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第十四章 13歳の勇者

13歳の誕生日と、バラバラになる未来(進路希望)

初夏の心地よい風が、ルナミス学園男子寮の窓を揺らしている。

数々の理不尽な炎上案件(不良債権)を処理し、今や莫大な利益を生み出す優良企業へと成長したSクラスの拠点——通称『タコ部屋』。

本日のタコ部屋は、いつにも増して華やかな空気に包まれていた。

部屋の中央に置かれた長机には、リアン・シンフォニアが前世の『三ツ星スーシェフ』の知識と、ネット通販『タローマン』の高級食材をフル活用して作り上げた、極上のフルコースが所狭しと並べられている。

そして、その中央に鎮座しているのは、純白の生クリームと大粒の苺で飾られた、巨大な特製バースデーケーキであった。

「おう、皆。グラスは持ったか?」

エンジ色のジャージにエプロン姿という、およそ貴族らしからぬ格好のリアンが、ウーロン茶の入ったグラスを掲げた。

「今日は、めでたい決算日だ。……俺たちSクラスの全員が、無事に『13歳の誕生日』を迎えられたことを祝して。……乾杯おめでとうな」

「「「カンパーイっ!!」」」

タコ部屋に、盛大なグラスの音が鳴り響いた。

このルナミス学園において、Sクラスの面々は奇跡的にも同い年である。春から初夏にかけて次々と誕生日を迎えた彼らを、リアンが一括して合同誕生会(大宴会)として祝う場を設けたのだ。

「ん〜っ! さすがリアン君のご飯! ほっぺたが落ちそうだよーっ!」

月兎族の特攻隊長・キャルルが、ウサ耳をパタパタと揺らしながらハンバーグを頬張る。

「むぐむぐっ! 無料タダでこんな高級なお肉が食べられるなんて……! 誕生日、毎日やってきませんこと!?」

昭和の地下アイドル・リーザは、相変わらずの芋ジャージ姿で、両手に骨付き肉を握りしめながら感涙にむせいでいた。

「ふふっ、本当に素晴らしい日ですわね」

エルフの次期女王・ルナは、上品に紅茶を口に運びながら、嬉しそうに目を細めた。

彼女は、自身の少しだけ成長した胸元に手を当て、どこか誇らしげに微笑む。

「これで、もう私達は大人の仲間入りですわ。リアン君、これからも頼りになるレディとして、存分にこき使ってくださいませね」

「……いや、13歳はまだ子供だろ。世間一般じゃあ、まだまだ保護対象の未成年だぞ」

リアンは、ルナの背伸びした発言に冷静なツッコミ(事実陳列罪)を入れつつも、やれやれと肩をすくめた。

「……まぁ、心意気は良い。お前ら社員が自立(成長)してくれるのは、経営者として大歓迎だからな」

「はははっ! 相変わらずリアンは、何でもビジネスに結びつけるな」

アルヴィン侯爵家の金髪の嫡男、クラウス・アルヴィンが、豪快に笑いながらグラスを置いた。

だが、そのクラウスの顔には、ふと真面目な色が浮かんでいた。

「そう言えば、リアン。……お前の『将来の夢』を聞いた事が無かったな」

「……あ?」

「ルナミス学園は、9年制の学び舎だ。僕たちは今13歳……つまり、後3年で僕達は『卒業』を迎えることになる。……卒業した後、君はどうするつもりだ?」

クラウスのその問いかけに、タコ部屋の喧騒が、嘘のようにスッと静まり返った。

お肉に夢中だったキャルルも、ケーキを狙っていたリーザも、皆の手が止まる。

「卒業、か……」

リアンは、首の後ろをガシガシと掻きながら、天井を仰ぎ見た。

ここでの生活は、理不尽とトラブルの連続で、毎日が炎上対策のようなものだった。だが、いつの間にかこの「タコ部屋」が、リアンにとってかけがえのない居場所(優良物件)になっていたことも事実だ。

しかし、学生という身分である以上、永遠に続く日常など存在しない。

「そうだな……。俺は一応、シンフォニア男爵家の嫡男だからな。学園を卒業したら領地に戻って、親父の手伝いをしながら、領地経営ビジネスを拡大していくつもりだ」

リアンが現実的な進路を語ると、クラウスは深く頷いた。

「そうか。君なら間違いなく、素晴らしい領主になるだろう。……僕は、アルヴィン家の為に、立派な侯爵となる道を行く。お父様のような、民を導く大貴族になるのが僕の使命だからな」

クラウスの瞳には、一切の迷いがない、ノブリス・オブリージュの誇りが宿っていた。

「私はね……」

不意に、キャルルが少しだけしんみりとした声で口を開いた。

「私は、ポポロ村の村長になるんだ。みんなが安心して暮らせる、豊かで強い村を作るのが、私のお仕事(夢)が待ってる。……だから」

キャルルは、ウサ耳をペタンと倒し、隣に座るクラウスを、どこか切なげな瞳で見つめた。

「……だから、卒業したら。クラウス君とは、お別れだね」

「!?」

その言葉に、クラウスが弾かれたように顔を上げた。

「そ、そうか……。君は、村へ……」

いつも最前線で背中を預け合ってきた二人。クラウスの鈍感な心にも、キャルルの『お別れ』という言葉が、鋭い棘のように突き刺さったようだった。

「……ルナは? ルナはどうするんだ?」

リアンが、少し重くなった空気を変えようと、ルナに視線を向けた。

ルナは、寂しそうな、それでも凛とした微笑みを浮かべて答えた。

「私は……世界樹の森に帰って、次期女王としてのお勤めがありますの。エルフの民を導き、森の魔力を守り続ける……それが、私の逃れられない運命ゆめですから」

「……」

リアンは、黙り込んだ。

アルヴィン侯爵家の次期当主。

ポポロ村の次期村長。

世界樹の森の次期女王。

そして、シンフォニア男爵家の跡取り。

全員が、あまりにも大きすぎる看板(責任)を背負っている。

今はこうして、狭いタコ部屋のコタツを囲んでバカ騒ぎをしているが……3年後、彼らは間違いなく、それぞれの領地へと散り散りになる。

(……皆、離れ離れになっちまうのか)

リアンの胸の奥に、経営者としての冷徹な計算式では割り切れない、ひどく人間臭い『喪失感』がよぎった。

この最強で、騒がしくて、最高に優秀な社員(仲間)たち。

彼らがバラバラに解散してしまう未来。それは、リアンにとって、どんな莫大な赤字よりも受け入れがたいものだった。

タコ部屋に、しんみりとした、どこか泣きたくなるようなエモい空気が流れる。

誰もが、遠い未来の別れを想像して、俯きかけた——その時である。

「……フハハハッ! 皆様、何をそんなに暗い顔をしておりますの!?」

バンッ! と机を叩いて立ち上がったのは、口の周りをハンバーグのソースで汚したリーザであった。

「卒業? 別れ? はっ、笑わせませんこと! 私は違いますわよ!」

リーザは、胸を張って、リアンに向かってビシッと指を突きつけた。

「私は、卒業しようが何しようが、リアン様のお側を絶対に離れませんわ! アイドルとしての活動拠点は、常に資金の潤沢なシンフォニア男爵領! 貴方の屋敷に居候して、一生、美味しいご飯とタローマンの恩恵で養って貰わないと困りますのよ!!」

「……」

あまりにもブレない、清々しいまでの【完全寄生ヒモ宣言】。

感動的な別れの予感を、木っ端微塵に粉砕する強欲アイドルの発言に、クラウスもルナもキャルルも、ポカンと口を開けて固まってしまった。

「……」

リアンは、プルプルと震える手で、手元の雑誌を丸めると。

スパーンッ!!

リーザの頭に、容赦のないツッコミ(ハリセン)を振り下ろした。

「いっったぁぁぁぁっ!?」

「俺はお前の年金セーフティネットかよ!! 自分の将来くらい、自分で稼ぐ算段を立てやがれ、この不良債権が!!」

「ひどいですわぁっ! リアンさんの甲斐性なし! 守銭奴っ!!」

リーザが涙目で抗議し、リアンが呆れ果ててため息をつく。

そのいつもの漫才のようなやり取りを見て。

「あはははははっ!! もう、リーザ先輩ったら最高!」

「ふふっ……あはははっ! 涙が引っ込んでしまいましたわ」

「……全くだ。僕たちが離れ離れになる心配など、君たちを見ているとバカバカしくなってくるな!」

キャルルも、ルナも、クラウスも、堪えきれずに大爆笑を始めた。

タコ部屋は再び、いつもの騒がしく、温かい「Sクラスの日常」へと引き戻されたのである。

(……やれやれ)

リアンは、笑い転げる仲間たちを眺めながら、丸めた雑誌を机の上にポンと投げ出した。

口元には、呆れたような、しかしどこまでも優しい笑みが浮かんでいる。

(それぞれの領地に帰る、か。……まぁ、物理的な距離なんて、どうとでもなる)

リアン・シンフォニアは、前世の記憶とチート級の能力を持つ、規格外のCFOである。

空間転移の魔法具を開発するもよし。

大陸全土を巻き込む超巨大な『ホールディングス(持ち株会社)』を設立して、全員を役員として迎え入れるもよし。

(俺のシマの社員を、たかが『卒業』ごときで手放してやる義理はねぇ。……お前らがどこで何をしてようが、一生笑って集まれる【居場所(会社)】くらい、俺が作ってやるよ)

今はまだ、誰にも言わない。

だが、リアンの心の中には、リーダーとしての揺るぎない【激熱な決意】が、確かに刻み込まれていた。

13歳の誕生日。

それぞれの未来を思い描きながら、Sクラスの騒がしい青春は、新たなる理不尽トラブルへと向かって、フルスロットルで加速していく。

『巨大怪人襲来と、超魔導合体ガッコウガー』

——開幕である。

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