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EP 2

CFOの休日と、魔改造・二郎系ラーメン(暴力的な旨味)

「……クンクン。な、なんですの、この匂い? タコ部屋中に、とてつもなく野蛮で、強烈で、それでいて抗いがたい暴力的な香りが充満していますわ……!」

Sクラスの休日。

昼下がりのルナミス学園男子寮『タコ部屋』に足を踏み入れたリーザは、思わず鼻をひくつかせた。

部屋の奥にある簡易キッチンからは、もうもうと白い湯気が立ち上っている。

その中心で、エンジ色のジャージに割烹着という異様な出で立ちのリアン・シンフォニアが、巨大な寸胴鍋に向かって巨大な木べらをかき回していた。

「おう、来たかお前ら。……ちょうど『監査(味見)』が終わって、完璧な【決算スープ】が出たところだ」

リアンは、額に浮かんだ汗をタオルで拭いながら、不敵な——いや、何かに憑りつかれたようなマッドサイエンティストの笑みを浮かべた。

「リアン君、一体何を作っているの? ニンニクと、お醤油と……ものすごく濃厚なお肉の匂いがするけど」

キャルルがウサ耳をピコピコと揺らしながら、寸胴鍋を覗き込もうとする。

「俺の前世に存在した、究極のジャンクフードにして、一部の熱狂的な信者を生み出す悪魔の食べ物。……通称【二郎系ラーメン】の、アナスタシア世界(魔改造)バージョンだ」

リアンは、ズラリと並べた巨大などんぶりに、極太の特製ちぢれ麺を湯切りして豪快に放り込んでいく。

「ネット通販『タローマン』で取り寄せた【オーク・キングの背脂】と、【飛竜ワイバーンの豚骨】を三日三晩煮込んだ超濃厚スープ。そこに、俺がタコ部屋の窓際で栽培していた【極大・魔界ニンニク】を限界まで刻んでぶち込んである」

「ひっ!? ま、魔界ニンニクって、食べすぎると三日は口から瘴気においが消えないって言われている危険植物じゃないですか!」

ルナが顔を引きつらせる。

「安心しろルナ。……これ(ニンニク)は、薬味じゃねぇ。このラーメンにおける『主役メインエンジン』だ」

リアンは、どんぶりの上に茹でたモヤシとキャベツを、まるで山のように——いや、物理法則を無視した塔のようにうず高く盛り付けていく。

「さぁ、お前ら。配給の前に『呪文』を唱えろ。ニンニク、ヤサイ、アブラ、カラメ(味の濃さ)。どうする?」

「じゅ、呪文!? なんだか分からないけど、タダ飯なら全部限界まで盛ってくださいませぇぇっ!!」

「僕もだ! その暴力的なカロリー、騎士のスタミナとしてすべて受け止めよう!」

リーザとクラウスが、ヨダレを垂らしながら即座にフルオプションを要求する。

「よし。……『全マシマシ』一丁!!」

ドンッ!!

テーブルに叩きつけられたのは、もはや「麺料理」の概念を逸脱した、圧倒的な質量の暴力であった。

スープの表面には分厚い油の層と、雪のように降り注いだオーク・キングの背脂。山の頂には、致死量スレスレの刻み魔界ニンニクが鎮座し、極厚のチャーシューが岩壁のようにそびえ立っている。

「「「いただきます!!」」」

クラウス、キャルル、リーザの三人が、一斉に箸を突き立てた。

「ズズッ……ズゴゴゴゴゴゴゴッ!!」

「おお……おおぉぉっ!! な、なんだこの破壊力は!! ガツンと脳天を殴られるような強烈な塩気と旨味! そして後から押し寄せるニンニクの圧倒的な暴威!! 美味い! 美味すぎるぞ、リアン!!」

クラウスが、目を見開きながら極太麺を啜り上げる。

「んん〜っ! お肉がトロトロ! モヤシがシャキシャキ! 食べる手が止まらないよーっ!」

キャルルも顔をテカテカにしながら丼に齧り付く。

「ああっ……! ひと口食べるごとに、私の寿命が縮んでいくような背徳感……っ! でも、箸が止まりませんわぁぁっ!! こんな特級の劇薬カロリーを無料でいただけるなんて、Sクラスはやはり天国ですのね!!」

リーザは、強欲な笑みを浮かべながら、背脂の浮いたスープまで完飲しようとしている。

「ちょっと、みんな信じられない……。こんな品のない、油とニンニクの塊みたいな野蛮な食べ物……」

エルフの次期女王たるルナは、眉をひそめながら自分の前に置かれた『ニンニク少なめ・ヤサイ普通』のどんぶりを恐る恐る見つめていた。

「わたしは世界樹の森の精霊と共に生きるエルフですわ。こんな、ジャンクの極みのようなものを口にするなんて——」

ズルッ。

ルナは、おそるおそる麺を一本だけ口に運んだ。

「——っ!?」

その瞬間。エルフの繊細な味覚に、ジャンクフードの暴力的な『化調(化学調味料)』と『背脂の甘み』が、核爆弾のように直撃した。

「……あ、あれ? おかしいですわ。なんだか、もっと……もっとこの【毒】を、身体が求めて……っ」

ズルズルッ! ズズズズズズズッ!!

「ぷはぁっ! リ、リアン君!! ニンニクとアブラ、追加マシマシでお願いしますわぁぁっ!!」

「エルフの味覚プライド、一瞬で完全敗北じゃねーか」

リアンは呆れながらも、ルナのどんぶりに魔界ニンニクをドサッと追加してやった。

「はーい、みんな! 今日はリアンの手作り『魔界二郎系ラーメン』の食レポ配信だよっ☆ ……って、言おうとしたんだけど……ズルルルルッ!! ……これ、マジでヤバい! 配信してる場合じゃない! 伸びる前に食べなきゃっ♡」

ゴッドチューバーのキュララに至っては、完全にスマホの配信を切り忘れ(放送事故)、夢中になって油まみれの口で麺を啜り上げる姿を全世界に垂れ流していた。

タコ部屋は今、全員が無言で麺と格闘する、異常な熱気とニンニク臭に包まれていた。

「……フッ。お前らも、この『計算し尽くされたジャンク(利益)』の虜になったようだな」

リアンは、大満足でラーメンを貪る社員(仲間)たちを見下ろし、CFOとして、そして料理人としての至福の笑みを浮かべた。

「だが、お前らはまだまだ甘い。……本当に美味い二郎系ってのは、味の調整トライアンドエラーの過程で、作り手が一番最高の状態を味わってるもんだ」

リアンは、自身のお腹をポンと叩いた。

「スープの濃度、麺の茹で加減、背脂の溶け具合。それらを完璧な【黒字】に持っていくために、俺は今朝から『味見』と称して、すでにこのラーメンを【5フルサイズ】平らげているからな。……やっぱり、俺の作った二郎系は世界一美味いぜ」

大好きな前世のジャンクフードを完璧に再現できた喜びに、リアンは珍しく年相応の(いや、それ以上にアホな)ドヤ顔を見せていた。

——そう。完璧な計算能力を持つ彼ですら、この時ばかりは【致命的なリスク管理のミス】を犯していたのだ。

飛竜の豚骨。オーク・キングの背脂。

そして、致死量の『魔界ニンニク』。

それらを短時間に「5杯」も胃袋に叩き込むという行為が、人間の——いや、チート能力を持つリアンの身体にすら、どれほどの【破壊的な化学反応(腹痛)】を引き起こすかということを。

「……ん?」

ふと。

リアンのお腹の奥底で。

『ゴロゴロゴロゴロ……ギュルルルルルルルッ……!!』

という、地鳴りのような、極めて不穏な音が響いた。

「……」

リアンの動きが、ピタリと止まる。

額から、先ほどの料理の熱とは違う、べっとりとした『冷や汗』が滝のように流れ落ちてきた。

「(……おいおい、嘘だろ)」

リアンの脳内の『財務システム(危機管理能力)』が、突如としてけたたましいレッドアラート(特大の赤字警告)を鳴らし始めた。

「(致死量の魔界ニンニクと背脂が……俺の胃腸の中で、急激な魔力暴走(消化不良)を起こしてやがる……っ!)」

「あ、リアン君! スープが足りないよ、おかわりちょうだい!」

キャルルが無邪気に空のどんぶりを差し出してくる。

「……わ、わりぃ。……ちょっと、急な『野暮用(監査)』が入った。……後は、自分たちで盛ってくれ……」

リアンは、膝をガクガクと震わせ、内股になりながら。

青ざめた顔で、タコ部屋の扉へと向かって、全速力のすり足で後退りしていく。

「え? リアン君、顔色が悪いけど……どこに行くの?」

ルナが不思議そうに首を傾げる。

「……だ、大地が……っ。……大地が、俺を、呼んでいる……っ!!」

バタンッ!!

リアンは、謎の言葉(言い訳)を残し、タコ部屋から脱兎のごとく飛び出していった。

最強のCFOにして、Sクラスの頼れるリーダー。

彼が自身の欲求(食欲)に負け、致命的な【天然ボケ(特大の便意)】によって戦線離脱を果たしたこの瞬間。

ルナミス学園のグラウンドには、次元の裂け目を突き破り、恐るべき『アビス怪人』が降臨しようとしていたのである。

読んでいただきありがとうございます。

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