EP 28
小悪党の逆襲と、古代魔像の理不尽な裏切り(キラーン☆)
「あーっ! リアン、また私の分のお肉食べたでしょ! ひどーいっ!」
「うるせぇ。配信で稼いでるんだから、自分でタローマンから取り寄せろ。俺の金(経費)で買った肉だぞ」
ルナミス学園男子寮、タコ部屋。
キュララがすっかりSクラスの空気に馴染み、リアンにまとわりつく騒がしくも平和な日常。
今日も今日とて、彼らは特大の黒字(平穏)を謳歌しているはずだった。
——ズズズズズズズズッ……!!
突如として、タコ部屋の床が、いや、学園全体が、下から突き上げられるような激しい重低音と共に大きく揺れ始めた。
「きゃああっ!?」
「な、なんですの!? 地震!?」
キュララとリーザが悲鳴を上げ、バランスを崩して床にへたり込む。
棚から書類が落ち、コタツの上の湯呑みがガタガタと音を立てて転げ落ちた。
「おいおい、なんだこの魔力反応は……!」
リアンは即座にデスクの上の『帳簿』を懐にしまい込み、鋭い視線を窓の外へと向けた。
「リアン! 学園の裏手……『旧校舎の地下』から、とてつもない熱量と魔力が膨れ上がっているぞ!」
クラウスが紫電の魔剣を引き抜きながら、窓の外を指差した。
その言葉の直後。
タコ部屋の壁をぶち破る勢いで、外のグラウンドから巨大な【火柱】が天高く吹き上がったのだ。
ドゴォォォォォォォォォォォンッ!!
「なっ……! なんだ、あれは……!」
ルナが顔を青ざめさせる。
濛々と立ち込める黒煙と炎の中から姿を現したのは、見上げるほどに巨大な、赤熱する岩石とマグマで構成された巨人——【炎を纏う古代魔像】であった。
かつてルナミス学園の地下深くに封印されていたはずの、禁忌の古代兵器。それが何故か、今、完全に目覚めて学園を破壊しようとしているのだ。
「ゲヒャハハハハハッ!! 驚いたか、Sクラスのゴミクズ共ォ!!」
魔像の足元。黒焦げになったグラウンドの上に、ボロボロの制服を着た男が立っていた。
数日前、リアンたちによって社会的に抹殺されたはずの不良ギルド『赤き蠍』のリーダーである。
「テメェらのおかげで、俺は学園を退学寸前、ギルドは解散させられちまった! だがな、ただで終わる俺じゃねぇ! 腹いせに、学園の地下の『開かずの封印』をぶっ壊して、この最強の兵器を呼び覚ましてやったのさァ!!」
男は狂ったように笑いながら、リアンたちを指差した。
「もはや俺の失うもの(社会的地位)は何もない! この古代兵器の力で、テメェらSクラスもろとも、この学園を完全に灰にしてやるぜ! ギャハハハハッ!!」
「……」
リアンは、額に青筋を浮かべながら、タコ部屋の窓枠に足をかけた。
「……あいつ、社会的に抹殺(自己破産)されたショックで、完全に『無敵の人』になっちまいやがったな。……俺のシマ(学園)で、勝手にデカい不良債権(爆弾)を抱え込みやがって」
「り、リアンさん! どうしますの!? あんなバカでかい岩の化け物、私のお賽銭箱じゃ吸い込みきれませんわよ!?」
リーザが段ボールのみかん箱を盾にしながら震える。
「やれやれ。……自暴自棄になった小悪党の処理ほど面倒な仕事はねぇな」
リアンが首の後ろを掻きながら、ため息をついた、その時である。
グラウンドで高笑いしていた不良ギルドのリーダーが、高らかに魔像に向かって命令を下した。
「さァ、やっちまえ、古代兵器! まずはあの生意気なSクラスの部屋を火の海に——」
『……ヤカマシイ、小者メ』
——ゴウンッ。
古代魔像は、鬱陶しそうに巨大な岩の腕を振り上げた。
そして、自分を呼び覚ました恩人であるはずのリーダーに向かって、ハエでも追い払うかのような、極めて無造作な【裏拳】を放ったのである。
ドバキィィィィィィンッ!!!!
「へ?」
リーダーの男が、間の抜けた声を上げた。
次の瞬間。
男の身体は、魔像の圧倒的な物理エネルギーによって、まるでゴルフボールのように綺麗な放物線を描き、大空の彼方へと吹き飛ばされていった。
「あばばばばばばばばばばっ…………!!!」
男の絶叫は、空の彼方で急激に小さくなり。
やがて、雲の向こうで。
【キラーン☆】
一つの小さな星(光の瞬き)となって、完全に消え去った。
「……」
「……」
「……」
タコ部屋にいるSクラスの全員が、そのあまりにも王道すぎるお約束の展開(美しい星の瞬き)に、ポカンと口を開けていた。
「……綺麗な星になったね」
キャルルが、ウサ耳をパタンと倒して呟いた。
「ああ。……見事な放物線だったな。小悪党の最期としては100点満点だ」
リアンが、呆れ果てたような、極めて冷静なツッコミ(事実陳列罪)を入れる。
だが、ギャグ展開で終わったのはそこまでだった。
邪魔な「ハエ」を払いのけた古代魔像は、その赤熱する双眸を、ギラリとSクラスの拠点である『タコ部屋』へと向けたのである。
『……ギゴォォォォォォォォォォォォォォッ!!!!』
古代魔像が雄叫びを上げると同時、凄まじい熱波が学園全体を覆い尽くした。
タコ部屋の窓ガラスが、その高熱だけでパリパリと音を立ててひび割れ、溶け落ちていく。
「ああっ! 私の、私のみかん箱(資産)が焦げていきますわぁぁっ!!」
リーザが、煙を上げ始めた段ボールを抱きしめて絶叫する。
「ひっ……! 嫌だ、あんな化け物……!」
キュララが恐怖に顔を引きつらせ、リアンの背中にすがりついた。
今まで画面の向こうのアンチやストーカーには対抗してきた彼女だが、純粋な『暴力と熱』の塊である巨大ボスを前にしては、下級天使の少女など無力に等しい。
「リアン君! 学園の生徒たちが逃げ遅れていますわ! このままでは、学園中が火の海に……っ!」
ルナが、グラウンドでパニックに陥っている一般生徒たちを見て悲痛な声を上げる。
「……チッ。あの小悪党め、マジで最悪の『負債』を残していきやがったな」
リアンは、ネクタイを乱暴に緩め、一歩前に出た。
魔像が口を大きく開く。
その奥底で、学園を丸ごと消し飛ばすほどの、巨大な炎の塊(極太レーザー)がチャージされ始めていた。
「いくぞ、リアン! 僕が斬り込んで時間を稼ぐ!」
「私も行くよ! あのデカブツの足元を崩す!」
クラウスが魔剣を構え、キャルルが飛び出そうとする。
だが、リアンはその二人の肩をガシッと掴み、引き止めた。
「待て。……相手は炎を纏った古代兵器だ。お前ら二人の近接攻撃だけで突っ込めば、いくら強かろうが熱で体力を削られてジリ貧(赤字)になる」
「し、しかしリアン! このままでは……!」
「焦るな。……経営者の仕事ってのは、どんな絶望的な盤面でも、手持ちの【社員(手札)】を最適に配置して、利益を最大化することだ」
リアンは、一切の恐れも焦りもない、冷徹で頼もしいCFOの顔つきになっていた。
彼の背中にすがりついていたキュララは、その男前すぎる横顔をハッと見上げた。
「……あいつの弱点は『熱』を奪うことだ。装甲を冷やして脆くしたところに、特大の火力を叩き込む」
リアンは振り返り、震えるヒロインたちと、闘志を燃やす相棒たちを見回した。
彼は、決して一人で無双して片付けようとはしない。
今、この場にいる全員の力を完全に信頼しきっているからこそ、最強の陣形を組むのだ。
「ルナ! お前の神聖魔法で、学園中に冷却と防御のバフをかけろ!」
「はいっ! お任せくださいませ!」
「リーザ! みかん箱(強制没収)で、あいつの周囲の『炎の魔力』だけを吸い尽くして出力を落とせ!」
「も、燃え尽きるまで働きますわぁっ!!」
「クラウス、キャルル! お前らは俺の合図があるまで、敵の攻撃を絶対に防ぎ切れ(タンクしろ)!」
「承知した!」
「任せて、リアン君!」
そして、リアンは最後に、自身の背中で震えているキュララを見下ろした。
「……キュララ。お前の『光の極太レーザー』と『カメラ目線』の出番だ。最高に映えるサムネ(一撃)を叩き込む準備をしておけ」
「……っ!」
その言葉に、キュララの瞳に強い光(インフルエンサーとしてのプロ意識)が戻った。
この最強の男が、自分を「戦力」として信じてくれている。ならば、期待に応えないわけにはいかない。
「……いくぞ、お前ら! Sクラスのシマを荒らす、特大の不良債権(古代兵器)の強制執行だ!!」
「「「おおおおおおおおっ!!!!」」」
リアンの号令と共に、Sクラスの面々がタコ部屋の窓から、燃え盛るグラウンドへと一斉に飛び出していく。
巨大な古代兵器を相手取った、最強のチームワークによる【決算】の火蓋が、今、切って落とされたのである。




