EP 25
哀しき自爆! 餃子の決意(死なないで……トンさん)
ビール部隊の決死の特攻は、最悪の裏目に出た。
アルコールによって意識を刈り取るどころか、駄女神たちの中枢神経を麻痺させ、『酔っ払いの無限食欲』という凶悪なバフを付与してしまったのだ。
「すいませーん! ホルモン盛り合わせ、追加で五人前!!」
ルチアナの凶悪なオーダーにより、最前線に引きずり出されたホルモン部隊。
「俺たちの『いつ飲み込んでいいか分からない無限の弾力』で、タイムアップまで奴らの顎を封じてみせる……ッ!」
彼らは決死の覚悟で網の上に乗り、その身を捩らせながら必死の遅滞戦術に出た。
だが、相手が悪すぎた。
「ふふっ、よく噛むと甘くて美味しいですわ♡」
エルフの次期女王ルナの、自然を愛する純粋無垢な咀嚼力(恐るべき顎の力)。そして、魔王リアンが事前に施していた『隠し包丁』の技術により、ホルモンの無限の弾力はあっけなく噛み切られ、次々と彼女たちの胃袋(闇)へと消えていったのである。
「ホルモン部隊が……全滅しただと……っ!?」
トンデモナイトは、ショーケースのガラスにすがりつきながら、絶望に打ちひしがれた。
「おいリアン、ツマミばっかりじゃ物足りないわ! 次はもっとメインを焼きなさいよ! そう、あのショーケースのど真ん中にいる、分厚くて美味しそうな赤身肉!」
酔っ払ったルチアナが、空のジョッキを片手に、ショーケースのハラミ姫をビシィッ! と指差した。
「ヒィィッ!?」
ハラミ姫が悲鳴を上げ、その場にへたり込む。
「承知した」
リアンが冷酷に頷き、白銀のトング(死神の鎌)をチャキッと鳴らした。
「や、やめろォォォォッ! ハラミ姫には指一本触れさせん!」
トンデモナイトが前に出ようとするが、彼の巨体(分厚い豚肉)は他のトレイに阻まれ、すぐには最前列へ飛び出せない。
トングの刃が、無慈悲にハラミ姫へと迫る。
(ここまでか……っ! 我らタロキン王国は、成す術なく食い尽くされるのか……!)
トンデモナイトが己の無力さを呪い、目を閉じようとした、その時だった。
「待って。僕が……行くよ」
透き通るような、幼くも決意に満ちた声が響いた。
トンデモナイトがハッと目を開けると、サイドメニューの保温ケースから、一人の小柄な戦士が飛び出してきていた。
真っ白でモチモチとした肌(皮)に身を包み、その内側に強烈なニンニクとニラの匂いを秘めた、サイドメニューの暗殺者――『餃子』である。
「餃子!? お前、出る気か!」
トンデモナイトが驚愕の声を上げた。
「ダメだ! お前のその小さな身体で、あのバケモノどもの底なしの胃袋に何ができるってんだ! 飲茶の二の舞になるぞ!」
「違うよ、トンさん」
餃子は、真っ白な皮の顔に、ふっと優しい微笑みを浮かべた。
「僕の武器は、油でも炭水化物でもない。この身体に限界まで詰め込まれた『ニンニクとニラのパンチ力』だ。これを使って……あいつらの味覚(脳)を、直接麻痺させる!」
餃子はそう言うと、テーブルの上に置かれていた小皿――マグマのように赤く煮えたぎる『激辛コチュジャンダレ』の海へと、自らの身を投じた。
「なっ……餃子!? お前、自らタレの中に……っ!」
ズブゥッ……!
純白だった餃子の身体が、激辛のコチュジャンとラー油をたっぷりと吸い込み、燃え上がるような赤色(決死のオーラ)へと染まっていく。
それは、自らの旨味を極限まで引き上げると同時に、相手の味覚を完全に破壊する『自爆攻撃』の構えであった。
「僕のニンニクと、この激辛のタレが胃袋で爆発すれば……いくらバケモノだって、舌と胃粘膜をやられて、もうお肉は食べられなくなるはずだ……!」
餃子は、真っ赤に染まった身体から強烈な匂い(湯気)を立ち昇らせながら、ルチアナの持つ巨大なビールジョッキ、そしてその先にある大きな口元へと向かって、跳躍の姿勢を取った。
「や、やめろ餃子! そんなことをすれば、お前は……ッ!」
トンデモナイトが、ガラス越しに必死に手を伸ばす。
だが、餃子の決意は揺るがなかった。
彼は宙に浮き上がり、ルチアナの口元へとダイブしながら、トンデモナイトに向かって、直接脳内に語りかけるような、透き通った声を送った。
『さよなら……トンさん』
「餃子ぁぁぁっ! やめろォォォォッ!!」
『どうか……焦げないで(死なないで)……』
餃子は、トンデモナイトに向けて最後に小さく微笑みかけると、そのままルチアナの大きく開かれた口の中(暗黒空間)へと、一直線に飛び込んでいった。
パクッ。
「餃子ああああああああああああああああああああああっ!!!!」
トンデモナイトの悲痛な絶叫が、タロキンの店内に(肉たちにだけ)木霊した。
ハラミ姫も、両手で顔を覆って泣き崩れる。
「ああ……なんてこと……! 餃子が、自らの命を賭して、我々を守ってくれた……っ!」
トンデモナイトは、血の涙を流しながら、ルチアナの様子を凝視した。
(やったか……!? 餃子の決死の自爆(激辛ニンニク攻撃)で、奴の味覚は破壊され、もはや水以外は喉を通らなくなったはずだ……!)
ルチアナが、餃子を咀嚼する。
一秒、二秒。
そして。
「ん〜〜〜〜〜ッ!!」
ルチアナの目が、カッ! と見開かれた。
「なにこれ!? ニンニクとニラのパンチが効いてて、めちゃくちゃ美味しいじゃないの! しかもこの激辛のタレが最高に刺激的で……ッ!」
ゴクッ、ゴクッ、ゴクッ、ゴクッ!
プハァァァァァァッ!!
「アツアツの激辛餃子からの、キンキンに冷えた生ビール!! これぞ究極のマリアージュ(無限ループ)ですわ〜〜っ!! すいませーん! 餃子追加で三皿! ビールもおかわりィィッ!!」
ルチアナは、味覚を破壊されるどころか、餃子の自爆によって完全なる『至福の境地』へと達してしまった。
彼女のテンションは最高潮に達し、顔を真っ赤にしてジョッキを掲げている。
「「「…………」」」
ショーケースの中の肉たちは、言葉を失った。
ノーダメージ。
いや、ノーダメージどころか、むしろ餃子の尊い犠牲は、ビールという最強の相棒と結びつくことで、駄女神の無限の食欲に『究極のバフ』をかける結果となってしまったのだ。
「ば……馬鹿な……」
トンデモナイトの巨体が、ガクリと膝をつく。
「餃子の……餃子の命を賭けた一撃が、まったく通じなかったというのか……っ!?」
トレイの上には、餃子が浸かっていた激辛タレの小皿だけが、虚しく残されている。
トンデモナイトは、震える手でガラスを叩いた。
「餃子……! お前といた時間……悪くなかったぜ……ッ!! なのに、お前の犠牲が、奴らの食欲を加速させてしまうなんて……!」
だが、悲しみに暮れている暇はなかった。
「おいリアン! 餃子もいいけど、やっぱり肉よ! さっきのハラミ姫を早く焼きなさい!」
酔っ払い女神の無慈悲なオーダーにより、再びリアンの死神のトングがハラミ姫へと向けられたのだ。
「……くそっ! 肉弾戦も、アルコールも、激辛の自爆も通じないというのなら!」
トンデモナイトは、涙を拭い、決死の覚悟で背後の陣地を振り返った。
「最大のトラップ兵器を使用するしかない! 『カレーライス部隊』と『ご飯部隊』! 前に出ろ! 奴らの胃袋を、質量(炭水化物)で直接押し潰すのだ!!」
もはや搦め手は通用しない。
バイキングの原価クラッシャーを防ぐ最終防衛線、暴力的なまでの『炭水化物』による飽和攻撃が、今、魔王軍へと差し向けられようとしていた。
『哀しき自爆! 餃子の決意(死なないで……トンさん)』をお読みいただきありがとうございます!
「さよなら、トンさん……」からのパクリ。
やってることはただ『餃子を激辛ダレにつけてビールで流し込んだだけ(最高に美味いおつまみ)』なのですが、地の文をシリアスにすればするほど、悲劇の戦記物に見えてくる不思議(笑)。
読者の皆様の脳内でも、某名シーンの透き通った声と悲痛な叫びが再生されていれば幸いです。
そして当然のように、餃子の自爆はルチアナの食欲と酒のペースを加速させるだけの結果に終わりました。魔王軍、恐るべし!
次回はついにバイキングの最強兵器、炭水化物軍団の登場です!
「カレーライスで腹を膨らませろ!」というトンデモナイトの作戦は、果たしてクラウスたちの底なしの胃袋に通用するのでしょうか!?
「餃子あああwww」「やってることただのツマミじゃねぇかw」「地の文が熱すぎて腹痛い」と少しでも楽しんでいただけましたら、
ぜひページ下部にある【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして評価していただけると、餃子も浮かばれます!
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