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EP 2

盤外戦術(GPS)の仕込みと、冷徹なる副料理長の反撃

「……っ、痛ぇな、クソッ」

ルナミス学園の男子寮、自室のベッド。

リアン・シンフォニアは、ズキズキと痛む腹部と顔面に回復魔法ヒールをかけながら、低く悪態をついた。

(ワンとかいう大男の一撃……内臓が破裂するかと思ったぜ。ピークタイムの厨房で、シェフから飛んでくる鉄鍋のフルスイングより重かったな)

リアンはベッドから起き上がり、洗面台の鏡で自分の顔を確認する。

魔法のおかげで外傷は消えているが、体の中にはまだ重い疲労と痛みの芯が残っていた。

蛇口から冷たい水を出して顔を洗いながら、リアンは先ほどの真っ白な部屋での出来事を、冷徹な『簿記一級』の頭脳で一つ一つ整理(仕訳)していく。

(敵は特級ユニークスキル保持者の犯罪集団『ナンバーズ』。……判明しているだけで、厄介すぎる手札スキルが揃いすぎている)

リアンは鏡の中の自分を睨みつけながら、脳内で敵の戦力をリストアップする。

記憶と能力を奪う『コピー』。

空間を無視して拉致を可能にする『テレポート』。

触れるものすべてを粉砕する『破壊』。

そして、あのゼロと名乗ったリーダーが持つ、こちらの行動を完全に先読みする『未来予知』。

(おまけに、奴らは俺の前世の名前(青田優也)まで知っている。俺の行動や思考は、常に監視・分析されていると見て間違いないだろう)

常人であれば、ここで絶望に打ちひしがれるところだ。

相手は圧倒的な武力と情報力を持った、理不尽の極みのような異能集団。ゼロの言う通り、彼らの用意した『絶望のゲームチェスボード』の上で、泣き叫んで命乞いをするしかないように思える。

だが、リアンの瞳に絶望の色は微塵もなかった。

あるのは、悪質なクレーマーや、理不尽な要求を押し付けてくる悪徳業者を相手にする時と同じ、底冷えするような『実務家プロフェッショナル』の怒りだ。

「……あいつら、決定的な勘違い(計算ミス)をしてるぜ」

リアンは濡れた顔をタオルで拭き、自室の扉の鍵をしっかりと閉めた。

そして、周囲に監視の魔法や使い魔がいないことを確認すると、己のユニークスキル【ネット通販】を発動させた。

空中に、半透明のウインドウが浮かび上がる。

そこに表示されているのは、ツーが「ミミズが這いずったような変な文字」と嘲笑った【日本語】のインターフェースだ。

リアンはそのウインドウを操作し、『購入履歴』の画面を開いた。

異世界こっちの魔法技術やユニークスキルは、確かに規格外だ。だが、それに依存しすぎている連中には、絶対的な『死角』が存在する」

リアンの指先が、購入履歴のトップにある『一つの商品』をタップした。

【超小型・軍用GPSトラッカー(発信機)/ボタン電池式・稼働時間約30日】

「……拉致されて、あの真っ白な部屋で目覚めた瞬間。俺はすぐにこいつを注文し、ベッドの下の死角に『仕込んで』おいたのさ」

リアンはニヤリと、獲物を罠にかけた猟師のような笑みを浮かべた。

異世界の住人であるナンバーズは、「魔力」の動きには極めて敏感だ。誰かが魔法を使おうとしたり、魔導具マジックアイテムを起動させたりすれば、すぐに察知して防ぐだろう。

ツーはリアンの脳をスキャンし、スキルをコピーしたことで『完全にリアンを丸裸にした』と思い込んでいた。

だが、彼らには【現代地球の科学技術】という概念がない。

GPS発信機は、魔力を一切発しない。ただのプラスチックと金属の塊が、微弱な電波(人工衛星との通信)をやり取りしているだけだ。

彼らにとって、それはただの「ゴミ」か「小石」にしか見えない。まさかそれが、自分たちの絶対の秘匿領域アジトの座標を、24時間リアルタイムで発信し続ける恐るべき追跡装置だとは、夢にも思わないのだ。

「相手が俺の行動を監視してるなら、逆にこっちも相手の居場所を『可視化マッピング』してやるだけだ。……情報戦ロジスティクスで、俺が後れを取るわけねぇだろ」

リアンは【ネット通販】の機能を利用して現代のネットワークと同期している『スマートフォン』を取り出し、地図マップアプリを起動した。

画面に、ルナミス帝都の詳細な市街地図が表示される。

そして、その地図のど真ん中——帝都の第一区画、貴族たちが住まう高級住宅街の一角に、チカチカと点滅する『赤いピン(現在地)』が立っていた。

「……なるほど。帝都の地下水道か、あるいは貴族の屋敷の地下深くってところか。ずいぶんと立派な場所にアジトを構えてるじゃないか」

リアンは赤いピンを拡大し、周囲の地形や逃走ルートを頭に叩き込んでいく。

未来予知だろうが、テレポートだろうが、アジト(本陣)の座標が割れている時点で、彼らのアドバンテージは半分以上失われているのだ。

(さて……相手の居場所は分かった。次は『どうやってあいつらを料理(監査)するか』だ)

リアンはスマートフォンを懐にしまい、腕を組んで思案する。

ゼロの『未来予知』は厄介だ。

まともに戦闘になれば、こちらの攻撃はすべて先読みされ、回避されるかカウンターを食らうだろう。

チェスの名手であるゼロは、理詰めでの戦いにおいて無類の強さを誇るはずだ。

「だったら……チェスのルールが通じない『盤外戦術イレギュラー』をぶつけるまでだ」

リアンの脳裏に浮かんだのは、自分のクラス——ルナミス学園が誇る最強にして最悪の『不良債権処理班(Sクラス)』の面々の顔だった。

強欲の権化にして、すべてを奪う極貧アイドル・リーザ。

ノブリス・オブリージュを履き違えた雷撃バカ・クラウス。

物理的破壊力で地形を変えるウサギ・キャルル。

コンプラ無視の猛毒使い・ルナ。

「あいつらは、論理ロジックで動く連中じゃない。損得勘定や倫理観すら飛び越えて、己の欲望と本能だけで突っ走る『バグ』の塊だ」

リアンは悪魔のような笑みを深めた。

「未来予知で『最も合理的な次の一手』を読もうとするゼロにとって、Sクラスの連中の行動バカは、絶対に予測不可能な『エラー』になるはずだ」

リアンは立ち上がり、いつも着ている機能的なジャケットを羽織った。

「ゲームの駒だと言ったな、ゼロ。……残念だったな。俺は駒じゃない。この狂った厨房(Sクラス)を仕切る、総責任者プロデューサーだ」

リアンは部屋の扉を開け、朝の光が差し込む廊下へと足を踏み出す。

「売られた喧嘩だ。不良債権ナンバーズども……。俺たちSクラスが、貴様らの組織ごと、1円の狂いもなく徹底的に『監査ぶっつぶ』してやる」

冷徹なる副料理長リアンの反撃の仕込みは完了した。

そして、彼の思惑とは全く別の場所で——彼の最強にして最悪のアイドルが、すでに敵の心臓部ツーへと接触を果たそうとしていたのである。

読んでいただきありがとうございます。

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