EP 24
Sクラス女子会! 隠れハイスペック主人公の品評会と、揺るがぬ強欲
ルナミス学園の近隣にある、庶民派魔導ファミリーレストラン『サイゼリオン』。
放課後の店内は多くの学生たちで賑わっていたが、その一角にあるボックス席だけは、異様なオーラと【資本格差】を放っていた。
「はーい、みんなスクショの準備はいーい? 今日はSクラスの女子メンバーで、放課後ファミレス会でーすっ♡ キュララはねぇ、期間限定の『特大・幻獣マロンパフェ』を食べちゃうぞっ☆」
天使族の転入生・キュララは、空中に浮かべたスマホのカメラに向かってウインクを飛ばしながら、テーブルの中央に鎮座する超高級デザートをあざとくスプーンで掬っていた。
「ああっ……! そ、それ、単品で3000ルナ(円)もする、サイゼリオンの裏メニュー……!」
向かいの席に座るリーザが、血走った目でマロンパフェを凝視している。
彼女の目の前にあるのは、無料のドリンクバー(水)と、一番安い『ほうれん草のくたくた煮(199ルナ)』だけであった。
「ふふっ。リーザ先輩も食べる? ほら、あーん♡」
「食べますわぁぁぁっ!!」
「あ、ごっめーん! スプーン落としちゃったぁ☆ てへぺろっ!」
「きぃぃぃぃっ! この小悪魔! 泥棒猫ぉぉっ!!」
リーザがハンカチを噛みちぎらんばかりに悔しがる中、キュララは自身のスマホ画面に表示された【QRコード】を、卓上の魔導レジ端末にピッとかざした。
『ピロリン♪ お会計、リスナー様からの遠隔決済にて完了いたしました』
「みんな、おごりありがとーっ! キュララ、胃袋まで満たされちゃった♡」
自分の財布を1ミリも開くことなく、信者の財布で豪遊するトップ・ゴッドチューバー。その現代的錬金術を前に、月兎族のキャルルとエルフのルナは呆れたように顔を見合わせていた。
「すごいね……ファミレスの会計まで画面の向こうのファンに払わせちゃうなんて」
キャルルが、自腹で頼んだハンバーグを切り分けながら苦笑する。
「ある意味、リーザさんより強欲……いえ、商売上手ですわね」
ルナも上品にミラノ風ドリアを口に運びながら頷いた。
「えへへ、褒めても何も出ないよぉ?」
キュララはスマホの配信を一旦『ミュート(休憩中)』にすると、途端にインフルエンサーとしての営業スマイルを引っ込め、少しだけ退屈そうな、計算高い少女の顔に戻った。
「……ねぇ。前々から疑問だったんだけどさ」
キュララは、ストローでメロンソーダをかき混ぜながら、ルナたちを見回した。
「あんたたちって、なんであの『リアン』って男に、あんなに従順なわけ?」
「……え?」
ルナが、キョトンとしてスプーンを止める。
「だってさぁ。Sクラスのリーダー(CFO)とか名乗ってるらしいけど、いっつもエンジ色のダサい芋ジャージ着て、デスクで帳簿ばっかり見てるじゃん。配信に映っても全然『映え』ないし、無愛想だし。……ぶっちゃけ、クラウスって金髪のイケメン騎士の方が、何倍もリーダーっぽくない?」
キュララは、つまらなそうに頬杖をついた。
キュララの世界において、価値の基準は『数字』と『画面映え』である。
目立つ魔法も使わず、華やかな衣装も着ないリアンは、彼女からすれば全く価値のない背景キャラクターであった。
だが。
その言葉を聞いた瞬間、テーブルの空気がフッと変わった。
「……モブ、ですか」
いつもは温厚で怒ることなど滅多にないルナが。
世界樹の次期女王たる静かで、しかし確かな【威圧感】を伴った冷ややかな目で、キュララをスッと見据えたのだ。
「ひっ……! な、なに……?」
その眼光の鋭さに、キュララは思わず背筋をゾクッとさせた。
「キュララちゃん。貴女、とっても可愛いし商売上手だけど……『見る目』は全然ないんだね」
キャルルもまた、ハンバーグを食べる手を止め、真剣な顔でキュララを見た。
「ど、どういうことよ」
キュララが強がって聞き返す。
「あんたの言う通り、リアン君は無愛想だし、お金にうるさいし、いっつも面倒くさそうな顔をしてるよ。……でもね、あいつは【最高のリーダー(社長)】なんだ。絶対に、私達の背中を守ってくれる」
キャルルは、自分の足元にあるタローマン(ホームセンター)製の安全靴をトントンと叩いた。
「私が無茶して特攻できるのも、リアン君が後方から完璧な指示を出してカバーしてくれるって分かってるから。それに、戦いでどんなに装備が壊れても、後で『必要経費だ』って言って、絶対に一番良いものをこっそり支給してくれるんだよ」
「……」
「それにね、キュララ」
今度は、先ほどまでほうれん草を貪っていたリーザが、真顔になって口を開いた。
「あいつは確かにえげつない守銭奴ですし、私のアイドルの才能(パクリ曲)も全否定する悪魔のような男ですわ。……でも、私達(社員)が理不尽な悪意に晒された時。誰よりも本気で怒って、誰よりも冷酷に敵を【社会的に抹殺】してくれるのは、リアンさんですのよ」
「……リアン君は、見返りを求めないんですの」
ルナが、慈愛に満ちた瞳で、ぽつりと呟いた。
「自分が賞賛されることなんて、少しも望んでいない。ただ、私達が安全に、笑ってタコ部屋で過ごせるように……すべての泥を被って、裏で盤面を整えてくれている。それが、リアン君の本当の姿ですわ」
「……っ」
ヒロイン三人の、リアンに対する絶対的な【信頼】。
それらを聞かされたキュララは、先ほどまでの「ただのモブ」という認識が、音を立てて崩れ去っていくのを感じた。
(……表に出ず、裏でリスクを管理し、仲間のために確実に利益(安全)を確保する。それって……)
インフルエンサーである彼女だからこそ、分かる。
カメラの前で踊る演者よりも、その裏で数字を分析し、炎上を防ぎ、スポンサーと交渉し、コンテンツを絶対に成功へと導く【有能な影のプロデューサー】が、どれほど希少で、どれほど価値のある存在かということを。
「……へぇ」
キュララは、手元のストローをクルクルと回しながら、少しだけ頬を染めた。
「つまり、あのダサいジャージの裏には……とんでもなく有能で、責任感の強い『スパダリ(スーパー・ダーリン)』が隠れてるってわけだ」
「ス、スパダリ……!?」
ルナの顔がボフッと赤くなる。
「わ、私は別にそんな、変な意味でリアン君を見てるわけじゃ……! た、ただ、その……お料理もすっごく上手ですし……! 胃袋は完全に掴まれているというか……っ!」
エルフの次期女王が、両手で顔を覆ってモジモジし始める。
「あははっ! ルナちゃんったら、相変わらずリアン君のことになると分かりやすいんだから!」
キャルルがニシシと笑う。
「まぁ、リアン君は『上司』としては最高だけどね! 私は……恋愛対象っていうなら、やっぱりもうちょっと真っ直ぐで、分かりやすい熱血な人がいいかな。……たとえば、クラウス君とか……えへへっ」
ウサ耳をピコピコと揺らしながら、少しだけ頬を掻くキャルル。彼女の矢印は、紛れもなくアルヴィン侯爵家の金髪の嫡男へと向いていた。
「恋愛? 恋心? はっ、笑わせますわね!」
リーザが、ほうれん草の皿をバンッと叩いた。
「愛や恋で胃袋は膨れませんわ! 私がリアンさんに抱いているのは、ただ純粋な『彼の財産(ケーキとタローマンの肉)に対する絶対的な執着』ですのよ! 私はあの男の財布の紐に、一生ついていく覚悟ができていますわ!!」
「いや、それただの強欲なタカリじゃん……」
キュララが思わずドン引きしてツッコミを入れる。
だが、キュララは内心で、ニヤリと笑っていた。
(……なるほどね。あのハイスペックな裏方プロデューサーに、本気で『女』として惚れてるのは、このエルフのルナって子だけなんだ)
月兎の獣人はイケメン騎士に夢中。
昭和のアイドルは財布の中身に夢中。
つまり、あのリアンという【特大の隠し資産(プレミアム物件)】は、ルナというライバルさえ出し抜けば、いくらでも奪える(投資できる)ブルーオーシャンだということだ。
(……ちょっと、面白くなってきたかも)
堕天使ゴッドチューバーの唇に、いたずらっぽい、しかし確かな『熱』を帯びた笑みが浮かぶ。
それは、彼女が「ただのモブ」から「超優良物件」へと認識を改めた瞬間であり。
同時に、次なる波乱(炎上案件)において、彼女がその男の【本気の庇護】を受け、完全に心を奪われる(デレる)ための、確かな前兆であった。
読んでいただきありがとうございます。
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