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EP 5

マサカ茸の効能と、狂気のミステリー空間

「まさか……。信じたくはないが、どうやらこの中に……『裏切り者』がいるようだ」

 秋風が吹き抜けるポポロ山の中腹。

 昼食の七輪を囲む平和なピクニックの空気は、クラウスの重々しい一言によって、突如として凍りついた。

 彼は右手中指で『存在しない架空のメガネ』のブリッジをクイッと押し上げる仕草をし、鋭い眼光で俺たちを舐め回している。

「……は?」

 俺は、飲みかけていたポポロ・コーヒーのカップを置き、半眼でクラウスを見た。

「何言ってんだお前。裏切り者も何も、俺たちはただキノコを食って休憩してるだけだろ。そもそも、お前メガネかけてねぇだろ」

「フッ……。素人には分からないだろうな、リアン。この研ぎ澄まされた空気、そして皮膚を刺すような『殺意の波動』が」

 クラウスは、腕を組みながらニヒルに笑った。

「犯人は、外部から侵入したのではない。この内部ホープ・クローバーに潜み、我々の隙を虎視眈々と狙っているのだ……ッ!」

(……こいつ、完全に頭がいかれやがった)

 俺はため息をつき、先ほど食べた『マサカ茸』の切れ端を見つめた。

 松茸と同等以上の香りと旨味を持つ超高級キノコ、『マサカ茸』。

 ネット通販で購入したアナステシア世界の植物図鑑によれば、このキノコには一つの強烈な副作用がある。

 それは——『食べた者の脳内に「まさか……!」と思い込ませる強力な幻覚成分が作用し、推理力が当社比0.5倍増し(※要するに普段の半分以下)に下がり、本人はミステリー小説の探偵気分を味わえる』という、極めて厄介な効果だ。

「ハッ……! まさか、そういうことだったのね……!」

 突如、ルチアナがハッと息を呑み、両手で口を覆った。

「犯人の狙いは……あの時、すれ違った黒ずくめの男の正体は、私を陥れようとする天界の陰謀……ッ!」

「まさか……絶海の孤島(※山です)で連続殺人事件のフラグ!? わーお! リスナーのみんな、特定班急いで! 犯人のIPアドレスを抜くのよぉぉっ!」

 キュララが、自撮りドローンをブンブンと振り回し、顔を青ざめさせながら配信を煽り始める。

「まさか……! 莫大な遺産(お賽銭)を狙った計画的犯行!? いけませんわ、わたくしの隠し財産(パンの耳)が狙われていますのォォッ!」

 リーザが、お賽銭箱型掃除機を抱き抱え、怯えたように周囲を警戒している。

(……おいおい。マジかよこいつら)

 俺は頭を抱えた。

 マサカ茸の幻覚成分により、Sクラスの連中と駄女神の脳内は、完全に『サスペンスドラマの登場人物(しかもIQ半分)』へと書き換えられてしまっていたのだ。

 俺だけが正気を保っているのは、前世から培われた極限の現実主義(悪知恵S)と、天極流の闘気による毒物耐性のおかげだろう。

「……あ、あれ?」

 その時。

 食後のデザートとしてリンゴを生成しようとしたエルフのルナが、天然のドジを踏んで、手元のリンゴをゴロンと地面に落としてしまった。

 さらに不運なことに、彼女が昼食で使った『特製マヨ・ハーブ(ケチャップ風味)』のボトルが倒れ、地面の枯れ葉の上に真っ赤な飛沫がドロッと広がった。

「きゃあああああああああああああああっ!!!!」

 それを見た月兎族のキャルルが、森の鳥たちが一斉に飛び立つほどの悲鳴を上げた。

「ル、ルナちゃんが……ルナちゃんがぁっ!?」

「キャルル、どうした!? 何があった!」

 クラウスが神速の踏み込みでキャルルの元へ駆けつける。

「み、見てクラウス! この赤い血痕ケチャップ……! そして、この転がったリンゴの形……!」

 キャルルは、ガタガタと震える手で、地面のケチャップとリンゴを指差した。

「まさか……ダイイングメッセージ!?」

「なっ……なんだとォォォッ!?」

 クラウスが、存在しないメガネを再びクイッと押し上げ、目を見開く。

「バカな! ルナはすぐ隣に座っていたはずだ! ほんの一瞬の隙を突いて、凶行に及んだというのか! まさか……完全なる『密室殺人(野外)』……ッ!」

「あの、キャルルさん? わたくし、ピンピンしておりますけれど……?」

 すぐ横で首を傾げるルナ(無傷)の存在など、彼らの0.5倍に低下した推理力(脳内サスペンス)には微塵も届いていなかった。

「……もう、ツッコむのすら疲れた」

 俺は深々とため息をつき、ポポロ・コーヒーを啜り直した。

 平和なピクニックが、ただの『狂気の密室サスペンス(茶番)』へと変貌してしまった。

 このまま幻覚成分が抜けるまで放置するしかないと腹をくくった、まさにその時だった。

「おーい、みんな。ちょっと休憩がてら、差し入れを持ってきたわよ!」

 ポポロ山を管理する元氷魔将軍のスアイが、大きなクーラーボックスを抱えてやってきた。

「私が最近ハマってる開拓DASH村の……じゃなくて、私が自給自足で育てた農作物の売上(※マサカ茸の収益)で買った、最高級の『ロックバイソンの厚切り肉』よ。午後からのキノコ狩りの景気づけに、みんなで焼いて——」

 スアイが、笑顔でクーラーボックスの蓋をパカッと開けた。

 しかし。

「……あれ?」

 スアイの笑顔が、ピクリと凍りついた。

「……ないわ」

「ない? 何がないんだよ」

 俺が立ち上がってクーラーボックスの中を覗き込むと、そこには保冷剤が入っているだけで、肝心の『ロックバイソンの高級肉』の姿が跡形もなく消え去っていたのだ。

「え……? 嘘でしょ? さっきまで、間違いなくここに3キロの塊肉を入れておいたはずなのに……!」

 スアイが青ざめ、クーラーボックスをひっくり返して中身を確認するが、やはり肉はない。

 本物の『事件』が発生した。

 被害総額、金貨数枚に相当する高級ロックバイソン肉の消失。

 その事実を前に、ただ一人、目をキラリと輝かせた男がいた。

「——フッ。やはり、俺の直感は当たっていたようだな」

 クラウスが、存在しないメガネを三度クイッと押し上げ、バサリとマントを翻した。

「まさか……! 厳重に封印されていたはずのクーラーボックスから、忽然と姿を消した高級肉! 物理法則を無視した、完全なる『消失トリック』……ッ!」

「いや、ただの盗難だろ」

 俺の冷静なツッコミを華麗にスルーし、クラウスはビシィッ! と俺たち全員を指差した。

「諸君、これよりこのクラウス・アルヴィンが、アルヴィン侯爵家の名にかけて、この『消えた高級肉事件』の謎を解き明かしてみせよう! 犯人は……この中にいる!!」

「キャーッ! クラウス様ステキーッ!」

「特定班、動いてぇっ!」

「五円! 御縁! ハイッ! お肉の慰謝料を請求しますのォォッ!」

 マサカ茸の狂気に完全に支配されたSクラスの面々と、巻き込まれた駄女神。

 俺の14歳の誕生日を祝うはずだった慰安旅行は、神とバケモノたちによる、IQ0.5倍のポンコツ推理バトルという最悪のステージへと突入していったのである。

第5話『マサカ茸の効能と、狂気のミステリー空間』をお読みいただきありがとうございます!

松茸並みに美味しいけれど、「推理力が0.5倍増し(下がる)になり、サスペンス気分になる」という最悪の副作用を持つマサカ茸。

クラウスの架空メガネクイッ!からの、ルナ(生存)のケチャップを見ての「ダイイングメッセージ!?」というキャルルの悲鳴。Sクラスの面々の知能が一気に低下して完全な茶番劇が始まりました(笑)。

唯一、悪知恵Sと天極流の闘気で幻覚を無効化しているリアンの疲労感が凄まじいですね。

しかし茶番の中で、スアイが持ってきた「高級ロックバイソン肉」が本当に消えるという事件が発生!

クラウス探偵が意気揚々と推理を始めますが、果たしてIQ半分のポンコツ探偵たちに事件は解決できるのでしょうか!?

「クラウスの架空メガネ笑う」「ルナちゃん無傷で草」「リアンのツッコミ過労死待ったなし」と少しでも楽しんでいただけましたら、

ぜひページ下部にある【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして評価していただけると、リアンの胃薬代(経費)になります!

【ブックマーク】のご登録、感想コメントもいつでもお待ちしております! 次回、ポンコツ探偵たちの迷推理をお楽しみに!

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