EP 10
目覚めたエルフと、超高額『歯科治療費』の強制徴収
「……痛くない。それに、お口の中がとってもスッキリしていますわ!」
ルナミス学園男子寮、タコ部屋。
虫歯の激痛で気を失っていたエルフの次期女王ルナは、自身の頬を撫でながら、パァッと花が咲いたような笑顔を浮かべた。
窓の外を見れば、彼女の痛みに呼応して異常繁殖し、世界を滅ぼしかけていた『巨大な食虫植物』や『毒の蔦』たちはすっかり姿を消し、穏やかな春の陽光が差し込んでいる。
「リアン君! クラウス様! キャルルちゃんに、リーザさんも! わたし、虫歯がすっかり治りましたの! これは世界樹の奇跡ですわ!」
ルナが両手を胸の前で組み、感動の涙を浮かべる。
「ああ、よかったな、ルナ」
リアン・クラインは、壁に激突した際の服の埃をパンパンと払いながら、スッ……と極めて冷徹な、そして底知れぬ『強欲』を秘めたビジネススマイルを浮かべた。
「奇跡じゃねぇよ。……俺たち【Sクラス特別医療チーム】が、お前の口の中で命がけの『外科手術(不良債権処理)』を行ってきたんだからな」
「え……? 外科手術、ですの?」
ルナがきょとんと首を傾げる。
「ああ。ルチアナの野郎にミクロ化されてな。お前の右下奥歯の深淵で、俺たちは魔物の群れと戦い、激流(唾液)を乗り越え、ついには神経を削ろうとしていた『蟲歯男爵』っていう悪徳業者を物理的に殲滅してきたんだ」
「む、蟲歯男爵……?」
「そうだ。あいつらはお前の魔力を勝手に採掘し、ブラック鉱山を作っていた。だが安心していい。俺たちの『魔導削岩機』と『プラズマ砲』で完全に滅菌して、最高級のタローマン製セメントで穴を塞いでおいた」
リアンが淡々と語る「口の中で起きた大戦争」の事実に、ルナの美しい顔が引きつっていく。
「プ、プラズマ砲……? わたしの口の中で、そんな戦略兵器がぶっ放されていたんですの……?」
「ノブリス・オブリージュの誇りにかけて、君の神経は守り抜いたぞ、ルナ! 私の魔剣は酸でドロドロに溶けかけたがな!」
クラウスが、ボロボロになった魔剣の刀身を見せながらドヤ顔で頷く。
「私の特注安全靴も、敵のバリアをブチ破るために溶けちゃったんだよ! 痛かったんだから!」
キャルルが、素足になった右足をブラブラとさせる。
「私は麻酔代わりに『ハゲたぬきのポンポコ節』を歌わされましたのよ!? アイドルの尊厳がズタズタですわ!!」
リーザがみかん箱を抱えながら涙目で訴える。
「……みなさん。わたしの、わたしの歯のために、そこまで……っ!」
ルナは再び感動し、ボロボロと大粒の涙をこぼした。
「ありがとうございます……! わたし、このご恩は一生忘れませんわ!!」
「ご恩(気持ち)はいらねぇ」
リアンは、懐から愛用の分厚い『帳簿』と、一枚の真新しい『羊皮紙(請求書)』を取り出した。
「資本主義社会において、感謝の意は『数字』で示すもんだ」
万年筆のペン先がカリカリと鳴り、羊皮紙に美しくも恐ろしい「ゼロの羅列」が書き込まれていく。
そしてリアンは、その羊皮紙を、感動で泣いているルナの目の前にスッと突きつけた。
「……さて。ルナ・マウス・ダンジョンの完全攻略と、世界滅亡の危機を救った正当な『対価』の精算といこうか。これが今回の【Sクラス特製・ミクロ完全無痛レーザー歯科治療】の請求書だ」
「せ、請求書……?」
ルナは涙を拭い、その羊皮紙を受け取った。
そして、そこに書かれた『合計金額』を見た瞬間。
「…………へ?」
ルナのエルフ特有の長い耳が、ピーンと垂直に逆立った。
「じゅ……『純金100キロ』ぉぉぉぉぉぉぉっ!!??」
タコ部屋の窓ガラスがビリビリと震えるほどの、悲痛な絶叫が響き渡った。
「り、リアン君!? いくらなんでも高すぎませんこと!? これ、わたしが世界樹の里から毎月もらい続けて、地下室でずっと塩漬けにしていた『次期女王の年金』のほぼ全額ですわよ!?」
「妥当な価格だろ」
リアンは悪びれもせず、腕を組んで鼻で笑った。
「内訳を見てみろ。タローマンから緊急発注した【耐酸性スプリンクラー】と【建築用セメント】。影丸の【軍事用タングステンワイヤー】の材料費。これら最新鋭の資材費で『純金20キロ』」
「建築資材を口の中に入れたんですの!?」
「さらに、リーザによる【局所麻酔】の出演料と精神的慰謝料で『純金20キロ』」
「ボッタクリですわーっ!! ハゲたぬきの歌にそんな価値ありませんわーっ!!」
「なんですって!? 命を救ってあげたのにその言い草、アイドルとして許せませんわ!!」
リーザがみかん箱から身を乗り出して抗議する。
「そして極めつけ」
リアンは、ポンと手を叩いた。
「俺の召喚獣である巨大機械竜・空丸を使用した【100ロックオン・プラズマ滅菌治療】の特別機材費。……これに、俺たちSクラスが命がけで出動した『危険手当』を合わせて、しめて【純金100キロ】。税込み価格だ。感謝しろ」
「か、感謝できませんわーっ!! わたしの老後の資金がァァァッ!!」
ルナが涙目で抗議するが、Sクラスの面々は誰も助け舟を出さなかった。
「ルナ。我々も命を懸けたのだ。リアンの言う通り、正当な対価は支払うべきだろう(私の魔剣の修理費もいるしな)」
「うんうん! ルナちゃん、お金はいっぱい持ってるんだから、たまには経済を回さないとダメだよ!(私の新しい靴も買ってもらうし!)」
クラウスとキャルルが、完全に『債権者』の顔になってルナを取り囲む。
「う、うぅ……っ。Sクラスの皆さんは、本当に強欲なバケモノ(守銭奴)の集まりですわ……っ」
ルナは観念したようにガクリと膝をつき、震える手で請求書に『支払い同意』のサイン(エルフの魔力印)を押した。
ピロリン♪
リアンの持つ【ネット通販(口座)】のシステムに、莫大な額のポイント(純金100キロ相当)がチャージされた電子音が響く。
「……よし。入金確認、完了だ」
リアンは帳簿の『純利益』の欄に、美しい二重線を引いた。
「虫歯菌という最悪の不良債権を完済し、特大の資産(純金)を巻き上げることに成功した。今月も文句なしの【メガ・ジャックポット(超絶黒字)】だ!!」
「やったぁぁぁぁっ!! 大勝利ですわぁぁっ!! これで今夜は、モヤシ炒めじゃなくて高級ステーキが食べられますのよぉぉっ!!」
リーザがみかん箱の上で歓喜のダンスを踊り狂う。
「よし! 予算は腐るほどある! 今日は俺たちSクラスの『12歳の誕生日』と、ルナの虫歯完治を祝って、タコ部屋で特大の大宴会を開くぞ!!」
リアンが宣言し、ネット通販の画面を猛スピードで操作し始めた。
「タローマンの食品コーナーから、最高級の『極上霜降り・エンペラー・サーモン』と『特選ロックバイソンの塊肉』を大量発注だ! 俺が三ツ星スーシェフの全力で、極上のフルコースを振る舞ってやる!!」
「うおおおおッ! リアンの本気料理!! ノブリス・オブリージュの血が騒ぐぞ!!」
「お肉! お肉! あ、クラウス君! キャルルは甘いケーキも食べたいな♡」
「も、もちろんだキャルル! リアン、ケーキも頼む!」
Sクラスの面々が大はしゃぎで宴会の準備を始める。
「……うぅっ。わたしの、わたしの純金がステーキとケーキに……。でも……リアン君のご飯、とっても美味しいから……許しちゃいますわ……っ」
ルナも、涙を拭いながら、結局は楽しそうに尻尾(エルフの耳)を揺らして宴会の輪へと加わっていった。
ミクロの決死圏で繰り広げられた、理不尽で凶悪な『カリエス・ウォー(虫歯大戦争)』。
世界滅亡の危機は、冷徹なプロデューサーの化学方程式と、極貧アイドルの宴会芸、そして容赦のない盤外戦術によって完璧に防がれた。
結果として残ったのは、健康な歯を取り戻したエルフの少女と、彼らが手に入れた莫大な利益(純金100キロ)。
そして、タコ部屋を満たす、最高に美味そうな肉の焼ける匂いと、仲間たちの絶えない笑い声だけであった。
ルナミス学園が誇る最強最悪のバケモノ集団『Sクラス』の、強欲で理不尽な青春は、これからも止まることなく、どこまでも特大の黒字を弾き出しながら続いていくのである。
『ミクロの決死圏と、超高額・歯科治療費の請求』
——【純金100キロ(メガ・ジャックポット)にて決算完了】!!
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