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EP 14

鬼軍曹の通達と、起死回生の学園祭ライブ(言い訳)立案

ルナミス帝国を突如として襲った、シーラン国による『シーレーン完全封鎖』。

その影響は、帝都アヴァロンの経済を文字通り秒速で破壊しつつあった。市場からは海産物が消え、輸入穀物は底をつき、あらゆる物価が天井知らずのハイパーインフレーションを引き起こしている。

そして、その絶望的な経済のカントリーリスクは、ルナミス学園の旧用具室——タコ部屋にも、容赦なく襲い掛かっていた。

バーーーーーンッ!!!

タコ部屋の扉が、蝶番ごと吹き飛ぶほどの凄まじい勢いで蹴り開けられた。

砂埃と共に姿を現したのは、Sクラスの担任にして、国家最高峰の戦力であるSランク賞金稼ぎ、ダイヤ・マーキスである。

「て・め・ぇ・ら・ぁ・ぁ・ぁ・ぁッ!!!」

普段は冷静沈着(で極貧)な鬼軍曹の顔が、今日は完全に夜叉のそれへと変貌していた。

彼女の全身から立ち昇る紅蓮の闘気オーラが、タコ部屋の室温を一気に十度近く跳ね上げる。

「ひぃッ!? ダ、ダイヤ先生!?」

クラウスが悲鳴を上げて壁際に張り付いた。

「どういうことだ! 一体どういうことだお前ら!!」

ダイヤは血走った目でタコ部屋の面々を睨みつけ、その手に握りしめていた『一枚のレシート』を、リアンの顔面に叩きつけた。

「見ろ!! 帝都の物流が死んだせいで、私の主食であるタローソンの『特売MRE(戦闘糧食)』の値段が、昨日の三倍……さんばいになっていたぞォォォッ!!」

ダイヤが両手で頭を抱え、血の涙を流しながら絶叫した。

「一食100銅貨だった私の命の糧(固定費)が、一晩で300銅貨に跳ね上がったんだ! ただでさえギリギリのサバイバル生活を送っている私のエンゲル係数が、完全に致死量デッドラインを超えた! このままじゃ、私は栄養失調で死ぬ! Sランク賞金稼ぎが、餓死するんだよォォッ!!」

「国が戦争になりかけてる時に、自分の食費(MRE)の心配をしてるんですかアンタは!!」

リアンが顔面に張り付いたレシートを引き剥がしながら、渾身のツッコミを入れた。

「当たり前だ! 腹が減っては戦はできん!!」

ダイヤは机をバン!と叩き、その鋭い眼光を、部屋の隅でアイス棒を齧っていた芋ジャージの少女——リーザへと向けた。

「大方、予想はついている! 昨夜のあの『狂気の生放送』だ! あれを見たシーラン国の女王が、愛娘が帝国で虐待されていると勘違いして、ブチギレて海を封鎖したんだろうが!!」

「えっ? お母様が? 私のために?」

リーザがキョトンと首を傾げる。

「いやぁねぇ、お母様ったら心配性なんですの。私、ちゃんとルナミス帝国で、たくましく半額弁当を勝ち取って生きておりますのに」

「それがダメなんだよバカアイドルウゥゥッ!!」

リアンとダイヤの声が、完全に重なってタコ部屋に轟いた。

「いいかリーザ!」

ダイヤが額に青筋を浮かべながら、非情なる『通達』を下した。

「帝国の上層部は、今回の異常事態の元凶がお前たちSクラスにあると完全に特定している! 先ほど、学園長経由で皇帝陛下直々の勅命が下った!」

「ちょ、勅命……!?」

クラウスがゴクリと唾を飲み込む。

「『Sクラスが撒いた種は、Sクラスが刈り取れ』。……シーラン国との誤解を解き、一週間以内にシーレーン封鎖を解除させろ。もし失敗すれば、Sクラスは全員退学、身分を剥奪した上で……」

ダイヤは一度言葉を区切り、最も恐ろしい宣告を口にした。

「北の極寒の海で、一生タダ働きさせる『マグローザ漁船』の乗組員として強制労働(出荷)させる、とのことだ!!」

「「「いやああああああああッ!!!」」」

リーザとクラウスが、同時に頭を抱えて絶叫した。

「ま、マグローザ漁船だけは嫌だ! 侯爵家の次期当主たる僕が、一生冷たい潮風に吹かれてマグロを釣り続ける人生なんて……っ! ノブリス・オブリージュの欠片もない!!」

「私のお肌が! アイドルの命であるスベスベのお肌が、塩水でカサカサになってしまいますわーッ!!」

「あらあら。北の海なら、珍しい深海魚の毒が採取できるかもしれませんわね♡」

「やったー! 船に乗れるの!? 私、泳ぐの得意だよ!」

ルナとキャルルだけは、相変わらずズレた反応で喜んでいる。

(……一週間。たった一週間で、国家間の特大インシデントを解決しろだと!?)

リアンはギリッと奥歯を噛み締めた。

(無理だ! シーラン国の女王は完全に激怒している。「リーザは虐待されてません、あれは本人の強欲と趣味です」なんて手紙を送ったところで、あの放送事故のインパクトを覆せるわけがない!)

リアンの脳内で、猛烈な勢いで損益計算とリスク管理のシミュレーションが回る。

相手の『誤解フェイク』を解くには、言葉だけでは足りない。

それ以上の、圧倒的な『真実の証明プレゼンテーション』が必要なのだ。

(女王の怒りの根本は、「娘が底辺の極貧生活を強いられている」という点にある。……ならば、それを逆手にとるしかない!)

「……先生。帝国の上層部に伝えてください」

リアンが、静かに、しかし確かな勝算を秘めた声で口を開いた。

「一週間後、我々Sクラスの主催で『特大の学園祭』を開催すると。……そして、そこにシーラン国の女王リヴァイアサンをはじめ、ガルーダ獣人王国やアバロン魔皇国のVIPたちを、国賓として招待しろと」

「学園祭だと……? この非常時に何を言っている、リアン!」

ダイヤが怪訝な顔をする。

「ただの学園祭じゃありません」

リアンはニヤリと、前世の敏腕経営者プロデューサーの笑みを浮かべた。

「そこで、リーザの『単独ライブコンサート』を行うんです。……最高のステージと、熱狂する観客を用意してな」

「コ、コンサート!?」

当のリーザが目を丸くする。

「いいか、女王の誤解を解くには、リーザが『可哀想な被害者』ではなく、『自らの力で夢を追い、ルナミス帝国の民衆から熱狂的に支持されている本物のトップアイドル』であることを、女王の目の前で物理的に証明するしかない!」

リアンは黒板の前に立ち、チョークで『V字回復プロジェクト』の文字を書き殴った。

「あの芋ジャージと半額弁当は、貧困の象徴じゃない! 『清貧から這い上がり、夢を掴もうとするアイドルの、涙ぐましい下積み時代の努力』という美しいストーリー(言い訳)にすり替えるんだよ!!」

「な、なるほど……!」

クラウスがポンッと手を打った。

「つまり、リーザのあの底辺な行いすらも、すべては芸の肥やし……! 彼女の歌声で観客を魅了し、女王陛下に『我が娘はルナミス帝国で光り輝いている』と納得させるための、壮大な舞台ステージを用意するということだな!」

「その通りだ、クラウス! そのためには、王族が立つにふさわしい完璧なステージと、熱狂的なファンの存在が不可欠だ!」

リアンの完璧な『詭弁(プロデュース戦略)』に、ダイヤも目を見開いた。

「……確かに、一理ある。言葉で弁明するより、娘が異国で栄光を掴んでいる姿を直接見せつける方が、はるかに説得力があるな。……だが、たった一週間で、そんな特大のコンサート会場を用意できるのか? 資金はどうする!」

「資金なら、前回フェイトのクソ株が溶かし損ねたワイバーンの素材売却益(内部留保)が手元にある。……だが、時間と労働力は圧倒的に足りない!」

リアンは振り返り、Sクラスの面々を力強く指差した。

「今日から一週間、お前らは全員『コンサート設営のための土方(ブラック労働)』だ! クラウス、キャルル、ルナ! お前たちの規格外の物理力と魔法で、学園のグラウンドに国賓を迎えるにふさわしい特設ステージを突貫工事で作り上げろ!」

「ふっ、任せておけ! ノブリス・オブリージュの精神で、最高の舞台を組み上げてみせよう!」

「わーい! 大工さんのお仕事だー!」

「セメントに、お友達(猛毒)を混ぜてもよろしくて?」

「絶対にやめろ!!」

そして、リアンは最後に、呆然としているリーザの両肩をガシッと掴んだ。

「いいかリーザ。お前は、ただの『自称・極貧地下アイドル』から、本当の『銀河一の歌姫』に昇格するんだ。お前の歌一つで、このルナミス帝国とシーラン国の戦争を止め、俺たちをマグローザ漁船の運命から救い出すんだよ!」

「ええええええええッ!?」

リーザが信じられないものを見るような目で、リアンを見つめ返した。

「わ、私……みかん箱の上で、タローソンの店員さんや野良犬相手にしか歌ったことありませんのよ!? そ、そんな国賓レベルのVIPを前に、ちゃんとしたステージで歌うなんて……無理ですわ!!」

「無理じゃない! やるんだよ!!」

リアンが魂の底からの怒号を飛ばす。

「お前が撒いた種(放送事故)だろうが! お前の『強欲』はそんなもんか!? トップアイドルになれば、金貨も、豪邸も、美味しいお肉も、すべてが手に入るんだぞ!!」

「金貨……! お肉……!」

その魔法の言葉インセンティブを聞いた瞬間、リーザの瞳に、再びギラギラとした『$』のマークが浮かび上がった。

「や、やりますわ!! 金貨とお肉のためなら、私は銀河の果てまで歌ってみせますわーッ!!」

「よし、言ったな! 契約成立だ!」

リアンは悪魔のような笑みを浮かべ、スケジュール帳を叩きつけた。

国家存亡の危機と、迫り来るマグローザ漁船(強制労働)の恐怖。

それを回避するための、前代未聞の『言い訳(学園祭コンサート)』プロジェクトが、いよいよ本格的に始動する。

芋ジャージの少女を、一週間で『本物のトップアイドル』へと仕立て上げる——リアン・シンフォニアの、冷徹にして情熱的なプロデュース手腕が、今ここに試されようとしていた。

読んでいただきありがとうございます。

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