EP 21
魔王軍(9人の暴食獣)襲来! タロキン王国崩壊の序曲
ルナミス帝国が誇る、巨大にして無慈悲な大衆向け焼肉バイキングチェーン『タロキン』。
その店内の中央に鎮座する、冷気で満たされた巨大なクリスタル・パレス(冷蔵ショーケース)。そこは、数多の肉たちが肩を寄せ合い、出荷された己の運命を受け入れながら平和に暮らす、美しくも静寂に包まれた『肉の王国』であった。
「トンデモナイト……私、なんだかとても怖い……。外の空気が、いつもと違う気がするの……」
ショーケースの最上段。
美しくきめ細やかなサシの入った赤身のドレスを纏う、気高くも繊細な王女――『ハラミ姫』が、冷気に身を震わせながら呟いた。
その隣に寄り添い、彼女を庇うように立つのは、分厚く頼もしい脂身の鎧を纏った一人の騎士。誇り高き豚肉の戦士、『トンデモナイト』である。
「ご安心を、ハラミ姫。このタロキンの聖域に、どのような野蛮な客が来ようとも……我ら肉の誇りは決して奪わせません。いざとなれば、このトンデモナイトの分厚い肉体が、真っ先に網の上の盾となりましょう」
トンデモナイトは、サンチュの葉で作られたマントを翻し、力強く誓った。
肉たちにとって、客に食べられること自体は悲劇ではない。適正な温度の網で焼かれ、己の旨味を最大限に引き出されて、満足げな笑顔と共に胃袋へ収まること。それこそが、彼ら食材にとっての至上の喜びであり、本望なのだ。
だが、トンデモナイトの動物的な直感(豚の嗅覚)は、先ほどから店の入り口付近に漂う『異常な気配』を察知し、激しく警鐘を鳴らしていた。
あれは、ただの「お腹を空かせた客」の気配ではない。
まるで、世界のすべての命を喰らい尽くそうとする、地獄の底から這い出た『暴食の魔獣』のような――。
ウィィィィン……。
その時。
タロキンの自動ドアが、まるで冥府の門のように重々しい音を立てて開いた。
『いらっしゃいませー! 食べ放題90分コース、九名様ご案内でーす!』
能天気な店員の掛け声と共に、ショーケースの前に姿を現した九つの影。
「「「…………っ!!」」」
その瞬間、ショーケースの中にいた全ての肉たちが、本能的な恐怖に凍りついた。
泥だらけのジャージや農作業着を身に纏い、目は血走り、口からは飢えた獣のように白い息を吐き出している六人の少年少女たち。
ポポロ村での過酷な農業合宿(泥まみれのブートキャンプ)を経て、極限まで肉体を酷使し、基礎代謝をバケモノレベルまで引き上げられたルナミス学園Sクラスの面々。
さらにその後ろには、神界の予算を使い果たし、完全に『タダ飯』を食らいに来た三柱の女神たち(ルチアナ、カグヤ、リリス)が、腹の底から鳴る雷鳴のような腹の虫の音を響かせながら立っていた。
肉たちから見れば、それは紛れもない『邪悪な魔王軍』の襲来であった。
「ハァ……ハァ……! 肉だ……! ついに、泥と野菜の生活から解放されて、本物の肉が食えるんだ……ッ!」
長身の騎士クラウスが、ショーケースにへばりつくようにして目を血走らせている。その眼光は、もはや高潔なノブリス・オブリージュのそれではなく、ただ血肉を求める餓狼のものである。
「すっごぉーい! お肉の山だよぉ! これ全部食べていいの!? 全部あたしの胃袋に入れちゃっていいの!?」
ウサギ耳のキャルルが、ショーケースのガラスをバンバンと叩きながら狂喜乱舞する。
「おほほほっ! クレジットカードの残高が一千円しかないわたくしにとって、リアン君のおごりによる食べ放題はまさに神の恵み! 今日は限界まで腹に詰め込ませてもらうわよ!」
ルチアナが、ピンクの芋ジャージの袖をまくり上げ、神気ではなく強烈な食欲のオーラを立ち昇らせる。
「当然ですわ! わたくしのレンタカー代を節約するためにも、ここで三日分のカロリーを摂取しておきませんと!」
カグヤが扇子を構えながら、獲物を狙う鷹のような目で肉たちを値踏みした。
トンデモナイトは、彼らから放たれる凄まじい『殺気(食欲)』に、思わず一歩後ずさった。
(な、なんだコイツらは……! ただの人間ではない! 奴らの放つ気(カロリーの許容量)が、底を知れん……ッ!)
だが、肉たちの絶望はそれだけでは終わらなかった。
「五円! 御縁! ハイッ!!」
ズズズズズズズッ……!
という不気味な重低音と共に、陣形の横から飛び出してきたのは、お賽銭箱型掃除機を引きずった小柄な人魚姫――リーザだった。
彼女の瞳孔は完全に開き、両目には黄金のドルマーク(ルナミス通貨)がバキバキに浮かび上がっている。
「聞きまして!? 食べ放題、90分コースですわ! つまり、この制限時間内に、支払った九人分の金額の『元』を完全に回収し、さらには店の利益をマイナスに叩き込むまで胃袋に詰め込めば、実質的にわたくしたちがタロキンからお金を奪い取ったのと同じ(錬金術)ということですのォォォッ!!」
リーザが、お賽銭箱の吸引ノズルをショーケースに向けながら、最悪の『侵略宣言』を絶叫した。
「ヒィィィッ!? 姫様、お下がりください! あの女、我々を『命』ではなく『原価(金)』としか見ておりません!」
トンデモナイトが、震えるハラミ姫を背中に隠して叫ぶ。
「あ、あの掃除機のノズルから、恐ろしい吸引力を感じます……! ショーケースごと吸い尽くされる気ですわ……っ!」
ハラミ姫が、悲鳴を上げて身を寄せた。
「わーお! リスナーのみんなぁ! 今日はタロキンで『限界焼肉バトル・90分で店を赤字にできるか!?』の生配信だよぉ!」
上空では、キュララが自撮りドローンを飛ばし、この無慈悲な大虐殺の様子を宇宙全土へ中継する準備を整えていた。
「ふふっ、お肉さんたち、とっても美味しそうですわね。残さず全部、自然の恵みに感謝していただきますわ♡」
エルフの次期女王ルナが、ふんわりとした笑顔で呟く。その純粋無垢な笑顔が、肉たちにとっては逆に最も底知れぬ狂気(底なしの胃袋)を感じさせていた。
そして。
この暴食の魔王軍を束ねる、真の『支配者』が、ゆっくりとショーケースの前に歩み出た。
「……おいお前ら。タロキンのルールは分かってるな」
低く、冷酷な声。
黒いエプロンを纏い、右手には白銀に輝く『トング(死神の鎌)』を持った男――リアン・シンフォニア。
「90分一本勝負だ。網の上のスペースは一寸たりとも無駄にするな。焼けたら一秒で食え。焦がした奴は俺がマグナギアで腹をかっ捌く」
リアンは、トングの先端をカチャッ、カチャッ、と鳴らしながら、ショーケースの中の肉たちを、一切の感情を持たない『三ツ星シェフの冷徹な目』で舐め回した。
「片っ端から網に乗せろ。……地獄の業火を点火しろ」
カチッ。
ボォォォォォォォォォォォッ!!!!
リアンの号令と共に、彼らの座る巨大なテーブルのロースターから、赤い火柱(灼熱の処刑場)が猛烈な勢いで噴き上がった。
それは、タロキンの平和な肉の王国に終わりを告げる、絶望の狼煙であった。
「……来るぞ、お前たち!!」
トンデモナイトが、ショーケースの最前列で剣(己のプライド)を構え、背後に控える従者たち――タン塩、飲茶、餃子、ご飯たちに向かって悲痛な叫びを上げた。
「奴らは我々を味わう気などない! ただ胃袋を膨らませ、店の原価を貪るための燃料としか見ていない外道だ! だが、我らにはタロキンの食材としての誇りがある!」
トンデモナイトの叫びに、ショーケースの仲間たちが一斉に震え上がった。
「網の上は戦場だ! 容易く飲み込まれるな! 奴らの顎を砕き、胃袋を破壊し、90分のタイムリミットまで、ハラミ姫を……我らが王国を守り抜くのだぁぁぁぁっ!!」
『ウオォォォォォォォォォォォォォッ!!』
肉たちの悲壮な決意の雄叫び(※人間には聞こえない)がショーケース内に響き渡る。
しかし、リアンのトングはすでに、無慈悲な速度でショーケースの扉を開け放っていた。
Sクラスのバケモノたちと、神界の駄女神たちによる、合計九人の暴食の黙示録。
血で血を洗う、いや、脂で脂を洗う凄絶な『焼肉デスマッチ』の幕が、今まさに切って落とされたのである。
いよいよ始まりました、『焼肉バイキング・タロキンの死闘(90分の黙示録)』!
今回は視点を変えて、食べられる食材側の目線から、Sクラス+女神たちの恐ろしさを、少年漫画の死闘のごとくシリアスかつ熱く(?)お届けします!
圧倒的な食欲と「元を取る」という邪悪な執念で迫る魔王軍に対し、ハラミ姫を守るため、タン塩、飲茶、餃子、ご飯といった誇り高き戦士たちが、どのような散り様を見せるのか。
パロディ全開、バカバカしさ限界突破の熱い網の上の戦いにご期待ください!
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次回、先陣を切るタン塩の過酷な運命をお楽しみに!




