表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
230/247

EP 18

開演!『Love & Money!』と、すべてを奪う銀河の熱狂

「おい! 早くリーザを出せ!」

「いつまで待たせる気だ! 暴動を起こすぞ!!」

ルナミス学園の特設グラウンドに、地鳴りのような怒号と歓声が渦巻いていた。

数万人規模の観衆の熱気は、すでに限界点(沸点)に達している。最前列のVIP席では、ガルーダ獣人王国の屈強な獣王や、アバロン魔皇国の魔族たちすらも、得体の知れない高揚感に当てられて身を乗り出していた。

「リアンくん! もうお客さんの熱狂が抑えきれないよ! ステージの柵が壊れちゃう!」

キャルルが特注の安全靴で必死にバリケードを押さえながら叫ぶ。

「案ずるな! これもまた、最高の熱狂を生み出すためのスパイス(タメ)だ!」

クラウスが雷の魔剣を杖代わりにしながら、滝のような汗を流して耐えている。

暴動寸前。一触即発。

ルナミス帝国と他国の間に、文字通りの『戦争』が起きるかもしれない、その極限の緊張状態の中。

コツン……。

コツン……。

突如として、巨大なステージのスピーカーから、静かな、しかし凛とした『ハイヒールの足音』が鳴り響いた。

その音一つで。

数万の群衆の怒号が、水を打ったようにピタリと止んだ。

ステージ中央。

漆黒の闇に包まれていたそこに、強烈な魔導スポットライトが一斉に照射される。

光の奔流の中に浮かび上がったのは——最高級のシルクと魔石が織りなす『真紅のドレス』に身を包んだ、一人の少女だった。

ボサボサだった髪は美しく結い上げられ、泥だらけの芋ジャージはどこにもない。

そこにいるのは、圧倒的な気高さと、底なしの強欲を併せ持つ、完全無欠の『女王』。

リーザはマイクスタンドをそっと引き寄せ、数万の群衆、そして三国の国家元首たちを見下ろすように、蠱惑的な微笑みを浮かべた。

「——私は物語。……私は世界」

スピーカーを通した彼女の甘い声が、夜風に乗ってグラウンド全体、いや、帝都全体へと響き渡る。

「貴方達の時間を、人生を、キャッシュを……すべてを頂戴♡」

パチンッ!

リーザが完璧なウインクを放った瞬間。

数万人の観衆の理性のタガが、完全に吹き飛んだ。

『うおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!! リーザ! リーザ! リーザァァァァッ!!』

地鳴りを超える、火山爆発のような絶叫。

「ミュージック、スタートですわ!」

リーザの合図と共に、リアンが音響魔導具のフェーダーを最大まで押し上げる。

弾けるような極彩色のポップチューンが、帝都の夜空を貫いた。

伝説の楽曲、『Love & Money!』の開演である!

「行くわよ! Love & Money!」

愛!アイ!愛!アイ!ラ〜ブラブ!

(Fu Fu!)

マネー!マネ!ローン!ダーリン!グ!

(Yeah!!)

リーザがステップを踏むたびに、真紅のドレスから溢れ出す魔法のチャームが、物理的なオーロラとなって観客席に降り注ぐ。

朝に目覚ましがなったわ (ジリリリ!)

私はまだ眠いわ (おはよー!)

朝シャンしなきゃ (Fu!)

朝メニュー食べなきゃ (パクパク!)

鏡の前で メイクをしなきゃ

(魔法をかけて〜! )

「な、なんだこれは……!?」

ステージ袖でミキサーを操作していたリアンが、目を見開いて自分の両手を見つめた。

(こ、これは……力が湧き上がってくる……! リーザの歌声に込められた魔力バフが、聴く者すべての生命力とモチベーションを強制的に引き上げているのか!?)

「すごい……! これがリーザちゃんの、本当の力……!」

キャルルも、その歌声の圧倒的なパワーに涙ぐみながら、両手で激しくペンライト(魔導石)を振っている。

さぁショーの始まりよ (It’s Show Time!)

のんびりな私は 1LDKに置いて行くわ (バイバイ!)

扉を開ければ 私が主人公 (オ・レ・の! アイドルー!)

今日も私の為に世界が動く (まわって!まわって!)

全て上手くいくわ (絶対!)

愛も富も一つの物 (どっちもちょーだい!)

ダイヤが欲しい♪ 土地も欲しい♪ (Want You! Want You!)

貴方の(とキャッシュ)で生きていける (Fuuu〜!)

恐るべきは、その歌詞の『圧倒的な強欲さ』だった。

ダイヤが欲しい、土地が欲しい。そんな俗物極まりない欲望を、彼女は一切の照れもなく、むしろ世界で一番美しい夢のように高らかに歌い上げる。

そして、そのエゴイズムこそが、日々の労働に疲れ果てた観客たちの魂を強烈に救済ハッキングしていくのだ。

「おおおお……! もう仕事も、逃げるのも、どうでもいい! リーザの歌が聴ければ何でも良いッ!」

「俺の財布を持っていけぇぇぇぇッ!!」

観客たちが泣き叫びながら、ステージに向かって銀貨や金貨の入った財布を文字通り『ぶん投げ』始めた。物理的なスーパーチャットの嵐である。

だから私は 銀河の果てまで歌って行けるわ

だから、何処までもついて来てね♡

(一生ついていくよー!!)

ダーリン!

(チュッ♡)

リーザの投げキッスが放たれた瞬間、最前列にいたアバロン魔皇国の冷酷な魔王が「ブフゥッ!」と鼻血を吹き出して気絶した。

夕方の鐘が鳴ったわ (キンコンカン!)

お腹はもうペコペコよ (ぐ〜!)

スーパーのシール見なきゃ (半額!)

ポイントカードも出さなきゃ (ピッ!ピッ!)

家賃のために 節約しなきゃ

(現実はシビア〜! ガマン!)

「……泣ける。なんてリアルで、涙ぐましい下積み時代なのだ……っ!」

クラウスが号泣しながら、観客の投げた金貨をルナと一緒に回収用の袋に詰め込んでいる。

「そうですわね。このリアルな清貧の描写が、後半の強欲なサビをより引き立てる最高のコントラスト(煽り)になっておりますわ♡」

さぁ魔法の時間の始まりよ (Change The World!)

地味な私は 楽屋に置いて行くわ (バイバイ!)

マイクを握れば 私が女王様 (オ・レ・の! 女王様ー!)

今夜も私の為に星が降る (ひかって!ひかって!)

全部手に入れるわ (強欲!)

夢も金貨も輝くもの (どっちも好きー!)

株券欲しい♪ お城も欲しい♪ (Buy Now! Buy Now!)

貴方の愛(と貢ぎ)で輝いていける (Fuuu〜!)

だから私は 銀河の果てまで歌って行けるわ

だから、何処までもついて来てね♡

(一生ついていくよー!!)

ダーリン!

(チュッ♡)

(す、凄まじい……!)

リアンは戦慄した。

ただのコール&レスポンスではない。これは、群衆の心を完全に一つに束ね、彼らの持つすべてのリソース(時間・熱狂・金銭)を、リーザという一つのブラックホールへと吸い込ませる『極大魔法』だ。

だって女の子だもん 夢見るだけじゃお腹は空くの

綺麗なドレスも ガラスの靴も 維持費がかかるのよ

(そうだー!!)

だから…もっともっと、愛して(課金して)ね?

覚悟はいい?

リーザが、ステージの中央で両手を天高く掲げた。

その瞬間、彼女の背後に、魔力で形作られた巨大な人魚と、黄金の翼が幻影として浮かび上がった。

世界中が私の為に愛を叫ぶ (まわって!まわって!)

全部抱きしめるわ (最強!)

愛も富も同じ輝き (どっちも本物ー!)

ダイヤも株も♪ 土地も愛も♪ (All Need! All Need!)

貴方の全て(人生)を背負って生きていける (Fuuu〜!)

『うおおおおおおおおッ!! リーザ! リーザァァァァッ!!』

もはや国境も、種族も、身分も関係なかった。

ルナミス帝国の貴族も、ガルーダ獣人王国の戦士も、アバロン魔皇国の魔族も。

すべての者が涙を流し、喉を枯らして、ステージの上で輝く唯一無二の女神アイドルに向けて愛と全財産を叫んでいる。

だから私は 銀河の果てまで歌って行けるわ

だから、何処までもついて来てね♡

(一生ついていくよー!!)

ダーリン!

(チュッ♡)

最後の投げキッスと共に、楽曲がフィニッシュを迎えた。

ドガァァァァァンッ!!

ステージの後方に、何百発もの魔導花火が打ち上げられ、夜空を極彩色に染め上げる。

その輝きの下で、リーザは荒い息を吐きながら、世界を手に入れた女王のように堂々と立ち尽くしていた。

数万人の観衆から、地響きのような、永遠に終わらないスタンディングオベーションが巻き起こる。

* * *

同じ頃。

そのステージの様子を、超大型魔導水鏡を通じて、遥か南の深海から見つめていた者がいた。

「…………」

シーラン国の海底宮殿。

玉座の間に座る女王リヴァイアサンは、水鏡に映る愛娘の圧倒的なパフォーマンスを前に、言葉を失っていた。

その美しい瞳からは、大粒の涙がポロポロと溢れ落ちている。

「す、凄い……。凄いわ……っ!」

リヴァイアサンは両手で顔を覆い、しゃくり上げた。

「あんなにも大勢の地上の民たちが、我が娘に熱狂し、涙し、愛を(そして莫大な現金を)捧げている……! あれは決して、虐待されて狂った姿などではない。自らの実力と魅力で、異国の地を完全に支配トップアイドルした姿……!」

傍らに控える宰相も、感動のあまり魚の目を潤ませてハンカチを噛み締めていた。

「へ、陛下……! リーザ様は、シーラン国の誇りです……!」

「ええ……! 流石は私の娘! 誇り高き、宇宙一の歌姫ですわ!!」

女王リヴァイアサンは涙を拭い、高らかに宣言した。

「直ちに、ルナミス帝国に対するシーレーン封鎖を全面解除しなさい! そして、我が愛娘の輝かしい成功を祝して、シーラン国から『最高級の海産物(差し入れ)』を、帝都の学園へ至急送り届けるのです!!」

泥だらけの芋ジャージと半額弁当から始まった、国家存亡の危機。

それは、一人の少女の『強欲』と、その欲望を真っ直ぐに肯定した圧倒的な歌声によって、完全なる熱狂(大黒字)へと書き換えられたのだった。

読んでいただきありがとうございます。

面白いと思っていただけましたら、★評価やブックマークで応援していただけると励みになります。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ