EP 24
酒池肉林! 酔わせれば勝ちだ(ビール部隊の特攻)
タロキン王国が誇る中華の戦士、飲茶。
彼の命を賭した特攻は、魔獣リーザの『お賽銭箱型掃除機』が放つ無慈悲な吸引力の前になす術もなく吸い込まれ、トレイのくぼみにただ一つのパセリを残すのみという、あまりにも悲惨な結末を迎えた。
「飲茶……っ。お前の残したパセリのポーズ、俺は生涯忘れない……ッ!」
豚の騎士トンデモナイトは、ショーケースのガラスに拳を押し当て、熱き涙を流した。
物理的な満腹感を狙った作戦は通用しない。
魔王軍(9人の暴食獣)の胃袋は、次元の歪みかブラックホールで構成されているとしか思えなかった。
「トンデモナイト……このままでは、我らはただ食い尽くされるのを待つだけ……」
ハラミ姫が、震える声で絶望を口にする。
「いいえ、姫様。希望はまだあります。奴らの『胃袋(物理)』を限界にできないのなら、奴らの『脳(意識)』を直接破壊し、昏睡状態(眠り)へと落とせばよいのです!」
トンデモナイトの鋭い視線が、タロキンの奥深くに鎮座する『ドリンク・サーバー陣地』へと向けられた。
そこで待機しているのは、キンキンに冷えた氷結ジョッキの鎧を纏い、黄金に輝く麦のオーラと、純白のクリーミーな泡を冠した誇り高き戦士たち。
タロキン最強の状態異常部隊――『ビール・アルコール部隊』である。
「おお! その手がありましたか!」
肉たちが歓喜の声を上げる。
「如何に底なしの胃袋を持とうとも、アルコールによる脳への直接攻撃と、炭酸ガスによる胃の膨張は防げないはず! 特にあの『大人組(女神たち)』は、酒を欲しているような顔をしています!」
トンデモナイトは、ビール部隊に向かって厳かに頷いた。
「頼むぞ、ビール部隊! 奴らの肝臓を狙え! 黄金の泡で奴らの意識を刈り取り、夢の世界へと沈めるのだ! 酔い潰して眠らせれば、我々の勝ちだ!」
「お任せを、トンデモナイト殿!」
ジョッキの中で黄金の液体を波立たせ、ビール部隊が勇ましく応えた。
「我らのアルコール度数と、喉越しの炭酸のダブルパンチで、あの憎き魔王軍をテーブルの下に沈めてみせましょう!」
* * *
「すいませーん! 生中、とりあえず五つ! あ、わたくしとカグヤの分はメガジョッキでお願いしますわ!」
テーブル席に陣取っていた駄女神ルチアナが、高らかに右手を上げて店員を呼んでいた。
「おほほほっ! クレカの限度額が残り一千円のわたくしにとって、タダで飲めるお酒ほど美味いものはありませんわ! 今夜はリアン君の奢り(※リーザが店から元を取るつもり)ですから、遠慮なくガンガンいきますわよ!」
「当然ですわ! わたくしのレンタカー代と質屋の借金を忘れるためにも、今夜は浴びるように飲みますの!」
カグヤもまた、扇子をテーブルに叩きつけて血走った目を輝かせている。
(……来たぞ。奴ら自ら、我らを体内に招き入れる気だ)
運ばれてきた巨大なメガジョッキの中で、ビール部隊が密かに闘志を燃やしていた。
(一気に胃袋から肝臓へ侵入し、アルコールを血流に乗せてやる! くらえ、魔王軍!)
「かんぱーい!!」
ルチアナとカグヤがジョッキを派手にぶつけ合い、黄金の液体を勢いよく喉の奥へと流し込んだ。
「ゴクッ……ゴクッ……ゴクッ……! プハァァァァァァァァッ!!」
ルチアナが口元を腕で拭い、至福の吐息を漏らす。
「最高ですわーっ! やっぱり労働(視察)の後のタダ酒は五臓六腑に染み渡りますわね!」
(よし! 第一陣、侵入成功! 続け、第二陣、第三陣! 奴らの肝臓をアルコールで飽和させるのだ!)
ビール部隊の捨て身の特攻は止まらない。
ルチアナとカグヤは、「すいませーん、おかわり!」と、次から次へと運ばれてくるジョッキを、まるで水のように空にしていった。
ショーケースの中から戦況を見守っていたトンデモナイトは、拳を握りしめた。
「効いている……! 奴らのペースは異常だが、あれだけのアルコールと炭酸ガスを摂取すれば、いかなるバケモノといえども無事では済まないはずだ!」
その言葉通り、数杯のメガジョッキを空にしたルチアナとカグヤの顔には、明らかな変化が現れ始めていた。
頬は赤く染まり、目はトロンと据わり、焦点が定まらなくなっている。手元の箸の動きも止まり、ふらふらと上体が揺れ始めたのだ。
「フフ……フフフッ……アハハハハ……」
ルチアナが、意味もなくヘラヘラと笑い出す。
「カグヤちゃぁん……あんたのその扇子、なんかムカつくのよねぇ……ゲヒャヒャッ」
「何を言ってますのルチアナさん……あなたこそ、そのピンクのジャージ、ダサすぎですわよ……ヒック」
明らかな酩酊状態。脳の機能がアルコールによって麻痺し、意識が混濁している証拠である。
「勝った……ッ!」
トンデモナイトが歓喜の叫びを上げた。
「ビール部隊の決死の特攻が、ついに魔王軍の幹部(女神)の意識を刈り取ったぞ! さぁ、そのままテーブルに突っ伏して眠りにつくがいい!」
肉たちが、「やったぞ!」「これで勝機が見えた!」と歓声(※人間には聞こえない)を上げる。
だが。
彼らは、知らなかった。
神界の予算を使い果たし、ストレスとアルコールに溺れた駄女神たちが、酔っ払った時にどのような『最悪の生態』を引き起こすのかを。
「……ねぇ」
突如。
トロンとしていたルチアナの目が、カッ! と見開かれ、獲物を狙う猛禽類のような鋭い光を放った。
「ヒック……。おい、リアン。……酒ばっかりで、全然ツマミが足りないじゃないのよぉぉっ!!」
バンッ!!
ルチアナが、空になったメガジョッキをテーブルに叩きつけた。
「な、なんだと!?」
勝利を確信していたトンデモナイトの顔が、恐怖に引き攣る。
「そうですわ! お酒を飲んでいたら、無性に塩気のあるものや、脂っこくて噛みごたえのあるものが食べたくなってきましたの!」
カグヤもまた、血走った目でロースターの網を睨みつける。
「薄っぺらいタン塩じゃ物足りませんわ! もっとこう、酒に合う、濃厚でジャンクなお肉! そうよ、ホルモンよ! ホルモンを網に乗せなさいホルモンをォォォッ!!」
「「「…………え?」」」
ショーケースの中の肉たち、そしてホルモン部隊が、一斉に顔面を蒼白にさせた。
そう。アルコールは彼女たちの意識を刈り取るどころか、中枢神経のストッパーを破壊し、満腹中枢を完全に麻痺させてしまったのだ。
アルコールによる糖分の消費と、塩分を欲する生理的欲求。それらが複雑に絡み合い、駄女神たちに『酔っ払いの無限食欲(底なしのバフ)』という最悪のステータス異常を付与してしまったのである。
「すいませーん! ホルモン盛り合わせ、追加で五人前!! ニンニクと味噌ダレたっぷりでね!」
ルチアナが、狂ったようなテンションで追加注文のボタンを連打する。
「ば、馬鹿な……! アルコール部隊の犠牲が、奴らの食欲の暴走(火に油を注ぐ結果)を招いてしまったというのか……ッ!」
トンデモナイトは、サンチュのマントを握りしめ、愕然とその場に崩れ落ちた。
「ひぃぃぃッ! 俺たちが、俺たちが次の標的だぁぁっ!」
保温ケースの奥で控えていたホルモン部隊が、恐怖に震え上がりながらパニックに陥る。
「落ち着け、ホルモン部隊!」
トンデモナイトが悲痛な声で叫んだ。
「こうなったら、お前たちの『いつ飲み込んでいいか分からない無限の弾力』で、タイムアップまで奴らの顎を封じて時間を稼ぐしかない! 頼む、耐え抜いてくれ……ッ!」
ビール部隊の誇り高き特攻は、最悪の裏目に出た。
覚醒してしまった酔っ払い女神たち(暴食獣)の前に、次なる生贄として引きずり出されたホルモン部隊。
絶望に染まるタロキン王国で、タレと脂が焦げる凄惨な戦いが、さらなる激しさを増して幕を開けようとしていた。
第4話『酒池肉林! 酔わせれば勝ちだ(ビール部隊の特攻)』をお読みいただきありがとうございます!
トンデモナイトの放った次なる刺客は、キンキンに冷えたビール部隊! アルコールで大人組(ルチアナ&カグヤ)の意識を刈り取る完璧な作戦……のはずが、駄女神たちに「酒」を与えたのが運の尽きでした(笑)。
満腹中枢をぶっ壊し、「ツマミが足りないわ!」と暴走する『酔っ払いの無限食欲バフ』。ビール部隊の捨て身の特攻は、完全に火に油を注ぐ最悪の起爆剤になってしまいましたね。
次回、ついにハラミ姫にまで箸が伸びようとする大ピンチ!
そこに立ち上がるのは、小さなサイドメニューの戦士『餃子』!
「トンさん……死なないで……っ」
涙なしには語れない(?)、某名シーンのパロディが炸裂します!
「ルチアナたち迷惑すぎるww」「ビール部隊の特攻が裏目に出たw」「地の文がシリアスで腹痛い」と少しでも楽しんでいただけましたら、
ぜひページ下部にある【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして評価していただけると、ビール部隊の泡も浮かばれます!
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