっていたのは、暴走族風のロケットカウルと絞りハンドルを装着した、特注の魔導旧車『爆音天聖号』だった。

 そして、そのバイクに跨っていたのは——。

「……あぁ?」

 アイドリングの排気音を響かせながら、そいつがゆっくりと俺の方を振り返った。

 ビシッと固められた黄金のリーゼントヘア。

 背中に『第6聖獣 麒麟降臨』『全国制覇』の刺繍がデカデカと入った、光沢のある金色のド派手なジャージ。

 口元にはショートホープを咥え、足元はなぜか履き古した『便所サンダル(ベランダサンダル)』という、情報量が多すぎて脳が処理しきれない男だった。

「何やワレ。見かけんガキやな」

 リーゼントの男は、バイクのエンジンを切らずに、凄まじい眼光で俺を睨み下ろしてきた。

 その瞬間。

 ——ビリィッ……!!

 男の身体から、紫銀色の極大の雷光オーラが漏れ出し、周囲の空間を物理的に歪ませた。

 ただの魔力や闘気ではない。それは次元そのものを超越する、神にも等しい絶対的なプレッシャー。並の人間なら、その気配に当てられただけで泡を吹いて気絶するレベルの圧倒的威圧感だった。

(……なるほど。こいつが、噂に聞く第6の聖獣か)

 俺は、天極流の闘気を極限まで収縮させて己の周囲に薄く展開し、そのプレッシャーを無効化した。

 こいつは、大宇宙管理局の神界でも浮いている調停者の一角——次元超越型聖獣の『麒麟』、通称「リキ兄貴」だ。

 ポポロ・コーポのA棟(男子寮)103号室の住人であり、毎月どこからか調達した金貨で家賃を几帳面に前払いする優良住人でもある、と村の帳簿に記載されていたのを思い出す。

「お菊さんはどうした。いつものオバハンはおらんのかい」

 リキ兄貴が、咥えタバコを揺らしながら苛立たしげに尋ねてくる。

「俺は、夜走りから帰ってきたら、熱い茶と夜食を食わんと気が済まんのじゃ。ガキは引っ込んどれや」

 男の言葉に、俺の三ツ星シェフとしての、そして何より『寮の管理者おかん』としての矜持が静かに、しかし激しく燃え上がった。

 相手が次元を超越する聖獣だろうが、神だろうが関係ない。

 ここは俺が仕切るナワバリだ。

「……お菊さんは忌引きで不在だ」

 俺は、右手に持ったフライパンを肩に担ぎ、冷酷な目でリキ兄貴を見据えた。

「今日から俺が、このポポロ・コーポの寮母長代行だ。夜食が食いてぇなら、さっさとそのクソうるせぇエンジンを切りやがれ。近所迷惑だ」

「……あぁ!?」

 リキ兄貴の眉間のシワが、限界まで深く刻まれた。

「ワレ、俺が誰か分かってて口利いとんのか……? この『リキ兄貴』に、説教垂れる気か?」

 バチバチッ! と、男の拳に無次元の聖なるゴッドサンダーが収束していく。一撃で山を消し炭にするレベルの破壊のエネルギーだ。

「分かってるさ。103号室の住人だろ。家賃を滞納してないことだけは褒めてやる」

 俺は、全く怯むことなく、むしろ呆れたような顔でため息をついた。

「いいか。ここは共同住宅だ。お前が神だろうがヤンキーだろうが、俺の寮に住む以上は『俺のルール』に従え。深夜の騒音は禁止だ。さっさとバイクを降りて、食堂のパイプ椅子に座ってろ。……騒いだ罰として、胃袋が破裂するくらい重たい夜食を食わせてやる」

 俺の言葉に、リキ兄貴は一瞬、きょとんとした顔になった。

 彼に向けて真っ向から説教をし、あまつさえ「飯を作ってやるから座って待ってろ」と命じる人間など、これまでの悠久の歴史の中で存在しなかったのだろう。

「……フッ。ハッハッハッハ!!」

 やがて、リキ兄貴は肩を揺らして豪快に笑い出した。

「ええ度胸しとるやんけ、ワレ! 気に入ったわ。ほな、お手並み拝見といかせてもらおか!」

 カチャリ、とバイクのキーが回され、深夜のポポロ村にようやく静寂が戻った。

 リキ兄貴は便所サンダルをペタペタと鳴らしながら、大人しくアパートの1階にある大食堂へと向かっていった。

     * * *

 ポポロ・コーポ、1階大食堂。

 深夜の厨房に立った俺は、タローマン製のジャージの上に清潔なエプロンを締め、即座に調理モード(オン)へと切り替わった。

(深夜の夜走りで冷えた身体、そしてあのガタイ……。上品な料理じゃ満足しねぇな。ここは圧倒的なカロリーとパンチ力でねじ伏せる)

 俺が選んだメニューは、『特製・深夜の漢飯(ガッツリ系にんにくチャーハン)』だ。

 極太の中華鍋を魔導コンロの強火にかけ、シープピッグの極上ラードをたっぷりと溶かし込む。

 ラードが熱され、甘い香りが立ってきたところに、粗みじんにしたニンニクを大量に投入。

 ——ジュワァァァァッ!!

 油の中でニンニクが踊り、食欲を暴力的に刺激する香りが厨房いっぱいに広がる。

 そこへ、厚切りにしたロックバイソンの細切れ肉と、サイコロ状にカットした太陽芋を投げ入れ、一気に炒める。肉の脂と芋の甘みが絡み合ったところで、硬めに炊き上げておいた『サンライス(米麦草)』のご飯をドサッと投入した。

「ふっ……!」

 俺は手首のスナップを効かせ、重厚な中華鍋を宙に舞わせるように振るう。

 三ツ星レストランで鍛え上げられた鍋振りの技術。米の一粒一粒にラードと肉の旨味がコーティングされ、黄金色に輝きながらパラパラと舞い踊る。

 仕上げに、鍋肌に特製の『醤油草』のタレを回し入れる。

 ——ヂュウゥゥゥゥッ……!!

 醤油の焦げる香ばしい匂いが、深夜の食堂を完全に支配した。

 素早く皿に山盛りに盛り付け、サイドメニューとして、トライバードのガラスープで作った熱々のネギスープを添える。

「ほらよ。深夜の漢飯チャーハンだ。熱いうちに食え」

 俺は、パイプ椅子にドカッと座ってタバコを吹かしていたリキ兄貴の前に、その皿をドンッと置いた。

「……ほう」

 リキ兄貴の目が、山盛りのチャーハンから立ち上る湯気と香りに釘付けになった。

 彼はタバコを灰皿に押し付けると、無骨な手でスプーンを握りしめ、チャーハンを山のように掬い取って、大きな口へと放り込んだ。

 モグッ。

 ……。

 モグモグッ、ゴクリ。

「…………っ!!」

 リキ兄貴の黄金のリーゼントが、物理的にピクンッ! と跳ね上がった。

「な、なんやこれ……!!」

 リキ兄貴が、目を見開いて叫ぶ。

「米粒の一つ一つが、見事に油でコーティングされとる! なのに全く脂っこくない! ロックバイソンの肉の力強い旨味と、太陽芋のホクホクとした甘み、そこにガツンと効いたニンニクのパンチ力……!! これらが完璧なバランスで調和しとるやないけ!!」

 彼は、もはやスプーンを動かす手を止めることができず、まるで腹を空かせた野生動物のように、ガツガツと猛然とチャーハンをかき込み始めた。

「熱い! 痛い! 痛快や!! このジャンクでありながら極限まで計算された味……ワシが今まで次元を超えて食ってきたどのメシよりも、魂に響く味や……ッ!!」

 あっという間に山盛りのチャーハンを平らげ、熱々のネギスープを一気に飲み干したリキ兄貴は、「プハァァァッ!!」と盛大な咆哮を上げた。

 その目には、なぜかキラリと光る涙すら浮かんでいる。

「……どうだ。これなら、深夜の夜食として文句はねぇだろ」

 俺が腕を組みながら見下ろすと、リキ兄貴は立ち上がり、便所サンダルを鳴らして俺の前に歩み寄ってきた。

「リアン……いや、リアンの兄弟!」

 リキ兄貴が、ガシッ! と俺の肩を熱く掴んだ。

「お前、見所あるやんけ! 今日からお前は俺の兄弟分や! 寮母長代行として、このリキ兄貴が背中預けたるわ!」

「……兄弟分ってなんだよ。面倒くせぇな」

 俺は肩をすくめながらも、内心で密かにガッツポーズをキメた。

 次元超越の聖獣、リキ兄貴。

 この圧倒的な暴力装置ヤンキーを、チャーハン一皿で手懐けることに成功したのだ。これで、寮の治安維持に関して強力な用心棒を手に入れたも同然である。

 悪知恵Sの俺の計算通りだ。

「よし。食い終わったなら皿は水につけとけ。俺は寝る」

「おう! 兄弟、明日の朝飯も期待しとるで!」

 リキ兄貴の機嫌の良さそうな声に見送られながら、俺は管理室へと戻り、再びベッドに潜り込んだ。

 厄介だが、強力な食客を一人手懐けた。これなら、寮母長代行の仕事も案外楽にこなせるかもしれない。

 ……だが、ここはポポロ・コーポ。

 世界最強の存在バケモノたちが集う、治外法権の木造アパートである。

 リキ兄貴を手懐けたのは、これから始まる『神々の溜まり場』のカオスな日常の、ほんの序章に過ぎないということを、俺はまだ知る由もなかった。

第2話『深夜の爆音! 第六の聖獣『リキ兄貴』襲来』をお読みいただきありがとうございます!

深夜に「パラリラパラリラ〜♪」と爆音を鳴らして帰ってきたのは、第6の聖獣・麒麟ことリキ兄貴!

黄金のリーゼントに便所サンダルという情報量の多すぎるヤンキー聖獣ですが、リアンは全く怯むことなく「うるせぇ!」「夜食食いてぇならエンジン切れ!」とオカンの貫禄で一喝しました(笑)。

そして提供された『深夜の漢飯ニンニクチャーハン』!

三ツ星シェフの腕にかかれば、次元を超える聖獣の舌すらも一撃で陥落させます。「今日から俺の兄弟分や!」とすっかり懐いてしまったリキ兄貴。リアンの最強の用心棒ゲットです!

次回! 寮母長となったリアンの作る賄い飯の噂を聞きつけ、Sクラスの面々も続々と食堂に集結。

しかし、食費を管理すると名乗り出たリーザが、またしても強欲な悪巧みを……!?

「リキ兄貴いいキャラしてるw」「便所サンダル最強伝説」「深夜のチャーハンは飯テロ」と少しでも楽しんでいただけましたら、

ぜひページ下部にある【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして評価していただけると、リアンの睡眠時間が増えるかもしれません!

【ブックマーク】のご登録、感想コメントもいつでもお待ちしております! 次回もお楽しみに!

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