第十五章 14歳児の勇者
14歳の誕生日と、レンタカーの駄女神
ルナミス帝国の帝都は、今日も活気に満ち溢れていた。
魔導エネルギーで動く魔導車が石畳の舗装路を行き交い、上空には巨大な飛行船が悠然と浮かんでいる。100年前に地球から転生した勇者・佐藤太郎が『100円ショップの概念』というユニークスキルと現代知識を駆使して近代化させたこの国は、魔法と科学が絶妙に融合した独自の発展を遂げていた。
そんな帝都の中心部にあるエリート校『ルナミス学園』。
その校門から、ひと際目立つ六人の男女が連れ立って歩いてきた。
彼らこそ、学園でも規格外のバケモノ揃いと恐れられる『Sクラス』の面々であり、ポポロ村を拠点とするクラン『ホープ・クローバー』のメンバーである。
「いやぁ、リアンの14歳の誕生日パーティー、最高だったねぇ! あたし、ケーキをホールごと食べちゃった!」
ウサギ耳をパタパタと揺らしながら、月兎族のキャルルが満面の笑みで言った。
彼女はタローマン(ホームセンター)製の特注安全靴を履き、ラフな現代風の私服を着こなしている。ポケットからはみ出しているのは、常備している飴玉の袋だ。
「ええ、本当に素晴らしいお誕生日でしたわ。わたくしがお祝いに生成したマスカットとメロンのフルーツタルト、皆さんに喜んでいただけて何よりですわ」
ふわふわのお嬢様ドレスを揺らしながら、エルフの次期女王候補であるルナがふんわりと微笑む。
(お前のせいで、市場の高級フルーツの価格がまた大暴落して行政が泣いてたけどな……)
俺――リアン・シンフォニアは、心の中で冷静にツッコミを入れながら、防刃素材でできたタローマン特製ジャージのポケットに手を突っ込んだ。
今日は俺の14歳の誕生日だった。
前世は日本の有名フランス料理店で副料理長として働き、ブラックな環境で過労死した俺にとって、このアナステシア世界での「14歳」という年齢は感慨深いものがある。
今世では、絶対に過労死せず、のんびりと美味い飯を食うスローライフを送る。そう決めていたはずなのだが……気がつけば、この規格外の連中の胃袋とトラブルの処理に追われ、前世と大差ないレベルで胃を痛める日々を送っている。
「五円! 御縁! ハイッ!! リアン様、14歳のお誕生日おめでとうございますの! つきましては、お祝いの品として、わたくしの『投げ銭優先権』を特別価格の金貨一枚でお譲りいたしますわよ!」
ダサい芋ジャージに健康サンダルという極貧スタイルで、お賽銭箱型掃除機を引きずった人魚姫・リーザが、血走った目で俺に迫ってくる。
「誕生日の主役に金貨を要求するな。お前のスパチャ優先権なんて銅貨一枚の価値もねぇよ」
俺はリーザの顔面を軽く手で押し返した。
「わーお! リスナーのみんなぁ! 今日はホープ・クローバーのリーダー、リアンの14歳のバースデー配信だったよぉ! 同接も10万人突破! みんな、赤スパありがとうねぇ!」
上空では、天使族のゴッドチューバー・キュララが自撮りドローンに向かってファンサービスを振りまいている。
「ふっ……。我らノブリス・オブリージュを志す者として、仲間の生誕を祝うのは当然の義務。リアンよ、これからもこのクラウス・アルヴィンと切磋琢磨し、高みを目指そうではないか!」
アルヴィン侯爵家のエリート騎士であるクラウスが、胸に手を当ててキメ顔を作った。
「はいはい、ありがとな。……で、これからどうする? 真っ直ぐポポロ村に帰るか?」
俺が尋ねると、キャルルが安全靴のつま先をトントンと鳴らした。
「うーん、せっかく帝都にいるんだし、冒険者ギルドに寄っていかない? 何か良い依頼(日銭稼ぎ)があるかもしれないし!」
ポポロ村の村長でありながら、根っからの冒険者気質を持つキャルルの提案に、全員が頷いた。
「そうだな。じゃあ、ギルドの掲示板を見てから帰るか」
俺たちが学園の大通りを歩き出そうとした、その時だった。
――キュルルルルルルルッ!!!!
突如として、背後からけたたましいブレーキ音が響き渡った。
石畳をタイヤが擦る音と共に、俺たちの目の前に猛スピードで一台の『魔導車』が横付けされたのだ。
「うおっ!?」
「きゃっ!」
クラウスとキャルルが、反射的に臨戦態勢を取る。
目の前に止まったのは、流線型のボディと漆黒の装甲を誇る、ルナミス帝国でも超一級品の『高級魔導オープンカー』であった。
「な、なんだあの車は……!」
クラウスが目を見開く。
「あれほどの高級魔導車、我がアルヴィン侯爵家でもそうそう手が出る代物ではないぞ。皇帝陛下か、あるいは他国の王族か……! 全員、気を引き締めろ!」
周囲を歩いていたモブ生徒たちも、「おい、見ろよあの車……」「すげぇ、超高級車だぞ」「どこの大貴族だ?」とどよめき、遠巻きに道を空け始めた。
黒光りするボディ。魔力を帯びた重厚なエンジン音。
誰もが、中からとんでもないVIPが降りてくるのだと息を呑んだ。
しかし。
前世で簿記1級を取得し、徹底した損益計算と観察眼を身につけている俺の目は、その車のフロントガラスの隅に貼られた、極小の『シール』を絶対に見逃さなかった。
「……あ〜」
俺は、呆れたようなため息を深く吐き出した。
「あれ、レンタカーだな」
「「「…………は?」」」
クラウスたちが、一斉に俺の顔を見る。
「よく見ろ。フロントガラスの左下、そしてナンバープレートの隅だ。ルナミス帝国の車両法で義務付けられている、貸渡用魔導車両を意味する『わ』の文字が、申し訳程度に小さく印字されてるだろ」
俺の指摘を受け、全員が目を凝らす。
確かに、漆黒の重厚なナンバープレートの隅に、めちゃくちゃ小さく、しかしハッキリと『わ』という文字が刻まれていた。
「五円! 御縁! ハイッ! 本当ですわ! こんな超高級車をわざわざレンタルして乗り回すなんて、よっぽどの見栄っ張りか、あるいは圧倒的な金欠かのどちらかですの!」
リーザが、自分と同じ『貧困の匂い』を嗅ぎ取ったのか、鼻をヒクヒクさせながら嘲笑した。
ガチャッ。
その時。
高級魔導車のドアが、まるで映画のワンシーンのように優雅に開いた。
ピンヒールの足音が石畳を叩き、中から降りてきたのは――。
ハイブランドのドレスに身を包み、大きなサングラスを頭に乗せ、いかにも『デキる港区女子(神)』といったオーラを強引に纏った、大宇宙管理局・第3種惑星創造神格公務員。
永遠の17歳を自称する駄女神、ルチアナであった。
「フフッ……待たせたわね、下々の者たち」
ルチアナは、車のドアに寄りかかりながら、バサッと髪をかき上げてドヤ顔を決めた。
「あら? リアンじゃないの。久しぶりね!」
わざとらしく驚いて見せるルチアナ。サングラスの奥の目が、獲物(財布)を見つけたかのようにギラリと光ったのを、俺は見逃さなかった。
「……なんだ。ルチアナか」
俺は、一切の感情を込めずに、絶対零度の塩対応を返した。
「ちょっ……! な、なによその冷たい反応は! 天界の偉大なる世界神様が、わざわざこんな下界まで視察に来てあげたのよ!?」
ルチアナが、ドヤ顔を崩して慌てたように詰め寄ってくる。
「ふ〜ん。で? その『わ』ナンバーの高級車で、今日はルナミス帝国のどこをギャラ飲みして回るつもりだ? 月の世界のカグヤに裏垢でチクられるぞ」
「ぎくぅっ!?」
痛いところを突かれたルチアナの肩が、ビクンと跳ねた。
「ち、違うわよ! これは、その……大宇宙管理局の経費で借りた、正式な公用車なのよ!」
ルチアナは目を泳がせながら、必死に取り繕う。
「それよりも! ちょちょちょ、リアン君! 久しぶりに会ったのだから、積もる話もあるでしょ? 私たち、マブダチじゃない!」
ルチアナが、俺のジャージの袖をギュッと掴み、上目遣いで媚びを売ってきた。
「私、さっきから下界の空気を吸いすぎて、なんだかとっても……喉が渇いちゃったわぁ♡ どこか、涼しくて美味しいものが食べられるお店で、ゆっくりお話しましょ? ね?」
キラキラと効果音がつきそうなほどの、わざとらしいおねだり。
だが、俺の目は騙されない。彼女のハイブランドのドレスの袖口が微妙にほつれていることや、エンジェルすまーとふぉんを握る手が小刻みに震えていること(金欠の禁断症状)を、俺の観察眼は完全に捉えていた。
(はぁ……)
俺は、心の中で深くため息をついた。
(つまり、懐が火の車で、俺の14歳の誕生日を口実に、タダで飲み食いしにたかりに来たわけか)
神界の予算をソシャゲ(月人アイカツ)やエステ代に溶かし、天界のクレジットカードの限度額と毎月死闘を繰り広げているこの駄女神。
誕生日早々、とんでもない貧乏神(物理)を引き寄せてしまったようだ。
(そうは行くかよ。俺の財布の紐は、ロックバイソンの角より硬いんだぜ)
俺は、ルチアナの腕を無言で振り払い、極限の防衛戦(ファミレスでの奢り回避戦)に向けて、密かに脳内の損益計算をフル回転させ始めたのである。
いよいよ始まりました、第15章『駄女神の借金と、マサカ茸の迷宮ツアー』!
14歳の誕生日を迎えたリアンですが、スローライフの道は遠く、さっそく厄介な駄女神ルチアナが「わ」ナンバーの高級レンタカーでタカリにやってきました(笑)。
ドヤ顔で登場するものの、簿記1級のリアンと極貧アイドルのリーザには一瞬でメッキを剥がされるルチアナ。果たしてリアンは、この駄女神のタカリを回避できるのでしょうか?
次回は、底辺アイドル(リーザ)と借金女神の、ルナキン(ファミレス)での涙ぐましい底辺の共鳴(?)をお届けします!
少しでも「ルチアナ見栄っ張りすぎw」「レンタカーは草」「リアンの塩対応最高」と思っていただけましたら、
ぜひページ下部にある【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして評価していただけると、今後の執筆の大きなモチベーションになります!
【ブックマーク】のご登録、感想コメントもいつでもお待ちしております! 次回もお楽しみに!




