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EP 6

消えた高級肉事件! ポンコツ探偵たちの迷推理

「諸君、これよりこのクラウス・アルヴィンが、アルヴィン侯爵家の名にかけて、この『消えた高級肉事件』の謎を解き明かしてみせよう! 犯人は……この中にいる!!」

 秋風が吹き抜けるポポロ山の中腹。

 スアイが持参したクーラーボックスから、3キロの高級ロックバイソン肉が忽然と姿を消した。その厳然たる事実を前に、『マサカ茸』の副作用で完全にミステリー小説のポンコツ探偵と化したクラウスが、存在しないメガネをクイッと押し上げて宣言した。

「まさか……密室トリック……ッ!」

 月兎族のキャルルが、両手を口に当てて大げさに驚く。

「キャルル、ここは野外だ。密室もクソもねぇよ」

 俺の冷静なツッコミは、マサカ茸の幻覚成分に犯された彼女の耳には一切届いていない。

「いいか、皆の者。犯行が行われたのは、俺たちが昼食のマサカ茸を食べていたほんの数十分の間だ。スアイがクーラーボックスを地面に置いた瞬間から、我々の意識はキノコの美味さに釘付けになっていた。犯人はその隙を突き、クーラーボックスのロックを外し、3キロの重さがある肉の塊を誰にも気づかれずに持ち去ったのだ!」

 クラウスが、クーラーボックスの周りをゆっくりと歩きながら、大仰な身振り手振りで推理を披露する。

「3キロの肉だぞ? 普通に考えれば、持ち運べば目立つはずだ。だが、肉はどこにもない。つまり、犯人は『肉を隠すための特殊な空間』、あるいは『一瞬で飲み込むだけの異常な胃袋』を持っている者に絞られる!」

「なるほど! さすがクラウス様、名推理ですわ!」

 ルナがパチパチと拍手をしているが、お前も容疑者の一人だからな。

「まさか……!」

 突如、駄女神ルチアナがハッとしたように顔を上げ、ビシィッ! と一人の少女を指差した。

「犯人が分かったわ! 犯人は……リーザ、あなたよ!」

「はぁっ!?」

 ダサい芋ジャージ姿のリーザが、血走った目をカッと見開いた。

「考えてもみなさい!」

 ルチアナが、ドヤ顔でハイブランドのサングラスをずり下げる。

「あなたには動機があるわ! パンの耳と雑草で食いつなぐ極貧生活。目の前に金貨数枚の価値がある高級肉が置かれれば、その強欲な本性が疼くはずよ! そして何より……あなたの持っているその『お賽銭箱型掃除機』! あれを使えば、3キロの肉だろうと一瞬で吸引して隠滅できるじゃないの!」

「なっ……! わたくしを泥棒扱いするおつもり!? 神のくせに名誉毀損ですわォォォッ!」

 リーザが激怒し、お賽銭箱をガタガタと揺らした。

「図星を突かれて焦っているのね! 罪を認めて、そのお賽銭箱の中身を吐き出しなさい!」

「お断りですわ! これはわたくしのプライバシー(残高ゼロ)の塊ですの! 第一、女神様こそ怪しいですわ!」

 リーザが反撃とばかりに、ルチアナの胸元を指差した。

「まさか……わたくしの貧乏神の眼力は誤魔化せませんわよ! あなたのそのハイブランドのドレスの胸元……よく見なさい! 脂染みがついているじゃありませんの! 高級肉をこっそり懐に隠して、脂が染み出した動かぬ証拠ですわ!」

「えっ!?」

 ルチアナが慌てて自分のドレスの胸元を確認する。

「あ、あわわっ! ほ、ほんとだ! な、なんで脂染みが……っ!? わ、私じゃないわよ! き、きっとこれは、さっき焼いたマサカ茸の汁が飛んだのよ!」

「言い訳が見苦しいですわ! 借金まみれで首が回らない女神様が、高級肉を横領して闇市場に流そうとしたに決まってますの! このポンコツ駄女神!」

「キーッ! 言ったわねこの極貧底辺アイドル!」

「まさか……! 神と人魚による醜い責任のなすりつけ合い……! これこそが、人間の持つ『業の深さ(サスペンス)』……ッ!」

 クラウスが、腕を組んで二人の口論を満足げに眺めながら、なぜか一人で悦に入っている。

「いや、止めてやれよお前」

 俺は頭を痛めながら、冷めたポポロ・コーヒーを啜った。

 ルチアナの脂染みは、単に昼食の時に彼女がマサカ茸をガッついて口から汁をこぼしただけなのを俺は知っている。IQが半分になった連中の推理ごっこは、もはやスラム街の口喧嘩レベルまで低下していた。

「わーお! リスナーのみんなぁ! 見て見て、これ!」

 そのカオスな状況の中で、ゴッドチューバーのキュララが自撮りドローンを巧みに操り、ルチアナとリーザの口論、そしてクラウスのドヤ顔をバッチリと画角に収めていた。

「現在、ポポロ山で起きた『消えた高級肉事件』! 容疑者は借金まみれの女神と、極貧アイドル! 探偵はアルヴィン侯爵家のエリート騎士だよぉ! 果たして真犯人は誰なのか!? 神々と貴族のガチ推理バトル、開幕だよぉぉっ!」

 キュララが煽りを入れた瞬間。

 ゴッドチューブの配信画面のコメント欄が、爆発的な勢いで加速し始めた。

『うおおおおっ! なんかサスペンス始まったぞww』

『クラウス様のメガネクイッ(素手)最高ww』

『ルチアナ様、借金まみれだったのかよ草』

『リーザの強欲っぷりならやりかねない!』

『特定班、スアイのクーラーボックスのメーカー割り出しました!』

『赤スパ3万ルナ! 探偵クラウスに賭ける!』

『赤スパ5万ルナ! 私はリーザの無罪を信じる!』

 ピロリンッ! ピロリンッ!

 キュララのエンジェルすまーとふぉんに、怒涛の勢いでスーパーチャット(投げ銭)の通知音が鳴り響く。

 マサカ茸の幻覚による「IQ0.5倍のポンコツ推理バトル」が、なぜかリスナーたちの目には『高度な心理戦エンターテインメント』として映り、大バズりを巻き起こしてしまったのだ。

「えへへぇ〜♡ スパチャが止まらないよぉ! もっともっと推理してぇ!」

 キュララが、ホクホク顔で配信を継続する。

「まさか……! この配信の熱気……! 視聴者たちも俺の推理の冴えに酔いしれているようだな!」

 クラウスが、ドローンに向かってマントをバサリと翻し、ポーズを決める。

「ふん! リスナーの皆さんも、この強欲女が犯人だと言っているわ!」

「違いますの! 借金女神の自作自演ですわ!」

 ルチアナとリーザの口論はさらにヒートアップし、キャルルとルナは「まさか……!」「怖いですねぇ……」と野次馬と化している。

 スアイに至っては、「私の……せっかくのロックバイソン肉が……」とクーラーボックスの横で膝を抱えて白くなっていた。

「…………」

 俺は、無言で立ち上がった。

 これ以上、こいつらの茶番に付き合っている暇はない。マサカ茸の副作用が切れるのを待つのも面倒だ。

 それに、俺の前世の知識と、簿記1級で鍛えた『帳簿(現場)の不自然さを見抜く観察眼』は、すでに「ただ一つの真実」に到達していた。

(肉が消えたのは、俺たちがマサカ茸を食べていた時間帯。スアイはクーラーボックスを地面に置いた。そして……)

 俺は、事件現場であるクーラーボックスの周辺を歩き、地面を観察した。

 落ち葉が不自然に『一方向』に吹き飛ばされたような痕跡。

 そして、先ほどまでルチアナと口論していたリーザが大事そうに抱え込んでいる『お賽銭箱型掃除機』。

 俺は、静かに息を吸い込み、全員に響き渡る声で告げた。

「——茶番は終わりだ、お前ら」

 ピタリ、と。

 クラウスたちの動きが止まり、俺に注目が集まる。ドローンのカメラも、俺の顔を大写しにした。

「リアン君……? まさか、あなたにも真犯人が分かったというの?」

 ルチアナが、ごくりと喉を鳴らす。

「あぁ。犯人は初めから決まっているし、証拠も残っている」

 俺は、白銀のトングを指の間に挟み、チャキッと鳴らした。

 前世・三ツ星シェフの冷徹な眼光と、合理主義の塊である俺の論理が、このIQ半分のポンコツミステリー空間を粉砕する時が来たのだ。

第6話『消えた高級肉事件! ポンコツ探偵たちの迷推理』をお読みいただきありがとうございます!

マサカ茸の副作用でIQが半分になったクラウスの、存在しないメガネクイッからのポンコツ推理!

ルチアナとリーザの「お前が犯人だ!」という底辺のなすりつけ合いは、傍から見るとただの泥仕合ですが、なぜかキュララの配信では『神々と貴族のガチ推理バトル』として大バズりしてしまいました(笑)。

スパチャが飛び交う中、唯一正気を保っているリアンがついに動き出します。

次回、名探偵リアンによる「真実の解明」!

果たして、消えた3キロの高級肉の行方とは!? 簿記1級の観察眼が、お賽銭箱の秘密を暴き出します!

「クラウスの茶番最高ww」「ルチアナの脂染み草」「リアンの過労死ゲージがまた貯まる」と少しでも楽しんでいただけましたら、

ぜひページ下部にある【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして評価していただけると、スアイの失われたお肉代になります!

【ブックマーク】のご登録、感想コメントもいつでもお待ちしております! 次回、解決編をお楽しみに!

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