EP 25
極悪スーシェフの仕込み(プレップ)と、殺意のDIYトラップ(おもてなし)
「——私の大切なポポロ村を、やらせ配信のセットとして燃やすですって!?」
ルナミス帝国とアバロン魔皇国の緩衝地帯に位置する【ポポロ村】。
夜明け前、リアンの緊急招集によってタコ部屋から急行したSクラスの面々は、村長であるキャルル・ムーンハートの村長宅に集結していた。
リアンから「炎上神と課金勇者による村焼き計画」の全貌を聞かされたキャルルは、ウサ耳を逆立て、タローマン製の特注安全靴で床の石畳を粉砕せんばかりに踏み鳴らした。
「許さない……絶対に許さない! 村のみんなは、私が血を吐いてでも守るって決めた家族なんだから! そいつら全員、私の『月影流・顎砕き』で顔面陥没させてやる!!」
キャルルの瞳に、彼女特有の狂戦士スイッチが入ったヤンデレの光が宿る。
「落ち着け、キャルル。正面から殴り合っても、相手はシステムから無限にステータス(金)を注入されるチート野郎だ。馬鹿正直に相手の土俵に乗ってやる必要はねぇ」
リアンは、村長宅のテーブルの上に、ポポロ村周辺の詳細な地形図を広げた。
「料理も戦争も、勝敗の八割は『仕込み(プレップ)』で決まる。俺の愛読書である『都市ゲリラ教本』と『孫子兵法』の教えに則って、魔獣の群れと勇者がこの村に辿り着く前に、徹底的に削り切る【極悪非道のおもてなし(防衛線)】を構築する」
リアンが指を鳴らすと、彼の足元の『影』がグニャリと歪み、そこから漆黒の人型のシルエットがヌルリと立ち上がった。
「紹介しよう。ルチアナのインサイダー取引(神託)で解放された、俺の新しい手駒……【召喚(中):影丸】だ」
「シャァァ……ッ!」
影丸は、実体のない闇の身体から、鋭い『シャドウクロウ(影の爪)』をシャキッと伸ばし、恭しく一礼した。
「影に潜んで拘束や暗殺をするのが本来の能力だが……こいつにはもう一つ、『DIYが異常に得意』という謎の特性がある」
「でぃーあいい……わい?」
クラウスが首を傾げる。
「日曜大工(Do It Yourself)の略だ。つまり、図面と資材さえあれば、罠だろうが建築物だろうが、一晩で完璧に作り上げる現場仕事のプロってことさ」
リアンはニヤリと笑い、虚空に【ネット通販】のウインドウを展開した。
「俺はこれから、タローマンと現代日本のホームセンター(通販)から、大量の【建築資材・対物ワイヤー・指向性センサー・セメント】を購入する。……影丸、俺の描いた図面通りに、村を囲む森を『地獄の厨房』に改装しろ。経費は惜しむな」
「シャッ!!」
影丸が、DIY職人のような頼もしい敬礼をする。
「さて、Sクラスの役員共。俺たちが丹精込めて育てた経済拠点(ポポロ村)を不法投棄のゴミ捨て場にしようとしてる外道どもに、特大の『減損処理』を叩き込んでやるぞ」
リアンの号令と共に、Sクラスによる徹夜の狂気の仕込み(プレップ)が始まった。
* * *
数時間後の、ポポロ村を取り囲む原生林。
そこはもはや、自然の森ではなかった。
「……リアン。ノブリス・オブリージュの誇りにかけて問うのだが、これは……いくらなんでも、やり過ぎではないか?」
木の上から森を見下ろしていたクラウスが、顔を引きつらせて呟いた。
「バカ言え。相手はルール無用のチーターだ。これくらい(過剰防衛)やらなきゃ、割に合わねぇよ」
リアンは、手元のスマートフォン(起爆装置)を弄りながら鼻で笑う。
森の入り口から村へと続く獣道には、影丸の驚異的なDIYスキルによって、信じられない密度で『殺意』が仕込まれていた。
まず、足元。
一見ただの落ち葉に見えるが、その下にはタローマン製の速乾セメントで作られた『深さ三メートルの落とし穴』が無数に穿たれている。しかも底には、ただの棘ではなく、リアンが自作した【ANFO爆薬(硝安油剤爆薬)】を仕込んだ感圧式トラップが敷き詰められていた。
そして、空間。
木の幹から幹へと、視認不可能な細さの『極細対物ワイヤー(耐荷重5トン)』が、膝の高さ、首の高さ、さらにはジャンプした際の滞空位置など、徹底的に計算された幾何学模様で張り巡らされている。魔獣が猛スピードで突っ込めば、文字通り『サイコロステーキ』になる寸法だ。
「シャァァッ!」
影丸が、木の上の死角に『自動起爆式の指向性クレイモア地雷』を設置し終え、リアンに向けて親指を立てた。
「ご苦労。……キャルルとルナの仕込みはどうだ?」
「バッチリだよ、リアンくん!」
キャルルが安全靴で地面を踏み鳴らしながら駆け寄ってきた。
「村の防壁周りは、私の『土竜踏み』で地面を液状化させて底なし沼にしておいた! そこにルナちゃんが、さらに素敵なデコレーションをしてくれたよ!」
「ええ♡」
ルナが優雅に扇を翻し、ふわりと微笑んだ。
「せっかくのお客様(魔獣)ですもの。世界樹の森から取り寄せた【ハッピー・ドリーム(幻覚触手植物)】の種を、沼の中にたっぷり蒔いておきましたわ。沼に足を取られた瞬間、触手が彼らの脳髄に直接ぶっ刺さって、『お酒と女と金』の永遠の幻覚(電子ドラッグ)を見せ続けますわ♡」
天使のような顔で、電子ドラッグ付きの底なし沼を錬成するエルフの次期女王。もはやどっちが悪役か分からない。
「よし。これで完璧だ」
リアンは満足げに頷いた。
「……あの、リアン。私は何をすればよろしいんですの?」
芋ジャージ姿のリーザが、みかん箱を抱えながら首を傾げる。
「お前は、この防衛線をすり抜けてきた『体力ゲージが残り1ミリの魔獣』を、そのみかん箱の上で歌って、強制的にオタ芸を打たせて無力化する最終防衛ライン(アイドル)だ」
「なるほど! つまり私がメインディッシュですわね!」
リーザが嬉しそうにみかん箱を地面に置く。
「違う、お前は食後の胃もたれするデザートだ。……まぁいい。これでコース料理の準備はすべて整った」
リアンは『都市ゲリラ教本』をパタンと閉じ、森の奥——不気味な気配が近づいてくる方角へと、冷酷極まりない視線を向けた。
「来るぞ」
ズズンッ……ズズンッ……!
地響きと共に、炎上神ワイズの狂化デバフをかけられ、理性を失って赤く目を血走らせた魔獣の群れ(数百体)が、森の入り口へと姿を現した。
彼らの目的はただ一つ。ワイズのシナリオ通り、ポポロ村を火の海にし、村人を虐殺すること。
「さあ、やらせ配信者ども」
リアンは、スマートフォンの起爆ボタンに指を添え、三ツ星スーシェフの傲慢な笑みを浮かべた。
「Sクラス(俺たち)特製の、極上のエンタメ(地獄)を見せてやるよ。……一口残らず、食い散らかして死ね」
神々の代理戦争すらも、冷徹な利益計算とゲリラ戦術の「食材」に変える不良債権処理班。
彼らが丹精込めて仕込んだ『殺意のおもてなし』が、今、愚かな魔獣たちを血肉のジュースへと変えるために、その大口を開けた。
読んでいただきありがとうございます。
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