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EP 18

大宇宙管理局の逆鱗(天界の崩壊)

 七色の後光(レインボー確定演出)を背負い、パチンコの激アツ確定音を頭頂部から鳴り響かせるハゲの男神・オリン。

 ルチアナとカグヤによる渾身の殺意(極大魔法)すらも、確変状態の『絶対防御オーラ(無敵時間)』によって完全に弾き返した彼は、もはや誰にも止められない無敵の暴露マシーンと化していた。

「や、やめろオリン様! それ以上はダメですの!」

「世界が! アナステシア世界が物理的に消滅しますわ!」

 ルチアナとカグヤが、なりふり構わずオリンのジャージの裾にしがみつく。

 先ほどまでの「自分たちの横領や裏垢がバレて恥ずかしい」といった次元の話ではない。オリンの血走った視線が向いているのは、自撮りドローンのカメラのレンズの奥。

 すなわち、ゴッドチューブの配信をモニタリングしているであろう、大宇宙の『絶対的上位者』たちなのだ。

「フハハハハハッ! 離せポンコツ共! この全能感、このカタルシス! 胃薬を噛み砕くしかなかった私の中間管理職としてのストレスが、今、宇宙を駆け巡る大暴露となって昇華されるのだぁぁぁっ!」

 オリンは、すがりつく二柱の女神を虹色のオーラで弾き飛ばし、カメラに向かってビシィッ! と指を突きつけた。

「まずは君だ! 大宇宙管理局・第2種銀河創造神格公務員!! 銀河神カケル君!!」

 ――ヒュッ、と。

 ポポロ亭の座敷の温度が、一気に絶対零度まで下がった気がした。

 銀河神カケル。

『銀河ギラギラ伝説』を愛読し、ノリは軽いが怒らせれば銀河の一つや二つを簡単に消し飛ばすという、天界の武闘派エリート上司である。

「君が以前、我々世界神のオフィスへ抜き打ちの視察にやって来た時……! 私がへこへこと愛想笑いを浮かべながら出した、あの上等な玉露のお茶!」

 オリンの口角が、ニチャァッと吊り上がった。

「実は厨房でお湯を注ぐ時、思いっきり私の『唾』を吐き入れておきましたぁぁぁっ!!」

「「「…………え?」」」

 俺も含め、その場にいた全員の顔が引き攣った。

 暴露の内容が、神の所業とは思えないほどに『チンピラの下っ端』すぎる。

「さらにだ! 応接室に飾ってある、君が愛機『ペガサスシューター』の前でドヤ顔でキメているあの写真入り額縁! 腹が立ったので、誰もいない深夜に残業している時、右ストレートをかましてガラスにヒビを入れてやりました!! 今も透明なセロハンテープで巧妙に誤魔化してあります!!」

『うわぁぁぁぁぁぁ……』

『上司のお茶に唾www 昭和のヤンキーかよww』

『やってることが絶妙にセコくて草』

『これカケル様が見てたらガチで終わるやつやん』

 ゴッドチューブのコメント欄すらも、笑いを通り越して「あ、これアカンやつだ」というドン引きの空気に包まれ始めた。

「まだまだぁぁっ!! こんなものでは終わらんぞ! いよいよ本命だ!!」

 オリンの七色の頭頂部が、さらに明度を上げ、もはや直視できないほどの閃光を放ち始めた。

「や、やめてぇぇぇぇっ! オリン様、それだけは絶対に口にしちゃダメェェェェッ!!」

 ルチアナが顔面を涙と鼻水でぐしゃぐしゃにしながら絶叫するが、オリンの耳にはもう何も届いていない。

「大宇宙の頂点! 全てを統べる最上位存在! 第1種宇宙創造神格公務員!! 創造神ユニーバ様ぁぁぁぁっ!!」

 オリンは、ついに『神々の禁忌タブー』の扉を蹴り破った。

「永遠の少女を自称し、マイタンブラーでアップルティーを飲みながら、執務室で可愛い猫動画ばかり見て仕事をサボっていますが……!!」

 ゴクリ、と。宇宙全土の一億人のリスナーが息を呑む。

「年齢をサバ読んでますねぇぇぇっ!? 『四捨五入』と言い張っていますが、宇宙誕生からの兆単位の年齢の、下の桁を強引に『切り捨て』て誤魔化しているだけです!! 本当はもう、立派な〇〇〇億歳を越えたオバ――」

「ぎゃあああああああああああああっ!!!!」

 ルチアナとカグヤの絶叫が、オリンの言葉の最後を掻き消した。

     * * *

 その頃。

 次元の彼方。大宇宙管理局の上層部エリア。

 ――第一室(創造神の執務室)。

「…………にゃ、にゃぁぁぁぁぁぁぁんっ!!??」

 最高級のフカフカのソファに座り、マイタンブラーでアップルティーをすすりながら、空間モニターで『ゴッドチューブ』を眺めていた創造神ユニーバは、口から盛大に紅茶を噴き出した。

 彼女の膝の上で丸くなっていた天界猫が、驚いて飛び退く。

「わ、私サバ呼んでないもん!!」

 ユニーバは、涙目でモニターの向こうのオリン(ハゲ)に向かって叫んだ。

「ちょっと1億年単位で四捨五入しただけだもん! 永遠の少女だもん! 乙女のデリケートな秘密を、一億人の前で大声で暴露するなんて……セクハラだよ! 宇宙規模のモラハラだよぉぉぉっ!!」

 普段は温厚で、猫動画を見ると宇宙の仕事が麻痺するほどのんびり屋の彼女の周囲に、次元を歪めるほどの『恥ずかしさと怒りのプレッシャー』が渦巻き始める。

 そして――第二室(銀河神の執務室)。

 バキィィィィンッ!!!!

 執務机が、ただの一撃で粉々に粉砕された。

 立ち上がったのは、長身で精悍な顔つきをした銀河神・カケル。彼のこめかみには、太い青筋が何本もビキビキと浮き出ている。

「……唾、だと?」

 カケルの口から、地を這うような低い声が漏れた。

「俺が世界神の連中を労うために、わざわざ差し入れまで持って出向いた視察の時に……俺が『美味いな、オリン。お前の淹れる茶は最高だ』と褒めて飲み干したあの玉露に……てめぇの汚いハゲ唾が入ってたってのかァァァァッ!!??」

 怒髪天を衝くとはこのことだ。

 さらに、カケルの背後に控えていた天人族あまとぞくの秘書が、震える声で報告する。

「カ、カケル様! 先ほど世界神オフィスの応接室を確認させたところ……カケル様がペガサスシューターと共に写っている一番のお気に入り写真の額縁に、確かに右ストレートのヒビと、セロハンテープの補修跡が確認されました!」

「あのクソハゲェェェェェェェェッ!!!!」

 カケルの咆哮が、大宇宙管理局のフロア全体をビリビリと震わせた。

「許さん……! 断じて許さんぞ! 上司の茶に唾を吐くなど、銀河ギラギラ伝説の帝国軍の三下でもやらんような卑劣な真似を……ッ!」

 カケルは、漆黒の軍服風のコートを翻し、執務室を飛び出した。

「全艦隊、出撃準備ィ!! 銀河戦艦『グラン・ペガサス』の次元主砲を起動しろ! 目標、アナステシア世界、ポポロ村! あの確変ハゲごと、星をチリ一つ残さず次元の彼方へ消し飛ばしてやるゥゥゥゥッ!!」

     * * *

「「「…………」」」

 再び、ポポロ亭の宴会場。

 オリンがすべての真実(上司の怒りのトリガー)を暴露し終えた直後。

 窓の外――ポポロ村の上空に、異変が起きた。

 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ……!!

 夜空が、突如として『血のような真っ赤な色』に染まったのだ。

 そして、星々が瞬く天球に、巨大なガラスにヒビが入るような『ピキィィィン!』という亀裂が走り始めた。

「な、なんだ!? 空が割れているぞ!」

 クラウスが窓の外を指差し、大剣を抜いて身構える。

「まさか、これが伝説に聞く次元崩壊か!? 己の保身を捨て、すべての真実を暴露したオリン様の高潔なる魂に、宇宙が共鳴しているというのか!」

「違うわよこのポンコツ騎士ィィッ!」

 ルチアナが、髪を振り乱しながら絶叫した。

「怒ってるのよ! ユニーバ様とカケル様が、ガチでブチギレて、アナステシア世界に宇宙戦艦でカチコミをかけてこようとしてるのよぉぉぉっ!!」

 空の亀裂の奥から、数千隻の銀河艦隊のシルエットと、次元を焼き尽くす主砲のチャージ光が漏れ出し始めている。

 神々の怒りは、比喩でもなんでもなく、物理的な『星の消滅』を意味していた。

「あわわわわ……! り、リアンさん! 創造神様からの緊急アラートが鳴りっぱなしですぅ! 『今すぐあのハゲを黙らせないと、世界をリセットする』って!」

 リリスが、激しく振動して真っ赤に光るエンジェルすまーとふぉんを抱きしめて泣き叫ぶ。

「五円! 御縁! ……ハッ!? 星が消滅したら、わたくしの稼いだスパチャも電子の海に消えてしまいますの!? それだけは絶対に阻止しなければなりませんわ!」

 リーザが、自分の引き起こした事態(ふ〜ん石)の責任を完全に棚に上げ、お賽銭箱を抱きしめて青ざめた。

「…………ハァ」

 俺は、額に手を当て、本日何度目か分からない深いため息をついた。

 リーザの『ふ〜ん石』が引き起こした不運と、俺が提供した『暴露鯛』の相乗効果。

 それがまさか、宇宙のトップをブチギレさせ、次元艦隊の総攻撃を招く事態にまで発展するとは。まさに神をも呪い殺す、究極のピタゴラスイッチだ。

「フハハハハ! 見よ、空が割れる! 大宇宙が私の真実(暴露)に震えているのだ! 私は自由だぁぁぁぁっ!」

 一方の元凶であるオリンは、七色に光る頭でバンザイのポーズを取り、完全なトランス状態に陥っている。

 確変の無敵バリアが張られているため、彼だけは宇宙戦艦の主砲を食らっても生き残るだろうが、ポポロ村やルナミス帝国は跡形もなく消し飛ぶ。

「……仕方ねぇ。こうなったら、力技でその『口』を塞ぐしかねぇな」

 俺はエプロンの紐をキツく締め直し、厨房の奥へと足を踏み入れた。

 マジックアイテムの貯蔵庫。その一番奥に封印している、ある『最悪の野菜』を取り出すために。

「ルチアナ! カグヤ! お前らはオリンを押さえつけとけ!」

「無駄よ! あのハゲ、確変状態のバリアで魔法も物理も全部弾き返すのよ!?」

「外からの攻撃は弾くかもしれないが……『口の中』に直接ぶち込む料理は防げねぇだろ!」

 俺の言葉に、絶望していた女神たちの顔に一筋の光が差した。

「り、リアン君! 一体何を作るつもりですの!?」

 ルナが心配そうに尋ねる。

「……あいつに、最高の『落とし前』を食わせてやる」

 俺の手には、魔法の密閉容器に入れられた、強烈な口臭とウザ絡みを具現化した最悪の魔導野菜――『ガーリッ君(喋るガーリック)』が握られていた。

 宇宙崩壊のタイムリミットまで、あとわずか。

 三ツ星シェフの腕(と殺意)を懸けた、最後の調理が始まろうとしていた。

読んでいただきありがとうございます。

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