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EP 10

超魔導合体の決算アフターケアと、一生変わらない居場所ホールディングス

プシュゥゥゥゥゥゥ……。

ルナミス学園のグラウンドに、超魔導合体兵器『ガッコウガー』の稼働停止を告げる排気音が響き渡った。

宇宙の理を越えたアビス怪人を「3分間の定時退社(自爆)」に追い込んだSクラスの面々は、無事にコックピット(タコ部屋)からグラウンドへと降り立った。

「ふぅ……。なんとか『決算バトル』は黒字で終わったな」

リアン・シンフォニアが、ジャージの埃を払いながら息を吐く。

「やったぁぁっ! 私たちの完全勝利だよーっ!」

「フハハハッ! さすがは我らがSクラス! 宇宙の覇者だろうが、私の【お賽銭箱】とリアンさんの【赤ペン】の前には無力でしたわね!」

キャルルとリーザが手を取り合って歓喜の舞を踊り、クラウスとルナも安堵の笑みを浮かべている。

しかし、その歓喜の輪から少し離れた場所で、一人の女性が地面に両膝をつき、絶望のどん底に突き落とされたような顔で白目を剥いていた。

「が、学校があああああ……っ!!」

Sクラスの担任兼用務員、ダイヤ・マーキスである。

彼女の視線の先にあるのは、ロボットの合体を解除し、元の位置に戻ったルナミス学園の校舎たち。……だが、激しい戦闘と強引な合体の反動により、校舎の屋根は吹き飛び、壁には無数のヒビが入り、窓ガラスは粉々に砕け散っていた。

「わたしの職場がっこうが……! これじゃあ明日から休校だ! 用務員の仕事(給料)がなくなっちまう! それに、裏庭に張ってたわたしのテント(マイホーム)までペチャンコじゃねぇかぁぁぁっ!!」

血の涙を流しながら、頭を抱えて絶叫する紅蓮の戦乙女ホームレス

戦いには勝ったが、学園というインフラが崩壊してしまえば、彼らの日常は終わってしまう。

「……やれやれ。騒がしい先生だな」

リアンは、首の後ろをガシガシと掻きながらダイヤの元へと歩み寄り、懐から一つのカプセルを取り出した。

それは、前世のネット通販『タローマン』で取り寄せた特注品。

「心配すんな。……企業経営において、設備の修繕費アフターケアは最初から『プロジェクトの予算内』に組み込んであるんだよ」

リアンはカプセルを地面に投げつけると、エルフの次期女王に向かって顎で合図をした。

「ルナ。残ってる世界樹の魔力を、こいつに全部注ぎ込め」

「はいっ! お任せくださいませ!」

ルナの杖から放たれた魔力がカプセルに触れた瞬間。

ポンッ! という気の抜けた音と共に、カプセルの中から無数の【超小型建築ナノマシン(魔導ブロック)】が溢れ出した。

「タローマン製『超速・全自動建築キット(修繕用)』だ。……いけ」

リアンの指パッチンを合図に、ナノマシン群が学園の校舎に取り付く。

シュルシュルシュルッ! ガガガガガッ!!

まるで映像を早送り(逆再生)しているかのような、圧倒的な修復速度。ひび割れた壁が塞がり、吹き飛んだ屋根が瞬く間に再構築され、ペチャンコになったダイヤのテント(と、おまけで最高級戦闘糧食)までもが、完全に新品の状態で復元されていく。

「な、ななななっ……!?」

ダイヤは、自分の目を疑った。

わずか数十秒。

ルナミス学園は、戦闘前よりもピカピカの、完璧な状態へと元通りになっていたのである。

「よし、検収完了だ。……おいダイヤ先生。明日の用務員の仕事は『窓拭き』だからな。遅刻すんなよ」

リアンがニヤリと笑う。

「り、リアン……お前、一体どれだけ有能なんだ……っ! 一生ついていく! いや、わたしをあんたの専属用心棒として雇ってくれぇぇぇっ!!」

「断る。弾代が嵩んで赤字になるからな」

すがりつこうとするダイヤの顔面を掌で冷酷に押し返しつつ、リアンは仲間たちに向かって高らかに宣言した。

「さぁ、タコ部屋に帰るぞ、お前ら! 今夜は【特大黒字の打ち上げ宴会】だ!!」

* * *

数時間後。ルナミス学園男子寮、タコ部屋。

テーブルの上には、リアンが腕によりをかけて作った【三ツ星流・極上ローストビーフ】や【幻獣のカルパッチョ】、そして煌びやかなオードブルが所狭しと並べられていた。

昼間の『魔界二郎系ラーメン』の暴力的なカロリーとは打って変わった、美しく、そして底抜けに美味しいご馳走の数々である。

「「「カンパーイっ!!」」」

グラスの音が響き、Sクラスの騒がしくも温かい宴会が幕を開けた。

「ん〜っ! さすがリアン君! このお肉、柔らかくて最高〜っ!」

「フハハハッ! タダ飯! タダ飯こそがこの世で最も美しいスパイスですわぁぁっ!!」

「リアン、今度は私がサラダを取り分けてあげるねっ♡ あーんっ!」

キャルルとリーザが料理を貪り、すっかりデレたキュララがリアンに甲斐甲斐しく世話を焼く。

「いやぁ、今日も素晴らしい戦いだった。君の指揮と、あの『赤ペン』の機転には、騎士である僕も脱帽だよ、リアン」

クラウスが、高級な果実水を傾けながら豪快に笑う。

いつも通りの、騒がしくて、どこまでも平和なSクラスの日常。

だが、宴会が中盤に差し掛かった頃、ふと、ルナが少しだけ真面目な顔をして口を開いた。

「……でも、不思議ですわね」

ルナは、自分のグラスを見つめながら、ぽつりと呟いた。

「今日、学園がロボットに変形して、形が崩れていくのを見た時。……わたし、少しだけ怖かったんです」

「怖い? あのデカい怪人がか?」

リアンが首を傾げる。

「いいえ。……このタコ部屋(居場所)が、無くなってしまうんじゃないかって。……先日、みんなで誕生日をお祝いした時に話した『将来の夢』のことが、頭をよぎったんですわ」

その言葉に、タコ部屋の空気がフッと静まった。

3年後、卒業を迎えたら、彼らはそれぞれの領地や村に帰り、この最強のパーティーは解散してしまう。

そのエモく、そして切ない現実が、再びSクラスの面々の胸に去来したのだ。

「……そうだね」

キャルルも、ウサ耳を少しだけ下げて微笑んだ。

「いつかは、終わっちゃうんだよね。この楽しい時間も」

クラウスも、キュララも、どこか寂しそうに俯いた。

最強の仲間だからこそ、それぞれの背負う責任(未来)が重いことを知っている。

——だが。

そんなしんみりとした空気を、我らが最強のCFOは、鼻で笑い飛ばした。

「……お前ら。昼間の戦いで頭でも打ったか?」

リアンは、ウーロン茶の入ったグラスをテーブルにコトリと置き、社員(仲間)たちの顔をぐるりと見回した。

「いいか。卒業ってのはな、ただの『有期雇用契約の満了』に過ぎねぇんだよ。……そんなもんで、俺が立ち上げたこの優良企業(Sクラス)が倒産するわけねぇだろ」

「え……?」

ルナが目を丸くする。

リアンは、立ち上がり、ホワイトボードの前に立つと、赤ペンでデカデカと一つの言葉を書き殴った。

【Sクラス・ホールディングス(持ち株会社)】

「……リアン君、それは?」

「俺の、卒業後の【事業計画】だ」

リアンは、不敵な、そしてこの上なく頼もしい経営者の笑みを浮かべた。

「クラウス。お前がアルヴィン侯爵家の当主になったら、俺の会社が専属の金融スポンサーになってやる。……キャルル、お前のポポロ村は、うちの最強の『農業提携パートナー』だ。ルナ、世界樹の森の魔力資源は、独占契約で俺が買い取ってやる。キュララはうちの広報部長(PR担当)だ」

全員の『卒業後の未来』を、すべてビジネス(繋がり)として肯定していくリアン。

「そしてリーザ。……お前は万年赤字の不良債権だが、まぁ、社員食堂(タコ部屋)でタダ飯を食わせるくらいの福利厚生は維持してやるよ」

「リアン様ぁぁぁっ!! 一生! 一生ヒモとして寄生させていただきますわぁぁぁっ!!」

リーザが感涙しながらリアンの足元にすがりつく。

「おい、ジャージで鼻をかむな」

リアンはリーザを引き剥がし、そして、仲間たちに向かって、真っ直ぐに告げた。

「……俺が言いてぇのはな」

リアンは、タコ部屋の壁をコンコンと叩いた。

「お前らが卒業して、どんなに偉い看板(責任)を背負おうが、遠く離れた場所にいようが関係ねぇ。……この『タコ部屋(会社)』は、一生お前らのもんだ」

その言葉には、経営者としての冷徹さは微塵もなかった。

あるのは、不器用で、意地っ張りで、だけど誰よりも仲間を愛している一人の少年の【絶対的な情】であった。

「だから……人生でどうしようもない『赤字トラブル』を抱え込んだら、いつでもこの社長(俺)のところに泣きついてこい。……お前らのケツは、俺が一生、総資産を懸けて拭いてやるよ」

「————っ!!」

タコ部屋に、静寂が落ちた。

それは、悲しい静寂ではない。あまりにも大きくて、温かくて、規格外の【安心感】に包まれたための沈黙であった。

「……リアン、君という男は……っ」

クラウスが、目元を熱くして天を仰ぐ。

「り、リアンくぅぅぅんっ!! 大好きーっ!!」

「リアン! 私も! 私もずっとリアンについていくからねっ!」

「リアン君……ふふっ、本当に、貴方は最高のリーダーですわ」

キャルルとキュララが泣きながらリアンに飛びつき、ルナが慈愛に満ちた笑顔でそれを見守る。

「ちょっと! なんでわたし抜きで感動的な空気になってんだよ!」

そこへ、窓の外からダイヤ先生が顔を出した。

「おいリアン! わたしの終身雇用契約パーマネントはどうなってんだ! 履歴書なら今すぐ書くぞ!!」

「うるせぇ! 先生はまず、テントのローンから返しやがれ!」

リアンがツッコミを入れ、タコ部屋は再び、割れんばかりの大爆笑と歓声に包まれた。

理不尽なトラブルも、宇宙の脅威も、未来への不安も。

この最強のCFOと、最高の仲間たちが揃っていれば、すべては【特大の黒字(笑顔)】へと変わっていく。

「さぁ、お前ら! 明日の利益のために、今日は食って飲んで騒ぎ明かすぞ!!」

「「「おおおおおーっ!!!!」」」

ルナミス学園の夜空に、Sクラスの騒がしくも温かい祝杯が響き渡る。

彼らの青春ビジネスは、これからもどこまでも、果てしなく続いていくのである。

『巨大怪人襲来と、超魔導合体ガッコウガー』

——【最強のホールディングス設立宣言(完全黒字)にて、決算完了】!!

読んでいただきありがとうございます。

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