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EP 15

突貫工事とブラック現場、ロックバイソンの労働争議

ルナミス学園の広大なグラウンド。

普段はSクラスの規格外の戦闘訓練(という名の爆破作業)でクレーターだらけになっているこの場所が、今や異様な熱気と砂埃に包まれた『巨大建設現場』へと変貌していた。

「シーラン国女王をはじめとするVIPを迎える特大ステージ! 期限は一週間! お前らの持てるすべての暴力ステータスを、平和的な土木作業に全振りしろ!!」

現場監督プロデューサーたるリアン・シンフォニアの号令のもと、Sクラスの面々による常軌を逸した突貫工事が幕を開けた。

「ふはははッ! 見よ、我がアルヴィン侯爵家に代々伝わる雷の剣技! まさか鉄骨の溶接と切断プラズマカッターにこれほど適していたとはな! 『ライトニング・ウェルディング(雷光溶接)』!!」

クラウスが魔剣から放つ超高熱の雷撃で、巨大な鉄骨を次々と組み上げていく。その顔は、労働の喜びに満ちた職人のように輝いていた。

「そぉいっ! 地盤固めいくよー! 『月影流・土竜踏み』ィィッ!!」

ドゴォォォォォォンッ!!

キャルルが特注の安全靴で地面を踏みつけるたび、マグニチュード3クラスの局地的な地震が発生し、凸凹だったグラウンドがアスファルトのように平らに圧縮されていく。

「あらあら♡ コンクリートに私のお友達(腐食性の猛毒)を混ぜれば、より早く固まるかもしれませんわね?」

「強度が落ちる上に揮発したガスで客が死ぬだろ! ルナはそこでペンキでも塗ってろ!!」

それぞれが己の能力を(ある者は間違った方向に)フル活用する中。

今回の学園祭コンサートの『主役』であるはずの芋ジャージの少女——リーザは、黄色い安全ヘルメットを被り、首からホイッスルをぶら下げて、いっぱしの現場監督を気取っていた。

『ピーッ! ピピーッ!!』

リーザがけたたましく笛を吹き鳴らしながら、紅白の誘導棒を振り回す。

「はい! オーライ! オーライ! そのままバックですわ! ロックバイソンちゃん、後ろの資材に気を付けて! はい! ストップ!!」

ドスゥゥゥンッ!!

リーザの誘導に合わせて立ち止まったのは、体高五メートルはあろうかという巨大な魔獣——『ロックバイソン』であった。

岩のように硬い皮膚と、鋼鉄の角を持つこの四足歩行の魔獣は、本来ならBランク相当の危険なモンスターだ。しかし、Sクラスの圧倒的な暴力で物理的に「説得テイム」され、現在は重機代わりの労働力として使役されていた。

ロックバイソンの背中には、数トンもの生コンクリートがたっぷりと入った巨大な樽が括り付けられている。

「はい! ご苦労様ですわ! それじゃあ、そこにセメントを落として〜!」

リーザが誘導棒で地面を指差す。

『ブモォ!』

ロックバイソンは大人しく背中を傾け、ドロドロのセメントをドバーッと指定された場所に流し込んだ。

「よしよし、いい子ですわ! はい、じゃあ次は……そのセメントを綺麗に均して、立派なステージを作って〜!」

『…………ブモォ?』

ロックバイソンの動きが、ピタリと止まった。

その巨大な牛の瞳が、「えっ?」というようにリーザを見下ろしている。

「何をぼーっとしておりますの? 早くコテを使って、平らに綺麗に、そして頑丈なステージを組み上げるのですわ! 私の歌声を受け止める、最高の舞台をね!」

『ブモォォォォォ!?』

ロックバイソンが、激しく抗議の鳴き声を上げた。

言葉こそ話せないが、その鳴き声のトーンと瞳の雄弁さは、完全にこう言っていた。

(え? 俺が作るの!? 運搬ダンプだけじゃなくて、左官工事から基礎の組み上げまで全部牛の俺にやらせる気!? 完全なブラック労働じゃねぇか! そもそも牛に無茶言うな! 時給はいくらなんだよオラァ!!)

魔獣の魂の叫び(労働争議)である。

「アマーーーイ!!!」

しかし、強欲のアイドル・リーザは、怯むどころかロックバイソンの鼻先にズビシッ!と誘導棒を突きつけた。

「時給!? 労働環境!? そんな甘えたことを言っているから、貴方はいつまで経ってもただのモブなんですのよ!!」

リーザは胸を張り、どこからともなく取り出した『カンペ(画用紙)』をチラチラと盗み見ながら、ドヤ顔で言い放った。

「いいですか! 芸の道……いえ、モノ作りの道は厳しいの! 終わりなき鍛錬と、妥協なき自己追及が必要なの! 汗と涙の結晶だけが、観客の心を打つ最高のステージ(作品)を生み出すのですわ!!」

『…………ブモォ!!』

ロックバイソンが、今度は呆れたように鼻息を荒くした。

(カンペを見ながら言うな!? お前がさっきリアンに渡された「現場の士気を高めるセリフ集」を丸読みしてるだけじゃねぇか! 偉そうなこと言ってるけど、要するにお前が作業をしたくなくて、全部俺に丸投げして楽をしたいだけだろ!!)

牛のくせに極めて鋭い、そして正論すぎるツッコミ(鳴き声)が飛ぶ。

「ふ、ふぇっ!?」

図星を突かれたリーザが、露骨に目を泳がせた。

「な、何を言っているのか分かりませんわ! 私は主役のアイドル! 喉と身体を休めるのも立派な仕事のうちですの! つ、つまり、これは適材適所……!」

『ブモォォォォンッ!!』

ロックバイソンが前足を高く上げ、地面を激しく踏み鳴らす。

(誤魔化すな! 労働基準法違反でギルドに駆け込むぞ! 労働者の権利を舐めるなァァァッ!!)

完全にストライキに突入したロックバイソンの凄まじい威圧感に、リーザは完全にビビり上がった。

「ええっと……ええっと……! あーっ!!」

リーザは突然、自分のペチャパイな胸の真ん中を押さえて、大根役者も真っ青のわざとらしい演技を始めた。

「ああっ! 大変! 私の胸のカラータイマーが、『ピコン、ピコン』と言い始めた気がするー!! 限界ですわ! 三分間しか地球上にいられない宇宙の戦士の如く、私の体力は限界ですわーーッ!!」

『…………』

ロックバイソンが、チベットスナギツネのような無の表情でリーザを見下ろしている。

「はい! というわけで、現場監督の今日の作業シフトは終わり! 残りのステージ作り、よろしくお願いしますわね! また明日来てね! お疲れ様でしたーーッ!!」

リーザはくるりと背を向け、すべての仕事を牛に押し付けて、マッハの速度で逃亡を図ろうとした。

プツンッ。

その瞬間、ロックバイソンの中で、温厚な草食動物としての『理性の糸』が完全にブチ切れる音がした。

『ブモォォォォォォォォォォォォッ!!!!』

「ひぎゃあっ!?」

血走った目をしたロックバイソンが、猛烈な勢いで突進タックルをかました。

巨大な角による致命傷こそ避けたものの、その分厚い頭突きがリーザの背中にクリーンヒットする。

「な、なんでよおおおぉぉぉぉぉぉッ!?」

放物線を描いて宙を舞う、黄色いヘルメットとエンジ色の芋ジャージ。

リーザの身体は、先ほどロックバイソンがグラウンドに流し込んだばかりの、まだドロドロに乾いていない『セメントの海』のど真ん中へと、頭から見事にダイブした。

ベチャァァァァァァァンッ!!!

灰色の飛沫が盛大に上がり、グラウンドに虚しい音が響き渡った。

「…………ぶくぶくぶく……」

セメントの中から、灰色の泥人形と化したリーザが、ゾンビのようにゆっくりと這い上がってくる。

自慢の(ボサボサの)髪も、エンジ色の芋ジャージも、すべてがねずみ色のドロドロに染まり、目と口だけがポッカリと開いていた。

『ブモォ。(自業自得だ。俺は帰る)』

ロックバイソンは鼻を鳴らすと、定時退社をキメるベテラン社員のような見事な足取りで、グラウンドの隅にある魔獣小屋へと帰っていった。

「あ……あぁ……私のお気に入りのジャージが……」

リーザはセメントまみれの両手を見つめ、絶望のあまりその場にへたり込んだ。

「……何やってんだ、あのバカアイドルは」

グラウンドの端で、図面(設計図)の束を抱えたリアン・シンフォニアが、呆れ果てた顔でその光景を眺めていた。

「牛相手にブラック企業の社長みたいな真似して、ストライキ起こされて自爆するアイドルなんて、前代未聞だぞ。……本当にあいつで、女王の怒りを鎮める伝説のライブなんてできるのか……?」

リアンはズキズキと痛む胃を擦りながら、深く、深く溜め息を吐いた。

学園祭コンサート本番まで、あとわずか。

マグローザ漁船行きのタイムリミットが刻一刻と迫る中、彼らの労働環境(ブラック現場)は、今日も泥まみれのカオスに包まれているのであった。

読んでいただきありがとうございます。

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