EP 19
女神のダブルラリアットと最悪の魔導野菜(ガーリッ君)
ポポロ村の夜空に、この世の終わりを告げるような『ピキィィィン!』という亀裂音が響き渡っていた。
大宇宙管理局のトップである創造神ユニーバと、武闘派上司の銀河神カケル。
彼らの最大のタブー(年齢のサバ読みと、お茶へのハゲ唾混入)を、一億人が視聴するゴッドチューブの生配信で暴露してしまったオリン。
その怒りは次元の壁すら引き裂き、割れた夜空の奥には、今まさにアナステシア世界(特にポポロ村)をチリ一つ残さず消し飛ばそうとする、数千隻の銀河艦隊の主砲の光がギラギラとチャージされ始めていた。
『おいおいおい、空が割れてるぞ!?』
『銀河戦艦の次元主砲じゃねぇか!!』
『カケル様がガチでキレたwww 世界終わるwww』
『逃げろ! 配信なんか見てる場合じゃねぇ!』
ゴッドチューブのコメント欄も、笑いから一転して『本物のパニック』へと陥っていた。
だが、元凶であるオリンは、七色に輝く頭頂部から確定音を鳴らし続け、完全に恍惚とした表情で夜空を見上げていた。
「フハハハハハッ! 見よ、宇宙が私の真実に震えている! さぁ、次は誰の秘密を暴露してやろうか! 銀河神カケルのパソコンの検索履歴か!? それとも――」
「「やめろぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!」」
オリンが次なる破滅の言葉を紡ごうとしたその瞬間。
これまで確変の『絶対防御バリア』に阻まれ、手も足も出なかったルチアナとカグヤが、血走った目でオリンの左右から同時に跳躍した。
「世界を! わたくしたちの推し活とレンタカーの走る世界を滅ぼす気かァァァァッ!!」
二柱の女神の腕が、オリンの首めがけて凄まじい勢いで振り抜かれる。
プロレス技の極意にして、怒りの物理攻撃――『ダブルラリアット』だ。
「無駄だポンコツ共! 今の私は確変状態の無敵――あ、あれ?」
オリンが鼻で笑おうとした、まさにその刹那だった。
彼の頭上で激しく鳴り響いていた確定音『キュイイーン!』という音が、突如としてプツンと途切れ、七色の後光がスゥッと色褪せたのだ。
(……パチンコの大当たり(ラウンド)が、終了した……!?)
俺は厨房からその光景を見て、確信した。
いかなる無敵状態にも『終わりの時間』は存在する。リーザのふ〜ん石が引き起こしたコメディの法則が、「ここぞ」という最悪(最高)のタイミングでオリンの無敵バリアを強制解除したのだ。
ドッゴォォォォォォォォンッ!!!!
「おげぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」
バリアが消失したオリンの首元に、二柱の女神のフルスイングのダブルラリアットが、寸分の狂いもなくクリーンヒットした。
強烈な打撃音と共に、大宇宙管理局のトップの体が、コマのように回転しながらポポロ亭の座敷を横っ飛びに吹っ飛んでいく。
そして、壁をぶち抜き、庭の泥山に顔面から激突してようやく停止した。
「ハァ……ハァ……! やったわ……!」
ルチアナが、肩で息をしながらガッツポーズを決める。
「……う、うぅ……っ。まだだ……まだ、言い足りない……ッ!」
だが、オリンは泥だらけになりながらも、ゾンビのようにユラリと立ち上がった。
ダブルラリアットの物理的ダメージは甚大だが、彼の胃袋の中にある『暴露鯛の大トロ』の呪いは、まだ完全に消化されていなかったのだ。
「ウソでしょ!? あんな一撃を食らってまだ喋る気なの!?」
カグヤが絶望の声を上げる。
「リアン!! 早く! 早くあのハゲに『落とし前』の料理をぶち込んでちょうだい!! 星が消し飛ぶまであと十秒もないわよ!!」
ルチアナが、厨房にいる俺に向かって悲痛な叫びを上げた。
「……分かってるよ。最高の『蓋』を用意してやる」
俺は、まな板の前に立ち、魔法ポーチの奥底から『厳重に何重にも封印されたタッパー』を取り出した。
ガチャン、プシュッ!
真空パックの封を切った瞬間、ポポロ亭の厨房に、まるで『三日間風呂に入っていない中年の酔っ払いの息』と『腐敗した硫黄』を混ぜ合わせたような、致死量の異臭が爆発的に広がった。
「うげぇぇぇっ!? く、臭ぁぁぁいっ!!」
「リアン様! なんですのこの終わっている匂いは! ゴミ捨て場よりも酷いですわ!」
キュララとリーザが、鼻をつまんで床にうずくまる。
「よぉよぉ! お呼びかい、シェフのお兄さん!」
タッパーの中から転がり出てきたのは、一つの『巨大なニンニク』だった。
だが、ただのニンニクではない。表面にオッサンのような濃い顔が浮かび上がっており、ニチャァッとしたウザい笑みを浮かべて喋りかけてきたのだ。
「俺を呼んだってことは、今夜はスタミナ満点の夜を過ごしたいってことかい? おいおい、俺を食べちゃうのかい? 俺を食べたら、明日から一週間は女の子とキスできなくなっちゃうぜぇ〜? ぐへへへへっ!」
これこそが、ポポロ村の奥地で極稀に収穫される最悪の魔導野菜――『ガーリッ君(喋るガーリック)』である。
強烈すぎる口臭と、絶妙にイラッとくるウザ絡みを標準装備した、取扱注意の劇物。
「うるさい。少しだけだ」
俺は、一切の感情を排した冷酷な三ツ星シェフの目つきになり、巨大な『おろし金』を構えた。
「え? ちょ、ちょっと待って! お兄さん、目がマジだよ! 包丁で切るんじゃなくて、すりおろす気!? すりおろしたら、俺の中の細胞が破壊されて、ニオイ成分が限界突破しちゃうよ!? やめっ、痛い痛い痛い痛い!!」
シャコシャコシャコシャコシャコシャコッ!!!!
俺は、ガーリッ君のウザい命乞いなど一切無視し、目にも止まらぬ神速の包丁術……ならぬ『すりおろし術』で、彼を情け容赦なく粉砕していった。
「あーっ! 俺の濃厚なエキスがぁぁっ! お口の治安が完全に崩壊しちゃうよぉぉぉっ!! 誰かぁぁっ、労働基準監督署ぉぉぉっ!!」
ガーリッ君の断末魔の叫びと共に、まな板の上には、見るも恐ろしい『黄色味がかった強烈なニンニクのすりおろしペースト』が、山のように完成した。
その匂いだけで、空を飛んでいた虫がバタバタと墜落していくほどの破壊力である。
「よし、完成だ」
俺は、その『ガーリッ君のすりおろし(致死量)』を小鉢にてんこ盛りにし、オリンの元へと駆け出した。
* * *
「フフフ……さぁ、聞け! 全宇宙の民よ! 続いての暴露は、銀河神カケルが密かに集めている恥ずかしいコレクションの――」
庭の泥山で立ち上がり、空の亀裂(銀河戦艦)に向かって、オリンが再び致命的な言葉を放とうと大きく口を開けた、その瞬間。
「客の要望だ。残さず食えよ」
俺は、オリンの背後からマグナギアのブーストを使って跳躍し、彼が大きく開けた口の中へ――小鉢にてんこ盛りにした『ガーリッ君のすりおろし』を、器ごとダイレクトに叩き込んだ。
「ごふッ!?」
ズッポリと口の奥深くまで入り込んだ強烈なニンニクペースト。
一瞬の間の後、オリンの脳髄を『物理的な衝撃』が貫いた。
「オ……オォォォォォ……ッ!?」
オリンの両目が、限界まで見開かれた。
辛い。痛い。そして何より――『臭い』。
細胞を破壊され、怒りと共に活性化しきったガーリッ君のアリシン成分が、オリンの口腔粘膜、鼻腔、そして胃袋へと、容赦なく襲いかかったのだ。
暴露鯛が引き起こしていた『秘密を言いたい』という強烈な衝動が、それを一万倍上回る『口の治安崩壊(臭すぎて口を開けられない)』という物理的かつ精神的な苦痛によって、完全に上書きされていく。
「オボロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロッ!!!!」
オリンは、口を両手で必死に押さえながら、この世のものとは思えない絶叫(くぐもった声)を上げた。
少しでも口を開けば、自分自身の致死量の口臭で気絶してしまう。
もはや、大宇宙の秘密を暴露するどころの騒ぎではない。呼吸をすることすら命がけの、一人地獄の釜状態に陥ったのだ。
「……よし。これで口は完全に塞がったな」
俺はエプロンをパンパンと払い、安堵の息を吐いた。
オリンが完全に沈黙(悶絶)したことで、空の亀裂の奥からこちらを狙っていた銀河艦隊の主砲のチャージ光が、スゥッと消えていく。
『……これ以上、上司の無様な姿を見せられるのも限界だ。全艦隊、撤収!!』
という、カケルの疲労困憊の声が次元の彼方から響き、夜空の亀裂は嘘のように塞がっていった。
『wwwwwwwwwww』
『まさかのニンニク物理封印wwww』
『オリン様、口押さえてのたうち回ってて草』
『神々の暴露大会、最高のオチだったわww』
『赤スパ100万円!! ポポロ村最高!!』
キュララのゴッドチューブの配信画面では、かつてない桁数のスパチャと、数億人規模の同接を記録したまま、コメント欄が狂喜乱舞のお祭り騒ぎとなっていた。
「終わった……。わたくしたちの……世界が、守られたのね……ッ!」
ルチアナが、その場にへたり込んで安堵の涙を流す。
「ええ……。代償として、わたくしたちの威厳とプライドは、宇宙のチリとなりましたけれど……」
カグヤが、白目を剥きながら空虚な声で呟いた。
かくして、大宇宙管理局のトップによるポポロ村視察は。
リーザの『ふ〜ん石』が引き起こした不運と、俺の『暴露鯛』、そして『ガーリッ君』が織りなす最悪のピタゴラスイッチによって、宇宙史に残る伝説の炎上配信として幕を閉じることとなったのである。
「もぐもぐ……リアンさん、このニンニク、お肉に乗せたら絶対美味しいと思いますぅ」
全てが終わった後も、リリスだけが一人、残ったガーリッ君の欠片を箸でつまみながら、無邪気な感想を漏らしていたのだった。
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