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EP 23

駄女神のコタツ部屋と、オタク魔王のガチギレ・クレーム

神界セレスティアの最深部。

荘厳な大理石の回廊を抜けた先に、いくつもの神聖な結界セキュリティで何重にも守られた『第一種・隔離神域』が存在する。

その扉の奥にあるのは、さぞかし神々しく美しい空間——かと思いきや。

「あー、もう! ここで朱雀が白虎をラブホに誘う展開にすれば、青龍が嫉妬してドロドロになるわね……よし、いける! これで冬の神界コミケはバカ売れ(特大黒字)よ!」

四畳半ほどの狭い和室。

部屋の中央に鎮座する『コタツ』に入り、色あせた芋ジャージ姿でノートパソコンのキーボードをカタカタと叩きまくっているのは、アナスタシア世界を管理する世界神・ルチアナであった。

コタツの上には、飲みかけの缶ビール(発泡酒)と、食べかけのポテトチップスが散乱している。永遠の17歳(自称)の威厳など微塵もない、完全なる『定時退社後の干物オバサン』の姿である。

ルチアナは、仕事(世界管理)のストレスを、自分で作り上げた聖獣機神ガオガオンの構成パーツである四神たちの『社内恋愛(不倫)事情』を題材にした、泥沼同人小説を執筆・販売することで発散していた。

「プハァッ! やっぱ仕事終わりのビールは最高ね! ……あーあ、それにしても今日のPV会議は最悪だったわ。あのワイズってクソガキ、マジで腹立つ!」

ルチアナが缶ビールを煽りながら、第一会議室での胸糞悪いやり取りを思い出して悪態をついた、まさにその時。

バチバチバチィィィッ!!

突如として、ルチアナの神聖なるコタツ部屋の空間が、強烈な闇魔法の干渉によってねじ曲がり、無理やり引き裂かれた。

「なっ!? 私のプライベート神域ファイアウォールを物理でブチ破るバカはどこのどいつよ!!」

ルチアナが慌ててパソコンの画面(執筆中のドロドロ同人誌)を隠す。

「——ルチアナ、居る〜?」

空間の裂け目から、親戚の家にでも遊びに来たかのような軽いトーンで足を踏み入れたのは、漆黒のドレスに『朝倉月人ファンクラブ公式法被』を羽織ったアバロンの絶対君主、魔王ラスティアであった。

「……ちょっと、ラスティア!? いくら飲み友達だからって、アポなしで神界に直接テレポートしてくる魔王がどこにいるのよ!」

ルチアナは呆れて頭を抱えた。

「細かいことはいいじゃない。愉快ならオッケーでしょ?」

ラスティアは勝手知ったる様子でコタツに潜り込み、ルチアナの買い置きしていた缶ビールをプシュッと開けて煽った。

「で? 今日はわざわざ次元を越えて、何の用なのよ。また月人くんのライブチケットの先行抽選に外れた愚痴なら、他所でやってよね。こっちは原稿の締切(クレジットカードの支払い)に追われてるんだから」

ルチアナがジト目で睨む。

「違うわよ。……今日はね、本気の『クレーム』を言いに来たの」

ラスティアの瞳から、スッとオタクの緩みが消え、次元をも斬り裂く魔王としての底知れぬ殺気が漏れ出した。

コタツの上のポテトチップスが、重力異常を起こしてフワフワと宙に浮き始める。

「あんたの職場の新入り……『ワイズ』とかいうクソガキ。あいつ、どういうつもりなの?」

「ワイズが?」

「ええ。あいつ、自分のやらせ配信マッチポンプの悪役として、私の領土アバロンの辺境にいる『魔獣たち』に勝手に狂化のデバフをかけて、ルナミス帝国との国境にある【ポポロ村】に向けてけしかけやがったのよ!」

ラスティアは、ダンッ!とコタツの机を叩いた。

「いい!? 私は別に、村が一つや二つ燃えようが知ったこっちゃないわよ! でもね、私の所有物モンスターを、あんな三流の『安っぽい悲劇のモブ』として無断使用(タダ働き)させたのが許せないの! おかげで魔獣の生態系管理スケジュールが狂って、今夜の月人くんの生配信を見る時間に仕事が食い込んだじゃないの!!」

(※怒るポイントが完全に『オタ活への支障』である)

「……やっぱり、あいつか」

ルチアナは舌打ちをし、自身のエンジェルすまーとふぉんを操作して、ポポロ村周辺のステータスを確認した。

確かに、大量の魔獣群が、異常なヘイトを抱いた状態でポポロ村へと進軍を開始している。そして、その裏で糸を引いている『炎上神ワイズの神気』と『課金勇者ゼロスのシグナル』がハッキリと確認できた。

「私、今すぐあいつをブラックホールで領地ごと吸い込んで(ブチ殺して)いいかしら? ゴッドチューブのコンプライアンス的にアウトでも、私は一向に構わないんだけど」

ラスティアが物騒な提案をする。

「……私だって、あの命を数字としか見ないクソガキ、今すぐ神格剥奪してマグローザ漁船にドナドナしてやりたいわよ」

ルチアナは、イライラと爪を噛んだ。

「でも、ダメなの。直接的な神への攻撃や、過度な世界への干渉は、最上位神ハジマリの監査に引っかかる。私みたいな借金まみれの窓際女神がやったら、一発で懲戒免職よ」

「はぁ? あんた、この世界を管理する世界神でしょ? だったら、いつもみたいに『調停者』を派遣して止めさせなさいよ。あのクソ真面目な鉄の塊……『聖獣機神ガオガオン』を出撃させれば、やらせ配信者なんて一秒で灰(アカウントBAN)になるじゃない」

「それが……出せないのよ」

ルチアナは、先ほどまで隠していたパソコンの画面(同人誌の原稿)を、チラリとラスティアに見せた。

「ガオガオン、今、深刻な『システムエラー』で再起動不能ダウンしてるの」

「エラー? どんなバグよ」

「……原因は、社内恋愛(ドロドロの三角関係)よ」

ルチアナは、頭を抱えながら、世界の裏側で起きているあまりにも情けない現状を説明し始めた。

「メインコアのガオン(獅子)の派閥を崩そうと、サークルクラッシャーの朱雀が、白虎に『ラブホに行こう』ってちょっかいを出してんの。でも、朱雀は裏で青龍と浮気(自宅お持ち帰り)してて……。それを知った玄武が『朱雀が構ってくれないならリスカ(自傷行為)する!』ってメンヘラ化して大暴れ。……五つのコアの同期率が0%になって、今、暗黒合体(聖獣合体)ができないのよ」

「…………は?」

ラスティアは、完全にポカンとした顔でルチアナを見た。

「何よそれ。神話の聖獣たちが、昼ドラみたいな理由で世界平和の業務をボイコットしてんの? ……っていうか、あんたのその同人誌、一次創作じゃなくて『ノンフィクション(実話)』だったわけ!?」

「そうなのよ! ガオンなんて今、神殿の隅っこで『俺はどうすればいいんだ……』ってバーチャル煙草吸いながら絶望してるわよ! これが使い物になると思う!?」

ルチアナは、逆ギレ気味に缶ビールをドンッと置いた。

「……あんたの職場、本当に終わってるわね」

ラスティアは心底呆れたようにため息をついた。

「まぁ、聖獣がメンヘラ化してるのは分かったわ。でも、このままじゃ私の魔獣たちがポポロ村を襲うわよ? ルナミスの領土を不当に侵略したってことで、また私がルーベンスからネチネチ怒られて、ルナミスに謝罪の『水炊きセット』を送らなきゃいけなくなるじゃない! あれ、送料高いのよ!」

「分かってるわよ。……だから、私が『裏ルート』で何とかするわ」

ルチアナは、コタツからモソモソと這い出し、芋ジャージのジッパーを上までキッチリと上げた。

「ワイズの狙いは、魔獣に村を焼かせて、絶望のどん底に『課金勇者ゼロス』を投入すること。……なら、その台本マッチポンプの舞台に、絶対に勝てない『イレギュラー(劇薬)』を放り込んでやればいい」

ルチアナの脳裏に浮かんだのは、自分がこの世界に転生させ、先日もアバロンの麻薬戦争を見事なまでの『特大黒字(慰謝料徴収)』で片付けた、あの冷徹なプロデューサーの少年の顔であった。

「……ルナミス学園の、リアン・クラインね」

ラスティアも、すぐにその意図に気がついた。

「でも、相手のゼロスは『マネー』のチート持ちなんでしょ? あのSクラスでも、純粋なステータスの暴力には押し切られるんじゃない?」

「ええ。まともにやればね」

ルチアナは、ニヤリと女神らしからぬ極悪な笑みを浮かべた。

「だから、私が少しだけルール(コンプライアンス)を破って、あの子に『投資』してくるわ。……やらせ配信者の薄っぺらいステータスと、リアンたちの強欲な資本主義ビジネス。どっちが格上か、思い知らせてやるのよ」

女神ルチアナは、空になった缶ビールをゴミ箱に放り投げ、そのまま空間転移の魔法陣を展開した。

炎上神の理不尽な村焼き計画を粉砕すべく、駄女神による『前代未聞のチート付与(神託)』が、今まさにルナミス帝国のタコ部屋へと届けられようとしていた。

読んでいただきありがとうございます。

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