EP 26
やらせ配信崩壊! 魔獣軍団VS極貧アイドルとエルフの天然テロ
神界セレスティアの一室。
炎上神ワイズは、自身のエンジェルすまーとふぉんと同期させた大型モニターの前に座り、カプチーノを啜りながらニヤニヤと笑っていた。
モニターには、彼が特別に立ち上げたゴッドチューブの生配信枠【悲報:国境の村(ポポロ村)、魔獣の大群に襲われ壊滅の危機!?】という、いかにも扇情的なサムネイルが表示されている。
ワイズが自ら狂化バフをかけた数百体の魔獣群が、ポポロ村の防衛林へと突入していく映像が、ドローン視点(神格カメラ)から生々しく映し出されていた。
「ヒヒッ。いいぞいいぞ、同接(同時接続者数)がドンドン伸びてる。平和な村が火の海になり、村人が泣き叫ぶ。その絶望のピークで、課金勇者が颯爽と登場する……! これで今月のPVランキングも、俺がぶっちぎりのトップだわ」
ワイズの頭の中では、完璧な悲劇の台本が出来上がっていた。
だが。
彼の自信に満ちたその台本は、開始わずか『数秒』で、粉々に破り捨てられることとなる。
* * *
「グルルルルルッ!!」「ガァァァァッ!!」
狂乱状態となった魔獣の群れが、土煙を上げて原生林の獣道を疾走する。
しかし、先頭を走っていた巨大なオークたちが、獣道に足を踏み入れたその瞬間であった。
「……前菜の入場だ。まずは細かく刻め、影丸」
森の奥から、冷徹な三ツ星スーシェフ・リアンの声が響いた。
直後。
シュパンッ!! ズバババババッ!!
「「「ブギィィィィッ!?」」」
突如として、先頭集団のオークたちの身体が、空中で不自然に停止し——次の瞬間、まるで網目に押し付けられたゼリーのように、綺麗な『立方体』となってボトボトと地面に崩れ落ちたのだ。
「シャァァ……」
木々の影に潜む影丸が、DIYで張り巡らせた【極細対物ワイヤー(耐荷重5トン)】の張力を、満足げに確認している。
「よし、サイコロステーキの完成だな。……次は、火力を上げて表面を一気に焼き上げる(フランベする)ぞ」
後続の魔獣たちが、前方の惨状に気づかずに突っ込んでくる。
彼らの足が、落ち葉に偽装された落とし穴の『感圧式センサー』を踏み抜いた。
「ポチッとな」
リアンがスマートフォンの起爆ボタンをタップする。
ドッゴォォォォォォォォォンッ!!!!
森の木々を揺るがす大爆発。
落とし穴の底に敷き詰められていた、リアンお手製の【ANFO爆薬】が連鎖的に起爆。数百体の魔獣たちは、村人に悲鳴を上げさせるどころか、自分たちが断末魔の悲鳴を上げながら、夜空高くへと打ち上げられ、黒焦げのミンチとなって降り注いだ。
* * *
「なっ……!? な、なんだ今の爆発は!?」
モニターの前で、ワイズが飲んでいたカプチーノを盛大に吹き出した。
「どうなってんだ!? ただの辺境の村だろ!? なんであんな、近代兵器の地雷原みたいな防衛線が張られてんだよ!!」
だが、ワイズの混乱をよそに、モニター越しの地獄はまだ終わらない。
ワイヤーと爆薬のエリアを、運良く(あるいは不運にも)生き残った数十体の屈強な魔獣たちが、フラフラになりながらも村の防壁の手前まで辿り着いた。
「来たね! そーれっ!」
キャルルが特注の安全靴で地面を強く踏み鳴らす。
『土竜踏み』によって液状化した地面が、魔獣たちの足元を巨大な【底なし沼】へと変貌させた。
「ズ、ズズォォォ……ッ!?」
身動きが取れず、沼に沈んでいく魔獣たち。
「ふふっ♡ せっかくのお越しですもの。最高のおもてなし(幻覚)を味わってくださいな」
ルナが優雅に扇を振るうと、沼の底から、世界樹の森の特産品である極彩色の【ハッピー・ドリーム(幻覚触手植物)】がウジャウジャと這い出してきた。
無数の触手が、沼でもがく魔獣たちの脳天や延髄に、一切の容赦なく『ブスッ!!』と突き刺さる。
「ガァ、ガガッ……!?」
魔獣たちは一瞬ビクンと痙攣したが、次の瞬間、その凶悪な顔が、だらしなく緩み始めた。
「デヘヘヘ……酒だ、極上の肉だァ……」
「お姉ちゃん、もう一杯頼むよォ……グフフフ」
村を焼くはずだった凶悪なモンスターたちが、沼に半身を沈めたまま、ヨダレを垂らして「キャバクラで豪遊する幻覚(電子ドラッグ)」に溺れ、完全に無力化(廃人化)してしまったのだ。
* * *
「…………は?」
神界のモニター前。ワイズは、あまりのシュールな光景に、完全に言葉を失っていた。
画面の右側を猛スピードで滝のように流れる、ゴッドチューブの【コメント欄】。
そこには、悲劇の村焼き配信を期待していた視聴者たちからの、容赦ないツッコミの嵐が吹き荒れていた。
『え? 何これw』
『村人が襲われる悲劇の配信じゃなかったの?ww』
『魔獣がワイヤーでサイコロステーキにされてるんだがwww』
『底なし沼からの電子ドラッグ触手エグすぎワロタ』
『魔獣がヨダレ垂らして笑ってるぞw 完全にギャグ配信じゃん』
『やらせ失敗乙www』
『タイトル詐欺だろ、低評価押しとくわ』
「ふ、ふざけんな! 俺の……俺の完璧な台本が!! PVが急激に下がってやがる!!」
ワイズは頭を抱え、モニターに向かって叫んだ。
だが、Sクラスによる『配信荒らし(エンタメ)』は、これだけでは終わらない。
沼を抜け、奇跡的に生き残った体長四メートルを超える『巨大ボスミノタウロス(HP残り1ミリ)』が、血塗れになりながら、ついにポポロ村の広場へと足を踏み入れた。
「ガ、ガァァァァッ!!」
ボスミノタウロスが、最期の力を振り絞って咆哮を上げる。
これで少しは『脅威』の映像が撮れる……! ワイズがそう祈った、次の瞬間である。
——キュイィィィィィンッ!!
広場のど真ん中。
不自然に置かれた『みかん箱』の上に立ち、エンジ色の芋ジャージを着た少女——リーザが、特注のマイクを握りしめてハウリング音を鳴らしたのだ。
「迷える患畜の皆様!! こんな深夜まで、私のライブ(防衛線)にお越しいただき、ありがとうございますわ!!」
ジャァァァァァァンッ!!
キャルルとルナが裏で操作する魔導スピーカーから、爆音で重厚なイントロが鳴り響く。
「静寂を切り裂く、黄金の咆哮……! 眠れる獅子の瞳に、紅蓮の火が灯るッ!!」
リーザが、ジャージの裾を翻しながら、腹の底から響くような声で【降臨!聖獣機神ガオガオン】を歌い始めた。
「さあ! ご一緒に!!」
「「ガオッ! ガオッ! ガオッ!」」
裏方に徹していたリアンやクラウスまで、なぜか無表情で合いの手を入れている。
「……オ? オォォォ……?」
村を破壊しに来たはずのボスミノタウロスは、リーザの放つ『貧乏神(観客の時間と理性を強制的に奪うバグ能力)』の圧倒的なアイドル・オーラを前に、完全に動きを止めた。
【吠えろ獅子! 聖なる咆哮】
【今だ、光の刃で一刀両断! 聖獣剣! ゴッド・ブレード!!】
「ガ、ガオォォ……ッ!」
曲がサビの最高潮に達した時。
驚くべきことに、巨大なボスミノタウロスは、戦斧を放り捨て、ぼろぼろと感動の涙を流しながら、みかん箱の前の最前列で完璧な『オタ芸』を打ち始めてしまったのだ。
「聖獣機神……ガオガオオオオン!!」
リーザがビシッとポーズを決めると、ミノタウロスは「ブモォォォォン!!(最高だァァァ!)」と雄叫びを上げ、感極まってそのまま泡を吹いて気絶(卒倒)した。
『ファーwwwwww』
『魔獣がオタ芸打って気絶したwww』
『腹痛いwww 神回じゃんwww』
『この芋ジャージのアイドル推せるわ! スパチャしとく!!』
『チャリーン♪(※リーザへのスーパーチャットが投げ銭されました)』
* * *
「——あああああああああああああああああああっ!!??」
神界の第一会議室。
ワイズの悲鳴が、響き渡った。
彼の仕組んだ「悲劇の村焼き配信」は、Sクラスのゲリラトラップと天然テロ、そして極貧アイドルの強欲なバフによって、完全に【深夜の爆笑ギャグバラエティ番組】へと上書きされてしまったのだ。
あまつさえ、自分に投げられるはずだったスパチャ(課金)が、敵の芋ジャージアイドルに吸い取られている始末である。
「くそっ、くそぉぉぉっ!! こんなの俺のシナリオじゃねぇ!! 悲劇だ! 悲鳴を、絶望を見せろよぉ!!」
ワイズは血走った目でエンジェルすまーとふぉんを引ったくり、国境で待機している【課金勇者ゼロス】へと、怒り狂った通信を叩きつけた。
『ゼロス!! てめぇ、何チンタラ待機してんだ!!』
『えっ? ワ、ワイズ様? まだ村から悲鳴が聞こえないのですが……そろそろ私の出番——』
『出番じゃねぇよバカヤロウ!! 魔獣が全滅したんだよ!! てめぇが直接村に入って、自分で火をつけて、自分で村人をブッ殺してこい!! 悲劇(数字)を物理的に作れ!!』
もはや手段を選ばない、炎上神の完全な八つ当たり(暴走)。
ついに、無限のステータス注入を誇る『課金勇者』が、重い腰を上げてポポロ村の広場へと足を踏み入れる。
だが、そこにはすでに、極悪非道な「おもてなしのフルコース」の【メインディッシュ(課金勇者の解体作業)】を待ち構える、冷徹なプロデューサーとSクラスの面々が、手薬煉を引いて待ち構えていたのである。
読んでいただきありがとうございます。
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