EP 16
育毛剤ショック(株価大暴落の夜)
「実は!! 私は、こっそりと『育毛剤』を使用しているんですぅぅぅぅぅぅぅぅっ!!!!」
大宇宙管理局のリーダー・オリンの魂の叫びが、ポポロ亭の宴会場にこだました。
七色に発光する彼の頭頂部が、その言葉の説得力を完全に無へと帰している。
「…………」
一瞬の完全な静寂。
ポポロ村のコオロギの鳴き声すら空気を読んで止まるほどの、強烈な「間」だった。
「……そ、その頭で!?」
沈黙を破ったのは、ゴッドチューバーとしての反射神経をフル稼働させたキュララの、あまりにもストレートなツッコミだった。
『wwwwwwwww』
『言っちゃダメwww』
『育毛剤(効果なし)』
『説得力ゼロで草』
ゴッドチューブのコメント欄が、爆発的な勢いで『草(w)』で埋め尽くされていく。
「ああっ……! 言ってしまった……! 私の、数千年来の最大のコンプレックスを……!」
オリンは両手で自らの顔を覆い、ガクガクと震えながら号泣し始めた。
だが、彼の頭頂部は依然としてパチンコの確定音のような『キュイイーン!』という幻聴と共に七色に光り続けており、悲劇というよりは完全に喜劇(放送事故)の様相を呈していた。
「な、なんてこと……! 大宇宙のトップが、実はハゲを気にして夜な夜な育毛剤を頭に塗り込んでいたなんて……!」
ルチアナが、壁に激突した姿勢のまま、信じられないものを見る目でオリンを見つめている。
「威厳も何もありませんわ! むしろ哀愁しか感じませんのよ! というか、神の力(創造魔法)を使っても生えてこないんですの!? それって神気の問題ではなく、純粋な遺伝子の敗北ではありませんの!?」
カグヤが扇子で顔を隠しつつも、容赦のない毒舌(事実)でオーバーキルを放つ。
「違うのだ……! 神気を使えば一時的にフサフサにすることは可能なのだが……! それをやってしまうと、神としての『等身大の自分を受け入れる』というアイデンティティが揺らいでしまい、銀河神への昇進面接で『自己肯定感の低さ』を指摘されて落とされてしまうのだ……ッ!」
オリンが涙声で、大宇宙管理局の謎すぎる人事評価基準を暴露する。
「だから……私は……物理的なアプローチ(育毛剤)で、己の頭皮と戦い続けてきたというのに……!」
「……ちなみに、オリン様」
その時、テーブルの端でタマンネギの天ぷらを黙々と平らげていた見習い女神のリリスが、口の周りに天つゆをつけたまま無邪気に尋ねた。
「オリン様が使ってる、その『育毛剤』のお名前って、なんですか?」
「あ、おい待てバカ!」
厨房の入り口で腕を組んでいた俺は、慌ててリリスの口を塞ごうと動いた。
前世の簿記1級と社畜としての経済感覚が、最悪のシナリオ(経済危機)を瞬時に予測したからだ。
「聞くなリリス! その話題はこれ以上広げるな! それを作って働いてるおじさん達(社員)が居るんだぞ!」
俺が叫んだが、暴露鯛の呪い(腹身・大トロの直撃)を受けたオリンの口は、もはや大宇宙の誰にも止められなかった。
「……私の愛用している育毛剤。……それは……ッ!」
オリンは、涙でぐしゃぐしゃになった顔を上げ、ドローンのカメラを真っ直ぐに見据えて、誇り高く叫んだ。
「ゴルド商会とドワーフの錬金術師が共同開発した、大陸売上ナンバーワンの薬用育毛トニック――『漢達の頭皮戦線』ですぅぅぅぅぅぅッ!!」
――ズガァァァァァァンッ!!
その商品名が宇宙全土に配信された瞬間。
俺の耳には、アナステシア世界、いや宇宙全体の経済市場が、音を立てて崩壊していく轟音がはっきりと聞こえた。
『漢達の頭皮戦線wwwwwwww』
『あのクソ高い育毛剤かよwwww』
『オリン様が使ってるってことは……』
『効果ねぇじゃん!!!!』
『詐欺だ!! 金返せ!!』
コメント欄の空気が、爆笑から一転して『怒り』と『阿鼻叫喚』へと変わっていく。
無理もない。
『漢達の頭皮戦線』は、ルナミス帝国屈指の大企業であるゴルド商会が、「ドワーフの秘薬と世界樹の成分を配合!」と大々的に宣伝し、金貨数枚(数万円)という超高額で売り捌いている大ヒット商品なのだ。
薄毛に悩む大陸中の貴族や裕福な商人たちが、一縷の望みを託して買い求めていた夢の薬。
それが、よりにもよって『大宇宙管理局のトップ(神)』の口から、「何千年も使い続けているが、確定音が出るほどツルツルにハゲている」という、最高かつ最悪の形で『効果ゼロ』の証明(実証実験結果)を突きつけられてしまったのである。
「あ……あわわわわ……っ」
リリスが、手元の『エンジェルすまーとふぉん』の画面を見つめながら、ガクガクと震え始めた。
「り、リアンさん……っ! ゴルド商会の株価が……っ! チャートの線が、滝みたいに真っ逆さまに落ちてますぅぅっ!」
リリスが震える手で掲げたスマホの画面には、大陸の株価指数がナイアガラの滝のごとく垂直落下していく恐ろしいグラフが映し出されていた。
「五円! 御縁! ハイッ!? わたくしが全財産(300円)を賭けて空売りを仕込んでおいたゴルド商会の株が、ストップ安(紙切れ)になりやがりましたのォォォォッ!!」
リーザが頭を抱えて絶叫し、その場に倒れ伏す。(※お前はなんでそんなリスキーな投資をしてるんだ)
「なんという悲劇……ッ! 神の真実(暴露)が、民の経済を破壊してしまうとは……! これぞノブリス・オブリージュの負の側面……ッ!」
クラウスが大げさに天を仰ぐ。
大宇宙管理局のトップによる、前代未聞の『公開ネガティブキャンペーン』。
それは、ゴルド商会の信用を完全に失墜させ、関連するドワーフの錬金術工房や、原料を卸しているエルフの森の経済にまで大打撃を与える、未曾有の『育毛剤ショック(経済恐慌)』の引き金となったのだった。
「……ははっ、すげぇな。リーザのふ〜ん石(負運)が、一企業の株価を暴落させやがった」
俺は乾いた笑いを漏らしながら、額の汗を拭った。
「な、笑い事じゃありませんわよリアン!」
ルチアナが顔面蒼白で俺にすがりついてくる。
「このままじゃ、アナステシア世界の経済が崩壊して、予算が降りなくなっちゃうわ! 早くあのハゲの口を塞ぎなさいよ!」
「無理だね。暴露鯛の大トロを食った奴の『言いたい衝動』は、胃の中で魚が完全に消化されるまで止まらねぇ」
俺は冷酷に言い放った。
「それに、まだ終わってねぇぞ。オリンの目は、次なる『獲物』を探してるからな」
俺の予言通り、七色に光るハゲ頭を揺らしながら、オリンの焦点の定まらない血走った両眼が、ギロリと座敷の面々を睨みつけた。
「……あぁ……っ。まだだ……まだ言いたい……っ!」
オリンの口から、暴露鯛特有の、下世話でニチャアッとした笑みが漏れる。
「私の秘密だけではない……! 私の部下たち(お前ら)が、裏でコソコソと何をやっているのか……! この大宇宙のトップである私が、全てお見通しだということを、世界中に教えてやらねばなぁ……ッ!」
オリンの視線が、ルチアナとカグヤにビシィッ! と固定された。
「ひぃッ!?」
「な、なんですの、その目は……ッ!?」
二柱の女神が、蛇に睨まれた蛙のように硬直する。
「ルチアナ君……ッ!!」
オリンが、ズバァン! とルチアナを指差した。
「視察(仕事)中にも関わらず、君の『エンジェルすまーとふぉん』に、先ほどから頻繁に通知が来ているのは知っているぞ! しかも、その内容は『推しのライブチケット代の引き落としエラー』だな!?」
「あわわわわわわっ!?」
ルチアナが両手で顔を覆い、しゃがみ込んだ。
「君のクレジットカード(一般用)の残高は、今月すでに限界突破寸前! 残り『一千円(銅貨十枚)』しかないですね!? しかもその用途の99%が、人間界のアイドル『朝倉月人』のファンクラブ会費と、ソシャゲの課金(月人アイカツ)! 国家の予算(国庫)を横領してまで、何を地球のアイドルに貢いでいるんですかぁぁぁっ!!」
『ルチアナ様www クレカ残高1000円www』
『横領してアイカツとか終わってんなこの女神ww』
『でも月人君なら仕方ないわ(同情)』
『横領は草。大宇宙管理局、監査どうなってんの?』
「あぁぁぁぁぁっ!! わたくしの、わたくしの威厳がぁぁぁっ!! リスナーのみんな、違うの! これは必要経費(布教活動)なのぉぉぉっ!!」
ルチアナが頭を抱えてのたうち回る。
「カグヤ君!!」
オリンの砲火は止まらない。次はカグヤへと矛先が向かう。
「な、なんですの……ッ! わたくしは清廉潔白ですわよ!」
カグヤが扇子を構えて後ずさるが、オリンはニチャァッと笑った。
「君がいつも、ルナミス帝国でドヤ顔で乗り回しているあの真っ赤な超高級オープンカー! 『月の世界の信者からの献上品』だと言い張っていますが……フロントガラスの隅に、小さく『わ(レンタカー)』のシールが貼ってあるのを、私は見逃していませんよ!!」
「ぎゃあああああああああっ!?」
カグヤが、扇子をボキリとへし折って絶叫した。
「しかも! そのレンタル代を浮かすために、君は信者からもらった『仏の御石の鉢』や『火鼠の裘』といった超レアな国宝級の献上品を、ルナミス帝国の質屋に『即日現金払い』で売り飛ばしていますね!? バレないように『タロー・ヤマダ』という偽名を使って!!」
『うわぁ……(ドン引き)』
『カグヤ様、見栄っ張りすぎでしょww』
『国宝を質屋にブチ込む女神とか嫌すぎるww』
『わナンバーの高級車でギャラ飲みとか、港区女子かよww』
「ち、ちが……っ! あれは、経済を回すための、わたくしなりのSDGs的なリサイクル活動であって……ッ!! あああああっ、月の世界の信者たちが見ている前で、なんてことを暴露してくれますのハゲェェェェェッ!!!!」
ついに猫被りを捨てたカグヤが、鬼の形相でオリンに掴みかかろうとする。
だが、オリンの暴走はまだ終わらない。
彼の目には、もはやルチアナやカグヤといった『下っ端』の暴露だけでは満足できないという、恐ろしい狂気が宿っていた。
「まだまだぁぁっ!! こんなものでは終わらんぞ! 私の、大宇宙管理局リーダーとしての情報網(暴露)は、次元の壁すら越えるのだぁぁぁぁっ!!」
オリンが、七色に輝く頭を天に突き上げ、いよいよ『絶対に触れてはいけない領域(上層部)』へと口を開こうとしていた。
神々の暴露大会は、まだ序章に過ぎなかったのである。
読んでいただきありがとうございます。
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