EP 15
乱入者! 邪魔された親友の、理不尽すぎるガチギレ八つ当たり
「行くぜ、親友!」
「来い、相棒(CFO)!」
互いの体力が限界に近づく中、リアンとクラウスが最後の一撃を放とうと、大きく拳を振りかぶった。
二人の少年の、身分も魔法も関係ない、魂と魂がぶつかり合う最高の決着が、今まさに訪れようとした——その時である。
ズドォォォォォォォォォンッ!!!!
突如として、闘技場の天井のガラスドームが派手に砕け散った。
「きゃああっ!?」
観客席のルナたちが悲鳴を上げ、飛散するガラス片から身を庇う。
太陽の光を遮るように、天井の巨大な穴から数十人の『黒装束の集団』が、刃を煌めかせながらコロシアムへと降り立った。
「……何者だ!?」
アルヴィン侯爵家の筆頭執事・ルンベルスが、即座に懐から護身用の短剣を引き抜き、鋭い声を上げる。
「ヒャハハハハッ! お出迎えご苦労だなぁ、侯爵家の忠犬!」
黒装束の集団の中心に立つ、ひときわ体格のいい男——暗殺ギルド『黒き毒蛇』のリーダーが、毒の塗られた曲刀を舐めながら下劣な笑い声を上げた。
「お前がアルヴィン侯爵家の分家の『裏帳簿』を嗅ぎ回っていると聞いてなァ! スポンサー(分家)様から、目障りなジジイを王都に帰す前に『処理』してくれと、直々の特急依頼だ!」
「……なるほど。分家の者たちが、私の監査を力で揉み消そうと、裏社会のドブネズミを雇ったというわけですか」
ルンベルスがギリッと奥歯を噛み締める。
侯爵家の内部調査のためにこの学園都市を訪れていた彼は、決闘の立会いはあくまで建前であり、本来の目的は不正の証拠集めだった。それが分家に露見し、暗殺部隊を差し向けられたのだ。
「悪いが、ここで死んでもらうぜェ! やれッ! ガキ共は放っておけ、ターゲットはジジイただ一人だ!!」
リーダーの号令と共に、数十人の暗殺者たちが一斉にルンベルスに向けて殺到しようとした。
歴戦の執事とはいえ、多勢に無勢。ルンベルスは死を覚悟し、せめてクラウスを守るための盾になろうと前に出た。
——だが。
彼らがルンベルスに刃を向けるよりも早く。
闘技場の中央から、地獄の底から響くような、**絶対零度の『低い声』**が轟いた。
「……おい」
ピタリ、と。
暗殺者たちの動きが、その異常な殺気に当てられて停止した。
声の主は、闘技場の中央で拳を振りかぶったまま、彫像のように固まっていたリアン・シンフォニアだった。
その後ろには、同じく拳を構えたまま、前髪の影で表情の見えないクラウス・アルヴィンが立っている。
「……おい。今、俺の拳が……天井が割れた衝撃波のせいで、空を切っちまったじゃねぇか」
リアンが、ピキピキと額に青筋を立てながら、ゆっくりと拳を下ろす。
「……ああ。僕の左フックも、上から降ってきたガラスの破片のせいで、タイミングが完全に狂ってしまった。……最悪だ」
クラウスもまた、バチバチと漏れ出す紫電の魔力をどす黒く変色させながら、ゆっくりと立ち上がった。
「あァ? なんだテメェら、すっこんでろガキ——」
暗殺者のリーダーが鬱陶しそうに言いかけた、その言葉は最後まで続かなかった。
「「俺たちの最高の時間(青春)を、邪魔すんじゃねぇぇぇぇぇっ!!!!」」
ドッゴォォォォォォォォォォォォォンッ!!!!
闘技場の中央で、二人の少年の【理不尽極まりないブチギレのオーラ】が爆発した。
もはや暗殺者の目的が執事の口封じだろうが、分家の陰謀だろうが、リアンとクラウスにとってはどうでもよかった。
彼らにとっての最大の罪は、「男同士の熱いクロスカウンター(最高のデザート)」を、無粋な土足で踏み荒らしたこと、ただ一点のみ!!
「消えろォッ! 害虫共!! 『三ツ星流・高速肉叩き(ミートハンマー)』ッ!!」
リアンが、武器を持たない素手のまま、暗殺者の群れへと弾丸のように突っ込んだ。
「グベェェェッ!?」
リアンの放った、的確に関節と急所を打撃する料理人特有のラッシュが、黒装束の男たちを次々と宙に舞わせる。
「万死に値するぞ、下郎ッ! 『紫電・雷獣の牙(近接格闘)』!!」
クラウスもまた、魔剣を失った両手両足に紫電を纏わせ、雷速の体術で暗殺者たちを次々と消し炭にしていく。
「な、なんだこのガキ共はァッ!? ぎゃあああっ!」
「た、助け——ごふぅっ!!」
先ほどまでルンベルスを狙っていた『黒き毒蛇』の暗殺者たちは、一瞬にして「最強コンビの逆鱗に触れた哀れなサンドバッグ」へと成り下がった。
「いいかクラウス! あのハゲた奴は俺がやる! お前はその横の三人を片付けろ!」
「了解したリアン! 右の死角は僕がカバーする、存分に暴れろ!」
バンッ! バキィッ! ドゴォォォンッ!
リアンが敵の攻撃を最小限の動きで捌き(下ごしらえ)、体勢が崩れたところにクラウスの雷の蹴り(加熱処理)が叩き込まれる。
互いに一言も打ち合わせをしていないにも関わらず、二人の連携は【完璧】だった。
お互いの呼吸、踏み込みの癖、攻撃のリーチ。先ほどの決闘で互いのすべてをぶつけ合ったからこそ、今の二人の間には、一糸乱れぬ阿吽の呼吸が完成していたのだ。
「な、なんだ、あの完璧な連携は……!?」
観客席で盾になろうとしていたルンベルスは、呆然と立ち尽くしていた。
彼が見ているのは、もはやただの喧嘩ではない。背中を完全に預け合い、互いの死角を補い合う、真の『戦友』の姿であった。
「……お分かりになりましたか、お爺さん」
ルナが、ふわりと微笑みながらルンベルスに語りかけた。
「あれが、リアン君とクラウス様の『絆』ですわ。環境や身分なんて関係ない。お二人は、互いを誰よりも信頼している最強のコンビなのです」
「信頼……」
ルンベルスは、圧倒的な蹂躙劇(八つ当たり)を繰り広げる二人の少年から、目が離せなかった。
自分が「レベルを下げる環境」と吐き捨てた男爵子息が、誰よりもクラウスの背中を守り、そしてクラウスもまた、心の底から楽しそうに笑いながら共に戦っている。
「ヒィィィッ!? バ、バケモノかテメェらはァッ!」
わずか数十秒。
闘技場に降り立った数十人の暗殺者たちは、理不尽にキレた二人の八つ当たりによって、完全に壊滅させられていた。
立っているのは、全身をガタガタと震わせているリーダーの男ただ一人。
「く、くそっ! くそぉぉぉっ! こうなったら、ジジイだけでも道連れにして任務を——!!」
絶望的な状況に追い込まれたリーダーは、血走った目でルンベルスを睨みつけた。
彼は懐から、致死量の猛毒が塗られた『暗器(投げナイフ)』を引き抜き、腕を振りかぶる。
「死ねェェェッ、侯爵家の犬ゥゥゥッ!!」
ビュンッ!!
リーダーの執念が込められた毒刃が、空気を切り裂き、ルンベルスの心臓へと向かって一直線に飛来した。
「ッ……! しまった!!」
リアンとクラウスが距離を詰めようとするが、ほんの僅かに間に合わない。
ルンベルスもまた、その速すぎる暗器の軌道に反応できず、ただ目を見開くことしかできなかった。
死の刃が、堅物執事の胸に突き刺さる——まさにその、刹那。
「とぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」
観客席から、特注の安全靴を履いた『月兎族の少女』が、音速のステップでルンベルスの盾となるように躍り出たのである。




