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EP 10

肉まんの記憶セーブデータと、特大黒字の完全決算ハッピーエンド

「いくわよ先輩ッ!! 座標指定・真下の地下室(魔力源)!!」

ツー(ルルシア)の叫びと共に、強烈な空間跳躍テレポートの光がSクラスの面々を包み込んだ。

視界が切り替わった先は、アジトのさらに奥深く——冷たく湿った、巨大な地下空間であった。

「……なっ、なんだこれは!?」

クラウスが絶句する。

地下空間の中央には、禍々しい紫色に発光する巨大な魔法陣が描かれていた。

その中心に、一人の小さな男の子——3歳児のシアン(ファイブ)が、空中に磔にされるようにして浮かんでいる。

彼の虚ろな瞳からは一切の感情が消え失せ、その小さな体から莫大な生命力(魔力)が搾り取られ、魔法陣へと注ぎ込まれていた。

ゴゴゴゴゴォォォォォッ……!!

シアンを中心に、空間が、光が、そして『時間』が猛烈な勢いで逆流している。

砕けた石が宙を舞って元の形に戻り、リアンたちの記憶すらも徐々に薄れそうになる、絶対的な世界の書き換え(リセット)。

「くそっ! あの魔法陣が、あの子の命をすり潰して時間を巻き戻しているのか!」

リアンは前世の知識(システムエンジニアの視点)で状況を即座に分析した。

「魔法陣が『マザーボード』で、あの子が『電源バッテリー』だ! 物理的に回路を遮断ショートさせないと、世界が昨日に戻っちまうぞ!!」

『無駄だよ、リアン!!』

頭上の階段から、視力と聴力を失い、顔中血だらけになったゼロが這いつくばりながら絶叫した。

『リセットの起動はすでに最終段階だ! 君たちは過去の塵となって消え去る! 僕の完璧な未来システムは、誰にも壊せな——』

「うるさいですわァァァァァァァッ!!!」

ゼロの狂気を切り裂いたのは、誰あろう、強欲の極貧アイドル・リーザであった。

「私の! 今日の! 血と汗と涙の『労働の記憶』を!! そして、後輩ちゃんと一緒に食べた、あの最高の『肉まんの味』を……!!」

リーザは、エンジ色の芋ジャージを猛烈な魔力でバタバタとはためかせながら、逆流する時間の奔流(魔法陣)の中へ、一切の躊躇なく突撃した。

「そんなシステムの都合エラーで、無かったことにされてたまるかァァァァァァッ!!」

「せ、先輩!? 危ないわ! 時間の渦に巻き込まれて消滅しちゃう!」

ツーが悲鳴を上げる。

だが、リーザは止まらない。

彼女のユニークスキル『貧乏神』。それは、周囲のあらゆるリソース(金、食べ物、そして魔力)を極限まで『強欲に喰らい尽くす(吸収する)』という、理不尽の極みのようなパッシブスキルである。

ズゴォォォォォォンッ!!

リーザが魔法陣の境界に踏み込んだ瞬間、彼女の底なしの『飢餓感』が、時間を巻き戻すための膨大な魔力エネルギーを、まるで掃除機のようにドゥルルルルッ!と吸い込み始めたのだ。

「ああっ!? 魔力が、私の胃袋に……! 味がしませんわ! まずい! でも吸い尽くしてやりますわーーッ!!」

リーザの規格外のバグ(強欲)によって、魔法陣のエネルギー供給が一時的に乱れ、時間の逆流がピタリと停止した。

「よし、システムがフリーズした! 今だ!!」

リアンがその一瞬の隙を見逃すはずがなかった。

「クラウス! キャルル! 魔法陣の物理的な回路(床)を完全に破壊しろ!!」

「承知した! 悪逆なる時間を断ち斬る! 『紫電・一閃』!!」

「そぉぉぉいッ! 『月影流・土竜踏み』ィィッ!!」

紫電の斬撃と、超重量の四股踏みが同時に地下空間の床に叩き込まれる。

ドッガァァァァァァァァンッ!!!

強固な岩盤に刻まれていた魔法陣の幾何学模様が、物理的な粉砕によって完全に断線ショートした。

「仕上げだ!」

リアンは、現代兵器である『5万ボルト・高出力スタンガン』を手に、空中に浮かんでいたシアンの下へと駆け寄った。

そして、彼を拘束していた魔力場クリスタルに向けて、容赦なくスタンガンを突き立てる。

「時代遅れの魔導システムなんざ、現代の直流電流でオーバーロード(黒焦げ)にしてやるよ!」

バチバチバチバチィィィッ!!

強烈な電流が魔力場を焼き切り、シアンの小さな体がふわりと宙に放り出された。

「……あ、れ……?」

虚ろだったシアンの目に、わずかな光が戻る。

その小さな体を、リーザが泥だらけのジャージでガシッと抱きとめた。

「よしよし、もう大丈夫ですわよ。こんな小さな子をタダ働き(強制労働)させるなんて……本当に許せないブラック企業ですわ」

ピシッ、パリンッ……!!

魔法陣が完全に崩壊し、紫色の光が霧散していく。

『1日前へのリセット』という、ナンバーズの絶対的な切りセーブデータが、完全に破壊キャンセルされた瞬間であった。

「あ……あぁ……」

階段の上で、ゼロが絶望に崩れ落ちた。

未来予知も破られ、最終防衛ラインのリセットすらも粉砕された。

彼が組み上げた完璧な『新人類による支配の盤面』は、一人のコックの盤外戦術と、アイドルたちの強欲によって、1円の価値もない不良債権へと成り下がったのだ。

「……お前のビジネスモデルは、最初から破綻してたんだよ、ゼロ」

リアンは階段を上り、力なくへたり込むゼロを見下ろした。

「力で他人を従わせ、都合が悪くなれば3歳児の命を削って『無かったこと』にする。そんなリスク管理コンプライアンスもクソもないブラック組織が、この俺の率いる『Sクラス』という最高の厨房チームに勝てるわけがないだろうが」

リアンは、スタンガンをゼロの首筋に押し当てた。

「お前は、完全に『倒産』だ」

バチィィィッ!!

「がはっ……!!」

5万ボルトの電流がゼロの意識を完全に刈り取り、冷徹な犯罪組織のリーダーは、白目を剥いてその場に昏倒した。

* * *

「……さて。邪魔な社長ゴミの清掃は終わった。ここからが『本番』だぞ、お前ら」

ゼロが倒れ、ナンバーズが完全に壊滅した直後。

リアンは、アジトのさらに奥——スリー(大商人)が管理していたであろう、巨大な『鋼鉄の金庫扉』の前で、信じられないほど邪悪な笑みを浮かべていた。

「キャルル、開けろ」

「任せてー! えいっ!」

ベキィィィィンッ!!

キャルルが素手で分厚い金庫の扉をひん剥くと、その中には、帝都の裏社会から巻き上げたであろう、山のよう『金貨、白金貨、そして高価な魔石の束』が眠っていた。

「お、おおおおおおっ!!??」

Sクラスの面々(とツー)の瞳が、一斉に『$』のマークに変わる。

「……いいか、お前ら。奴らは俺たちの物流を止め、仕事を奪い、あまつさえ俺の『誕生日パーティー』を台無しにした。……これは単なる強盗じゃない。俺たちが被った精神的・経済的苦痛に対する、正当な『慰謝料の強制差し押さえ(取り立て)』だ」

リアンは、持ってきた巨大な麻袋をバサッと広げた。

「1円たりとも残すな。すべての資産キャッシュ回収ガサいれするぞ!!」

「「「アイアイサーーーッ!!!」」」

かくして、ルナミス帝国を脅かした最凶の犯罪組織は、物理的な暴力だけでなく、その活動資金のすべてを1円の狂いもなく『強欲なSクラス』によって根こそぎ搾取(回収)されるという、最も惨めな結末を迎えることとなったのである。

* * *

数時間後。ルナミス学園男子寮、『タコ部屋』。

「ハッピーバースデー! リアンくん!!」

深夜のタコ部屋に、盛大なクラッカーの音が鳴り響いた。

テーブルの上には、リアンがネット通販で取り寄せた最高級の食材を使った、豪勢なフルコースと巨大な誕生日ケーキが並んでいる。

「ふはははッ! 最高の夜だ! 悪を討ち滅ぼし、莫大な活動資金まで手に入れたのだからな!」

クラウスが、最高級のワイン(に見せかけたぶどうジュース)を掲げて高笑いしている。

「あむっ! むぐむぐ……んんん〜〜っ!! お肉最高ぉぉっ!」

キャルルとルナも、理不尽な兵糧攻めの反動からか、凄まじい勢いで料理を胃袋に詰め込んでいる。

そして、部屋の片隅では。

「……美味しい。……あったかい……っ」

地下から救出された3歳児のシアンが、リーザの膝の上に座り、ホカホカの『タローソンの肉まん』を両手で持って、ポロポロと涙をこぼしながら頬張っていた。

「よしよし、たくさん食べるんですのよ。いっぱい食べて、大きくなって、立派な私のファン(スポンサー)になるのですわ」

リーザがシアンの頭を優しく撫でる。

「先輩! 私の分の肉まんも、もう一個温めてきましたよ!」

その隣には、すっかり『エンジ色の芋ジャージ』に着替え、リーザの専属付きパシリとして完璧に順応したツー(ルルシア)の姿があった。

エリート悪役の矜持はどこへやら、彼女は今や、労働の後のご飯の美味さに完全に魅了された『立派な極貧アイドル候補生』である。

「……まったく、騒がしい連中だ」

部屋の隅のデスクで、リアンは一人、分厚い革張りの『帳簿』に万年筆を走らせていた。

ナンバーズのアジトから回収(強奪)した資金は、天文学的な額に上った。

帝都の憲兵団には「組織は壊滅させたが、金庫は空だった」と適当に報告し、丸ごとSクラスの裏金(内部留保)として計上済みである。

リアンは、すべての経費(通販代など)を引き、最終的な『純利益』の欄に、震える手でその膨大な数字を書き込んだ。

「……ふっ。……クククッ。アハハハハハッ!!」

リアンは、耐えきれずに帳簿を抱きしめて高笑いを上げた。

「大黒字だ……! 命を懸けたリスクに対して、リターンがバグりすぎている! 今月も、圧倒的な『特大黒字メガ・ジャックポット』だ!!」

最高の仲間たちと、最高の飯。そして、完璧な決算キャッシュフロー

拉致から始まった最悪の誕生日は、一転して、リアンの前世・今世を含めても『最高の誕生日イレギュラー』へと書き換わった。

「おい、リアン! お前も早くこっちに来て肉を食え! プロデューサーが倒れたら、誰が私たちのスケジュールを管理するんですの!」

リーザが、肉まんを片手にリアンを手招きしている。

「……ああ、今行く」

リアンは帳簿をパタンと閉じ、立ち上がった。

どれほど強大なリスクが現れようと、この理不尽で強欲なバケモノたち(Sクラス)と、自分の冷徹な計算(ネット通販)があれば、必ずすべてを『極上の黒字』へとひっくり返せる。

「さあ、食うぞ! 今日は俺の奢りだ、腹がはち切れるまで食い尽くせ!!」

狂騒と笑い声に包まれるタコ部屋。

不良債権処理班(Sクラス)の果てしなき冒険と資金繰りの日々は、これからも、どこまでも賑やかに続いていくのだった。

読んでいただきありがとうございます。

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