EP 9
特撮の法則(定時退社)と、赤ペンで書き足された宇宙の大法則
ズゴォォォォォォォォォォォンッ!!!!
ルナミス学園のグラウンドを舞台に、身長50メートルを超える『超巨大アビス怪人』と、学園の校舎が合体して生まれた超魔導合体兵器『ガッコウガー』が激突する。
大地が鳴動し、周囲の森の木々が衝撃波で薙ぎ倒されていく。
『グハハハッ! チョコマカト動ク玩具メ! 貴様ラノ攻撃ナド、コノ深淵ノ装甲ニハ通ジンゾ!!』
アビス怪人が巨大な触手をムチのように振るう。
だが、ガッコウガーのコックピット(タコ部屋)では、Sクラスの面々と担任教師による、完璧な【アウトソーシング(分業)】が機能していた。
「右舷から来るぞ! キャルル、回避だ!」
「任せてクラウス君! ウサギのステップ、いっくよーっ!!」
操縦桿を握るクラウスの指示に合わせ、キャルルがフットペダルを軽快に踏み込む。
ガッコウガーは、その無骨な校舎の見た目からは想像もつかない俊敏なステップで、怪人の触手攻撃を紙一重で躱した。
「今だ! ダイヤ先生、撃て!!」
「ハハハハッ! 言われなくても分かってるよ! このロボット、学園の魔脈を弾薬に変換してるから【実質タダ(弾代ゼロ)】じゃねぇか! コストゼロで撃ち放題なんて、最高のビジネスだぜぇぇっ!!」
火器管制を任された紅蓮の戦乙女・ダイヤは、狂喜乱舞しながらコンソールを叩きまくる。
ガッコウガーの胸部(体育館)がパカッと開き、無数の『黒板消し型ミサイル』と『チョーク型徹甲弾』が、雨霰のごとくアビス怪人に降り注いだ。
ドガガガガガガガガガッ!!!!
『グヌゥゥッ!? バ、バカナ……! 人間ドモノ操縦デ、ナゼココウマデノ連携ガ……ッ!』
「ルナさん! エンジン出力落ちてますわよ!」
「大丈夫ですわ、リーザさん! 私の世界樹の魔力を、貴方のお賽銭箱経由でブーストさせますの!」
「オッケー! リスナーのみんな、今の爆発最高に映えてたでしょ!? もっとスパチャ投げてねっ♡」
エルフの魔力供給、アイドルの強制徴収(エネルギー変換)、天使の生配信。
5人の生徒と1人の教師。彼らは誰一人として欠けることなく、それぞれの長所を完全に噛み合わせ、圧倒的な戦力差をチームワークで埋めていた。
だが、アビス怪人もただでは終わらない。
学園の地下から吸い上げた魔力を一気に解放し、全身からどす黒いオーラを噴出させたのだ。
『ガアアアアアアアアッ!! ココマデダァァァァッ!!』
アビス怪人は、空を覆うほどの巨大な両腕を頭上に掲げた。
その手に、太陽すらも飲み込むほどの、真っ黒で超巨大な『深淵のエネルギー球』が形成されていく。
『コノ一撃デ、貴様ラノ玩具モロトモ、学園ヲ灰ニシテヤル!! グハハハハハハハッ! 絶望スガイイ、コノ俺様ノ完全勝利……ココマデダァァァッ!!』
逃げ場のない、圧倒的な質量と破壊力。
それを前にして、コックピットのクラウスたちが息を呑む。
必殺のエネルギー球が、今まさにガッコウガーに向けて放たれようとした——その時である。
「……」
コックピットの中央にある、一番偉そうな席。
そこで腕を組んでいた我らがCFO・リアンは、左手首にはめたタローマン製の安い腕時計をチラリと確認した。
そして、手元のコンソールのマイクスイッチを【オン】にし、外部スピーカーを通じて、極めて面倒くさそうな、気の抜けた声で話しかけた。
「——あーあー。マイクテス、マイクテス。……聞こえるか、アビス怪人よ」
『ン? ナンダ、命乞イカ? CFOトヤラ!』
「いや。……もう【3分】経ったぞ」
『……ハ?』
アビス怪人の動きが、巨大なエネルギー球を掲げたまま、ピタリと止まった。
『3分? ソレガドウシタトイウノダ?』
「……お前、知らないのか?」
リアンは、やれやれと首の後ろを掻きながら、さも常識であるかのように言い放った。
「俺の故郷(前世)の特撮エンタメにおいて……特撮怪人ってのはな、『巨大化して3分経ったら、ド派手に爆発して星になる(キラーン☆)』って決まってんだよ」
『…………ハ?』
アビス怪人は、本気で意味が分からず、巨大な目をしばたかせた。
『ソ、ソンナ事ガアッテタマルカァァァァッ!! ナンダソノ理不尽ナ設定ハ!!』
「当たり前だろ。正義の味方だって労働者だぞ」
リアンは、経営者としての冷徹な顔つきで、さらに理不尽な論理(事実陳列罪)を被せていく。
「ヒーローも定時には帰るんだから、サビ残(サービス残業)はしないんだよ。巨大化した敵の相手なんて時給に見合わねぇ。だから3分で強制終了(爆発)するシステムになってるんだ」
『フ、フザケルナ! 俺様ハ宇宙ノ覇者ダゾ! 定時退社ナド知ルカァァッ! コノ一撃デ貴様ラヲ——』
「お? なんだお前。まだ粘る気か?」
リアンは、マイクに向かって冷ややかに鼻を鳴らした。
「営業時間(3分)を過ぎても居座って大声を出して暴れる……。」
『俺ガ……ワガママヲ言ッテイルクレーマーダト言ウノカァァッ!?』
宇宙の覇者たる怪人が、スーパーのレジでゴネる迷惑客のような扱いを受け、屈辱で真っ赤(真っ黒)になる。
「そうだ。いいか? これは【宇宙の大法則】だ」
リアンは、どこからか分厚い本を取り出し、デスクの上にドンッと置いた。
「俺の手元にあるこの『六法全書』にも、【クレーマー処理は3分まで】と明確に記載されている」
『デタラメヲ言ウナァァァッ!! そ、ソレハ一体、イツ記載サレタノダ!?』
「さっきだ」
リアンは、右手に持っていた【赤ペン】をクルクルと回しながら、真顔で答えた。
「俺が今、赤ペンで書き足しておいた」
『そ、ソ、ソンナ馬鹿ナアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!?』
アビス怪人は、あまりにも理不尽な屁理屈と、圧倒的な詭弁を前に、脳の処理能力が完全にショートした。
いや——それだけではない。
実は、リアンが放ったあのタローマン製の『殺虫剤』の化学成分は、魔脈のエネルギーを吸収して巨大化したことによる超高熱と反応し、ちょうど【3分後】に内部から細胞を崩壊させるという、恐るべき時限式の副作用を抱えていたのだ。
リアンは、それを完璧に計算した上で、この3分間を仲間たちの連携で凌ぎ切り、最後の最後に『言葉のハッタリ』で相手の精神を破壊したのである。
『俺様ガ……クレ……クレーマー……!? アカペン、デ……!? ば、馬鹿ナァァァァァァァァァァァァッ!!』
宇宙の大法則(という名の殺虫剤の化学反応と、リアンのハッタリ)により。
アビス怪人の体内で臨界点に達していた魔力エネルギーが、完全にコントロールを失った。
キュィィィィィィィィィィィンッ!!!!
ドッッッッカァァァァァァァァァァァァン!!!!!!!!
アビス怪人は、掲げていた自らの必殺エネルギー球に巻き込まれる形で、グラウンドの中心で盛大に大爆発を起こした。
その爆発は、ルナミス学園の空高くへと立ち昇り。
雲の向こうで。
【キラーン☆】
一つの美しい星となって、宇宙の彼方へと消え去っていったのである。
* * *
爆風が収まり、静寂が戻ったルナミス学園のグラウンド。
超魔導合体兵器ガッコウガーは、一切のダメージを受けることなく、無事にその巨体を大地に下ろしていた。
コックピット(タコ部屋)の中は、水を打ったような静寂に包まれていた。
「…………」
ルナが、無言で瞬きをする。
「…………」
クラウスとキャルルが、開いた口が塞がらないまま、空の彼方(キラーン☆)を見つめている。
「…………」
ダイヤ先生に至っては、「わたしの残業代……?」と呟きながら、魂が抜けたようにコンソールに突っ伏していた。
沈黙。
圧倒的な沈黙。
Sクラスの面々が、巨大戦のクライマックスが「六法全書への赤ペン書き足し」で決着したという理不尽すぎる現実に、全員がツッコミを放棄してフリーズしている中。
「……ふぅ」
リアン・シンフォニアは、マイクのスイッチを切り、デスクの上の六法全書と赤ペンを引き出しにしまいながら、満足げに一つ頷いた。
「よし。……正義は勝ったな」
その、あまりにもやりきった感のあるドヤ顔(天然ボケ)に対して。
「……正義なのかな?」
エルフの次期女王ルナが、心底不思議そうに首を傾げた。
「……違うと思う」
月兎族のキャルルが、真顔で即答した。
かくして。
宇宙の理を越えてやってきた深淵の使者は、最強のCFOの『定時退社』の概念と『赤ペンの屁理屈』の前に、完全なる自己破産(自爆)を迎えたのであった。
読んでいただきありがとうございます。
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