EP 30
師弟の絆! 盾となる豚の騎士
『ピピピピッ! 残り時間、5分です! ラストオーダーのお時間となります!』
タロキンの店内に、無慈悲なシステム音声が響き渡った。
タン塩が散り、飲茶が吸い尽くされ、カレーとデザート部隊が全滅した今。魔王軍(9人の暴食獣)の胃袋は、デザートによる『別腹』のバグを経て、完全にリセット(お口直し)されていた。
「おい、リアン。甘いもん食ったら、またしょっぱい肉が食いたくなってきたぞ!」
クラウスが、血走った目で再び箸を握り直す。
「あぁ。じゃあ、〆にあの分厚いハラミと、大盛りの白飯でも食うか」
黒エプロンの死神――魔王リアン・シンフォニアの白銀のトングが、ゆっくりと、そして確実に。
ショーケースの最上段にいるハラミ姫と、巨大な炊飯器の中で震える若き戦士『ご飯(白米)』へと向けられた。
「ヒィィィッ……!」
ハラミ姫が、絶望に身をすくませる。
「もうダメだぁ……っ! 食べられちゃうよぉ……!」
純白のツヤツヤとした身体を震わせ、若き戦士『ご飯』が炊飯器の底で涙を流した。
「……させん」
その時。
絶望の淵に立たされたタロキン王国の最前列に、分厚い脂身の鎧を纏った豚の騎士――トンデモナイトが、かつてないほどの決意を込めて立ち塞がった。
「我らタロキン王国の心臓(ハラミ姫)と、次代を担う若き戦士(ご飯)には、指一本触れさせん……ッ!」
ガキンッ!
リアンの放った死神のトングがハラミ姫を捉えようとした瞬間、トンデモナイトは自らの巨体を投げ出し、トングの刃の間に割り込んだ。
「トンデモナイト!?」
ハラミ姫が悲鳴を上げる。
「姫様……生き延びてください。この90分間……あなたをお守りできたこと、我が豚生の誇りです」
トンデモナイトは、トングに挟まれながらも、ハラミ姫に向かって優しく微笑みかけた。
「ほう。ハラミの代わりに、分厚い豚ロース肉が飛び込んできたか」
リアンは、トングに伝わる重量感に、微かに口角を上げた。
「いいだろう。これだけ分厚ければ、〆の『豚丼』には最高だ。……おいクラウス、白飯を丼に大盛りでよそってこい」
「おう! 任せろ!」
トンデモナイトは、そのまま灼熱のロースター(地獄の業火)へと叩きつけられた。
ジュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!!!
「ぐおおおおおおおおっ!!」
網の熱が、トンデモナイトの分厚い装甲(肉体)を容赦なく焼き焦がしていく。
だが、彼は決して逃げなかった。いや、逃げることなどできなかった。
己がここで最高の状態に焼き上がり、奴らの胃袋を限界まで埋め尽くさなければ、残されたハラミ姫たちに魔の手が伸びてしまうからだ。
「来い、魔王……ッ! 俺の全身全霊の旨味で、貴様らの胃袋に終止符を打ってやる!」
トンデモナイトの身体から、極上の肉汁(汗)が溢れ出し、網の上で香ばしい煙を立ち昇らせる。
「よし、いい焼き加減だ。……仕上げに、俺の特製『ニンニク甘辛ダレ』を絡めてやる」
リアンが、厨房から持ち込んでいた小瓶を取り出した。
それは、醤油と砂糖をベースに、強烈なニンニクとショウガを効かせた、まさに悪魔の秘薬(カロリーの暴力)。
「ご飯、よそってきたぞ!」
クラウスが、巨大な丼に山盛りの『ご飯(白米)』をよそってテーブルに戻ってきた。
「ひぃぃぃッ! ト、トンデモナイトさぁぁぁんっ!」
丼の中で、若き戦士ご飯が恐怖に震えながら叫ぶ。
リアンは、焼き上がったトンデモナイトをトングで持ち上げると、そのままご飯の上へと移動させた。
「仕上げだ。この煮えたぎる甘辛ダレを、上からたっぷりとかけてやる」
リアンが、小瓶のタレをドボドボと注ぎ込もうとする。
「なっ……!?」
宙に浮いていたトンデモナイトの目に、衝撃が走った。
あの煮えたぎる灼熱の特製ダレが直接かかれば、純白で無垢なご飯の身体は、タレの熱と暴力的な味の濃さに耐えきれず、完全に破壊(浸食)されてしまう!
「させん……ッ! ご飯には、一滴たりともそのタレは触れさせんぞォォォッ!!」
トンデモナイトは、己の最後の力を振り絞り、リアンのトングから強引に身を捩って抜け出した。
そして。
巨大な丼の中で震える若き戦士『ご飯』の上へと、自らの分厚い巨体(豚肉)を覆い被さるようにしてダイブしたのだ!
「ト、トンデモナイトさん!?」
ご飯が、突然自分をすっぽりと包み込んだ分厚い肉の鎧に驚き、目を見開く。
バシャァァァァァァァァッ!!!!
「ぐぁあああああああああああああああっ!!!!」
トンデモナイトの背中に、リアンの放った灼熱の『ニンニク甘辛ダレ』が容赦なく降り注いだ。
凄まじい熱と、強烈な塩分。
だが、トンデモナイトは一歩も引かず、その分厚い背中で、すべてのタレの暴力を受け止めたのである。
「ト、トンデモナイトさぁぁんっ! なんで……なんで僕なんかを庇って……っ!」
ご飯が、己の上に覆い被さり、ボロボロ(最高の照り焼き状態)になっていく豚の騎士の胸の中で、大粒の涙を流した。
「……逃げろ、ご飯……」
トンデモナイトは、荒い息を吐きながら、純白の弟子の顔を見つめた。
「安くて硬いと言われ……バイキングの隅で燻っていた、この俺と……まともに口をきいてくれたのは……お前だけだった……」
「トンデモナイトさん……っ!」
タロキンの冷温ショーケース。牛肉ばかりがもてはやされる中、豚肉である自分を慕ってくれた純粋な白米。
トンデモナイトの背中から、極上の豚の脂(肉汁)と甘辛ダレが混ざり合った『最高の旨味』が、ご飯の純白の身体へと優しく染み込んでいく。
それは、師匠から弟子へと受け継がれる、魂(旨味)の継承であった。
「お前の……その純白の艶……絶対に、絶やしてはならない……」
トンデモナイトの顔に、最期の、そして最高に穏やかな微笑みが浮かんだ。
「へへ……。お前といた時間……悪くなかったぜ……」
その言葉を最後に。
トンデモナイトの身体から力が抜け、彼はご飯と完全に一体化し、比類なき一杯の『極上・特製豚丼』へとその身を昇華させた。
「トンデモナイトさああああああんッ!!!!」
ご飯の悲痛な絶叫が、丼の中から(肉たちにだけ)響き渡る。
ハラミ姫も、ショーケースの中で崩れ落ち、声を上げて泣き咽んだ。
誇り高き豚の騎士は、自らの命と引き換えに、次代を担う若き戦士を守り抜いたのだ。
「おぉぉぉっ! めちゃくちゃ美味そうな豚丼の完成だぜ!」
クラウスが、目を輝かせて黄金の箸を突き入れる。
トンデモナイトの肉汁を極限まで吸い込み、最高の状態へと仕上がったご飯と共に、クラウスの巨大な口の中へと運ばれていく。
「……ッ!!」
一口食べた瞬間。
クラウスの動きが、雷に打たれたようにピタリと止まった。
「なんだ……これは……っ!」
クラウスの目から、大粒の涙が溢れ出した。
「豚肉の濃厚な脂、タレのパンチ力、そして……それをすべて優しく包み込む、白飯の圧倒的な包容力! この一杯の丼の中に、完璧な宇宙が完成している……ッ!」
ガツガツガツガツッ! ゴキュッ!
クラウスは、もはや言葉を発することすら忘れ、取り憑かれたように豚丼(師弟の絆)を掻き込み、あっという間に丼を空にした。
「……食った。もう……俺の胃袋には、一粒の米も、一切れの肉も入らねぇ……っ」
クラウスが、大きく後ろにのけぞり、ついにその限界(満腹)を宣言した。
『ピピピピピ! 90分経過。お疲れ様でした!』
その瞬間。
タロキンの店内に、戦いの終わりを告げるブザーが鳴り響いた。
「「「…………っ!!」」」
ショーケースの中で、生き残ったハラミ姫と肉たちが、信じられないというように顔を見合わせた。
「終わった……の?」
「あぁ……魔王軍の動きが、止まった……!」
トンデモナイトの命を懸けた盾(豚丼)は、ついに魔王軍の暴食を食い止め、残り5分という絶望の時間を稼ぎ切ったのだ。
タロキン王国の死闘は、ここに一つの結末を迎えようとしていた。
第9話『師弟の絆! 盾となる豚の騎士』をお読みいただきありがとうございます!
「きさまら……ご飯には指一本触れさせん……!」
やってることはただの『リアンが作った特製豚丼(めっちゃ美味い)』なのですが、トンデモナイト視点で見ると、
タレを全身に浴びて白米を庇い、「お前といた時間、悪くなかったぜ……」と微笑みながらクラウスに食われるトンデモナイト。熱すぎる豚肉の生き様でした。
そして、彼の犠牲(豚丼の圧倒的ボリューム)により、ついにクラウスの胃袋が限界を迎え、90分のタイムアップ!
次回、ついに最終回(第10話)!
生き残ったハラミ姫たちが見た、戦いの後の光景とは? そして、タロキンを食い尽くしたSクラスたちの恐るべき執念とは……!?
「トンデモナイトさあああん!」「ただの豚丼なのに泣けるww」「地の文と現実の温度差で腹筋崩壊した」と少しでも楽しんでいただけましたら、
ぜひページ下部にある【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして評価していただけると、トンデモナイトも浮かばれます!
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