EP 30
炎上神のアカウントBAN(大赤字)と、ポポロ村の特大黒字
「あ……あぁ……っ。俺の……俺の配信が……っ」
神界セレスティア、第一会議室。
巨大モニターの前にへたり込んだ炎上神ワイズは、自身のエンジェルすまーとふぉんを握りしめ、ガチガチと歯を鳴らして震えていた。
彼が意気揚々と立ち上げた【悲報:国境の村、魔獣の大群に襲われ壊滅の危機!?】という生配信。
しかし、その画面に映し出されていたのは、悲劇でも何でもない。みかん箱の上で歌う芋ジャージの少女と、その前でオタ芸を打って気絶する魔獣。そして、空から現れた謎の巨大機械竜(空丸)のプラズマ砲によって、自慢の勇者が『アフロヘアーのパンイチ姿』にされるという、極上のギャグ映像であった。
画面の右側を流れるコメント欄は、もはや制御不能の暴動状態である。
『やらせ乙www』
『勇者(笑)パンイチで気絶してて草』
『村人より魔獣の方が被害受けてるじゃねーかw』
『完全に仕込みの詐欺配信。通報したわ』
『神(配信者)の恥。引退しろ』
低評価の嵐と、運営(上位神)への通報(スパム報告)の連打。
そして——ワイズのすまーとふぉんの画面が、突如として真っ赤な警告色に染まった。
『SYSTEM:利用規約違反(不正なやらせ行為、生態系の無断操作、詐欺的集金)を多数確認しました』
『SYSTEM:上位神の監査プロトコルが発動。……当アカウントを【永久凍結(BAN)】します』
ブツンッ。
無慈悲な電子音と共に、ワイズの配信画面が暗転し、アカウント残高の表示が『0G』へとリセットされた。
「あ……あああああぁぁぁぁぁぁっ!!??」
ワイズは頭を抱え、床を転げ回って絶叫した。
「俺の数字が!! スポンサーから集めた予算が!! ゼロスにつぎ込んだ借金(リボ払い)だけが残ってるじゃねぇか!! こんなの、こんなのどうやって返せばいいんだよォォォッ!!」
「フフッ。自業自得ね、三流の炎上配信者さん」
絶望の淵に沈むワイズの背後から、勝ち誇ったような冷ややかな声が降ってきた。
芋ジャージ姿の世界神・ルチアナである。彼女は片手にタブレット端末を持ち、上機嫌で缶ビールをプシュッと開けていた。
「ル、ルチアナのババア……! てめぇ、裏でガキ共にチート(戦力)を渡しやがったな! これは規律違反だぞ!!」
「あら、人聞きの悪い。私はただ、自分の担当する世界の子供たちに、ちょっとした『お小遣い(召喚の大)』をあげただけよ。……それより、これを見なさいな」
ルチアナがタブレットの画面をワイズに突きつける。
そこには、ルチアナの個人チャンネルでひっそりと行われていた【裏配信】のアーカイブが表示されていた。
タイトルは『【暴露】炎上神のやらせ村焼きの裏側! Sクラスが偽勇者を物理で完全論破してみた!』。
「な、なんだこれは……!?」
「あんたのやらせ配信の裏側を、別アングルから神格カメラで隠し撮りして、同時配信させてもらったのよ」
ルチアナは悪魔のようにニヤリと笑った。
「これがもう、全宇宙の神々の間で『最高のざまぁエンタメ』として大バズりしちゃってね! 同時接続数はあんたの十倍! スポンサー(上位神)からのスパチャと高評価の嵐で、今月のアナスタシア世界の予算は……なんと【前年比500%アップ】よ!!」
「ご、ごひゃく……!?」
「ルチアナ君!! よくやった!! これで私の胃の痛みも消え去ったよ!!」
いつの間にか会議室に駆けつけていた主神オリンが、ハゲ頭をピカピカに輝かせて感涙にむせいでいる。
「この特大の予算(黒字)があれば、私も銀河神への昇進に手が届くかもしれん! 君はアナスタシア世界の救世主だ!」
「ふふん、当然でしょ。……さ、ワイズ。あんたはアカウントも吹き飛んで、莫大な負債だけが残った完全な『不良債権』よ。天界の黒服レスラーに身ぐるみ剥がされて、マグローザ漁船(蟹工船)で一生借金返済してきなさい!」
「い、嫌だ! 漁船だけは! 誰か、誰か俺にスパチャをォォォッ!!」
天界の屈強な黒服たちに両腕を掴まれ、ズルズルと引きずられていくワイズ。
数字のためなら命すら弄んだ下劣な炎上神は、自らが用意した舞台で完全な大赤字を叩き出し、惨めに退場していったのである。
* * *
一方、その頃。
夜が明け始めたルナミス帝国辺境、ポポロ村の広場。
「よし。これで村周辺の『おもてなしトラップ』の解体と、魔獣の残骸の清掃は完了だな」
リアンは、徹夜の作業を終えて大きく伸びをした。
「お疲れ様です、リアン様。……それにしても、まさか本当に魔獣の大群を無傷で制圧してしまうとは。Sクラスの皆様の力には、いつも驚かされます」
ポポロ村の住人たちが、安堵の表情でリアンたちに温かい陽薬草茶を配って回っている。
「ふはははッ! ノブリス・オブリージュの誇りにかけて、民の平和を守るのは当然のこと! ……それにしても、あの偽勇者は酷い有様だったな」
クラウスが陽薬草茶を啜りながら、広場の隅へ視線を向けた。
そこには、全身真っ黒焦げのアフロヘアーで、白い布のパンツ一丁の姿でグルグル巻きに縛られているゼロス・ディバインの姿があった。
彼はすでに、ポポロ村の自警団によって『不法侵入および放火未遂』の罪で、帝都の牢獄(もしくは借金返済のためのマグローザ漁船)へ送られる手はずとなっている。
「自業自得だ。自分の実力(資本)じゃねぇものに依存するから、あんな風に一瞬で破産するんだよ」
リアンは鼻で笑い、愛用の分厚い帳簿を開いた。
「それより、重要なのはこっちの『決算』だ。……おい、リーザ」
「はいはい! プロデューサー! 今月も特大の『おひねり』が入りましたわよ!」
芋ジャージ姿のリーザが、ホクホク顔で巨大な段ボール(お賽銭箱)を引きずってきた。
その中には、ゼロスから『Love & Money』のバグ効果で強制的に吸い上げた、ワイズの軍資金……眩いばかりの光を放つ【白金貨の山】が、これでもかとギッシリ詰まっていた。
「「「おおおおおぉぉぉっ!!」」」
キャルルとルナが、目を$マークにして歓声を上げる。
「村の防衛コンサルティング料、不法投棄された魔獣の清掃費、さらには精神的苦痛に対する慰謝料。……しめて、この箱の中身【全額】を、今回のSクラス(俺たち)の正当な『利益』として計上させてもらう」
リアンは万年筆を走らせ、帳簿の『純利益』の欄に、美しい二重線と共に天文学的な数字を書き込んだ。
「完璧だ。偽物の勇者をスクラップにし、村の安全を守り、おまけに国家予算レベルのキャッシュを手に入れた! 今月も、文句なしの【特大黒字】だ!!」
「やったー!! 大勝利だね、リアンくん!」
キャルルがピョンピョンと飛び跳ねて喜ぶ。
「さあ! 資金は潤沢ですわよ! 今日はポポロ村の皆さんも巻き込んで、特大の宴を開きましょう!!」
ルナが扇を天に突き上げ、高らかに宣言した。
その言葉を合図に、広場の中央に巨大な焚き火が組まれる。
キャルルが村の備蓄から最高級の『ロックバイソンの厚切り肉』と『ピラダイの切り身』をドサドサと持ち出し、ルナが世界樹の森の極上野菜を次々と生成していく。
「おっしゃ! 今日は俺が腕によりをかけて、三ツ星レストランの味(特製BBQ)を振る舞ってやる! クラウス、火の魔法で炭を熾せ! リーザはBGM(宴会芸)の準備だ!」
「アイアイサー!!」
「任せてくださいませ! ハゲたぬきのポンポコ節、いきますわよー!」
リーザが鼻に五円玉を詰め、お腹をポンポコと叩きながら宴会芸を始める。
ジュワァァァァッ!!
リアンが特製の『醤油草』と『マヨ・ハーブ』をブレンドしたソースを絡め、分厚いロックバイソンの肉を鉄板で豪快に焼き上げる。
肉の焼ける暴力的なまでに食欲をそそる香りが、朝日に照らされるポポロ村全体に広がっていった。
「う、うおおおッ! 美味い! この肉の弾力と、リアン特製ソースの絡み合い! まさに至福の味だ!」
クラウスが顔を綻ばせて肉を頬張る。
「ぷはぁーっ! 朝から飲む『イモッカ(芋ウォッカ)』のソーダ割りは最高だね!」
キャルルがジョッキを掲げ、村人たちと肩を組んで大笑いしている。
自分たちの居場所を荒らそうとした炎上神の理不尽なシナリオは、Sクラスの冷徹な盤外戦術と、圧倒的な強欲さによって完全に打ち砕かれた。
結果として残ったのは、莫大な利益と、仲間たちと囲む極上の美味しい食事だけである。
「……フッ。これだから、不良債権の処理はやめられねぇな」
リアンは、朝日に輝く白金貨の山と、笑顔で肉を頬張るタコ部屋の仲間たちを眺めながら、満足げに特製BBQの肉を口に運んだ。
神界の思惑すらも、自分たちの利益(メシの種)に変えていく。
ルナミス学園が誇る最強最悪のバケモノ集団『Sクラス』の強欲で理不尽な冒険は、この特大の黒字を足掛かりにして、これからもどこまでも続いていくのである。
『第十五章:炎上神の村焼き(やらせ)と、課金勇者の大赤字決算』
——【特大黒字にて決算完了】!!
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