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EP 29

最強のチームワーク(盤面支配)と、極上のフィニッシュ(三枚おろし)

『ギゴォォォォォォォォォォォォォォッ!!!!』

ルナミス学園のグラウンドに、絶望的な咆哮が轟く。

地下の封印から目覚めた巨大な古代魔像(章ボス)は、全身からマグマのような高熱を放ちながら、学園の校舎に向けてその巨大な両腕を振り上げた。

周囲の空気が陽炎のように歪み、木々が自然発火を始めるほどの異常な熱量。

「いくぞ、お前ら! Sクラスのシマを荒らす、特大の不良債権の強制執行だ!!」

リアン・シンフォニアの号令と共に、Sクラスの面々が完璧な陣形フォーメーションを展開した。

「まずは熱を奪う! ルナ、リーザ!」

「はいっ! 『大樹の息吹ユグドラシル・ブレス』!!」

エルフの次期女王ルナが、祈るように両手を胸の前で組む。

その瞬間、彼女の全身からエメラルドグリーンの神聖魔法が爆発的に広がり、学園全体を覆う巨大な【冷却と防御の結界】を構築した。

猛烈な熱波が中和され、逃げ遅れた一般生徒たちが安堵の息をつく。

「ルナさんが熱を下げた分、こいつの『炎の魔力』自体は、私が根こそぎ奪い取りますわぁっ!!」

リーザが、少し焦げた段ボールのみかん箱を魔像に向けて高く掲げた。

彼女の瞳が、強欲な黄金色にギラリと輝く。

「魔像だろうが何だろうが関係ありませんわ! あんたの持ってるその高カロリーな熱エネルギー……全部、私が『強制差し押さえ』させていただきますのよ!!」

シュゴォォォォォォォォォッ!!

みかん箱が発動した【貧乏神バグ】により、魔像の全身を覆っていた炎のオーラが、凄まじい勢いでスポンスポンスポーン! と箱の中へと吸い込まれていく。

熱エネルギーを強制没収された魔像は、明らかな出力低下を起こし、その巨体をガクンと揺らした。

『ギ、ガァァァァッ……!?』

「ナイスだ、二人とも! クラウス、キャルル! 敵の装甲が冷えて脆くなってる今がチャンスだ!」

「応ッ!!」

「任せてっ!!」

後方で戦況を俯瞰するリアンの指示を受け、Sクラスが誇る二人の最高火力アタッカーが、左右から同時に飛び出した。

「我がいかずちよ、悪しき巨岩を打ち砕け! 『紫電・十文字』!!」

クラウスの魔剣から放たれた極太の紫色の稲妻が、魔像の右足の関節を正確に十字に斬り裂く。

「ウサギのキックを舐めるなーっ! 『月影流・流星脚』!!」

キャルルが空高く跳躍し、タローマン製の特注安全靴に全体重と闘気を乗せて、魔像の左腕の付け根に隕石のような蹴りを叩き込む。

ドガァァァァァァァァァンッ!!!!

物理と魔法の完璧なコンビネーション。

冷却され、炎のバリアを失っていた魔像の分厚い岩の装甲は、二人の攻撃に耐えきれず、メキメキと音を立てて大きく砕け散った。

「よし、外殻(皮)は剥がれた。……キュララ! 出番だ!」

リアンが、上空で待機していた転入生の天使に向けて鋭く叫んだ。

「おっけー! リスナーのみんな、スクショの準備はいい!? キュララの最強の輝き、目に焼き付けてねっ♡」

キュララは、自身のスマホカメラが最も自分を【美しく(映えるように)】捉える角度を計算し尽くした上で、無駄に長く、そしてド派手な『変身バンク(聖騎士の鎧の装着)』を空中で披露した。

キラキラと輝く光の羽、舞い散る純白の羽根エフェクト。画面の向こうのリスナーたちは狂喜乱舞し、滝のようなスーパーチャットが飛び交う。

そして、キュララは魔像の砕けた胸の奥——露出した真っ赤な『コア(核)』に向けて、両手を突き出した。

「悪を浄化する、天使の鉄槌! 『ホーリー・スプラッシュ』〜〜〜っ☆」

ズバァァァァァァァァァァァァァァンッ!!!!

天界の魔力を極限まで圧縮した、光属性の極太レーザー。

凄まじい威力の光線が魔像のコアに直撃する。

だが、キュララは攻撃の最中であっても、絶対に【カメラ目線】を外さなかった。視聴者に向かって極上のウインクを飛ばしながら、魔像の視覚(光学センサー)を完全に光で焼き切ったのだ。

『ギギャァァァァァァァァッ!?』

視界を奪われ、コアに甚大なダメージを負った古代魔像が、コントロールを失って暴れ狂おうとする。

「……完璧な下ごしらえだ。お前ら、よくやった」

リアン・シンフォニアは、ジャージのポケットからゆっくりと両手を出した。

彼の手には、前世のネット通販『タローマン』で取り寄せた、二つのアイテムが握られていた。

一つは【工業用の超強力瞬間冷却スプレー】。

もう一つは、料理用の【特製・極粗挽き岩塩(魔力浸透率100%)】である。

「クラウスたちが装甲を剥がし、キュララがコアを剥き出しにした。だが、あのコアは今、臨界点に達して異常な高熱を持ってる。……ただ剣で叩き割れば、大爆発を起こして学園ごと吹き飛ぶ(大赤字になる)からな」

リアンは、誰に言うでもなく冷徹に呟きながら、地を蹴った。

彼の身体能力は、アタッカーであるクラウスには及ばない。だが、CFOとしての『盤面を読み切る目』と、三ツ星スーシェフとしての『包丁捌き(剣術)』は、この世界において完全に規格外であった。

「……料理ビジネスの基本は、化学反応だ」

リアンは、暴れ狂う魔像の懐へと音もなく滑り込むと、真っ赤に熱暴走を起こしているコアに向けて、スプレーを全開で噴射した。

プシュゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!!!

「超高熱の岩石コアに、マイナス196度の冷却剤(液体窒素)をぶち当てる。……するとどうなるか分かるか?」

急激な温度変化(熱衝撃)。

極端な収縮を起こした魔像のコアの表面に、ピキピキピキッ! と、無数の幾何学的な『亀裂』が走った。

「そこに、この特製の岩塩(塩分)を擦り込む。……塩は氷点下の冷却効果をさらに促進させ、同時に魔力の結合組織を完全に分解する」

リアンが岩塩をコアの亀裂に投げつけると、コアの内部構造は、まるで魚の繊維のように、極めて脆く、そして『切り分けやすい状態』へと変化した。

「……これで、完璧な『火通り(調理条件)』だ」

リアンは、腰に提げた長剣(包丁)を、静かに抜き放った。

魔法は一切使わない。

チート召喚獣の力も借りない。

ただ、仲間たちが繋いでくれた最高の盤面チャンスを、確実な利益(勝利)へと変換するための、純粋な技術の極致。

「三ツ星流・解体剣術……『三枚おろし』」

シュオンッ……。

リアンの放った一閃は、音すら置き去りにするほど滑らかで、そして美しかった。

刃は、熱衝撃と岩塩によって生じたコアの『繊維(亀裂)』の隙間を、寸分の狂いもなく通り抜ける。

『……ォ……?』

古代魔像が、自身の身に何が起きたのか理解できないまま、動きを止めた。

パカッ、コロンッ。

真っ赤に燃えていた巨大なコアが。

爆発することもなく、魔力暴走を起こすこともなく。

まるで、熟練の職人によって綺麗に捌かれた高級魚のように、見事な『三枚』のパーツに分断されて、グラウンドに転がり落ちたのである。

動力源を完全に失った古代魔像の巨体は、そのままガラガラと音を立てて崩れ落ち、ただの石の山へと変わった。

「……ふぅ。監査(調理)、完了だ」

リアンは剣を納め、ネクタイを締め直しながら、小さく息を吐いた。

「やったぁぁぁぁぁっ!!」

「リアン君! すごいですわっ!!」

「見事な太刀筋だ、リアン! あの爆発寸前のコアを、魔法も使わずに切り分けるとは!」

キャルル、ルナ、クラウスが、歓声を上げながらリアンの元へと駆け寄ってくる。

リーザも「あのコア、高く売れそうですわね!」とみかん箱を抱えて目を黄金色に輝かせていた。

そして、上空からゆっくりと舞い降りてきたキュララは。

配信用のカメラをすでにミュートにし、頬を真っ赤に染めながら、リアンの横顔を熱っぽい目で見つめていた。

「……リアン。あんた、本当に……ズルい男ね」

自分は、一番美味しいところ(トドメ)を持っていかない。

全員の個性を活かし、全員に見せ場を作り、そして最後の最も危険なリスク(爆発)だけを、自分の頭脳と技術でひっそりと処理する。

それが、Sクラスを率いる【最強の裏方プロデューサー】の姿だった。

「ズルくねぇよ。お前らが完璧に働いてくれたおかげで、俺の剣が届いただけだ。……全員に特別ボーナスを出してやるよ」

リアンは、仲間たちを見渡し、極上の経営者スマイルを浮かべた。

「さぁ、タコ部屋に帰るぞ。……今日の『チームの利益(勝利)』は、過去最高額だ」

学園を襲った古代の脅威は、Sクラスの完璧なチームワークの前に、完全なる『黒字処理』として幕を閉じたのである。

読んでいただきありがとうございます。

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