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EP 18

昭和上司の逃亡バックレと、タコ部屋のウハウハな中間決算

「ル、ルーベンス!? 待て、話を聞け! 俺はただ、この国境で帝国のガキどもを……ッ!」

通信石に向かって必死に叫ぶミラースだったが、アバロンのインテリ将軍・ルーベンスは、冷酷に通信をブツリと切断した。

国境の森に、虚しい電子音だけが響き渡る。

「……お分かりいただけたかな?」

リアン・シンフォニアは、呆然と立ち尽くす身長三メートルの巨漢を見上げ、ニヤリと悪魔のような笑みを浮かべた。

「お前の『絶対切断』の剣は、確かに物理的には最強かもしれない。だが、組織カイシャに属している以上、直属のトップ(魔王)からの『コンプライアンス違反による呼び出し』からは逃げられねぇんだよ」

「き、貴様ぁぁぁっ!!」

ミラースは顔面を蒼白にしながら、ギリィッと歯を食いしばり、妖刀『哭刀』をリアンに向けて振り上げた。

「俺が、この俺が! 貴様のような帝国のガキの板切れ(スマホ)一つのせいで、魔王からの信頼を失うだと!? 認めん! 貴様をここで微塵切りにして、証拠ごと消し去ってくれるわ!!」

「やれるもんならやってみろよ」

リアンは一歩も引かず、腕を組んだ。

「お前が俺を斬ってる間に、ラスティア魔王の怒りは秒単位で跳ね上がっていくぞ。……それに、掲示板にアップロードされた動画データは、お前が俺を殺したところで消えやしない。ネットの『炎上』ってのは、燃えカスになるまで止まらねぇんだよ」

「ぐ、ぐぬぬぬぬ……ッ!!」

ミラースの振り上げた妖刀が、プルプルと震える。

今ここでリアンたちを斬り捨てたところで、彼自身の「裏切り」の証拠が消えるわけではない。むしろ、呼び出しを無視したとなれば、あの気まぐれで理不尽なオタク魔王ラスティアが、ブラックホールで国境ごと自分を吸い込みに来る可能性すらある。

(ええい、クソッ! クソッ! なぜこんなことに!! 俺の完璧な下克上計画が……!!)

「……テ、テレポートォォォォッ!!」

ついに、昭和の脳筋上司は完全に心が折れた。

ミラースは、プライドも武人の誇りもすべてかなぐり捨て、自らを安全圏(魔王城での弁明)へと逃がすための空間跳躍魔法を発動させた。

淡い光が、彼の巨大な身体を包み込む。

「覚えておけ、Sクラス!! この屈辱、決して忘れんぞォォォッ!!」

シュンッ!!

空間が歪み、アバロンの武闘派将軍は、自分が使い捨てた部下たちの死体や、哀しき魔獣となったゼロの亡骸を完全に放置したまま、みっともなく逃亡バックレを果たしたのである。

「……フッ。ブラック企業の上司なんて、自分が責任を取らされる段になれば、あんなもんさ」

リアンはため息をつき、首をポキポキと鳴らした。

「逃げられたか……。しかし、僕の剣が……」

クラウスが、真っ二つに切断された我が家の宝剣の柄を握りしめ、しょんぼりと肩を落としていた。

「ノブリス・オブリージュの誇りであるこの剣が折れるとは。……僕も、まだまだ修行が足りないということか」

「気にするな。相手は『事象を斬る』っていうチート武器だったんだ。むしろ、命があっただけ丸儲けだと思え」

リアンはクラウスの肩を叩き、慰めた。

「安心しろ。帝都に帰ったら、ドワーフの凄腕鍛冶屋に経費で修理(打ち直し)させてやる。なんなら、前より強力なオプション(電気ショック機能とか)もつけてやるよ」

「本当か、リアン! 流石は我がプロデューサーだ!」

クラウスの表情がパァッと明るくなる。

その時、リアンの懐のスマートフォン(通信石)が震えた。

画面には『ルナ』からの着信が表示されている。

「おっ、帝都の女子チームからだ。……もしもし、ルナか? そっちの状況はどうだ?」

『あ、リアン? 終わりましたわよー!』

通信の向こうから、ルナの弾むような明るい声が聞こえてきた。その背後では、キャルルの「やったー!」という歓声や、リーザの「さあ、このお金で焼肉ですわー!」という野次馬のような声が響いている。

「終わったって……DS錠で魔獣化した連中の暴走は止められたのか?」

『ええ、完璧ですわ! リーザの歌で動きを止めて、キャルルと私の『特製ポーション』で全員を人間の姿に戻して差し上げましたの。……もちろん、タダではありませんけれど♡』

「……いくら毟り取ったんだ?」

リアンが前世のCFO(最高財務責任者)の顔つきで尋ねる。

『ふふっ。命を救って差し上げたんですもの。帝都の裕福な商人や貴族たちから、治療費として【白金貨換算で約五十枚分】の財産譲渡契約書にサインをいただきましたわ! もちろん、法的に完璧な書式で、ですわよ?』

「……白金貨、五十枚だと!?」

リアンは思わず素っ頓狂な声を上げた。

それは、ルナミス帝国の一般的な国家予算の一角を占めるほどの、文字通りの『超特大のジャックポット』である。

「アハハハハハッ!! さすがはウチの女子どもだ! 俺が現場で泥水すすって証拠集めしてる間に、帝都のキャッシュ(利益)を根こそぎ吸い上げやがった!!」

リアンは腹を抱えて高笑いした。

『リアンたちの発生源調査はどうなりましたの?』

「ああ、こっちも完璧だ。密輸の元締め(スリー)は物理的に制圧したし、黒幕の将軍ミラースは、俺の『炎上戦術』で本国に逃げ帰ったよ。これでDS錠の供給ルートは完全に絶たれた」

『素晴らしいですわ! それでは、タコ部屋で豪勢な【中間決算パーティー】を開きましょう! リーザがもう、タローソンの商品を買い占める気満々ですのよ』

「ああ、今すぐ帰る。……最高級の肉を用意しといてくれ!」

リアンは通信を切り、クラウスに向けて親指を立てた。

「行くぞ、クラウス! 俺たちの圧倒的な大勝利(黒字)だ!!」

「応ッ!!」

かくして、Sクラスの冷徹な盤外戦術と強欲なオペレーションにより、ルナミス帝国を揺るがした『DS錠バイオパニック』は、莫大な利益と共に強制終了クローズされた。

だが、物語はまだ終わらない。

怒りの矛先は、アバロン魔皇国の中心——最強のオタク魔王が座す玉座へと向けられていた。

* * *

同時刻。

アバロン魔皇国、魔王城の最深部に位置する謁見の間。

「……ル、ルーベンス。こ、これは、どういうことなの……っ?」

禍々しい魔力で編み上げられた黒曜石の玉座。

その前に立ち尽くしていたのは、アバロン魔皇国を統べる絶対君主——魔王ラスティアであった。

彼女は、漆黒のドレス……ではなく、なぜか『朝倉月人ファンクラブ公式法被はっぴ』を羽織り、両手には推しの顔がプリントされた特製うちわとペンライトを握りしめている。

福岡のライブ遠征から帰還したばかりの、完全な『オタ活フル装備』の魔王である。

だが、彼女のその可愛らしい(?)出で立ちとは裏腹に。

謁見の間は、彼女の全身から漏れ出す『底知れぬ怒りの魔力』によって、空間そのものがメシミキと軋み、紫色の稲妻が走り抜けていた。

「……私の留守中に……。私の、神聖なる『月人くんファンクラブ掲示板』に……こんな、こんな胸糞悪い動画がアップロードされていたなんて……っ!!」

ラスティアの目の前の空中に投影された魔導スクリーンの映像。

そこには、スリーと密売人が『ミラース将軍の命令でDS錠を造り、魔王を蹴落とす』とペラペラ喋っている、あの国境での裏取引の様子が鮮明に映し出されていた。

「落ち着いてください、ラスティア陛下」

玉座の傍らで、インテリ将軍のルーベンスが、胃の辺りを押さえながら冷静に(しかし内心は冷や汗をかきながら)報告する。

「動画のアップロード元は、ルナミス帝国の何者かによるものと思われます。しかし、映像に映っている密売人は間違いなく我が国の錬金術師。……ミラースが、国家予算……いえ、陛下の『尊いオタ活予算』の裏で、密かに麻薬を製造し、反逆を企てていたのは明白な事実です」

「……ミラース」

ゴゴゴゴゴゴォォォォォッ……!!

ラスティアがその名を呟いた瞬間。

魔王城の上空を覆っていた分厚い雲が渦を巻き、全てを飲み込む漆黒の『ブラックホール』が顕現しかけた。

「私が……私が、グッズ代と遠征費を捻出するために、どれだけ国の予算(公共事業)を削ってやりくりしてると思ってるの……!? それを、あんな暑苦しい脳筋将軍が、私を差し置いてコソコソと裏金を作っていただと……ッ!?」

(※ルーベンスの心の声:『いや、陛下が横領するのも大概なんですがね』)

ラスティアは、推しのうちわをギリッと握りつぶし、瞳に紅蓮の炎を宿した。

「許さない。私の『愉快な日常』を壊し、あまつさえ月人くんのファンクラブという神聖な場を『炎上』させた罪……万死に値するわ!!」

魔王ラスティアが、静かに右手の指を掲げる。

「ルーベンス。……ミラースは、今どこに?」

「はっ。先ほど通信で、国境から魔王城へテレポートで逃げ帰るよう指示いたしました。間もなくこの場に到着するかと」

「そう。……なら、とびきりの『お仕置き(ファンサ)』を用意してあげなきゃね」

パチンッ!!

ラスティアの指鳴らし(スナップ)と共に、謁見の間の床がドロドロのマグマへと変貌し、そこからS級魔獣『魔炎竜』が、主の怒りに呼応して巨大な咆哮を上げた。

アバロン魔皇国を揺るがす、最強のオタク魔王による「絶対切断将軍」への理不尽すぎる処刑リストラが、いよいよ始まろうとしていた。

読んでいただきありがとうございます。

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