EP 26
小悪党の嘲笑と、理不尽にキレるCFOの静かなる怒り
ストーカー事件から数日後。
ルナミス学園男子寮、タコ部屋。
「はい、リアン! 今日はキュララが、特別にみかんの皮を剥いてあげるねっ♡ あーんっ!」
「……近ぇよ。あとお前、昨日からずっと俺のジャージの裾を掴んでるが、自分の部屋に帰らなくていいのか」
コタツの中で、転入生の天使・キュララが、リアンの腕にピタリとくっついて離れようとしない。
あんなに計算高く、インフルエンサーとしての体裁を気にしていた彼女は今や、完全にリアンという【最強のプロデューサー】の庇護下に入り浸り、極上の甘えっぷり(デレ)を披露していた。
「えへへ〜、だってリアンの隣が一番安心するんだもーん! あっ、今月のスパチャの売上、全部Sクラスの活動資金(リアンの口座)に入れておいたからねっ♡」
「きぃぃぃぃっ! なんですのそのあざといアピールは! 資本力でリアンさんの胃袋と財布を独占しようだなんて、泥棒猫にも程がありますわよ!!」
対面でリーザがハンカチをギリギリと噛みちぎりながら吠える。
「そうですわ! リアン君、あまり甘やかしてはダメですわよ! みかんならわたしが……っ!」
ルナも対抗して世界樹の魔力でみかんを完璧な形に剥こうと焦っている。
「はははっ! リアンもすっかりモテモテだな!」
「もー、リアン君は無自覚なんだから!」
クラウスとキャルルが、その騒がしくも平和な日常を笑いながら眺めていた。
Sクラスは今日も特大の黒字(平穏)を叩き出している。
——誰もがそう思っていた、その時だった。
ドガァァァァンッ!!
突如として、タコ部屋の扉が乱暴に蹴り破られた。
「ヒャハハハハッ! 随分と楽しそうじゃねぇか、落ちこぼれの掃き溜め共ォ!!」
土足で踏み込んできたのは、派手な装飾の防具を身につけた数人の男子生徒たちだった。
学園内で幅を利かせている不良ギルド『赤き蠍』のメンバーたちだ。彼らは、Sクラスが最近学園の裏で莫大な利益を上げているという噂を聞きつけ、この部室を乗っ取ろうとやって来たのである。
「なんだ、テメェらは。土足厳禁だぞ」
リアンが、みかんを食べる手を止めて冷ややかな視線を向ける。
「黙れよ、ジャージ野郎! 俺たちはこの部屋を『赤き蠍』の第二拠点としてもらうことにしたんだよ! テメェらみたいなゴミクズ集団には過ぎた部屋だろ?」
リーダー格の男が、下劣な笑みを浮かべながらSクラスの面々を指差した。
「金髪の天使がいると思えば、最近炎上ギリギリのやらせ配信ばっかりやってる『媚び売りゴッドチューバー』じゃねぇか! どうせ信者から巻き上げた金で男に貢いでんだろ? 安っぽい女だぜ!」
「っ……!」
キュララが、過去のトラウマを抉られるような暴言に一瞬肩を震わせ、リアンのジャージを強く握りしめた。
男の嘲笑は止まらない。
「そっちの芋ジャージは、一生売れない『底辺アイドル』! そんで、没落エルフに、獣人のガキ! 侯爵家の落ちこぼれ! まさに社会のゴミ箱、最底辺の集まりだな! ギャハハハハッ!!」
不良ギルドの面々が、腹を抱えて下品な笑い声を上げる。
「貴様ら……! 言わせておけば!」
クラウスが激怒し、紫電の魔剣に手をかけようとした。キャルルもウサ耳を逆立ててトンファーを構える。
だが、彼らが動くよりも早く。
「……クラウス、キャルル。待て」
タコ部屋の空気が、まるで真冬の冷凍庫のように、急激に、そして暴力的なまでに冷え込んだ。
「ひっ……!?」
不良ギルドのリーダーが、思わず笑い声を引っ込めて後ずさる。
コタツからゆっくりと立ち上がったリアン・シンフォニアの瞳は。
一切の感情を排した、絶対零度の【静かなる怒り】に支配されていた。
リアンは普段、自分自身が馬鹿にされても「面倒くせぇ」で受け流す。
だが、彼にはCFOとして、絶対に譲れない【一つの底線】があった。
(……俺のシマの社員(仲間)を、土足で踏み躙るような奴は、絶対に許さねぇ)
「おい、新入り(キュララ)」
リアンは、静かな、しかし有無を言わせぬ声で指示を出した。
「は、はいっ!」
「いつもの『空飛ぶカメラ』を出せ。……そして、今からここで起きることを、お前のチャンネルで全世界に【緊急生配信】しろ」
「えっ……? わ、分かった!」
キュララが即座にスマホを操作し、光の羽を広げて小型カメラをタコ部屋の天井付近(空中)へと待機させる。
「リーザ。お前はいつもの『お賽銭箱』を準備しろ」
「はいですわ! 徴収の準備は完璧ですのよ!」
「な、なんだテメェら! ゴミクズ共が粋がってんじゃ——」
不良ギルドの男たちが武器を抜こうとした瞬間。
「クラウス、キャルル。……ドアを塞げ。一匹たりとも逃がすな」
「了解した!!」
「任せて、リアン君!!」
バツンッ!!
クラウスの雷速の移動と、キャルルの神速のステップが、不良たちの背後(入り口)を完璧に封鎖した。
「なっ……!?」
あまりの連携の速さと威圧感に、不良たちは完全にパニックに陥った。
彼らは知らないのだ。このSクラスが、暗殺ギルドすら無傷で制圧する規格外のバケモノ集団であることを。
「配信、開始したよ、リアン!」
キュララの合図と共に、上空のカメラが赤く点滅する。数百万人のリスナーが、突如始まった緊急配信に雪崩れ込んできた。
「さて……。俺の社員を馬鹿にした落とし前、キッチリ払ってもらおうか」
リアンが指を鳴らす。
それは、Sクラスによる【理不尽な社会的抹殺(公開処刑)】の合図であった。
「まずはテメェらの『不正な資金源』の差し押さえだ。リーザ、やれ!」
「お任せくださいませぇぇっ!! 『貧乏神の強制没収』!!」
シュゴォォォォォォォォッ!!
リーザのみかん箱が、超強力な吸引力を発揮する。
「うわぁぁっ!? 俺の財布が!?」
「特注の魔剣が吸い込まれるぅぅっ!!」
不良たちが不正に巻き上げていた金品、武器、さらには身につけていた高級な防具の装飾品までもが、ズボボボボッと音を立ててみかん箱の中へと吸い込まれていく。
「ひぃっ! や、やめろ!」
丸腰になった不良たちが逃げ出そうとするが、入り口にはクラウスとキャルルが立ち塞がっている。
「逃がさんぞ、悪党! 『紫電・峰打ち』!」
「ウサギのキック、お見舞いするよーっ!」
バキィッ! ドゴォッ!!
抵抗する間もなく、不良たちはクラウスとキャルルによって物理的にボコボコにされ、無様に床に転がされた。
そして、その見事なまでの制圧劇と、不良たちの無様な顔は、キュララのカメラを通じて【全世界に生配信】されていたのである。
『うおおお! なんだこの神連携!』
『Sクラス強すぎワロタwww』
『ってか、この倒れてる奴ら……学園の不良ギルド「赤き蠍」じゃん!』
『あ! こいつ、俺からカツアゲした奴だ!』
『特定班急げ! こいつらの裏アカと余罪を全部洗い出せ!』
キュララの抱える狂信的なリスナー(特定班)たちが、瞬く間に不良たちの個人情報を特定し、コメント欄に彼らの過去の悪事(テストのカンニング、恐喝、備品泥棒など)を次々と暴露し始めた。
「あ、あばばばば……」
リーダーの男は、スマホの画面に流れる【消えないデジタルタトゥー(社会的死)】の連鎖を見て、完全に白目を剥いた。
「物理での制圧、資産の没収、そして社会的信用の完全抹殺。……完璧なチームワークだ」
リアンは、冷たく見下ろしながら、呆然とする不良たちに最後のトドメ(事実陳列罪)を刺した。
「いいか、三流の小悪党。……お前らがどれだけ粋がろうが、俺の仲間(社員)が稼ぎ出す【価値】には遠く及ばねぇ」
リアンは、完全に心が折れたリーダーの顔面を靴底で軽く踏みつけ、悪魔のような経営者の笑みを浮かべた。
「お前らの再生数(価値)は、今日この瞬間から永遠に『ゼロ』だ。……社会の底辺で、せいぜい惨めに自己破産しな」
その圧倒的な冷酷さと、仲間を守るための絶対的な行動力。
配信を見ていた数百万のリスナーだけでなく、キュララ、ルナ、リーザのヒロインたちも、リアンのその男前すぎる背中に、再び熱い吐息を漏らすのであった。
「リ、リアン……かっこいい……っ♡」
「リアン君……素敵ですわ……っ」
「さ、さすが私達の財布ですのよぉぉっ!!」
自分は一切無双することなく、仲間の力を完璧に指揮して盤面を支配する。
SクラスのCFOは、本日も特大の黒字(完全勝利)を叩き出したのである。




