↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
276/425

EP 14

Sクラス頂上決戦! 紫電と薄刃、そして熱き殴り合い(クロスカウンター)

翌日、正午。ルナミス学園・第一闘技場。

普段は模擬戦の授業で使われる広大な石造りのコロシアムは、今、異様な静寂と緊張感に包まれていた。

観客席には、固唾を呑んで闘技場を見下ろすルナ、キャルル、リーザの三人。

そして、その少し離れた場所で、腕を組みながら冷徹な視線を送るアルヴィン侯爵家筆頭執事・ルンベルスの姿があった。

「……愚かな。アルヴィン侯爵家の至宝であるクラウス坊ちゃまに、平民同然の男爵子息が剣で挑むなど。一瞬で勝負は決まります」

ルンベルスが冷ややかに呟く。

だが、闘技場の中央で向かい合う二人の間には、身分や家柄などというちっぽけな壁は、すでに存在していなかった。

「……いい風だ。絶好の『証明』日和だな、リアン」

クラウスが、愛用の魔剣を引き抜きながら、楽しげに笑う。

その全身からは、すでに強烈な紫色の稲妻(闘気)がバチバチと音を立てて溢れ出していた。彼が本気で戦う時にのみ見せる、最高密度の魔力放出である。

「ああ。さっさとテスト(人事評価)を終わらせて、昼飯の仕込みに戻らねぇとな」

リアンは、腰の長剣をゆっくりと抜き放った。

一切の魔力を纏わない、ただ極限まで研ぎ澄まされただけの薄刃。それを、まるで前世の厨房で野菜の皮を剥く時のような、脱力した自然体で構える。

「行くぞ、リアン!!」

ダンッ!!

闘技場の石畳が爆発し、クラウスの姿が消えた。

雷速の踏み込み。一瞬にしてリアンの懐へと潜り込んだクラウスが、紫電を纏った必殺の一撃を上段から振り下ろす。

「『紫電・迅雷刃』!!」

空気を焦がす轟音と共に、一撃必殺の雷の刃がリアンに迫る。

観客席のルンベルスが「決まった」と確信した、その瞬間。

「……火の通りが早すぎるな。もう少し『薄く』削ぐか」

リアンは、焦るどころか、極めて冷静な料理人の目で、迫り来る雷撃の軌道を『見切った』。

彼は手首のスナップだけを使い、手にした長剣を下から上へと、滑らかに、そして異常な速度で振り上げた。

シュガァァァァァァンッ!!!!

「なっ……!?」

クラウスが驚愕に見開いた目の前で、信じられない現象が起きた。

リアンの放った一閃が、クラウスの纏う『紫電の魔力』そのものを、まるで巨大な魚の身を切り分けるかのように、綺麗に【三枚おろし】にしてしまったのだ。

両断された雷撃は、リアンの身体の左右を通り抜け、後方の石壁に着弾して大爆発を起こす。

だが、リアン自身には一本の髪の毛すら焦げ跡がない。

「……嘘、だろう? 私の雷撃を、魔力ごと『斬った』だと!?」

「お前の雷撃、スジが多くて切りにくいな。……だが、素材(魔力)の鮮度は抜群だ」

リアンは剣をクルクルと回し、ニヤリと笑った。

「バ、バカナ……! 魔力を持たぬただの剣戟で、坊ちゃまの紫電を相殺したというのか!?」

観客席のルンベルスが、目を見開いて身を乗り出した。

リアンが行ったのは、魔法の無効化ではない。

前世の三ツ星スーシェフとして、何万匹という魚や肉の『繊維』を見極め、斬り裂いてきた圧倒的な包丁捌き。それを極限まで研ぎ澄まし、剣術に昇華させた結果……彼は、相手の放つ魔力の『繊維(流れ)』すらも視覚化し、その一番脆い部分に刃を滑り込ませて解体(三枚おろし)してしまうという、規格外の【天然ボケ(凄すぎる技術)】へと到達していたのだ。

「ハハッ……! はははははっ! やはり君は最高だ、リアン!」

クラウスは、自身の絶技を防がれたというのに、心の底から歓喜の笑い声を上げた。

「これならどうだ! 『紫電・乱れ十文字』!!」

「火力が強すぎる。強火ごりおしで焦がすな」

ガキィィィィィンッ!! キィィィンッ!! ズバァァァンッ!!

闘技場の中央で、紫色の雷光と、銀色の閃光が凄まじい速度で交錯する。

クラウスが放つ剣戟の雨を、リアンは最小限の動きで、すべて『調理いなし』していく。

雷を削ぎ落とし、闘気を輪切りにし、剣の軌道を捌く。

一歩間違えれば即死の攻防の中で、二人はまるでお互いの呼吸を確かめ合うように、極上の笑みを浮かべていた。

「すごい……! クラウス様の本気の攻撃を、リアン君が全部防いでいますわ!」

ルナが、祈るように両手を握りしめながら感嘆の声を上げる。

「あれ、防いでるんじゃないよ! リアン、クラウス君の剣の力を利用して、カウンターのタイミングを計ってるんだ!」

キャルルの獣人の動体視力が、リアンの恐るべき盤外戦術(リスク計算)を見抜く。

「あの男爵子息……! これほどまでの剣の腕を隠し持っていたというのか……!?」

ルンベルスは、信じられないものを見るような目で、額に冷や汗を浮かべていた。

名門アルヴィン家の至宝と、互角。いや、技術だけを見れば、荒れ狂う雷を完璧にコントロールしているリアンの方が、一枚上手であるようにも見えた。

「往くぞ、リアン! これが僕の、最大火力だァァァッ!!」

クラウスが、全魔力を魔剣に注ぎ込み、闘技場の空気がプラズマでチリチリと焼け焦げる。

巨大な紫電の刃が、クラウスの頭上に形成された。

「……上等だ。極上のメインディッシュ、俺の三ツ星の包丁けんで、綺麗に捌いてやる」

リアンもまた、剣を腰だめに構え、極限の集中力を高めた。

「「うおおおおおおおおっ!!!!」」

ドッゴォォォォォォォォォォォォンッ!!!!

最強の雷撃と、極致の薄刃が、闘技場の中央で真っ向から激突した。

凄まじい衝撃波が巻き起こり、観客席のルナたちが強風に身を庇う。ルンベルスでさえ、その余波でマントを激しく煽られた。

砂煙が晴れた後。

闘技場の中央には、驚くべき光景が広がっていた。

パキンッ……。

クラウスの魔剣と、リアンの長剣。

互いの規格外の威力が正面から衝突した結果、両者の剣は完全に限界を迎え、同時に『へし折れて』弾き飛ばされていたのだ。

「……あーあ。俺の愛用の包丁けんが、刃こぼれ通り越して折れちまった」

リアンが、柄だけになった剣をポイと捨てる。

「ふふっ……。僕の魔剣も、君の捌きに耐えきれなかったようだ」

クラウスもまた、折れた剣を投げ捨てた。

両者、武器喪失。

普通の決闘であれば、ここで『引き分け』となるか、魔力残量で勝るクラウスの勝利となるだろう。ルンベルスも、そう思って息を吐き出そうとした。

だが。

「……おい、クラウス。まだ『お腹いっぱい』じゃねぇだろ?」

リアンが、ネクタイを少し緩め、両手を軽く握り込んでファイティングポーズをとった。

「ああ……もちろんだとも。最高のフルコースの後は、極上の『デザート(拳)』が待っているものだからな!」

クラウスもまた、マントを脱ぎ捨て、泥臭く両拳を構えた。

「行くぜ、親友バトルジャンキー!」

「来い、相棒(CFO)!」

ダッ!!

二人は同時に地を蹴り、武器を持たない素手同士で、正面から激突した!

ドゴォッ!!

リアンの右ストレートが、クラウスの頬を捉える!

「やるなリアン! お前、雷なしでも重い拳してやがる!」

バキィッ!!

クラウスの左フックが、リアンの顎を跳ね上げる!

「痛ぇな! さすが名門の嫡男様、お行儀のいいパンチだぜ!」

魔法も、剣術も、身分も関係ない。

ただの12歳の少年二人が、互いの実力と存在を心の底から認め合い、全力で拳をぶつけ合う。

「なんだ、あれは……。あのような泥臭い殴り合い……! 貴族の決闘とは呼べぬ……ッ!」

ルンベルスが、理解不能な光景に震える声で呟く。

「分かってないですわね、お爺さん」

隣で見ていたリーザが、みかん箱に座りながら得意げに鼻を鳴らした。

「あれが、私達Sクラスの『頂上決戦』ですわ。……お互いを完全に信頼しきっているからこそできる、最高のコミュニケーションなんですのよ」

「……信頼、だと?」

ルンベルスは、闘技場の中央で、泥だらけになりながらも心の底から楽しそうに笑い合い、拳を交える二人の姿から目が離せなかった。

そこには、彼が今までクラウスに教えてきた「格下を見下し、環境を選ぶ」というノブリス・オブリージュの姿は微塵もない。

あるのは、魂のレベルで対等な【本物の友】の姿だけだった。

「ハァッ……! ハァッ……! まだまだだぞ、リアン!」

「ぜぇっ……! はぁっ……! お前こそ、バテてんじゃねぇぞ、クラウス!」

互いの体力が限界に近づき、最後の一撃クロスカウンターを放とうと、二人が大きく拳を振りかぶった。

最高の決着が、今まさに訪れようとしていた。

——しかし。

彼らのその『最高の青春(時間)』は。

上空から飛来した、卑劣で招かれざる【第三者】によって、無惨にも引き裂かれることとなる。

ズドォォォォォォォォォンッ!!!!

突如として、闘技場の天井のガラスドームが派手に砕け散り、黒装束に身を包んだ数十人の集団が、刃を煌めかせながらコロシアムへと乱入してきたのである。

読んでいただきありがとうございます。

面白いと思っていただけましたら、★評価やブックマークで応援していただけると励みになります。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。